円満退職を目指すには、どのような流れで準備をすればよいのでしょうか?退職を受け入れてもらうための伝え方や、伝えるときの注意点を解説します。引き止めにあった場合の対処法や退職届の作成方法など、知っておきたい情報も見ていきましょう。
この記事のポイント
- 円満退職のポイント
- 円滑に退職するにはスケジュール調整が重要です。退職の意思を伝える目安は退職の2〜3カ月前が一般的です。有休消化や引き継ぎを考慮して時期を検討しましょう。トラブルを避けるため、まずは直属の上司に伝え、退職が確定するまでは人に話さないようにしましょう。
- 退職意思の伝え方
- 退職理由は必ずしも本当のことを言う必要はありません。会社に対する不平不満などは避け、ポジティブな理由に置き換えると良いでしょう。退職の意思を伝えるときは、簡潔に強い意思を持って伝えることが重要です。
- 退職交渉がこじれてしまったら
- 上司に退職を認めてもらず、交渉がうまくいかなかった場合は、ほかの役員や人事部への相談をしてみましょう。会社全体で退職を認めない雰囲気がある場合には、労働基準監督署など第三者への相談も検討しましょう。
退職までの基本の流れ
退職を決意した後は、会社に意思を伝えます。退職を思い立ってから実際の退職日までに、何をすればよいのでしょうか?大まかなタイムスケジュールと概要を解説します。
事前に就業規則を確認する
就業規則には、退職前のルールについても記載されている可能性があります。交渉前に調べておきましょう。
法律上14日以上前に申し出れば認められるとしても、会社のルールがある場合は従う方がトラブル回避につながります。
また、ボーナス支給についても、会社独自のルールが存在する可能性があります。ボーナスをもらってから退職したいときは、対象となる時期を確認しましょう。
そのほか、退職日を迎えたときに未消化の有給休暇が残っている場合は、買い取りが認められているケースもあります。
就業規則をチェックしておくと、退職交渉のタイミングを判断しやすくなるでしょう。
会社に退職意思を伝える
退職を決意したときは、まず会社に退職の意思を伝えましょう。一般的には、退職したい日の2~3カ月以上前に申し出ると、スケジュールが組みやすいはずです。
就業規則も確認し、いつまでに退職の意思を伝えなければいけないか、調べておきましょう。就業規則で、一般的な目安より長い日程が明記されているときは、なるべく就業規則に合わせます。
退職意思の伝え方
退職の意思を受け入れてもらうためには、伝え方も重要です。特に、伝えるタイミングや相手を間違えないよう注意しましょう。退職理由の伝え方や、交渉時の注意点も解説します。
最初に直属の上司に伝える
退職の意思は、まず直属の上司に伝えましょう。口頭またはメールでアポイントを取り、報告します。
口頭で相談するときは、休憩時間や営業時間後など業務時間外に、「時間が取れるときに相談したいことがある」旨を伝えましょう。口頭ではタイミングが難しい場合は、事前にメールでアポイントを取ります。
アポイントを取ったら、上司と2人で話せるときに、退職について切り出しましょう。大勢の従業員がいる前で退職について話すのは、できるだけ避けることが大切です。
どのような場合でも、アポイントの段階で退職の話はせず、2人で話せるときに直接切り出しましょう。
本当の退職理由を伝えなくても問題ない
退職理由は、必ずしも本当のことを言う必要はありません。基本的に、企業は理由を問わず退職を認めるよう義務付けられています。
退職後にバレたり転職先に伝わったりしたときに困るようなウソは避けた方がよいですが、ポジティブな理由に置き換えることは問題ありません。
もし本音であったとしても、会社に対する不平不満をぶつけると、余計なトラブルが起きる可能性があります。会社の環境が原因だったとしても、「転職先の業界に魅力を感じた」など、建前の理由を用意しましょう。
退職意思を伝える際に注意すること
退職したいことを伝えるときは、簡潔にはっきりと意思を示しましょう。上司の引き止めがあっても応じない、強い意志が必要です。
退職が認められないからといって、感情的になるのもNGです。上司としても、業務や人材の都合上すぐに決定できない可能性があります。意志がそれほど強くないと判断されると、交渉が長引くことも考えられるでしょう。
円満退職を目指すには、お互いの合意が欠かせません。上司が納得するまで、粘り強く交渉を続けましょう。
どうしても退職を認めてもらえないときは、第三者に相談し退職届を出すこともできますが、あくまでも最終手段です。
退職願や退職届の提出
退職の意思を受け入れてもらった後は、退職願や退職届を提出します。退職願や退職届は、退職理由や退職日を記入して退職意思を伝えるための書類です。
相談の時点で提出するのは、就業規則で定められていない限り、マナー違反と捉えられる可能性もあります。交渉が進み、合意が取れてから書類提出を進めましょう。提出時期は、交渉が終わってからできるだけ早めを意識します。
退職の意思を伝える退職願の提出は、会社によっては必須ではありません。しかし、退職届は提出を求められることがほとんどです。
口頭で話していても退職は成立しますが、退職日の勘違いやお互いの認識がズレている可能性もあります。書面にして明確な証拠として残しておけば、認識違いのトラブルも防げるでしょう。
業務の引き継ぎを実施
退職交渉がまとまった後は、業務の引き継ぎを行います。自分が行っている業務のマニュアルや引き継ぎリストを作っておくと、スムーズに作業が進むでしょう。マニュアルを渡しておけば、退職後も新しい担当者が確認しながら仕事を進められます。
一般的に、引き継ぎは具体的な退職日が決定し、周囲に退職を伝えてから開始します。退職予定日を伝えるときは、引き継ぎにかかる時間を考慮して決定しましょう。
万が一引き継ぎが終わらず、新しい担当者が業務を進められないと判断されると、退職日の延長を打診されることも考えられます。
転職先が決まっている場合、転職先にも迷惑がかかる可能性があるため、必要なことは全て伝えるか文書にして渡しておきましょう。
円満退職のポイント
転職や今後の活動に支障がないよう円満退職を目指すなら、周囲の反感を買わないように注意が必要です。交渉前に確認しておきたいポイントや、同僚に退職を話すタイミングについて見ていきましょう。
スケジュールに余裕を持って進める
上司や同僚に引き止められることなく、円滑に退職するにはスケジュール調整が重要です。無理なスケジュールで退職を強行しようとすると、延長や撤回を求められるリスクがあります。
就業規則や法律上のルールにとらわれず、自分が必要と考える早めのタイミングで退職の意思を伝えましょう。基本的には、早いほど引き継ぎや人材確保はうまくいきます。
法的な決まりではありませんが、一般的に退職の意思を伝える目安とされているのは、退職の2〜3カ月前です。特に有給休暇が消化できていないときや、引き継ぎに時間がかかりそうなケースでは、それよりもさらに前の報告が適しているでしょう。
退職が決定するまで周囲に話さない
退職が確定し周囲へ報告してもよい許可が取れるまでは、会社の関係者に退職の旨を報告するのは避けましょう。
上司が知る前にほかの人が退職について知っていると、うわさが広まりトラブルにつながります。「報告がないのに退職することになっている」と誤解されると、交渉がしにくくなるでしょう。
また、職場の雰囲気や引き継ぎの有無によっては、退職日直前まで伏せた方がよいケースもあります。雰囲気が悪くなる可能性があるときは、必要な時期や人を除いて、退職の話をするのは避けましょう。
引き止めにあったときの対処法
退職を申し出ると、状況によっては引き止めにあう可能性があります。「退職をしないでほしい」と言われたとき、どう対処すればよいのでしょうか?引き止めが起きる理由や、避けるための方法を解説します。
会社が退職を引き止める理由
退職の意思を告げたときに引き止められると、「実は高い評価を得ていたのでは?」とうれしくなるものです。必要な人材と判断されている可能性は高いですが、引き止める理由は1つではありません。
現状の条件では応募者がほとんどいないなど、人手不足が原因で引き止められることもあります。そのほか、離職率が高いと上司や人事の評価が下がることもあり、「退職されたくない」と考えているのかもしれません。
引き止めに心を動かされる前に、相手の事情や退職への決意を再確認しましょう。今の会社に未練がない場合は、はっきりと退職の意思を告げることが重要です。
引き止めを避けるコツ
引き止めがあると、退職交渉が長引きます。相手に不快感を与えないよう断るのは、難しいものです。
会社からの引き止めを避けるには、相手が引き止めにくい雰囲気を作り、事情を告げるようにしましょう。
何らかの改善方法があると、引き止める口実を作ってしまいます。例えば、残業に対応できないなどの理由は、「できるだけ残業をなくすように心掛ける」と言われてしまうと反論しにくいでしょう。
今の会社に関係する理由ではなく、「ほかの業界で働いてみたい」「スキルを身に付けたい」など、自分の夢や実現したいことを前向きに伝えると、引き止められにくくなります。
退職交渉がこじれてしまったら
直接上司に相談した段階では退職を認めてもらえなかったなど、交渉がうまくいかないことがあります。
本来、退職は労働者の自由です。退職届を出して一方的に契約を解消する方法もありますが、会社ともめたままにならないよう、まずはほかの方法を探りましょう。
上司に問題がある場合は、ほかの役員や人事部への相談で解決に近づきます。脅すような引き止めや退職を認めないといった行為は、違法になる可能性があるからです。
上司が退職を引き止めようと独断で動いている場合は、有効な手段になるでしょう。会社自体の雰囲気が同じであれば、労働基準監督署など第三者にも相談できます。
撤回する場合はその後のこともよく考えて
待遇改善や年収アップを条件に退職を引き止めることを『カウンターオファー』と呼びます。会社から条件が提示された場合、納得いくものであれば退職の撤回も可能です。
しかし、カウンターオファーで会社に残ると、不利益もあります。例えば、同僚に待遇改善のうわさが伝わり、1人だけ給料が上がったことで関係が悪くなることも考えられるでしょう。
また、条件の提示が口約束で終わってしまうケースや、一時的な改善となることもあり得ます。退職を撤回するべきなのか、よく考えた上で判断しましょう。
退職届の作成・提出
退職日が決まるか、交渉がまとまらないときには退職届の作成・提出が必要です。退職の申し出をした履歴として形に残るため、提出が必須でない場合も渡しておいた方がトラブルを防げます。提出時期や作成方法を見ていきましょう。
退職届はいつまでに必要?
退職届は、原則就業規則の期限に従って提出します。就業規則にルールが記載されていないときは、退職交渉がまとまり次第早めの提出を意識しましょう。
法律上、退職を申し出る期限は退職日の14日以上前となっているため、最終期限は『14日前』です。会社からの引き止めなどの問題が起きた場合は、退職届を14日前までに提出することで労働契約を解消できます。
退職届を受け取ってもらえないときは、内容証明で会社宛てに送るなどの手続きが必要になるため、労働基準監督署や法律の専門家に相談しましょう。
参考:
退職届の書き方と例文
退職届の様式は、法律上定められていません。しかし、本人や会社にとっては重要な書類です。就業規則で書式が決まっている場合は、会社の指示に従います。
会社の指定が特にない場合は、『白封筒』と『白い便箋』を準備し、『黒インクのペン』で記入しましょう。折れや曲がりを防ぐため、『クリアファイル』に入れて提出すると丁寧です。
署名や押印は必須ではありませんが、本人が書いたものと証明するためにも記入するのが一般的です。
【例文】
退職届
私儀
このたび、勝手ながら一身上の都合により、○年○月○日(退職日を記入)をもって退職いたします。○年○月○日(提出日を記入)
○○部 名前(押印)
会社名 代表者名 (敬称)
退職時に必要な手続き
退職時には、返却物と受領物があります。後日問題が起きないよう、返却するものは手渡しまたは郵送で送りましょう。
受領物の多くは、退職後の手続きで必要なものです。必要になると分かっているものは、受け取れる時期を確認しておく方がよいでしょう。
保険証や備品の返却
退職時には、会社から支給されているものを返却しなければなりません。主な返却物は、『保険証』『社員証』などの身分証明書です。そのほか、支給されている『社用スマホ』や『制服』など備品類も返しましょう。
保険証は、退職日以降無効になりますが、現物は会社側で処理します。備品類や個人情報を含むデータは、退職した従業員が業務外で使用するとトラブルの元になります。
会社の指示に応じて、必要な備品やデータは全て提出または処分しましょう。
必要な書類を受け取る
会社を退職する際は、今後の手続きに必要な書類を受け取らなくてはなりません。退職理由や今後の状況によって会社側が判断しますが、必要な場合は申し出ましょう。
『雇用保険被保険者証』は、求職活動や失業給付の受け取りに必要な書類です。転職先でも提出を求められるでしょう。
そのほか、『源泉徴収票』や『離職票』も転職先で求められることが多く、重要な書類です。発行は退職日以降となるため、郵送で受け取るケースも多いでしょう。
また、会社に『年金手帳』を預けている場合には、返却があります。
退職後の手続きは状況により変わる
退職後に必要な手続きは、転職先の有無や入社日によって変わります。それぞれ、必要な手続きを済ませましょう。一般的なパターンと、必要な公的手続きについて解説します。
空白期間なしで転職する場合
退職の翌日に次の会社に入社する場合は、ほとんどの手続きが簡素化されます。
転職先の会社が公的な手続きを行うため、自分ですることは『転職先の指示に従って書類を提出』する程度です。厚生年金や健康保険の加入資格は継続し、個人での切り替え手続きは必要ありません。
しかし、前職の退職日から間がないため、離職票や雇用保険の書類などがそろうまで時間がかかる可能性があります。必要書類の確認後、状況によっては以前の勤め先に発行を依頼しましょう。
すぐに転職先に入社しない場合
転職まで間がある場合には、いくつかの手続きを済ませておきましょう。主な公的手続きは『国民年金への切り替え』や『健康保険の任意継続または切り替え』です。
国民年金は、退職から14日以内に市区町村の役所へ切り替え手続きに行くか(第1号被保険者)、厚生年金に加入している家族の扶養に入るか(第3号被保険者)を判断しましょう。
健康保険は、会社が払っていた半額分も含めた『全額』を自己負担することで、継続して加入できます。国民健康保険への切り替えや、家族の健康保険に扶養として入ることも可能です。
そのほか、転職までに年をまたぐ場合は、年末調整が行われないため『確定申告』をする必要があります。払いすぎた税金があるときは、還付を受けられます。
失業給付を受給する場合
失業給付は、働く意思があるにもかかわらず、就職先が決まらない失業者に支給される手当です。
雇用保険への加入期間などの条件を満たしている場合、ハローワークでの申し込みと求職活動をすることで受け取れます。
自己都合退職と会社都合退職で受給開始時期が異なり、自己都合では『2カ月+7日後』、会社都合では『7日後以降』です。
手続きには『離職票』が必要となります。基本的には会社から発行されますが、もらっていない場合は問い合わせましょう。
退職の流れを理解して進めよう
退職を決めた後、いつまでに退職の意思を伝えればよいのかは、就業規則や引き継ぎにかかる時間を考慮して判断しましょう。
円満退職のためには、新しい担当者が決まり、引き継ぎを終えてからの退職が理想です。時間に余裕を持たせて、交渉を進めましょう。
転職先が決まっている場合、退職日の翌日が入社日になるよう調整すれば、年金や保険の手続きをする手間が省けます。しばらく求職活動をする場合は、必要な公的手続きや、失業給付の受給も検討しましょう。
起業コンサルタント、税理士、行政書士、特定社労士。年間約300件の起業無料相談受託。起業準備から経営までまるごと支援。税理士法人V-Spirits (経済産業省経営革新等認定支援機関) グループ代表。
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