みなし労働時間制は社員側にもメリットがある?みなし残業との違いも

みなし労働時間制は、企業にも社員にもメリットがある制度です。みなし労働時間制についての基礎知識や、みなし残業とは何が違うのかについて解説をしていきます。フレックスタイム制、変形労働時間制など間違えやすい制度にも注意していきましょう。

みなし労働時間制とは?

スケジュール帳など仕事道具のイメージ

(出典) photo-ac.com

みなし労働時間制とはどういった制度なのでしょうか。制度についての基本や、勤務時間について解説していきます。

定められた時間だけ働いたとみなす制度

「みなす」とはそうではないことを法律上事実として扱うための法律用語です。つまり、みなし労働時間制とは、あらかじめ時間を決めておき、事実とは異なっても法律上その時間分は働いたものとして扱う制度といえます(労働基準法第三十八条の二を参照)。

例えば営業職は、営業先に直行したり営業先から直帰したりと、細かい労働時間が割り出しにくい職種です。そのようなケースで、みなし労働時間制は適用されやすくなります。仮に8時間とみなし労働時間を決めた場合、実際の勤務時間が5時間でも10時間でも、支払われる給与は8時間分です。

仕事に割り当てる時間配分や出社・退社の時間は労働者側が決めるため、会社側は労働者側にそれを委ねる形となります。

参考:労働基準法 | e-Gov法令検索

決められる時間は8時間でないことも

みなし労働時間制は、一般的に法定労働時間である8時間とされています。しかし所定労働時間を超えて働かなければ業務が遂行できない場合、労働基準法により、その時間をみなし労働時間に設定しなければいけません。

つまり業務に必要な労働時間が8時間ではなく10時間だったのであれば、2時間分多く働いたということで残業代が支払われます。

ただしみなし労働時間が8時間以下に設定されていた場合は、残業代が不要となり設定された時間分の給与のみが発生する仕組みです。

みなし労働時間制の種類

タイムカード

(出典) photo-ac.com

みなし労働時間制には、いくつか種類があります。その中でも主となる3つのみなし労働時間制について、細かく見ていきましょう。

事業場外みなし労働時間制

外回りの営業や添乗員、出張時など事業所以外で業務を行うことから、業務時間の管理が難しくなることで適用される制度です(労働基準法第三十八条の二を参照)。

所定の時間で労働したものとみなすのが原則で、業務を遂行するため所定時間を超えて労働した分は、業務遂行に通常必要な時間分労働したものとみなされます。

グループで事業場外労働を行い、グループ内に労働時間の管理者がいた場合、携帯電話などにより指示を受けながら労働している場合、直帰や帰社時刻について具体的な指示を受けてその後事業場に戻る場合は、事業場外みなし労働時間制の対象外となる点に注意です。

参考:e-Gov法令検索

専門業務型裁量労働制

厚生労働省令などで定められた19の業務に対して適用される制度です(労働基準法第三十八条の三を参照)。研究開発や公認会計士、弁護士などがこれに該当します。

通常の企業は上司が部下に指示を出してタスクをこなしますが、これらの業務は従業員自身の裁量で仕事を進めたほうが効率的であるケースが多いでしょう。そのため、業務を行うための手段・時間配分の多くを労働者側にゆだねるのがこの制度の特徴です。

また、ゲーム製作者やコピーライター、放送番組や映画のディレクターなどクリエイティブな業界にも専門業務型裁量労働制は多く見られます。

参考:e-Gov法令検索

企画業務型裁量労働制

企画や立案、調査や分析を行う従業員に対して適用される制度(労働基準法第三十八条の四を参照)で、2000年から施行されています。主な対象は、事業を運営する上で重要な決定が行われる企業の本社などです。

専門業務型裁量労働制と仕組み的には近いですが、労使委員会を作り、企画業務型裁量労働制を実施するための決議が必要になるなど、導入するための手続きが多いのが特徴と言えます。

労使委員会が存在していない環境であれば、まず労使委員会を労働者によって結成する必要があります。手続きの難しさゆえ、採用率は低めです。

参考:e-Gov法令検索

間違いやすい制度もある?

パソコンと時計

(出典) photo-ac.com

みなし労働時間制と似た響きのものや、近い制度のものもあります。とても混同されやすいため、何が違うかを解説していきましょう。

みなし残業代制

みなし労働時間制の中で、一定の金額を残業代として払う制度のことです。実際に残業をしていたかどうかに関係なく、あらかじめ基本賃金の中に組み込まれています。

みなし労働時間制との違いとして、労働基準法で明記されているわけではないことが特徴です。

固定残業代とも呼ばれており、名前の通り残業時間に比例した金額ではなく一定の金額が支払われるため、給与の計算がしやすくなるのが企業側のメリットとなります。ただし、企業としてはあらかじめ決めた固定残業時間を超えれば超過分の残業代を支払わなければならないということには留意する必要があります。

フレックスタイム制

1か月などあらかじめ定められた期間の中で、総労働時間だけを決めておき、実際にその中で働く時間を従業員が自由に決める制度です。

フレックスタイム制にはコアタイムとフレキシブルタイムがあり、コアタイムは必ず勤務しなければいけない時間、フレキシブルタイムは自由に出退勤できる時間となっています。コアタイムは設けなければいけない規定ではないですが、多くの企業では導入されています。

みなし労働時間制との違いは、1日に所定時間働いたとみなされるかどうかです。フレックスタイム制は、定められた総労働時間分はしっかり勤務する必要があります。

変形労働時間制

労働時間を1日単位ではなく、月・年単位で計算する制度のことです。通常は1日の勤務時間が決まっており、超過分は残業として扱われます。

しかし変形労働時間制では、年始に短くして年度末に勤務時間を長くするなど、年間を通して勤務時間が一定ではありません。そのため繁忙期や閑散期など、日単位や月単位で労働時間にばらつきがある業務でよく使われる制度です。

たとえば教師などは、学生の長期休みの間、勤務時間が少なくても成り立つため、1年単位の変形労働時間制に向いている職種と言えるでしょう。

労働時間を月単位・年単位で調整するため、企業側の視点で見ると残業代のコストを減らせるメリットがあります。

従業員側のメリット・デメリット

ワークスペースで働く男性

(出典) photo-ac.com

みなし労働時間制を企業が採用している場合、そこで働く従業員にはどういったメリットがあるのでしょうか。デメリットとあわせて解説しましょう。

自分のペースで仕事ができる

働く時間を自分で決めることができるため、自分で仕事のペース配分を調節できる点がメリットです。

始業時間や就業時間、休憩をどのくらい取るかも働く側の裁量に任せられます。実際に働いた時間にとらわれず、一定時間働いたことになるため、時間に追われず働けるのも強みです。大事な用があるときはそこに合わせて仕事の予定を組めるので、プライベートとのバランスを取りやすい制度と言えます。

8時間がみなし労働時間制で定められていた場合、仮に効率よく仕事を終わらせれば8時間よりも早く終業できます。しかし給与は8時間分支払われるため、勤務時間に対して効率がよいのも魅力です。

規定時間以上働いても残業代は出ない

所定労働時間を超過した労働時間に対して、みなし労働時間制では残業代が原則として支払われません。

つまり時間配分を誤ると残業をしなければいけませんが、その際に別途残業代が出ないということです。たとえば本来8時間分の仕事ということで8時間のみなし労働時間制で働いていたとして、仕事を終えるのに10時間かかってしまった場合、2時間分の給与は発生しません。

今ある仕事量に対して、どういったペースで進めれば時間内に終わるかしっかり計画を立てて、サービス残業をせずに済むよう考えながら働かなければ無駄な残業をしなければいけない、という点がデメリットでしょう。

みなし労働制に関わる契約・届け出について

就業規則を示す女性

(出典) photo-ac.com

みなし労働時間制に関係する契約や届け出にはどのような種類があるのでしょうか。確認しておくべき規約について紹介します。

労使協定は結ばれているか

事業場外のみなし労働時間制や専門業務型裁量労働制を適用するときは、労使協定を結んで所轄労働基準監督署長へ届け出る必要があります。ただし、事業場外のみなし時間が所定労働時間である8時間以下の場合は、届出が不要となる点に注意です。

所定労働時間とは、就業規則などで定められた始業時刻から終業時刻までの時間のうち休憩時間を除いた時間を示します。

36(サブロク)協定への届け出

36協定というのは、みなし労働時間制を適用する際に、みなし労働時間が8時間を超える際に必要な届け出です。

8時間を超えると法定労働時間を超えているため、会社側は36協定に従って割り増し賃金を支払わなければいけません。

みなし労働時間制だからといってみなし労働時間が8時間を超えた分の残業代を支払わなかったり、割り増し賃金がもらえなかったりした場合はしっかり請求し、本来もらえる賃金をもらいましょう。

意味を把握して自分にあった働き方を

仕事をしている女性

(出典) photo-ac.com

みなし労働時間制は、あらかじめ決められた時間分を働いたとみなす制度です。働く側にとっては、自分のペースで仕事ができるため効率的に働きやすく、プライベートとの両立もしやすい仕組みとなっています。

みなし残業代、フレックス制度といった間違えやすい制度があるので、違いをしっかり理解しておくのが大切です。

勤務時間によっては超過分の業務が発生しても、残業代がもらえない点がデメリットと言えます。メリットとデメリットを把握し、自分に合った働き方か見極めましょう。

渋田貴正
【監修者】All About 企業経営のサポートガイド渋田貴正

トリプルライセンスの税務・労務・法務ワンストップサービサー。 税理士、司法書士、社会保険労務士。会社設立から、設立後の税務、労務などのサービスを行う。窓口が同じというだけでなく、実際にすべてのプロセスを行う、真のワンストップサービスを提供。
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著書:
はじめてでもわかる 簿記と経理の仕事 '22~'23年版 (2022~2023年版)