退職を決めた段階で有給休暇が残っている場合、取得は可能なのでしょうか?有給休暇を消化する前にしておきたいことや、法律上のルールを解説します。有給休暇を取得した場合の賃金や、有給休暇の取得を拒否されたときの対処法も知っておきましょう。
退職決定後に有給休暇の消化は可能?
退職決定後でも、有給休暇の消化はできるのでしょうか?会社が取得を拒否できるのか、退職時には気になるところです。有給休暇を消化した場合の賃金についても解説します。
会社は有給休暇の取得を拒否できない
基本的には、労働者の権利として有給休暇は取得できます。
ですので会社は、従業員からの希望があった場合に有給休暇を認める義務があります。退職が決まっている従業員も同様です。
「退職するまでに有給を使い切りたい」と申請すれば、原則会社は認めなければなりません。しかし、希望の取得時季に有給休暇を取得させると事業の正常な運営を妨げる場合においては、請求された日とは別の時季に有給休暇を与える『時季変更権』があります。ただし、退職後の日にちへの指定はできません。
このように会社側の都合で有給休暇の時期を変更できる時季変更権も、退職が差し迫った段階では、変更すべき他の日がないことから時季変更の指示は難しいでしょう。
基本的には、労働者の権利として有給休暇は取得できます。ただし、労働者側もすべての日数を消化する義務はないため、退職日までの有給休暇の消化日数については話し合いが必要です。
給与支給額が通常より少なくなる可能性も
有給休暇を取得した際にもらえる金額は、主に下の3種類のいずれかの計算方法で決まります。場合によっては、実際に勤務するよりも給与が少なくなるため注意しましょう。
①所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金
月給者の場合は、「月給÷その月の所定労働日数」で算出し、時給者の場合は、「時給×その日の所定労働時間」で算出します。
出来高払制・その他請負制の場合は、「賃金算定期間の賃金総額÷当該期間における総労働時間数×1日の平均所定労働時間数」で算出します。
②平均賃金
平均賃金を支払う場合は、原則「直近3カ月間に支払われた賃金の総額÷暦日数(休日を含む)」で算出します。
ただ、賃金の全部又は一部の支払い方法が日給制、時間給制、出来高払制その他の請負制の場合等の場合は「直近3カ月間に支払われた賃金の総額÷期間中の労働日数×60%」で算出した賃金と比較して、高い額を支払います。
③健康保険法の標準報酬日額相当額
標準報酬日額は、「標準報酬月額÷30」で算出します。標準報酬月額とは、被保険者が会社から受ける毎月の給料などの報酬の月額を区切りのよい幅で区分(1等級の5万8千円~50等級の139万円までの全50等級)した仮の月給のことです。
平均賃金や標準報酬月額での計算は働いた日数ではなく休日を含む歴日数で計算するため、実際の給与に比べると低くなる場合が多いでしょう。
会社の有給休暇の計算方法は、就業規則に記載されています。有給休暇を取得する前に確認しておきましょう。
退職前に有給休暇を消化するためのポイント
退職前に有給休暇を消化する場合、事前に準備をしておきましょう。残日数の確認や、会社との話し合いも必要です。退職前の準備や流れを見ていきましょう。
有給休暇の残日数を確認しておく
有給休暇が何日残っているかによって、退職の予定を伝える時期は変わります。残日数が多い場合は、早めに退職の意思を伝えて退職日までに使い切るスケジュールを立てなければなりません。
まずは給与明細や会社の勤怠システムなど、有給休暇の残日数が表示されているものを確認しましょう。
残日数によって引き継ぎや転職先への入社スケジュールを調整すると、有給休暇が取得しやすくなります。連続して取得するだけでなく、引き継ぎなど業務の都合に合わせて少しずつ取得する方法もあるでしょう。
また、有給休暇の付与日によっては、有給休暇の日数が増える可能性もあります。付与日は法定通りの入社日から計算する方法や全社一律付与など会社独自の付与日の基準があることも考えられるため、勤務先が設定している付与日も合わせて確認しておきましょう。
退職交渉時に有給休暇消化の取得時期などの確認をする
退職の意思を伝え、時期を交渉する際に有給休暇の取得についても相談しましょう。有給休暇の取得時期や取得日数の確認ができていれば、後から悩む心配はありません。
引き継ぎに2カ月程度かかると考えると、有給休暇を40日取得するには4カ月以上前に退職の意思を伝える必要があるでしょう。有給休暇の残日数などに合わせて、早めに退職について相談が必要です。
有給休暇の消化が認められた場合は、取得の日程を決めていきましょう。会社の都合も聞きながら、お互いに納得できる取得方法を目指します。
しっかり引き継ぎを行う
有給休暇の取得方法によっては、退職日よりも最終出勤日が早くなります。最後にまとめて取得を考えているなら、早めの準備が必要です。
実際に出勤する最終日までに、引き継ぎを終わらせなければなりません。上司や同僚にも、退職日ではなく最終出勤日を伝えておきましょう。
有給休暇の取得までに引き継ぎが終わっていない場合、会社側から出勤や退職日の延長を打診される可能性もあります。休暇中に確認や質問がないよう、必要な情報はすべて後任者に教えることが大切です。
有給休暇を消化しきれない場合
退職までに時間がなく、有給休暇が消化できないケースもあります。そんなときには、どうすればよいのでしょうか?買い取りしてもらえる場合や、転職後に使えるパターンも紹介します。
有給休暇の買い取りは原則認められていない
有給休暇の目的は、従業員が心身を休めることです。労働基準法により原則、買い取りは禁止されています。会社が有給休暇を買い取ることで、従業員が休めなくなるためです。
例外的に、業務の引き継ぎのため消化しきれなかった、退職時の未消化の有給休暇の買い取りは会社が恩恵的に認める場合があります。
ただし、退職時の有給休暇の買い取りは会社の義務ではないため、有給休暇を買い取るかどうかや買い取る場合の日数・金額は就業規則や会社の制度で規定されている場合など会社の判断になるので、買い取りを断られる可能性も考えておきましょう。
二重就労が可能になるケースも
転職先の入社日までに有給休暇が消化しきれない場合でも、会社の規則で兼業が認められる場合は、有給休暇を取得しながら次の会社でも働けます。
退職する会社と転職先、両方に確認が必要です。規則に記載がない場合でも、トラブルを防ぐため、あらかじめ二重就労になることを伝えて許可を取っておきましょう。
二重就労になるケースでは、雇用保険の切り替え手続きを忘れないようにします。転職先で雇用保険に入る必要があることを伝え、退職する会社に雇用保険の資格喪失手続きを依頼しておきましょう。
有給休暇の取得を拒否されたら
有給休暇の取得を拒否されたときには、いくつかの対処法があります。労働者の権利として有給休暇を取得するため、できるだけのことを試しましょう。
人事部や上司より上の役職者に相談
会社としては、労働者の権利として有給休暇を認める方向で考えなくてはなりません。労働者側が請求した場合、有給休暇を取得させる義務があるためです。
上司が有給休暇の取得を認めない場合、人事部や直属の上司よりも上の役職者に相談しましょう。支部などで働いている場合には、本社の相談窓口に問い合わせます。
現場に近い上司は、労働基準法に詳しくないこともあるでしょう。会社の上層部や人事対応を行う部署では、考えが違う可能性もありえます。有給休暇取得が問題ない場合は、人事部や役職者から上司に伝えてもらいましょう。
労働基準監督署に相談
会社全体が有給休暇の取得を認めない場合は、労働基準監督署に相談しましょう。労働基準法違反であれば、会社に指導をしてくれます。
「労働基準監督署に相談する」と伝えるだけで、会社の態度が変化するかもしれません。どうしても有給休暇が認められないときは、検討しましょう。
それでも会社が取得させてくれない場合は、弁護士への相談も視野に入れる必要があります。
有給休暇の消化は計画的に進めよう
有給休暇は、労働者が利用できる権利です。退職時に消化しきれず余ってしまわないよう、普段から取得を心がけましょう。
法律上、労働者が申請してきた有給休暇の時季が、事業の正常な運営を妨げる場合、会社は有給休暇の取得時季を変更できますが、退職時など時季変更が難しい場合は原則取得を拒否できないこととなっています。
上司や同僚に快く有給休暇をもらえるよう、退職時の取得は余裕を持ったスケジュールを組みましょう。
医療機関の人事・労務はお任せ!元製薬会社MRの社会保険労務士
社会保険労務士。社会保険労務士法人NAGATOMO代表社員。MR、人事コンサルタント、医療業界を熟知した社会保険労務士の経験をいかし、病院・クリニックの規模に合わせた人事制度の構築、人事・労務問題をサポートしている。
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