休日に出勤した場合、一定の条件を満たしていると割増賃金が支給されます。それでは、どのような場合に割増賃金が支給されるのでしょうか?支給されないパターンや休日出勤の種類、休日出勤にカウントされるケースなども解説します。
休日出勤割増賃金が支給されるパターン
法定休日出勤をした場合に、割増賃金が支給されるパターンは2つあります。いずれの場合も法定休日に出勤していることが条件です。
法定休日に出勤した場合
法定休日は労働基準法35条によって使用者が労働者に与えることが定められている休日であり、出勤した場合は、割増賃金が支払われます。賃金の割増率は「35%」です。法定休日に出勤し8時間を超えて労働した場合でも、時間外労働分の25%の割り増しは適用されず、35%の割り増しとなります。
また、深夜労働に伴う割増賃金は同時に適用されます。つまり法定休日において、22〜24時の間に労働した分は、休日出勤の35%と深夜労働の25%を合わせた「60%」の割増賃金となるのです。
ただし、休日出勤をして日をまたいだ場合、日付変更後は休日出勤に伴う賃金の割増が適用外になります。深夜労働に加えて、必要に応じて時間外労働分の割増は適用されます。
法定休日出勤後に代休を取った場合
法定休日に出勤した後に代休を申請・取得した場合、法定休日に働いた分の給料は35%割り増しで支給されます。
代休を取ったからといって、法定休日に働いたという事実に変わりはないため、賃金の割り増しがなくなるわけではありません。
なお、代休の申請は休日出勤後に行うのが一般的ですが、代休の付与は法律上の義務ではないので、会社側に断られてしまう可能性もあります。
代休の取得期限や申請方法に関しては、就業規則で規定されていることが多いため、あらかじめ確認しておくとよいでしょう。
休日出勤割増賃金が支給されないパターン
休日出勤をしたからといって、必ずしも割増で賃金が支給されるわけではありません。休日出勤したにもかかわらず、通常の賃金しか支払われない3つのパターンを紹介します。
所定休日に出勤した場合
休日労働に対して35%の割増賃金が支払われるのは、労働基準法の定めによれば、法定休日に出勤した場合のみです。所定休日に出勤した場合、会社が就業規則などで特別に支払う旨を定めていない限り対象外のため、休日労働に伴う賃金の割り増しはありません。
ただし、1日および1週間の法定労働時間を超えて働く場合は、1日に8時間、1週間に40時間を超えた分だけ「25%」の割増賃金が支給されます。
深夜労働に関しても通常通り適用されるため、時間外労働の25%と深夜労働の25%を合わせて「50%」の割増率となることもあるでしょう。
事前に休日を振り替えた場合
「事前に」振替休日を設定していた場合は、法定休日に働いても35%の割増賃金は支給されません。
休日を振り替えるには、事前に振替日を決めておく必要があります。振替休日について就業規則で明記されていることや、振り替え後も法定休日の要件が満たされることも条件です。
休日を振り替えたことで時間外労働が発生した場合、賃金の割増率は通常通り25%で、深夜労働に関しても同様です。
管理監督者に該当する場合
法律上の管理監督者については、労働基準法41条によって、休日労働および時間外労働に伴う割増賃金は適用されません。ただし、深夜労働の割増賃金だけは適用の対象です。
法律上の管理監督者は、管理職であることと同義ではありません。実態に即して判断され、判断基準として以下の3つのポイントが挙げられます。
- 経営者と一体的な立場にあること
- 自己の出退勤をはじめとする労働時間に関する裁量権を持っていること
- 重要な職務に当たっており、労働時間などの規制の枠を超えて労働する必要があること
いわゆる会社の管理職と呼ばれる立場である場合は、割増賃金が適用になる点を押さえておきましょう。
休日出勤割増賃金の計算方法
休日出勤に伴う割増賃金は、「1時間当たりの賃金」「法定休日の労働時間」「割増率」から計算されます。休日出勤の割増賃金だけを考慮した場合の計算式は、以下の通りです。
- 休日出勤割増賃金=1時間当たりの賃金×法定休日の労働時間×1.35(割増率35%)
この計算式に当てはめるための、1時間当たりの賃金の算出方法と、法定休日の労働時間を確認する方法について解説します。
1時間当たりの賃金の算出方法
時給制で働いている場合、時給がそのまま1時間当たりの賃金になります。月給制の場合は、以下の計算式で算出可能です。
- 1時間当たりの賃金=月給÷1カ月の平均所定労働時間
月給には、基本給のほかに役職手当・業務手当なども含まれます。賞与・通勤手当・住宅手当などは、原則として含まれません。ただし、支払額が毎月同額である家族手当・通勤手当・住宅手当が一律支給の場合は月給に含めます。
また、1カ月の平均所定労働時間は、年間の所定労働日数が決まっているかいないかで計算方法が異なります。
【年間の所定労働日数が決まっている場合】
- 1カ月の平均所定労働時間=年間所定労働日数×1日の所定労働時間数÷12カ月
【年間の所定労働日数が決まっていない場合】
- 1カ月の平均所定労働時間=(365日(うるう年は366日)-所定休日日数)×1日の所定労働時間数÷12カ月
法定休日の労働時間を確認する方法
法定休日に出勤をした場合、その労働時間は給与明細に書かれているのが一般的です。「勤怠部分」に記載されている「休日出勤」の欄を確認しましょう。
35%の割増賃金になる労働時間は、休日労働に該当する分だけです。当然ながら、1カ月分の給与が全て割り増しされるわけではありません。
例えば、法定休日の出勤が1日だけで、5時間の労働時間だった場合は、5時間分の賃金だけ35%割り増しされます。
また、割り増し分に端数がある場合は、原則として切り上げて計算するのがルールです。ただし、1カ月の割増賃金に該当する労働時間の通算で、30分未満の端数が出た場合など、一部のケースでは切り捨てが認められています。
休日の種類
休日出勤した際に、割増賃金を正しく受け取るためには、休日の種類について理解しておくことが大切です。休日の種類は、法定休日と所定休日の2つに分けられるので、違いをしっかり把握しておきましょう。
法定休日
法定休日は、労働基準法で規定されている休日です。原則として会社は従業員に、週に1日の法定休日を与えることが義務付けられています。就業規則で指定がない場合は、「土曜日」が法定休日です。
祝日は法定休日に該当しませんが、就業規則での規定がある場合は例外です。就業規則で「祝日を法定休日とする」と記載されている場合は、祝日も法定休日として扱われます。賃金の割増条件や割増率も、法定休日と同じように判断され計算が行われます。
所定休日(法定外休日)
所定休日とは、労働基準法で付与が義務付けられていない休日です。法律で規定されていないことから、法定外休日とも呼ばれます。
法定休日は週1日あれば違法ではないにもかかわらず、実際には週休2日制を採用している企業が多いものです。週に2日の休日が設定されているのは、労働基準法第32条で「1日の労働時間の上限は8時間、1週間の上限は40時間」と定められているためです。
1日8時間労働の場合、5日間の勤務で1週間の上限である40時間に到達します。法律に準ずるためには、自然と週に2日間の休日が必要になるのです。
法定休日と所定休日では取り扱いなどが異なるため、就業規則や賃金規定で2日間のうちどちらが法定休日・所定休日かを明記することが必須とされています。
休日出勤に該当するケース
休日出勤に該当するのは、業務を行うために出社した場合に限りません。法律の範囲内で休日に出勤し、適切な賃金を受け取るためには、休日出勤に該当するケースを把握しておくことが重要です。
業務遂行のために出社している場合
会社や上司の命令に従って休日に出社する場合はもちろん、業務遂行のために必要であることが明らかな場合は、会社や上司の指示がなく出社していても休日出勤に該当します。
ただし、緊急性や必要性がないにもかかわらず従業員側が勝手に出社している場合、会社側は賃金の支払いが必須ではありません。自主的に勉強をするために出社する場合は、仕事に関連する内容でも賃金は支払われないことに注意しましょう。
終わらない仕事を持ち帰っている場合
出社していなくても、休日出社に該当するケースもあります。家に持ち帰って仕事をしている場合です。会社や上司からの指示があるときはもちろん、指示がなくても必要性が明らかな場合は賃金の支払い義務が生じます。
ただし、休日出社のケースと同様に、必要ないにもかかわらず本人の意思で仕事を持ち帰って、家で業務にあたっている場合は休日出勤に該当しません。
余裕を持って仕事を進めたいがために持ち帰ったり、自宅で仕事をする必要があったりといった理由では対象外となるので注意しましょう。
参加義務のある研修会・懇親会
スキルアップや勉強のための研修会のほか、職場内での親交を深めるための懇親会は、休日に開催されることが多いものです。参加が義務付けられている場合は、研修会・懇親会でも休日出勤に該当します。
参加が義務でないとしても、参加の可否によって給与や人事考課に影響が及ぶ場合も同様です。参加しないことによって不利益を被らない場合に限り、休日出勤に該当しません。
法定休日の出勤は違法?
法定休日は労働基準法で規定されている休日で、会社側は週に1回設けることが義務付けられています。
それでは、法定休日に出勤させられた場合は違法になるのでしょうか?会社が従業員を法定休日に出勤させるための、必要な条件について解説します。
36協定を結ぶ必要がある
労働基準法36条に基づく「36協定」とは、会社が従業員を法定休日・法定労働時間外に労働させるために、二者間で締結している必要がある協定のことです。
36協定を結んでいない場合、従業員を法定休日に出勤させることや、法定労働時間を超えた労働をさせることはできない決まりになっています。
36協定を結ぶと長時間労働が可能になりますが、残業時間は原則として「月に45時間」「年に360時間」が上限です。
また、特別な理由があり上限を超えた労働が必要な場合は、「特別条項付き36協定」を締結しなければなりません。この場合は、「月に100時間未満」「年に720時間まで」となります。
ただし、厚生労働省は「時間外労働と休⽇労働の合計は1年を通じて⽉100時間未満、2~6か⽉平均80時間以内にすること」を求めており、「時間外労働が⽉45時間を超えることができるのは、6カ月が限度」とも定めています。
対価を払う必要がある
労働基準法の第37条第1項で定められているように、従業員を法定休日に出勤させた場合、会社は賃金を割り増して支給しなければなりません。
もし割増賃金を支払わずに労働させていると違法となり、会社には「懲役6カ月以下または30万円以下の罰金」が科せられる可能性があります。
割増賃金の支給は法律で決まっていることなので、従業員側は正当な権利として割増賃金の請求を行うことができます。
参考:労働基準法第37条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令 | e-Gov法令検索
参考:労働基準法 | e-Gov法令検索
休日に出勤したら適切な賃金をもらおう
休日には法定休日と所定休日があり、法定休日であっても要件が満たされていれば出勤に応じる必要があります。
休日出勤で割増賃金が支給されるのは、法定休日に出勤した場合のみで、後から代休を取得しても35%を割増した賃金が支払われます。
所定休日に出勤した場合や、法定休日の労働でも事前に休日を振り替えている場合は、休日労働に伴う賃金の割増がありません。
どうしても休日に出勤せざるを得ない場合や、仕事を家に持ち帰らざるを得ない場合、また参加義務のある研修会・懇親会も休日出勤に該当します。休日出勤した場合は法律にのっとり、適切な賃金をもらいましょう。
トリプルライセンスの税務・労務・法務ワンストップサービサー。
税理士、司法書士、社会保険労務士。会社設立から、設立後の税務、労務などのサービスを行う。窓口が同じというだけでなく、実際にすべてのプロセスを行う、真のワンストップサービスを提供。
All Aboutプロフィールページ
公式サイト
著書:
はじめてでもわかる 簿記と経理の仕事 '22~'23年版 (2022~2023年版)