住民税は、地域の公共サービス維持のために、退職後も払う義務がある税金です。会社員は自分で納める必要がないので、退職後にどのように納付したらよいのか悩むでしょう。退職後の納付方法や退職時期による違い、納める金額の計算方法を紹介します。
退職後の住民税の納付方法
住民税は退職後も納付しなければなりません。納付書が届いてから慌てないように、住民税の意味や退職後の納付方法を見ていきましょう。
そもそも住民税とは
住民税は、地域住民の暮らしを支えるために必要なものです。教育や福祉などの公共サービスを円滑に行うために使用されています。
住民税には「個人住民税」と「法人住民税」があり、その市区町村(都道府県)に住所がある個人が負担するものが「個人住民税」です。また、住民税は、「市町村民税」と「道府県民税」(東京23区の場合には都民税と特別区民税)の2つをあわせた名称です。
同じ地域の住民すべてが同じ額の住民税を払っているわけではありません。前年の所得に応じて税額が決定します。課税額を決めるのは、前年1月1日から12月31日の所得です。
住民税を納める先は、その年の1月1日時点で住所がある自治体です。納付方法は「特別徴収」と「普通徴収」の2種類で、会社員は原則、特別徴収、会社員以外の人は普通徴収される仕組みです。
※この記事では個人住民税のことを住民税として解説します。
参考:
個人住民税|税金の種類|東京都主税局
特別区民税・都民税とは何ですか。 中央区ホームページ
特別徴収から普通徴収に切り替わるケース
会社員の場合は月々の給与から住民税が天引きされ会社が納付を行います。これを「特別徴収」といいます。
一方の「普通徴収」は、自宅に届いた納付書を使って自分で納める方法です。毎月支払うのではなく、年4回の分割払いか、年1回の一括払いとなります。
通常、退職後にしばらく就職する予定がない場合は、納付方法が特別徴収から普通徴収に切り替わります。また、退職後に個人事業主となる場合も、普通徴収になります。
普通徴収に切り替える手続きを行うのは退職した会社(給与を支払う事業主)なので、自分で届け出をする必要はありません。自治体は会社から連絡を受けた後、本人宛に納付書を送付します。
新しい勤務先で特別徴収してもらうケース
退職後に間を置かずに働き始める場合は、新しい勤務先で特別徴収を継続することも可能です。例えば、10月末に退職して11月に再就職するというように『空白期間がない場合』は、普通徴収に切り替える必要がありません。
ただし、自動的に徴収する事業主が次の会社に変わるわけではない点に注意が必要です。これまで勤めていた会社と新しい会社の間で事務手続きが必要になるので、退職する会社に申し出る必要があります。
切り替えがスムーズにいかなかったときは一時的に普通徴収になり、新しい勤務先で特別徴収が開始されるまで自分で納付しなければなりません。
退職時期による違いに注意
次の就職先が決まっていない場合、いつ退職するかによっても退職後の住民税の納付方法が変わってきます。会社を辞める時期別に、納付方法を見ていきましょう。
1~5月に退職する場合は「一括徴収」
会社員が住民税を特別徴収してもらう場合、前年の所得によって決まった1年分の住民税を12回に分けて納めます。6月から翌年の5月にかけて、毎月住民税が天引きされる仕組みです。
退職時期が1~5月であれば、最後に勤めた月の給与から残りの住民税が「一括徴収」として天引きされます。例えば、1月末で退職するときは、当月分だけではなく5月までに支払うべき残りの住民税も最後の給与から差し引いて納めるということです。
6~12月は退職後に「普通徴収」
6~12月に退職する際は、翌年5月までの未納分住民税が普通徴収に切り替わります。自治体から送られてくる納付書を使って納めます。
ただし、本人が希望すれば退職する月から翌年の5月までの住民税を、最後の給与や退職金から一括徴収してもらえます。
何も申し出なければ普通徴収に切り替える手続きがされるので、まとめて特別徴収してほしいときは辞める前に相談してみましょう。
普通徴収の納付タイミングは毎月ではなく、最大で年に4回です。納付書に記載されている期限内に支払う必要があります。
退職後に必要になる住民税はいくら?
退職後にしばらく再就職する予定がない場合、自分で住民税を納付しなければなりません。どの程度の金額を用意しておけばよいのか知るために、住民税の額を計算する方法を見ていきましょう。
所得割と均等割で計算
住民税は、所得割と均等割から成り立っています。所得割は、所得に税率をかけて導き出され、所得が多い人ほど多くの額を払わなければなりません。一方、均等割は前年にいくら稼いだかに関係なく、決まった額を均一に納めます。
標準税率は所得割が10%で、均等割が市町村民税3500円と都道府県民税1500円を合わせて5000円です(復興税を含む)。
ただ、自治体によって標準税率や均等割に加算を行っているところもあります。住んでいる地域の公式情報をチェックしておきましょう。
給与所得のみの場合、前年の所得(給与や賞与など額面収入から給与所得控除を引いたもの)に所得割の税率をかけ、均等割の金額を足すと年間の住民税額が分かります(住宅借入金等特別区控除やふるさと納税等により異なる場合もあります)。
退職後に納付書が来て慌てないためにも、事前に計算をして必要な金額を用意しておきましょう。年収で変わる給与所得控除の金額は、国税庁のホームページから確認できます。
参考:
総務省|地方税制度|個人住民税
No.1410 給与所得控除|国税庁
退職金も課税対象
退職するとき、職場によって勤続年数に応じた退職金が出ることがあります。この退職金は退職所得と呼ばれ、住民税の課税対象です。ただし、給与や賞与といったほかの所得とは区別して計算され、税額の負担を抑えるように配慮されています。
勤続年数5年超えの場合、勤続年数に応じた退職所得控除額を、退職金額から差し引いて1/2にしたものが課税退職所得金額です。課税退職所得金額に所得割の税率10%をかけた額が、退職金にかかる住民税となります。
また、退職金には所得割のみが適用され、均等割は課税されないのがポイントです。具体的な計算式は、以下の通りです。
【課税退職所得金額の計算式】
(退職金額 - 退職所得控除額)÷2=課税退職所得金額
【退職金にかかる住民税の計算式】
課税退職所得金額×住民税率(10%)=退職金にかかる住民税
退職金にかかる住民税は、退職金の支給額から控除され、会社が納付を行います。
参考:退職金と税|国税庁
退職後の住民税を忘れず準備しよう
住民税は、前年の所得に対して課税される地方税です。退職後にしばらく再就職する予定がないときや、個人事業主として働く場合に、給与から天引きされる特別徴収から納付書で納める普通徴収に切り替わります。
1~5月に退職する場合は、最後の給与や退職金から当年の5月分までを一括徴収してもらえます。6~12月に退職する場合は、自分から申し出なければ普通徴収に切り替わるので、忘れずに納付しましょう。
退職した後に住民税をいくら払えばよいのかと、不安に思う人もいるかもしれません。しかし、前の年の所得が分かれば、住民税の額を計算できます。あらかじめチェックして納税に備えましょう。
医療機関の人事・労務はお任せ!元製薬会社MRの社会保険労務士
社会保険労務士。社会保険労務士法人NAGATOMO代表社員。MR、人事コンサルタント、医療業界を熟知した社会保険労務士の経験をいかし、病院・クリニックの規模に合わせた人事制度の構築、人事・労務問題をサポートしている。
All Aboutプロフィールページ
公式サイト