薬剤師の年収は、年齢や経験、地域や業種によって変わるため「薬剤師の年収は?」と聞かれても、明確に答えられる人はそう多くありません。薬剤師の年収が各要素でどのように変わるのか、年収アップや初任給でチェックすべきポイントを説明します。
薬剤師の平均年収
薬剤師の年収は都道府県や勤務先の業種によって大きく異なります。なぜ格差が大きいのかを見ていきましょう。
なお、この記事の平均年収は厚生労働省の「令和3年賃金構造基本統計調査」にもとづいています。算出方法は「きまって支給する現金給与額×12カ月+年間賞与その他特別給与額=年収」としました。
参考:賃金構造基本統計調査 / 令和3年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種
男女別・年代別の平均年収
2021年の「賃金構造基本統計調査」によると、薬剤師の全国平均年収は580.5万円(平均年齢41.0歳、従業員10人以上の勤務先の場合)でした。男女別に見てみると、男性薬剤師の平均年収は630.3万円、女性薬剤師の平均年収は545.3万円で、男女差は約85万円あります。
年代別の平均年収は、20~24歳が378.4万円、25~29歳が473.3万円、30~34歳は547.0万円となっており、年齢が上がるとともに年収も上がっていきます。ピークは50~54歳の683.2万円です。
都道府県別の平均年収
薬剤師の平均年収は勤務する都道府県によって大きく異なります。2021年の平均年収における上位都道府県は以下の通りです。
●1位 山口県 667.1万円
●2位 香川県 652.9万円
●3位 茨城県 649.2万円
●4位 滋賀県 639.6万円
●5位 石川県 638.2万円
最下位は山形県の477.7万円で、1位の山口県との差は約200万円もあります。
地域によって格差が大きいことと、都市部よりも地方の方が年収が高めであることがわかります。
一般的に、都会の方が物価も高く、賃金も高いと思われがちですが、薬剤師の場合は事情が変わってきます。薬剤師は人々の生活に密接に関わってくる職業です。そのため薬剤師の人材が不足している地方では高めの報酬を払って人材を確保しようとするのです。
業種別の平均年収
薬剤師が勤務する主な業種は病院、ドラッグストア、調剤薬局、製薬会社です。求人票に記載されている年収・報酬から判断すると、薬剤師の平均年収はおよそ以下の通りです。
●病院 400万~450万円
●調剤薬局 450万~500万円
●ドラッグストア 500万~550万円
●製薬会社 500万~600万円
病院の薬局は、年収はやや低いですが幅広く知識を身に付けられるというメリットがあるので、人気の職場です。
ドラッグストアの年収が比較的高いのは、店舗数が増えて薬剤師の需要が高まっているからです。また、店舗の管理や複数の店舗を統括する役職に就くことも可能なので、年収が上がっていきます。
製薬会社では、成果に対して報酬を支払うシステムなことが多いため、病院勤務に比べて年収が高くなりがちです。
他の職業との比較
日本全体の平均年収や他の医療従事者の平均年収と比較してみましょう。
日本の平均年収との比較
国税庁がまとめている「民間給与実態統計調査」(2021年)によると、給与所得者の平均年収は約443万円で、男性約532万円、女性約293万円です。薬剤師の平均年収は約580.5万円で、そのうち男性薬剤師が約630.3万円、女性薬剤師は約545.3万円なので、日本全体の平均を大きく上回っています。
薬剤師の年収が高い理由は、6年制の大学の薬学部を出て、国家試験に合格する必要があることです。もう1つの理由は、常に新しい情報を習得していかなくてはならない専門性の高い職種だということです。そのため人材が不足していることが高い年収の原因になっています。
他の医療従事者の平均年収との比較
医師や看護師など、他の医療従事者の平均年収は以下のとおりです。
●医師 1,139.7万円
●歯科医師 669.4万円
●診療放射線技師 514.4万円
●臨床検査技師 460.6万円
●理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・視能訓練士 405.5万円
●看護師 479.0万円
●准看護師 400.9万円
薬剤師の平均年収を上回るのは医師と歯科医師だけで、その他の医療従事者の平均年収よりも大幅に上回っています。
より高い年収を目指すには
ここまでに見てきたように、薬剤師の年収は決して低くはありません。しかし、より高い年収を目指すのであれば、以下の4つの方法があります。
企業薬剤師になる
製薬会社などの企業で勤務する薬剤師になる方法があります。薬剤師の平均年収は病院や薬局、ドラッグストアよりも企業薬剤師の方が高いためです。初任給では大きな差がなくても企業内で役職につき責任ある仕事に就くことで年収はアップしていき、1,000万円を超えることもあります。
企業内での薬剤師の職務は研究開発・治験・MR・管理薬剤師など多岐にわたります。また、福利厚生がしっかりしているのもメリットです。
管理薬剤師になる
調剤薬局やドラッグストアでも管理薬剤師になると年収をアップできます。管理薬剤師は一般の薬剤師の仕事をこなしながら、店舗の責任者としての責務を負います。医薬品の管理、従業員の監督業務を行い、薬機法などの法令順守ができているかどうかもチェックしなくてはなりません。
薬局長・店長を兼任する場合は資格手当の他にも役職手当を付けている会社が多いようです。社内で昇給・昇進を目指すなら、管理薬剤師を目指しましょう。
雇用形態を選ぶ
一般的なアルバイト・パートの薬剤師より派遣薬剤師の方が高い時給を取得できます。派遣薬剤師は派遣会社に登録して、薬局やドラッグストアに派遣されて働きます。薬剤師の人材は不足しがちなので、高い時給を払っても即戦力になる派遣薬剤師は歓迎されるのです。
派遣薬剤師のデメリットは同じ職場で3年以上働けないことですが、その問題をクリアするには紹介予定派遣を活用するとよいでしょう。一定期間働いたあとで直接雇用に切り替えができるシステムです。
働く地域を選ぶ
上述したように都道府県によって薬剤師の年収は大きく変わります。それは都市部よりも地方で薬剤師が不足しているからです。
地方勤務には、年収の高さ以外にもさまざまなメリットがあります。まず家賃や物価が安いことです。特に家賃については、都心のワンルームマンションと同じ家賃で、ファミリータイプのマンションや一戸建てに住むこともできます。勤務先によっては車通勤が可能な場合もあります。通勤のストレスが軽くなり、節約できた時間を自由に使えます。
一方で、キャリアアップや薬剤師同士の交流の面で、都市部と比較して不便な点もあります。学会の開催地も都市部で実施することが多く、参加機会は限られますが、直近ではウェブ会議ツールを併用している学会も増えてきており、遠距離参加することが可能です。
薬剤師の初任給で注意すべきポイント
就職を決める際には、当然のことですが初任給をチェックしなくてはなりません。初任給のチェックポイントを説明します。
初任給とは?
初任給の内訳は「基本給+諸手当」です。基本給は毎月固定で支払われるもので、諸手当は時間外手当や役職手当などです。初任給から税金と社会保険料(初任給では健康保険料・厚生年金保険料は引かれません)を差し引いたものが「手取り」となります。
求人票に記載されている初任給の金額から税金などが引かれた金額が手元に残る金額であることは覚えておきましょう。
就職先を選ぶときの初任給のチェックポイント
初任給をもらったら、給与明細の基本給をきちんと確認しましょう。なぜならボーナスは基本給をもとに算出するので、基本給の多い少ないは年収に大きく影響するのです。
基本給は勤続年数に応じて上がっていくものですが、昇給率や昇給のタイミングもチェックしておきます。実際に働いている人に聞くのが確実で、卒業生などのつてがあれば事前に聞いておきましょう。
そして、意外と見過ごされがちなものが「みなし残業」が含まれているかどうかです。みなし残業代として一定金額が含まれている場合は、長期間の残業が常態となっていたり、みなし時間以上の残業を行っていたりすることもあり得ます。
管理職になれば年収1,000万円も!
薬剤師の年収は他の職業や医療従事者に比べても決して低くはありません。さらに年収をアップしたい場合は企業薬剤師募集の狭き門を突破するか、地方勤務を選ぶなどの選択肢があります。
薬剤師は大学で6年間の学びを終えた貴重な専門職として引く手あまたといえます。企業内で責任ある役職に就けば年収1,000万円も夢ではない将来性のある仕事です。
就職先を決めるときには、年収だけではなく10年後・20年後にどうなっていたいかも考慮にいれて考えるとよいでしょう。
就職活動をしている人はスタンバイで情報収集してみましょう。薬剤師が高収入を得られる地域の求人も多数掲載しています。
調剤薬局、医療専門広告代理店などの勤務を経て、2012年にフリーランスライターとして独立。薬剤師とライターのパラレルキャリアを続けている。人だけではなく動物の医療、介護、健康に関わる取材・ライティングも行う。
著書:
犬の介護に役立つ本(山と渓谷社)
薬剤師ライター仕事百科
監修者のコメント
現在お住いの土地から遠く離れた地域の薬局で働くことに興味があっても、見知らぬ土地へ引っ越して就職するのは勇気がいると思います。そんなときには、興味がある地区で募集している派遣薬剤師として勤務してみて雰囲気を知るという選択肢もあります。