会社を退職するときや転職を考えているとき、退職金がいくらもらえるのか気になるはずです。一般的な相場や算出方法、退職金のシステムごとの違いなどを確認しましょう。転職によって退職金に影響はあるのか、支払い時期はいつなのかも解説します。
退職金の相場は?
退職金の相場は、企業規模・勤続年数・学歴などによって変動します。それぞれのケースで一般的とされる相場をみてみましょう。
参考:令和3年退職金、年金及び定年制事情調査|中央労働委員会
参考:中小企業の賃金・退職金事情(令和2年版)|東京都産業労働局
企業規模でみる相場
退職金は、企業規模によって相場が異なります。新卒から定年まで勤めた場合、大企業ではおおむね2,000万円前後、東京都の中小企業(常用労働者数10〜299人)を例にした調査では1,000万円前後が一般的です。中途退職では会社都合と自己都合で異なり、会社都合の方が高くなります。
中小企業の区分は業種によって異なり、主に従業員数50人以下~300人以下、資本金5,000万円以下~3億円以下の会社を指します。
大企業に明確な定義は設けられていませんが、中小企業より大規模な会社と位置づけられるでしょう。厚生労働省の調査では、資本金5億円以上、従業員数1,000人以上を大企業と位置づけています。
勤続年数でみる相場
退職金の金額は、勤続年数に応じて異なります。また、会社都合と自己都合で金額が変わるのも特徴です。自己都合の場合、会社都合の半額程度まで下がるケースもあるでしょう。
厚生労働省の調査によると、会社都合の場合勤続3年では50~70万円程度、5年では90~140万円程度と勤続年数が長くなるごとに増えていきます。勤続10年で200~350万円、20年では660~1,000万円が目安です。
退職金が発生する勤続年数は企業によって異なり、短期間での退職では退職金が支払われないケースもあります。一般的には、3年以上の継続勤務で支払われる場合が多いようです。
学歴でみる相場
学歴によっても、退職金の相場は異なります。大学卒で定年まで働いた場合の退職金は平均で2,000万円前後ですが、高卒では1,500〜2,000万円の間です。
退職金の相場は、業種によっても1,000〜2,000万程度と開きがありますが、大学卒以上の方が高くなります。大学・大学院卒の場合は、高卒以下と500万円程度の開きがあると考えられるでしょう。
高卒では18〜19歳から働き始め、大卒以降では22〜23歳からの勤務であることを考えると、大卒以上の学歴を持っていた方が、勤続1年あたりの退職金は大幅に高くなるでしょう。
退職金の算出方法は?
退職金の算出方法には、どんなパターンがあるのでしょうか?算出方法の調べ方や、それぞれの概要を解説します。企業ごとに算出方法が違う点に注意が必要です。
まずは就業規則を確認
退職金の算出方法は、就業規則を確認すれば判断できます。企業によって、退職金のシステムが異なるためです。退職金制度のある企業は、就業規則に内容を記載するよう定められています。
就業規則がどこで確認できるか分からない場合は、管轄の部署に相談しましょう。
退職金制度は、退職一時金と企業年金の2種類に大きく分かれています。両方の制度を併用しているケースもあるため、退職時に全額がもらえるとは限りません。
算出方法は複数ある
退職金の算出方法は、企業それぞれが独自に設定しています。また、最近では退職金を設定していない企業も増えてきています。そのため、相場ではなく自分の勤務先や就職希望先の退職金を詳しく調べたい場合は、雇用契約書や募集要項などを確認してみてください。
この記事では、あくまで相場を知る目的で、一般的な算出方法である年功タイプと成功報酬タイプについて紹介します。
年功タイプは勤続年数に応じて退職金が算出され、短期間で退職した場合は支給されないケースもあります。成功報酬タイプは、退職時の役職に応じた退職金を支給する仕組みです。
細かい分類として、退職時の基本給に連動するタイプや1年ごとの評価を積み重ねるタイプなどがあります。
どのタイプで算出されているかが分かれば、おおよその退職金が推測できるでしょう。
退職金のシステムについて
退職金の受け取り方法は、企業側の設定によって決まります。退職一時金・企業年金・前払いが主なシステムです。それぞれの特徴や仕組みをみていきましょう。
退職一時金制度
退職一時金は、退職の際にまとまったお金が支給されるシステムです。一時金を算出するにあたっては、基本給連動・別テーブル・ポイント制の評価制度があります。
基本給連動タイプは、退職時の基本給や勤続年数によって算出される仕組みです。別テーブルタイプは、主に退職時の役職・勤続年数・退職理由を算出の基準とし、基本給とは別の方法で計算します。
ポイント制は、年齢や役職などを1年ごとに評価し、ポイントを加算していく方法です。どのタイプの算出方法であっても退職後にまとめて支給されることから、転職活動中や退職後の生活を支えてくれます。
企業年金制度
企業年金制度には、企業が運用する確定給付企業年金制度と個人が運用する企業型確定拠出年金制度があります。どちらも掛け金を負担するのは企業です。従業員がさらに上乗せできるケースもあります。
企業年金は一般的な年金と同様、老後の資金を目的として運用される制度です。基礎年金・厚生年金の補助として活用され、企業年金制度のある会社では老後の年金が上乗せされます。
なお、年金制度のため受け取りは60歳以降です。若いうちに退職した場合でも、すぐには支払われません。分割支給だけでなく、一括支給も選択できます。
前払い制度
前払い制度は、本来退職金として支払う分をボーナスや給与に上乗せするタイプの支払い方法です。前払い制度を導入している企業は数%ともいわれ、数は多くありません。
退職時ではなく在職中に支払われるため、毎月の給与やボーナスが多くなります。従業員側としては退職時の一時金が少なくなり、税金の優遇が受けにくいなどデメリットもあるのが特徴です。
企業側は退職金のための資金を積み立てておく必要がなく、額面上の年収を多く設定できるなどメリットが多いでしょう。ただし、従業員側に不祥事があった場合でも、退職金の返金は請求できません。
転職すると退職金は減るの?
退職金は、勤続年数によって変化します。途中で転職した場合、退職金は減るのでしょうか?転職が退職金に影響するのはどんなケースか、知っておきましょう。
勤続年数は重要な要素
途中で転職をすると、同じ会社で新卒から定年まで働いている人と比べて退職金は少なくなります。一般的に、長期で勤務するほど1年あたりの退職金は増えるため、トータルでの支給が多少減ることは理解しておきましょう。
また、3年未満の勤続期間ではもらえないケースもあります。短期での転職回数が増えるほど、退職金の支給割合が低くなりがちです。
ただし、現在勤めている企業に退職金制度がない場合、早いうちの転職で退職金の確保が可能です。もし仕事の条件として退職金を重視する場合は、早めに退職金制度のある企業への転職を検討しましょう。
転職を考えるなら「企業型確定拠出年金」
企業型確定拠出年金は毎月の掛け金を運用することで、複利効果を得られます。運用は個人で行うため、うまく投資が成功すれば退職金の上乗せも実現できるでしょう。
企業型確定拠出年金は、60歳より前に退職すると転職先に持ち運びができます。ただし、転職先に企業型確定拠出年金の制度がない場合、個人で運用する「iDeCo」への移換が必要です。
勤続期間を問わず、それまで積み立ててきた掛け金をそのまま移換できるため、一時金と比べると転職による影響が少ないのが特徴です。
退職金に関するQ&A
退職金をもらうことになったとき、支払い時期や課される税金は気になるところです。退職金について、気になるポイントをQ&A方式でみていきましょう。
退職金はいつ払われるの?
退職金の支払い時期は、企業が独自に設定しています。退職直後に支払いがあるとは限らず、1~3カ月ほどずれ込む場合も多いでしょう。
退職金の振り込み時期が気になる場合は、就業規則を確認しましょう。曖昧な記載の場合は、退職が決まってから管轄部署に問い合わせてみましょう。退職金が早く振り込まれる場合、転職までの生活資金が確保できます。
退職金が目安を過ぎても支払われない場合は、企業への問い合わせや労働基準監督署への相談を検討しましょう。基本的には企業へ問い合わせをした上で時期を確認し、それでも対処してもらえないのであれば、労働基準監督署へ問い合わせます。
退職金に税金はかかる?
退職金には、所得税・住民税がかかります。一時金の場合は退職所得、企業年金は雑所得での計算です。
退職所得は、ほかの所得とは別に税金が計算されます。勤続年数や退職金の金額によって控除率が変わり、勤務先で手続きをすれば確定申告の必要はありません。控除額は勤続年数20年以下なら40万円×勤続年数、20年超では800万円+70万円×(勤続年数−20年)で求められます。
企業年金は雑所得での計算のため、年間に支給される所得が一定額以下ならば非課税です。合計での所得が多い場合は、確定申告が必要になります。
一時金と企業年金の併用のいケースでも、一時金は退職所得、企業年金は雑所得でそれぞれ計算される仕組みです。
参考:退職金と税|国税庁
全ての会社に退職金があるの?
退職金の支給は、義務ではありません。企業が独自に設定するもので、退職金制度がないところもあります。正規雇用者に退職金制度を用意している企業は7~9割程度と多いですが、雇用形態・企業の状況によって異なるでしょう。
転職を考えるときは、候補としている企業に退職金制度があるのか確認しておくことをおすすめします。退職金の有無で、総合的な賃金に大きな差が出るためです。
ただし退職金だけで仕事を決めるのではなく、やりたい仕事や毎月の給与との兼ね合いも考えましょう。給与が高く設定されているのであれば、退職金がなくても毎月の手取りに余裕が出る場合もあります。
退職金だけにこだわらないことが重要
退職金の相場は、企業規模・業種・勤続年数・学歴など複合的な要素で決まります。定年まで勤めた場合、大企業なら2,000万円前後、中小企業なら1,000万円程度が一般的です。
退職金は多くの企業が導入する制度ですが、転職を考える際には月々の給料や仕事内容など総合的な判断が求められます。退職金は退職時の基本給や役職によって決まるケースが多く、入社前に正確な金額を把握するのは難しいでしょう。
現在の勤務先に退職金制度がなく、退職後の資金確保を考えているなら、早めに転職することでもらえる退職金を増やせます。
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はじめてでもわかる 簿記と経理の仕事 '22~'23年版 (2022~2023年版)