インセンティブと聞いて、給与のアップに関係していることだと思う人は多いでしょう。しかし、必ずしもそうとは限りません。社会人として押さえておきたい、インセンティブの詳しい意味や、正しい使い方をチェックしましょう。
インセンティブの意味
インセンティブという言葉を耳にしたことがあっても、実際に受け取ったことがなく、詳しい意味を知らない人もいるでしょう。言葉の意味や、企業の目的などを紹介します。
やる気を高める動機になるもの
インセンティブは英語で「incentive」と書き、ビジネスシーンでは「動機づけ」という意味で使われます。英語での意味は「刺激・動機・誘因」などです。
もとのインセンティブに近い意味を持つ言葉として、モチベーションがあります。モチベーションは主に自発的に動機を持つという意味合いとなりますが、インセンティブは外部から動機がもたらされることを指すのが特徴です。
企業は従業員のモチベーションの向上と維持や、事業の活性化を狙ってインセンティブを支給します。
インセンティブと歩合の違い
歩合という言葉は「ある数とほかの数との割合」を意味し、歩合制とは従業員の成果にもとづいて給与計算をする制度のことです。出来高払い制や請負給制とも呼ばれ、実力の差が賃金にはっきりと表れる特徴があります。
売り上げが多かった月とそうでない月で、収入の変動幅が大きくなるような仕組みです。一定の給与を支払わずすべての賃金を歩合給にするのは違法であり、「固定給+歩合給」となります。
インセンティブは、定められた目標を達成した従業員に支給されるものです。支給の条件は企業によってさまざまで、もらえる報酬が必ずしも従業員の実績に応じて上がっていくとは限らない点が大きな違いとなります。
目標の達成度に応じて支給
インセンティブの内容や支給される条件は企業によって違います。
例えば、営業職などでは「契約1件に対していくら」と決まっている場合もありますし、売上金の〇%が支給される、というように売上金額がインセンティブの基準となっていることもあります。
ほかにも、「5件以上の契約を取ったら5,000円、6~10件以上は1万円」というように、実績に応じてもらえる額が大きくなっていくパターンも珍しくありません。実績の集計期間の定め方も、企業によって異なります。
インセンティブを導入する企業
インセンティブは、どの企業でも利用されているわけではありません。インセンティブが導入されることが多い職種や企業について見ていきましょう。
成果が見えやすい営業職に多い
インセンティブは、実績が目に見える形で分かりやすい職種に多く見られます。成績を数字で確認しやすい営業職などは、インセンティブの制度を設けやすい職種です。
外資系の企業ではインセンティブを取り入れていることが多く、従業員のモチベーションを高めて、企業が抱えるさまざまな問題を解決するために設定されます。離職率の低下や、組織力の強化を課題として設定することも珍しくありません。
より大きな効果を生むために、月ごとや半期ごとなどインセンティブ取得の機会を何回か設けている企業もあります。
マーケティング分野での「インセンティブ」の意味
インセンティブという言葉が使われるのは、従業員のモチベーション向上に対してだけではありません。給与面の話をするときだけでなく、ビジネスシーンの用語として使用される機会もある言葉です。
例えば、マーケティングの分野では、人の欲求を刺激し行動の誘因となるものや、反対に行動しない理由となるものをインセンティブと呼んでいます。
「コロナワクチンの接種を積極的に行ってもらうため、インセンティブを用意してはどうか?」というように使用することが可能です。接種率を上げることを課題として考え、「接種したくなるような魅力的な特典」を付けることで解決しようとする意味になります。
インセンティブの種類
インセンティブには豊富な種類があり、1種類だけを支給している場合もあれば、複数のパターンを設けている場合もあります。どのような種類があるのか、詳しく見ていきましょう。
報奨金、インセンティブボーナス
従業員のモチベーションを高めるために「報奨金」や「インセンティブボーナス」を与える方法は、多くの企業で実践されています。基本給とは別に報奨金を支給することで、ご褒美としての役割が期待できるからです。
会社全体の目標達成に応じて上乗せされるものを「インセンティブ報酬」と呼び、給与に上乗せされて支払われます。個人の成績に応じた特別報酬として与える「インセンティブボーナス」と分けて設定されている企業も少なくありません。
支給されるのは現金だけでなく、企業によっては商品券・金券・プリペイドカードなどの場合もあります。
表彰、研修
インセンティブの種類は金銭や金券だけとは限らず、表彰や研修という形でインセンティブが与えられることもあります。
成績優秀者を人前で褒めることは、従業員の士気を高める方法として効果的です。「自分の頑張りを周囲の人に認めてもらいたい」と感じる人にとっては、金銭を支給されるだけより効果的に働くこともあります。
多くの人の前で表彰され、「仕事ができる人物」として周囲から認識されるようになれば、社内での地位が向上するでしょう。また、成績優秀者だけに与えられる研修や特別休暇などもインセンティブに該当します。
人事評価
本人が昇進を望んでいる場合、「夢を実現するために必要な役職に就ける」という人事的なインセンティブを支給することもあります。昇進するとモチベーションが高まり、自発的な行動につながるでしょう。
企業の発展によい効果をもたらしてくれることを期待し、人事評価制度の中にインセンティブを組み込んで、人材育成に活用している企業もあります。
従業員がやりたいことをかなえるために、部署を異動させたり希望の職種に就けたりするのも、モチベーションを高めるために効果的です。離職率を下げるために、人事的なインセンティブを実施している企業もあります。
インセンティブのある職種
インセンティブは、どんな職種にも設定されるわけではありません。インセンティブを設けていることが多い職種を見ていきましょう。
もっとも多いのは営業職
営業職は、インセンティブ制度が導入されている職種の代表例です。中でも、特に不動産・保険会社・自動車といった業界の営業職はインセンティブをもらえることが一般的です。たくさん稼ぎたいと思っているなら、複数のインセンティブが設けられている営業職を狙いましょう。
不動産・保険会社・自動車業界のように契約獲得数が売り上げに直結する業界には、報奨金の上限をあえて設けない企業もあります。
実力のあるトップセールスマンの中には、月に100万円程度の報奨金を得ている人もおり、本人の実力次第で年収が大きく変わるでしょう。
営業以外の職種
インセンティブをもらえる可能性があるのは、営業職だけではありません。店舗スタッフ・ドライバー・ITエンジニアなども、インセンティブを設定しやすい職種です。
個人売上の目標が設定されている店舗スタッフの場合、集客が見込める店舗に配属されるかどうかで月の給料が大きく変動することもあります。
ドライバーの場合、各人の配達個数が多くなればなるほど、報奨金が増えるように設定されていることが少なくありません。ITエンジニアもプロジェクトへの貢献度に応じて、インセンティブを出す取り組みが行われやすい職種です。
「スタンバイ」では、希望する仕事を「こだわりの条件」や「キーワード」で絞って検索して見つけられます。インセンティブが支給される仕事を探したいときに、ぜひ役立ててください。
インセンティブの内容で収入が大きく変わる
基本給や職種が同じであれば、インセンティブが設定されているかどうかでより多くの収入を得られる場合があります。
収入アップを狙っているなら、応募先の候補を絞る際にインセンティブの有無を頭に入れて選ぶとよいでしょう。ただし、どのような種類のインセンティブが設定されているかは企業によって違うので、注意が必要です。
また、毎回必ずインセンティブの支給条件を満たせるとは限らないので、基本給の高さをチェックすることも忘れないようにしましょう。
大学卒業後、銀行勤務を経て社会保険労務士資格を取得し独立開業。上場企業をはじめ数多くの企業の人事労務管理の相談指導、給与計算業務等に携わる。また年金問題についての執筆、講演も多数。
All Aboutプロフィールページ