今の職場に不満がある場合でも、30代に突入していると転職できるのか不安になりがちです。アピールポイントがあれば、30代でも転職は十分に可能であることを理解しておきましょう。30代での転職のポイントや、参入しやすいおすすめの職種を紹介します。
30代転職の現状と推移
近年における30代の転職事情は、どのようになっているのでしょうか。公的なデータを参考にしながら、まずは30代の転職の現状と推移を解説します。
求人増によりチャンスは拡大傾向
厚生労働省が公表している「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」を見ると、有効求人数の増加率は30代が20代を上回る傾向にあります。
例えば25~29歳の有効求人数を見ると、2000年は約295万人、2019年は約317万人です。計算すると、20年間で約7%増加しています。
一方で35~39歳の有効求人数は、2000年が約227万人、2019年は約290万人となっています。20年間の増加率は約28%です。
30代の人材を求める企業は20年間で20代以上に増加しており、30代の求職者にとってはチャンスが広がっているといえるでしょう。
参考:一般職業紹介状況(職業安定業務統計) / 一般職業紹介状況 / ~令和2年3月【旧様式】政府統計コード00450222 | 厚生労働省
転職者数はほぼ横ばい
近年における30代の転職者数は、ほぼ横ばいで推移しています。総務省統計局の「労働力調査」によると、例えば35~44歳の転職者は2011年が約65万人なのに対し、2019年は約66万人です。
25~34歳の推移を見ても、2011年の約82万人から2019年の86万人と、ほとんど変化がありません。数字が若干増えている部分は、転職が活発な20代が影響していると考えられます。
全年代を合わせた転職者数の推移は、2019年までは上昇傾向にありました。2020年以降は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、転職者数が減少に転じています。
収入増を実現しているケースも
転職後に収入がどのように変化しているのかも、チェックしておきましょう。厚生労働省の調査結果から、30代における転職後の収入の変化状況が分かります。
2020年上半期に転職した30~34歳の人のうち、賃金が増加した転職者の割合は38.1%です。減少した人は35.5%、変わらなかった人は26.1%となっています。35~39歳の転職者に関しても、賃金が増えた人の割合は39.4%で、減少した人の31.5%を上回っています。
30代の転職者における4割近い人が賃金増を実現しており、30代で転職しても収入アップを十分に見込めると分かるでしょう。
参考:令和2年上半期雇用動向調査結果の概況 P17 | 厚生労働省
30代での転職は手遅れ?
30代での転職は20代に比べ厳しいと思われがちですが、まだまだ十分にチャンスがある年代です。30代で転職を成功させるためには、スキルや実績を生かせるかがカギとなります。
チャレンジする価値は十分にある
30代でも転職に挑戦する価値は十分にあります。終身雇用制度が崩壊しつつある近年では、40~50代で転職を目指す人も多く、むしろ30代は若い部類に入るといえるでしょう。
前述のデータの通り、転職市場では30代の求人も増加傾向にあります。少子高齢化により若手の人材不足が進んでいるため、30代未経験者を募集している求人も少なくありません。
30代になるとある程度の実務経験を積んでいることから、即戦力を求める企業の求人が多くなる点もポイントです。30代であることの強みをアピールできれば、まだまだ転職を成功させるチャンスは大いにあります。
スキルや実績を生かせるかがカギ
30代での転職は決して手遅れではないものの、20代に比べるとどうしても不利になってしまいます。ポテンシャル採用の対象が20代中心になりやすいほか、人材にかかるコストも若手の方が抑えられるためです。
企業によっては、30代前半までポテンシャルを見て採用されるケースもありますが、30代半ばを過ぎてポテンシャル採用の対象になるケースはほとんどありません。
即戦力を求められる30代の転職においては、スキルや実績を業務に生かせるかがカギとなります。年齢相応の能力と経験を求められるため、企業が設定した給与に見合う人材であることのアピールが必須です。
30代で転職するメリット
30代での転職にはいくつかのメリットがあります。転職者側と企業側にどのようなメリットがあるのか確認しましょう。
即戦力として働ける
30代は転職活動でスキルや実績を重視される傾向があります。今までの実務経験を評価されて入社できれば、即戦力としてすぐに仕事を任せてもらいやすくなるでしょう。
自分が希望する業務で能力を発揮しやすくなる点が、即戦力として働けるメリットです。専門分野での実績を買われて、入社直後にマネジメント職に就けるケースもあります。
企業にとっても、獲得した人材がすぐに活躍してくれれば、育成コストがかかりません。転職者が即戦力として働けることは、採用する側とされる側の双方にメリットがあるのです。
年収アップを図れる
前職と同じ職種に転職する場合、スキルや経験を前職以上に認められれば、スタート時から年収が上がる可能性があります。企業によって評価制度が大きく異なるためです。
例えば前職の評価制度が年功序列型であった場合、いくら結果を出しても年配者の賃金が高くなってしまうでしょう。一方で転職先が成果主義の評価制度を採用していたら、前職より高い賃金を見込めます。
ただし、30代の転職では必ず年収がアップするとは限りません。収入を増やす目的で転職するなら、スキルや経験を生かせる仕事を選ぶことや、徹底した業界・企業研究を行うことが大切です。給与構成も求人情報できちんとチェックしておきましょう。
企業とのミスマッチを防げる
30代にもなると自分に合う仕事と合わない仕事が分かってくるため、入社後のミスマッチを防げます。モチベーションを維持しながら長く働ける企業を探しやすくなる点がメリットです。
自分に合わない企業を選択してしまうと、再度転職を検討する結果にもなりかねません。30代での転職は20代より慎重になるため、ミスマッチをより防止しやすくなるでしょう。
企業にとっても、自社と相性のよい人材を獲得できることは、定着率の向上につながります。30代の応募者は企業を見極める目が鋭くなっているため、企業側にとってはミスマッチの起こりにくい人材を採用できるのです。
30代で転職するデメリット
30代の転職にはメリットだけでなくリスクもあります。どのようなデメリットがあるのかを理解した上で、きちんと対策を練っておくことが重要です。
20代に負けないアピールが必要
30代での転職は、ポテンシャル(潜在性:将来成長する可能性)の面で20代より確実に劣ります。なぜなら、30代には即戦力であることや、既に身に着けた一定のスキルや経験があることが期待されるからです。30代前半なら育成の対象になる場合もありますが、30代後半ではポテンシャル採用の対象にならず、即戦力採用が中心です。
求人票では30代以上歓迎となっていても、同じタイミングで応募した20代の求職者と能力に差がなければ、企業は20代の方を積極的に採用しようとするでしょう。
30代はポテンシャルで20代に勝てない点を意識し、20代に負けない自己アピールが必要です。将来性の高さを強調するのではなく、今できることをしっかりと伝えられるようにしておかなければなりません。
社会的信用が一時的に下がる
マイホームや車を買いたいと思っている場合、転職後はローンを組みにくくなる点に注意しましょう。ローン審査で見られる属性の中には、勤続年数の長さが含まれるためです。
基本的には、勤続年数が長いほどローン審査に通りやすくなります。ローン審査では、収入の高さだけでなく安定性も重視され、安定性の評価につながる項目の1つが勤続年数なのです。
転職後に収入がアップしたからといって、ローンが組みやすくなるわけではありません。勤続年数がリセットされると社会的信用も下がり、お金を借りてマイホームや車を買えなくなる恐れがあることを覚えておきましょう。
30代転職を成功させるポイント
30代での転職を成功させるためには、どのような点に気を付ければよいのでしょうか。失敗しない転職のポイントを紹介します。
ポータブルスキルを磨く
30代での転職を成功に導くためには、ポータブルスキルを磨いておくのが有効です。ポータブルスキルとは、マネジメント力・課題解決力・コミュニケーション力など、職場が変わっても持ち運べる能力のことを指します。
特に未経験の業界・職種へ転職する場合は、ポータブルスキルの有無が重要です。どのような職場でも生かせる能力が評価されれば、専門スキルや実績に乏しくても転職しやすくなります。
実務経験や資格といった基準がないポータブルスキルは、意識すれば誰でも磨ける能力ですが、習得には地道な努力と一定の時間が必要です。働きながらでも向上を見込めるため、できるだけ早くから習得に向けて取り組み始めるなど、転職活動前に磨いておくとよいでしょう。
自己分析とキャリアの棚卸しを行う
30代の転職では、将来を見据えて長く働けそうな企業を見つけることが重要です。20代のようにやり直しがききにくいため、やりがいのある仕事を探す必要があります。
自分に合った仕事を見つけるために、自己分析とキャリアの棚卸しを行いましょう。仕事での強み・弱みや興味のある分野を把握できれば、やりがいを持てる仕事を探しやすくなります。
給与や待遇のみにとらわれて転職先を探すと、自分が本当にやりたい仕事を任されずにモチベーションが下がってしまいかねません。やる気を維持できる仕事は何なのかを把握し、総合的な観点から職探しを行うことが大切です。
求人サイトで仕事を探す
30代で転職を検討するなら、仕事を探しやすい求人サイトを利用しましょう。できるだけ多くの求人情報を掲載しているサイトを選ぶのがおすすめです。
求人サイトならパソコンやスマホで簡単に求人をチェックできるため、働きながらでも転職活動を進めやすくなります。希望条件で求人を絞り込める点もメリットです。
求人サイト選びに迷う場合は、国内最大クラスの求人検索サイト「スタンバイ」を利用するのがおすすめです。豊富な求人情報が掲載されているため、30代向けの求人も数多く見つかるでしょう。
30代未経験でも参入しやすい業界・職種
特にこれといったスキルを持っていない場合は、どのような業界や職種を狙えばよいのでしょうか。30代未経験でも転職しやすい業界や職種を紹介します。
営業職
営業職は、基本的に専門スキルがなくても適性があれば成果を上げやすい職種です。コミュニケーション力や提案力といったポータブルスキルをアピールできれば、転職しやすいでしょう。
未経験者が営業職に転職する場合のおすすめ業界は、人材・広告・不動産・ITです。専門的なスキルを必要とする場合も、一般的には入社後の研修でスキルや資格を取得できます。
正社員の求人が多いのも営業職のメリットです。営業職には基本的なビジネスマナーも備わっている必要があるため、ある程度の職歴を持つ30代ならむしろ有利になるケースもあります。
物流関係
インターネットの普及に伴い、通販の商品を配送する物流業界は人手が足りない状況です。年代にかかわらず物流関係の求人は増えており、30代未経験でも参入しやすいでしょう。
車種に応じた運転免許を取得しておけば、実務経験なしでドライバーの仕事に就くことも可能な場合があります。入社後に補助金をもらいながら資格を取得できるケースもあります。
ただし、物流関係の仕事には肉体労働が伴いやすいため、ある程度の体力も必要です。年齢を重ねるにつれて身体への負担が大きくなる点に注意しましょう。
介護職
高齢化が進む現代においては、介護業界も人材が不足している状態にあります。基本的には無資格でも業務に取り組めるため、30代未経験におすすめの業界です。
未経験・無資格で入社しても、働きながら知識や技術を身に付けられます。実務経験を積んで資格を取得すれば、介護業界でのキャリアアップも可能です。
昨今は、資格取得制度を充実させたり待遇を手厚くしたりする企業も増えています。正社員の求人も多いため、長期にわたり安定した仕事を続けやすいでしょう。
30代での転職を成功させよう
30代の求人は増加傾向にあるため、転職にチャレンジする価値は十分にあります。即戦力として働けることや、企業とのミスマッチを防げることが、30代転職の主なメリットです。
30代はポテンシャルの面でどうしても20代に劣るため、若年層に負けないアピールを求められます。ポータブルスキルを磨いたり自己分析を徹底したりして、転職を成功に導きましょう。
国立大学法人東京海洋大学グローバル教育研究推進機構教授。サイバー大学客員教授を兼務。「できる上司は定時に帰る」「エンジニア55歳からの定年準備」「人材紹介の仕事がよくわかる本」他、キャリアやビジネススキル開発に関する著書がある。元外資系ヘッドハンターであり、企業の採用や人材育成事情に詳しい。
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