試用期間は、労働者が社員として働けるかどうか、労働者の適性や能力を企業が見極める期間です。会社が「合わない」と判断すれば、試用期間中でもクビになる場合があります。どのような人が試用期間でクビになるのでしょうか?特徴や実際を解説します。
試用期間が設けられている理由
試用期間とは文字通り、会社が労働者を「試験的に雇用する期間」です。「採用されたのではないのか」と思うかもしれませんが、試用期間は会社と労働者双方のために必要とされています。
会社が適性や能力を確認するため
試用期間が設けられているのは、会社が本採用を予定する労働者の適性や能力を見極めるためです。選考時の短い面接だけでは、労働者が自社に必要なスキルを持っているか、どんな人柄かなどを深く把握できません。
そこで一定期間、実際の仕事ぶりや勤務態度を見ることで判断するのです。労働者にとっても、試用期間は会社の業務内容や社風が自分に合っているか見定める期間といえます。
試用期間の明確な規定はありません。会社によって異なりますが、正社員の場合3~6カ月が一般的です。試用期間の終了後、会社と労働者の双方に問題がなければ本採用となります。
試用期間でクビになることはあるのか
試用期間中の労働者にとって、気になるのが「クビになるのではないか」という点ではないでしょうか。また「試用期間内なら会社は自由に解雇できる」と思っている人もいるでしょう。実際のところ試用期間にクビになる可能性はあるのか解説します。
会社は簡単にクビにできる訳ではない
試用期間は「解約権留保付労働契約」とされ、会社と労働者の間ですでに労働契約が結ばれている状態です。
会社は解約権(雇用契約を解除できる権利)を有していますが、行使するには一定の条件を満たす必要があります。試用期間だからといって、会社が労働者を自由にクビにできるわけではないと考えてよいでしょう。
また、試用期間中または終了後のクビは、法的には「解雇」扱いになります。そのため、会社は30日前までの解雇予告か、日数が不足する場合はその分の「解雇予告手当」を支給しなくてはなりません。
ただし、試用期間開始日から14日以内は、即時解雇が可能なので注意が必要です。
試用期間の解雇には正当な理由が必要
試用期間中か否かにかかわらず、労働者をクビ(解雇)にするには、客観的かつ正当な理由が必要です。
「自社の社風に合わなさそう」「社内の集まりに参加しない」など、主観的な理由や自社の就業規則に記載されていない理由で解雇することはできません。不当解雇になる可能性があります。
例えば、新規採用した労働者に適切な教育や指導をせずに仕事をさせ、上手くできなかったからといって「能力不足」と判断して解雇するのは不当とされるでしょう。
また、試用期間中に一方的に解雇を言い渡すこと自体が「必要な試用期間を与えなかった」として、不当解雇に該当する場合もあります。
試用期間でクビになる人の4つの特徴
試用期間でクビになるのには、必ず理由があります。「クビになるかもしれない」と不安に思っている人は、まず自分の言動や勤務態度を見直すことが必要です。正当な解雇理由になるとされる、主なものを4つ紹介します。
勤務態度が悪く改善の意思が見られない
体調不良や身内の病気・不幸といったやむを得ない事情以外での、度重なる遅刻や早退、無断欠勤は評価が下がる原因といえます。また、上司の指示に従わない、反抗的な言動をする、ほかの社員とトラブルを起こすなど協調性がない勤務態度も問題です。
上司や指導担当者は、こうした労働者に対して注意・指導を行うことが義務付けられています。そのため、一度や二度の遅刻や欠勤、勤務態度に対する注意ですぐにクビになることはありません。
しかし、何度も注意されたにもかかわらず改めずにいると「改善の意思が見られない」と判断され、クビになる確率が高くなるでしょう。
経歴や資格に虚偽があった
会社が応募条件として学歴や職歴、保有資格などを提示している場合、どんなに「就職したい」という思いが強くても、虚偽や詐称は絶対にしてはいけません。仮に採用されても、発覚すれば試用期間中でもクビになる可能性があります。
経歴や保有資格に関する虚偽・詐称は、会社が労働者を解雇する正当な理由と見なされることが多いだけでなく、会社の損害やイメージダウンにつながりかねないためです。
また会社に「嘘をついた」という事実は、信用問題にも関わります。クビにならなかったとしても、会社での居心地は悪くなるでしょう。
能力が著しく不足している
採用されたばかりの労働者が結果を出せないのは、当然のことです。しかし、適切な教育や指導を受けたにもかかわらず、期日までに会社が提示する目標を達成できなかった場合、必要な水準に達していないとしてクビになるかもしれません。
これまでの経歴や能力を評価されて採用された人は、さらに条件が厳しくなります。会社が期待したほどの成果を上げられなかったとして、試用期間でクビになる確率は高くなるでしょう。
また基本的な理解力がなく、何度も同じことを注意される、指示された通りにできないという人も、能力不足と判断される可能性があります。
社会人としてのルールが守れない
度重なる遅刻や無断欠勤はもちろん、会社の備品を勝手に持ち帰ったり、設備を私用で使ったりするなど、社会人としての基本的なモラルやルールが守れない人は、試用期間でクビになることが少なくありません。
業務上知り得た個人情報や顧客情報を持ち出すのも厳禁です。「これぐらい構わないだろう」と軽い気持ちで友人にしゃべったことが、回りまわって会社の知るところとなれば、大きな問題になるでしょう。
クビになるだけでなく、最悪の場合は罪に問われる場合もあります。
試用期間でクビになる前兆とは
試用期間でクビになる場合には、前兆があるケースが多いものです。「もしかして自分もクビになるかも」と気になる人は、周囲で思い当たることはないか、チェックしてみましょう。
上司や指導担当者がよそよそしくなった
直属の上司や指導を担当している社員が急によそよそしくなったり、仕事を与えてくれなくなったりしたら、試用期間でクビになるサインかもしれません。「どうせクビにするのだから、これ以上指導する必要はない」と判断されたと考えられます。
また、これまで親しくしていた先輩社員や同僚から声をかけられなくなった、何となく距離を感じるようになって居心地が悪いという場合も要注意です。周りにはすでにクビになることが知らされているため、接し方に困っている可能性があります。
勤務態度や仕事の出来を注意されなくなった
遅刻や欠勤、仕事に取り組む姿勢や成果など、それまで何度も指導や注意をされていたのに、急にされなくなったら、試用期間でクビになる可能性が高いでしょう。
上司や指導担当者が注意したり、厳しく指導したりするのは「会社にとって戦力になる」という期待の表れといえます。根気よく接してくれるのは、成長させたい、一緒に働きたいと思っているからこそです。
それがなくなったとしたら、「会社としてはもう期待していない=クビにしても構わない」という意思の表れと考えられるでしょう。
それとなく退職をすすめられる
上司や指導担当者から「この仕事に合っていないのでは?」「ほかの会社の方がいいのではないか」など、それとなく退職をすすめられた場合も、試用期間でクビになる可能性があります。
会社は正当な理由がなければ労働者を解雇できません。仮に理由があったとしても不当解雇として反論されたり訴えられたりといったリスクが伴います。
そのため、できれば労働者の方から自主的に退職してもらいたいという考えから、こうした言い方をされるケースが多いのです。
試用期間でクビにならないために
試用期間でクビにならないようにするのは難しいことではありません。「クビになる理由」に当てはまらないように勤務すればよいだけです。具体的にどのようなことをすればよいのか紹介します。
与えられた仕事をしっかりこなす
試用期間中は、この会社で働きたい、仕事をしたいという意欲をアピールすることが大切です。
与えられた仕事は責任を持って期限までにやり遂げ、手が空いたときには「何かやることはありませんか?」と積極的に申し出ましょう。やる気を見せれば、周囲も快く応じてくれるはずです。
「失敗したらクビになるかも」「出しゃばりと思われるかも」と後ろ向きになったり、仕事を拒否したりするのはおすすめできません。どんな仕事でもコツコツとこなす姿勢が、評価アップにつながるのです。
報連相はきちんとする
「報告・連絡・相談」は社会人の基本です。分からないことは相談する、仕事が完了したりミスをしてしまったりしたらすぐに報告するなど、報連相をきちんとしましょう。
勝手に仕事の手順を変えたり、ミスを隠そうとしたりするのは厳禁です。後々大きな問題に発展しかねません。試用期間中は上司や先輩の指示に従い、仕事を覚えることに徹しましょう。
ただし、何でもすぐに聞くのも社会人としてはあまり望ましくありません。専門用語などは、ある程度自分で調べることが大切です。
気にしすぎないようにする
「クビになるかも」と考えすぎず、ある程度割り切って自分の仕事を精一杯こなすことも必要です。気にしすぎて仕事の能率やクオリティーが落ちるようなことになっては、かえって評価が下がる恐れがあります。
正社員であれば、試用期間だからといって簡単にクビになることはありません。十分に仕事ができないとしても、上司や指導担当者から教育や指導を受けて挽回するチャンスは用意されています。まずは自分に与えられた仕事に集中しましょう。
試用期間でクビと言われたらどうする
「試用期間で簡単にクビになることはない」といっても、可能性はゼロではありません。勤務態度や能力によっては、クビになる場合もあるでしょう。
しかし、真面目に働いており、決して評価も悪くないと思えるのにクビと言われたときはどうすればよいのでしょうか?
解雇理由証明書を発行してもらう
「解雇理由証明書」は、どのような理由で解雇するのか詳細に記したものです。労働者から請求しなければ発行されないので、クビになったときにはすぐに会社に発行を申請しましょう。
会社側に拒否権はありません。労働者から申し出があったら、速やかに発行することが義務付けられています。
解雇理由証明書によって、クビが正当なものか、つまり不当解雇でないかを判断できます。不当解雇として裁判になったときには、有力な証拠になるでしょう。
ただし、発行申請はできるだけ早くすることをおすすめします。解雇理由は後付けができるため、あまり時間が経ってからだと曖昧になる恐れがあるからです。
会社に話し合いの場を設けてもらう
クビの理由に納得がいかない場合は、会社に話し合いの場を設けてもらいましょう。その際は会社の了解を得て、やり取りを必ず録音することをおすすめします。万が一裁判になったときに、有利になる可能性があるためです。
会社に不満があると感情的になってしまうかもしれませんが、言いたいことを的確に伝えられるよう、できるだけ冷静かつ理性的に話すよう心掛けましょう。クビが撤回されて本採用になる可能性も考えられます。
後々気まずくなりそうな言動は避ける方が無難です。
納得できなければ労働基準監督署や弁護士に相談
話し合いの結果、クビが撤回されず、その理由にも納得できない場合は、労働基準監督署や労働問題を扱った経験の豊富な弁護士に相談してみましょう。試用期間中や終了後にクビになった理由などが妥当かどうか、アドバイスをもらえます。
また、弁護士に依頼すれば、会社との交渉や万が一の際の裁判手続きもしてくれます。解雇理由証明書や解雇通知書などの書類、試用期間の開始日から現在までの自分の言動や会社側の対応などをまとめたものを持って行くとスムーズです。
試用期間を乗り越えて本採用を目指そう
試用期間でも、正社員であれば簡単にクビになることはないとされています。ただし、労働者側がそれを見越して遅刻や欠勤を繰り返したり、上司や指導担当者に反抗的な態度を取ったりすると、雇用契約を解除、つまりクビになる可能性はゼロではありません。
本採用を目指すなら、社会人としての常識をわきまえましょう。何よりも大切なのは、目の前の仕事に熱意を持って取り組み、きちんとやり遂げることです。