退職を引き止められた場合の対応方法。引き止め防止の対策も

退職を上司に伝えると、会社を辞めないでほしいと説得されるケースもあります。なぜ上司は退職を引き止めるのでしょうか。退職引き止めの理由とアプローチ方法に触れた上で、スムーズに退職するために必要な準備について解説します。

退職の引き止めはパワハラ?違法?

デスクに置かれた退職届

(出典) photo-ac.com

退職を引き止めること自体、法律上問題がないのでしょうか? 退職の引き止めがパワハラに該当するケースや、違法と見なされるケースについて解説します。

パワハラに該当するケース

そもそも職場におけるパワーハラスメント、いわゆるパワハラは3つの観点から判断されます。以下の3つを全て満たしている場合にのみ、パワハラと見なされます。

  • 役職などの優位性を利用していること
  • 業務の適正な範囲を超えて行われること
  • 精神的あるいは身体的な苦痛を与えること、または就業環境を悪化させていること

損害賠償や懲戒処分といった言葉を出して脅された場合や、給料・退職金を減額された場合、また有給休暇を取得させないように圧力をかけた場合は、パワハラに該当します。

退職を認めないのは違法

憲法22条第1項では、職業選択の自由が認められています。言い換えると、退職も憲法で保障されているといえます。したがって、退職を申し出たときに、無理やり引き止めて辞めさせないのは違法です。

ただし条件を満たしていない場合は、退職の申し出を拒否できます。正社員の場合には、退職の申し入れから2週間が経てば、雇用契約は解除されます。6カ月以上の契約を結ぶ年俸制では、3カ月前までに申し出ることが必要です。

ただし契約社員は、原則として契約期間の途中での退職はできません。

参考:日本国憲法22条 | e-Gov法令検索

参考:民法627条 | e-Gov法令検索

上司が退職を引き止めてくる理由

指を挿すスーツの男性

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退職を申し出た途端に、態度を変えて退職を引き止めるケースが多く見受けられます。上司が退職を引き止める3つの理由を解説します。

採用コストをかけたくないから

退職者が出ると、1日にこなせる業務量が1人分減ります。退職予定の人が業務において大きな役割を担っていたのであれば、最悪の場合は倒産に至る恐れもあります。このような場合、人手不足を避けるために、退職を引き止めるのです。

倒産にまで至らなくても、業務をきちんと回すためには人員を補充する必要があります。採用には求人掲載などのコストがかかるほか、一から教育する手間もかかります。採用には多くの時間と手間を要することも、退職者を出さないように粘る理由です。

管理責任が問われて評価が下がるから

退職者が出ると、上司はマネジメント能力が不足していると評価され、給料が下げられる恐れがあるため、退職を引き止めます。短期的な待遇だけでなく、キャリアに影響が出る可能性もあることから、強引にでも引き止めようとするとも考えられます。

上司の勝手な都合が理由として挙げられるケースには、もう1つパターンがあります。上司から担当する業務を押し付けられ、成果を横取りされている場合には、使い勝手のいい部下を手放したくないことから引き止めてくるものです。

自分が当てはまると感じた場合には、上司にいいように利用されて使いつぶされることのないように、強い意思を持って退職や異動につなげることが重要です。

退職後のことも気にかけてくれているから

会社や上司の勝手な都合ではなく、親身になって考えてくれているからこそ退職を引き止めてくるケースもあります。理由が曖昧だったり突拍子もない計画を立てていたりすると、退職後のことを気遣って退職を引き止めてくれます。

信頼できる上司に退職を引き止められた場合は、退職後の生活を心配してくれていることが多いものです。上司の気持ちが伝わるようであれば、言葉を受け止めて、一度客観的に自分のキャリアを見つめ直す機会を設けてみましょう。

上司が用いる引き止め方法

資料を手元に話す男性

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上司が退職を引き止めてくる場合、引き止めるのに用いるアプローチには、ある程度決まったパターンがあります。引き止めでよく見られる4つのパターンを紹介します。

感情に訴えてくる

1つ目の引き止め方は、感情に訴えて退職を考え直すように誘導するものです。「君がいないと業務が回らない」「君だからこそ残ってほしいんだ」と、承認欲求に訴えて引き止めを図ってきます。

良心に付け込んで引き止められると、退職に踏み切るのが難しくなってしまうものです。しかし今までお世話になったことに対する感謝の気持ちと、退職することはまったく別のものです。

自分のキャリアに関係する退職の決断は、感情に左右されず理性的に判断する必要があります。

待遇の改善を提案してくる

給料を上げたり残業を減らしたりすることのほか、希望部署への移動をサポートするなど、待遇の改善と引き換えに退職を引き止めるパターンもあります。

待遇の改善を提案してきても口約束に過ぎず、上司に権限がない場合もあるものです。書面で改善の内容を記してもらい、自分1人でゆっくりと考える時間を設けることが重要です。

これまでの待遇に不満を感じていた場合は、そのまま残っても待遇が改善されないのが一般的です。むしろ一度は退職しようとした人として烙印を押され、待遇が悪化する恐れもあります。

退職時期を先延ばしにしてくる

期間を指定したり後任が決まるまでの間と、退職時期を先延ばしにするパターンもあります。労働者には退職の自由があるため、条件を満たしている限り、時期を延ばすようにいわれても対応する義務はありません。

先延ばしにして会社に残っていると、繰り返し先延ばしにするようにお願いされ、ズルズルと残ってしまうことが考えられます。最後には退職したいという意思が薄れていってしまう可能性もあるでしょう。

不安をあおって脅してくる

転職後の年収ダウンや転職先の会社の悪い評判を吹聴して、不安をあおる形で退職を引き止めてくる可能性もあります。

人格を否定する発言をされたり、退職するなら損害賠償を請求すると脅したりするパターンもあります。損害賠償は成立するはずがない点に加え、圧力をかけて辞めさせないことはそもそも違法であるため、聞き入れる必要はありません。

強引に退職を引き止められた場合は、上司よりも上の役職の人に相談しましょう。社内で相談できる人がいない場合は、労働局に相談するといいでしょう。

スムーズに退職するための事前準備

退職届を前に考え事をする男性

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無事に退職するまでには、さまざまな壁が立ちはだかり、スムーズに退職まで至るのは難しいものです。予定通りに退職するために欠かせない事前準備について解説します。

転職先を決めておく

スムーズに退職するためには、退職することを上司に伝える前に、転職先や今後の身の振り方を決めておくことも重要です。転職先がすでに決まっていることで退職への強い意思を示せるほか、内定先の会社も関わることなので、現職の会社の一存では引き止めにくくなります。

内定先の入社日に合わせて現職の退職日を決めておくと、先延ばしにされる心配がなくて安心です。入社日までにきちんと退職できるように、早めに退職する旨を伝えておきましょう。

会社の繁忙期は避ける

退職時期と会社の繁忙期が被らないように調整することも大切です。禍根を残さず円満に退職するためには、退職に向けた話し合いのタイミングを設けることが欠かせません。話し合いを重ねて、お互いの妥協点を見つけ出す過程は非常に重要です。

会社の繁忙期に退職する旨を伝えても、話し合いの場を設けることが困難です。退職の手続きに対応してもらえず、退職までたどり着けない恐れもあります。円満かつスムーズに退職するためには、繁忙期を避けるよう意識しましょう。

退職を引き止められた場合の対処法

話をする男性

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退職を引き止めらないように事前準備はもちろん大切ですが、どんなに準備しても引き止められるケースはあります。退職を引き止められたときの適切な対処法について解説します。

退職の意思と理由をはっきり伝える

退職の意思が弱いと、引き止められたとき「そのまま残ろうか」と迷いが生じやすくなります。

引き止めにあらがってでも最初の予定通りに退職するためには、強い意思を持つことが重要です。退職の相談をするのではなく、退職する旨をきっぱりと伝え、退職に向けた調整の相談をすると引き止めにくくなります。

上司の言葉や態度で変わることのない意思を持つためには、引き止めにくい理由を伝えることが欠かせません。

「就きたいと思っていた業界の内定をようやくもらえた」「特定の技術を身に付けるためには転職が必須だ」という理由なら、上司も自分勝手な理由で引き止めにくいでしょう。

ポジティブな退職の理由を伝える

社内での人間関係や今の給料や待遇を理由にすると、改善するから残るように言われかねません。カウンターオファーを避けるためには、現状に不満や問題があることを理由とした退職理由は無難といえます。

キャリアアップや目標達成のために転職するといったポジティブな理由だと、退職を申し出たときに引き止められにくくなります。親身になってくれる上司なら、むしろ応援してくれるケースもあり得ます。

スムーズな円満退職には準備が大切

考え事をする男性

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退職する旨を伝えたときに上司が引き止めてくるのは、採用コストがかかったり評価が下がったりするのを避けたいという、自分勝手な理由が背景にあるケースも見られます。

よく用いられる引き止め方には、感情に訴えたりカウンターオファーを提示したりするケースがありますが、強引な引き止めは違法です。

スムーズに退職まで至るには、あらかじめ転職先を決めておくほか、繁忙期を避けて退職の意思を伝えます。また、引き止められにくいポジティブな理由を伝えることが大切です。

きちんと準備をした上で退職までの予定を立て、上司に退職に向けた手続きの相談をしましょう。