退職後にもらえる失業等給付の基礎知識。受給の条件や注意点を解説

転職先が決まる前に退職した人や、退職後になかなか再就職先を見つけられない人にとって、雇用保険の失業給付金は重要です。どんな人でも受け取れるわけではなく、一定の条件を満たす必要があります。失業等給付の基礎知識や注意点などをチェックしましょう。

退職後にもらえる失業給付金とは

給付金のイメージ

(出典) photo-ac.com

失業等給付は、会社を辞めた後に一定の条件を満たしている場合にもらえるお金です。どんな特徴があるのか見ていきましょう。

転職・再就職を支援するための手当

失業等給付の一つに「基本手当」という給付金があります。この手当は退職の日以前2年間に、雇用保険に加入して保険料を納めていた期間(被保険者期間)が通算して12カ月以上ある場合に受け取れるお金です。失業時給付の1つである「基本手当」を指します。ただし、倒産や解雇、有期雇用契約が更新されなかったことにより退職を余儀なくされた合(特定受給資格者又は特定理由離職者)については、退職の日以前1年間に、被保険者期間が通算して6か月以上あれば受け取れます。

基本手当は、失業中の生活の心配なく、新しい仕事を探し、1日でも早く再就職するための支援として給付されるものです。突然の失業を余儀なくされたとしても生活に困窮することなく、安心して就職活動できるように支給されます。

解雇通告を受けた場合や倒産した場合だけでなく、自己都合で退職したケースでも再就職の意思があり受給要件を満たせば給付を受けられます。もらえる日額や期間などは、その人の退職時の賃金や年齢、被保険者期間、離職理由によって異なる点が特徴です。

参考:ハローワークインターネットサービス|基本手当について

失業状態である場合に支給される

基本手当を受け取るには、ハローワークが定める「失業の状態」であることが前提となります。「失業の状態」とは、就職しようとする積極的な意思があり、いつでも就職できる能力があるにもかかわらず、本人やハローワークの努力によっても、職業に就くことができない場合です。

そのため、病気やケガで療養中の人や出産や育児のために退職した人など、しばらく働けない状態にある人は退職後すぐには基本手当を受け取れません。再就職をサポートするためのものなので、受給を申請する時点で就職活動をしている必要があります。

また、失業すれば自動的に支給されるわけではなく、本人がハローワークに申し込まなければ支給されない点にも注意しましょう。次の仕事が見つかるまで基本手当を受け取るには、自主的な行動が必要です。

基本手当はいつ・いくらもらえる?

電卓と封筒とお札

(出典) photo-ac.com

基本手当は失業中の生活を支えてくれるので、どれほどの金額をもらえるのか気になる人は多いはずです。いつからいつまで支給され、いくら受け取れるのか見ていきましょう。

受給期限は離職した日の翌日から1年間

退職の日における年齢、被保険者期間や離職理由によって、基本手当の受給日数は異なります。基本手当を受け取れる期間は原則として「離職日の翌日から1年間」です。

この期間を過ぎてしまうと、本来もらえるはずだった基本手当を受け取れません。損をしないためにも、退職後は速やかな手続きが必要です。

健康上の理由や妊娠・出産などで働きたくてもすぐに働けない場合は、受給期間の延長申請をしましょう。

退職日の翌日から1年以内に「連続で30日以上働くことができなくなったとき」に、受給期間の延長を申請できます。

ただし延長申請には限度があり、最大で3年間まで(退職後最大4年間)となっています。

退職理由により支給開始タイミングが変わる

基本手当は、申込みを行った日(受給資格決定日)から支給が開始されるまでに「待期期間」が設けられています。待期期間は7日間です。自己都合退職の場合は、待期期間が終わった翌日からさらに、基本手当が受給できない2カ月間の給付制限期間(※)があります。

自己都合で退職した人に給付が開始されるまでの期間は、2カ月間と7日ということです。

懲戒解雇の場合を除き、倒産や解雇など会社の都合による退職の場合は、給付制限期間がありません。退職した翌日から7日たてば、基本手当を受け取れます。

※3回目からさかのぼって5年間に自己都合退職が2回以上ある場合は3カ月

参考:Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~|厚生労働省

給付金額の確認方法

受け取れる給付金の額は、「基本手当日額×給付日数」で計算できます。基本手当日額は、退職した会社から支給されていた賃金の1日あたりの金額(賃金日額)に一定の割合をかけて計算します。

まずは退職した日からさかのぼって6カ月間にもらっていた月々の賃金を合計して180で割り、賃金日額を計算しましょう。次に、賃金日額に60歳未満では50~80%(60歳~64歳については45~80%)の所定の給付率をかけて基本手当日額を計算します。賃金が少なかった人ほど、給付率が高くなっているのが特徴です。

また、基本手当日額には年齢によって上限が定められています。2022年8月1日時点の上限金額は下の通りです。

  • 30歳未満:6,835円
  • 30歳以上45歳未満:7,595円
  • 45歳以上60歳未満:8,355円
  • 60歳以上65歳未満:7,177円

合計でいくらもらえるのかは、給付日数によって変わります。給付日数は離職時の年齢、被保険者期間、離職理由により決まります。自己都合退職の場合は、基本的に90〜150日となっています。

ハローワークインターネットサービスで、自分が給付を受けられる日数を確認してみましょう。

参考:ハローワークインターネットサービス|基本手当の所定給付日数

失業給付金を受け取る手続き

スーツで電卓を打ち資料を作成する男性

(出典) photo-ac.com

基本手当は、退職後に自動的に給付されるわけではありません。自分で申請しなければ受け取れないのです。基本手当を受け取るための手続きを見ていきましょう。

退職から基本手当受給までの流れ

まずは退職後、自分の住所地の管轄のハローワークへ行って「求職を申し込み」と「受給資格の決定」(働く意思と能力があり、求職活動をしているのにもかかわらず、就職できない状態であることの確認)をしてもらいましょう。

「受給資格の決定」がされたら、7日間の待期期間を経て、雇用保険受給説明会に参加します。「受給資格の決定」から約3週間後のハローワークが指定する日(失業認定日)にハローワークへ行き、失業状態の確認をします。その後、約1週間で1回目の給付金が振り込まれる流れです(自己都合などでの退職の場合、待期期間満了後原則2カ月間は支給なし)。

再就職先が決まるか給付日数がたつまで、決められた失業認定日(原則として4週間に1回)に出席し、失業状態の確認がされ失業認定日から約1週間で給付金が振り込まれる流れを繰り返します。

参考:ハローワークインターネットサービス|雇用保険の具体的な手続き

申請・受給に必要な書類

失基本手当を受け取る手続きに必要な書類には、会社から送られてくるものと自分で用意するものがあります。

必要なものは以下の通りです。

  • 離職票(1、2)
  • 雇用保険の被保険者証
  • 運転免許証やマイナンバーカードなどの本人確認書類
  • 個人番号を確認できるもの
  • 本人名義の預貯金通帳(キャッシュカードでも可)
  • 縦3.0cm×横2.4cmの写真 ※個人番号カード(マイナンバーカード)を提示することで省略が可能

離職票と雇用保険の被保険者証は、前の職場から送られてくる書類です。離職票がもらえない場合は、管轄のハローワークにその旨を伝えましょう。

これらの必要書類や写真・通帳などを持っていき、手続きをすることで初めて基本手当の受給申請が完了します。

早めに就職が決まれば手当がもらえる

封筒に入ったお札

(出典) photo-ac.com

「失基本手当があるから、のんびりと就職活動をしよう」と思っている人もいるかもしれません。しかし、早めに就職が決まることで受け取れる手当もあります。再就職する際にどんな手当が受け取れるのか、確認しましょう。

再就職手当など就職促進給付を支給

早めに就職が決まると受け取れる「就職促進給付」という手当もあります。これは基本手当の受給中に就職が決まった際に受け取れる給付金です。

就職促進給付には「再就職手当」「就業手当」などがあります。

再就職手当は、基本手当の支給残日数が1/3以上ある場合に受け取れる手当です。ただ、1年以上勤務できる安定した職業で雇用保険の被保険者になるなど、一定の条件を満たさなければなりません。前職に復帰した場合や、前職の関連企業などに再就職した場合は対象外です。

就業手当は、パートやアルバイトなど再就職手当の要件を満たせない人でも、基本手当の受給期間が1/3以上(かつ45日以上)残っていれば受給できます。

基本手当を受給していても、早めに就職することで受け取れる給付金があることを覚えておきましょう。

参考:ハローワークインターネットサービス|就職促進給付

早く再就職するほどもらえる金額が増える

「できるだけ長く基本手当が欲しい」と思うかもしれませんが、早く就職が決まった方が再就職手当の給付率は高くなります。

  • 1/3以上の支給日数を残して就職した場合:支給残日数の60%
  • 2/3以上の支給日数を残して就職した場合:支給残日数の70%

再就職手当の額を導き出す計算式は『基本手当日額×所定給付日数の支給残日数×60%(もしくは70%)』です。ただし、再就職手当の基本手当日額にも上限額が決まっており、退職時の年齢が60歳未満の人は6,190円(60歳以上65歳未満の人は、5,004円)が上限となります。※2022年8月1日時点

失業給付金はあくまでも再就職までの生活をサポートするもので、働いているときよりもらえる金額は少なくなります。早めの再就職のために求職活動に精を出す方が、金銭的なメリットは大きくなるでしょう。

参考:再就職手当のご案内|ハローワークインターネットサービス

必要な書類と申請期間

再就職手当の申請に必要な書類は、採用証明書・再就職手当支給申請書・再就職手当調査書・雇用保険受給資格者証・就職日前日までの失業認定申告書です。

基本手当の受給手続きをした際に発行される採用証明書を再就職先に提出し、必要事項を記入してもらいます。雇用保険受給資格者証・失業認定報告書と一緒にハローワークへ提出し、再就職手当支給申請書を受け取ります。

再就職手当支給申請書と再就職手当調査書は、本人だけでなく事業主による記入欄があるので早めに提出するように心がけましょう。

申請期限は、原則として就職した日の翌日から『1カ月以内』となっており、手続きの終了後、1カ月半程度で支給されます。

退職後は失業給付金の申請を忘れずに

申請書

(出典) photo-ac.com

退職後の生活を安定させて精力的に求職活動に取り組むためにも、基本手当の申請を忘れないようにしましょう。受け取れる期間が決まっているので、早めに手続きをした方が安心です。

働く意思があって働けるのに、就職先が見つからない人が給付の対象となります。状況次第では、最大で3年まで失基本手当を受け取れる権利の有効期間を延長することも可能です。

受け取れる金額や期間は、退職時の年齢や雇用保険の加入期間によってそれぞれ違います。ハローワークの公式情報も参照しながら、計算式をチェックしてみましょう。

長友秀樹
【監修者】All About 社会保険労務士試験ガイド長友秀樹

医療機関の人事・労務はお任せ!元製薬会社MRの社会保険労務士
社会保険労務士。社会保険労務士法人NAGATOMO代表社員。MR、人事コンサルタント、医療業界を熟知した社会保険労務士の経験をいかし、病院・クリニックの規模に合わせた人事制度の構築、人事・労務問題をサポートしている。
All Aboutプロフィールページ
公式サイト