産業カウンセラーになるには?求められる能力と詳しい仕事内容を解説

産業カウンセラーとは

電話で話す女性

(出典) photo-ac.com

産業カウンセラーとは、「一般社団法人 日本産業カウンセラー協会」が認定する心理職の民間資格です。また、その資格を保持している人たちのことを指します。産業カウンセラー資格は、1992〜2001年度までのあいだ、労働省(当時)が認定する技能審査資格であり、その期間は公的資格でしたが、2001年度をもって技能審査から除外されたため、以降は民間資格となっています。

なお、日本産業カウンセラー協会が認定する資格には、産業カウンセラーのほかに、その上位資格であるシニア産業カウンセラーや、キャリア形成支援の専門家で2016年4月から国家資格になったキャリアコンサルタントもあります。

産業カウンセラーの仕事内容と活動分野

産業カウンセラーは、「メンタルヘルス対策」「キャリア開発」「職場における人間関係開発」という、3つの領域が活動領域です。心理学的な手法を用いて相談室で話を聴くだけではなく、産業や労働の現場でカウンセリングや研修などを行うことで、働く人自らが問題を解決できるよう援助します。さらには健康で生産性の高い組織作りを支援することも、産業カウンセラーが行う仕事です。

産業カウンセラーの活躍の場は多岐にわたり、産業や労働の現状に通じたプロフェッショナルな援助者として、国や自治体、企業などから専門的な役割を期待されています。ストレスチェックのアドバイザーもそのひとつです。人材派遣コーディネータやマネージャー職、人事担当者など、心理カウンセラー以外の人でも資格を活用できます。

就業先は複数

産業カウンセラーが選べる就業先は、複数あります。仕事内容から推察できるとおり、一般企業だけでなく学校や病院など多くの場所で活躍できる職種です。

働く人のメンタルヘルスや人間関係をサポートする業務のため、就業者がいる場所では産業カウンセラーの需要があります。もちろん、営業力がある場合は自分で事務所を開き、個人で活動することもできるでしょう。

「産業カウンセラー」という固有の職種ではなく、別の仕事を兼ねて働く人もいます。産業カウンセラーは民間資格であり、「本業に生かす」という目的で取得されることも多いのです。

医療機関の補助業務や、一般企業で社員からの相談に対応する人が、さらなる能力を発揮するために産業カウンセラーの資格を取得するケースも少なくありません。

1日のスケジュール例

産業カウンセラーは、働く人たちのカウンセリングが主な業務です。一般企業で働く場合は通常業務を行いながら、面談の必要があるときに時間を作るという流れが多いでしょう。

フリーランスや短時間勤務でカウンセリングを行う場合は、相談が必要な時間帯に出勤します。予約していた人の相談に対応し、報告や情報共有の時間を設けることもあるでしょう。

1日のスケジュール例としては、面談前の打ち合わせ後、1~2時間のカウンセリングを行い、記録を作成する流れが一般的です。複数人の予約が入っているときは、カウンセリングと記録作成を繰り返します。

日本産業カウンセラー協会の各支部

日本産業カウンセラー協会は、全国を13のブロック・地域に分け、支部を設置しています。支部では、産業カウンセラー養成講座をはじめ、支部独自企画の事業、月例会や講演会、研修などを運営しています。また、産業カウンセラーの上位資格であるシニア産業カウンセラーや、キャリア形成支援の専門家であるキャリアコンサルタントを目指す養成講座も行っています。

産業カウンセラーを目指すには

ファイルを見て考える男性

(出典) photo-ac.com

産業カウンセラーはあくまで資格名であるため、資格者でなくとも、産業・労働分野における心理カウンセラーとしての活動は行うことができます。精神科医などの医師、臨床心理士、保健師などが心理カウンセラーの業務を行っている場合も少なくありません。

医師や保健師は国家試験に合格する必要があり、また臨床心理士は大学院課程修了を基本要件とする民間資格であるため、これらと比較をすると産業カウンセラーは取得しやすい資格といえるでしょう。

産業カウンセラーの資格を取得する方法

産業カウンセラー資格の取得をするためには、まず、養成講座を修了するか、大学院などの指定の専攻を修了し指定科目を履修して、受験資格を得ることが必要となります。その後、試験に合格し日本産業カウンセラー協会の会員になることで、「資格登録会員」として産業カウンセラーの活動が可能となります。

産業カウンセラー試験の受験資格

(1)産業カウンセラー養成講座を修了
成年に達しており、日本産業カウンセラー協会が行う産業カウンセリングの学識および技能を修得するための養成講座を修了した場合、受験資格を得たことになります。試験は、養成講座の修了年度に関係なく受験することができます。

(2)大学院で心理学関連の所定の専攻を修了し、所定の科目の単位を取得
大学院研究科において、心理学または心理学隣接諸科学、人間科学、人間関係学のいずれかの名称を冠する専攻の修了者であって、所定の科目の単位を取得している必要があります。なお、2017年度に実施される産業カウンセラー試験より、「学士」の受験資格が廃止されており、これ以降は上記の条件を満たした「修士」以上の学位保持者のみが該当者となります。なお、「修士」での受験は申請が必要です。

産業カウンセラー養成講座

産業カウンセラー養成講座は、通学コース、オンラインコース、フルオンラインコースの3種類で成り立っています。講座期間は6カ月または10カ月です。eラーニングをメインに、都合に合った学習講座を選べます。それぞれのコースで理論学習の受講方法、受講期間は異なりますが、学習内容や面接実習時間数、得られる受験資格に変化はありません。

・基本の受講内容

①面接の体験学習104時間(15~16日間)※10カ月夜間コースは31~36日
②面接の体験学習に関する課題学習6課題(28時間相当のホームワーク)
③Web配信講義視聴(44時間相当のe-Learning)
④理解度確認テスト(13時間相当のe-Learning)

・受講料

297,000円(早期割引あり、欠席が一定時間を上回る場合は追加あり)
※2022年5月時点で発表されている費用

・コースによる違い

通学コースでは、「面接の体験学習」104時間をすべて対面で行います。オンラインコースでは、28時間をスクーリング、残りの76時間をオンラインミーティングアプリ「Zoom」を使って行うのが特徴です。

フルオンラインコースは104時間すべてをZoomで行うため、自宅からオンライン学習ができます。通学が難しい場合は、フルオンラインコースが向いているでしょう。

試験について

産業カウンセラー試験は、毎年1月に実施され、2週にわたって学科試験と実技試験が行われます。学科試験の内容は、カウンセリングに関する基礎的な知識を問う5肢択一のマークシート方式で40問程度、カウンセリングの基本的な事例への対応能力および傾聴の技法の対話分析能力を問う5肢択一のマークシート方式が20問程度です。

実技試験は、学科試験実施後に全国各地の試験会場で実施されます。内容は、20分程度の受験者相互によるロールプレイおよび口述試験です。合格率は実技試験・学科試験とも60%後半〜70%前半と、比較的高めとなっています。日本産業カウンセラー協会が販売するテキストだけでなく、過去の受験者のブログなどを読んで対策しておくとよいでしょう。

出願期間は2022年の場合、4月下旬~5月上旬となっています。学科(または実技)試験に合格すれば、翌年と翌々年の学科(または実技)試験が免除になります。また、試験年度の産業カウンセラー養成講座または前年度の養成通信講座を修了し、実技能力評価制度により面接実技能力が一定の基準に達していると試験委員会から判定された場合は、実技試験免除の適用申請を行うことで、実技試験が免除されます。詳細は4月ごろより配布開始となる受験要領をご確認ください。

資格登録

試験に合格後、産業カウンセラーの資格の呼称を使用して活動するには、日本産業カウンセラー協会の登録会員となることが必要です。登録会員になるためには、登録料7,000円、年会費10,000円が必要です。

会員の登録期間は入会年から起算して5年間とされています。登録期間中に1日6時間の「資格登録更新研修」を受講することにより資格登録を更新することができます。本部または支部が開催する「みなし資格登録更新研修」を合計6時間以上受講した場合は、更新研修を受講したものとみなされます。資格更新の際に必要な費用は3,000円です。

産業カウンセラーの年収

電卓とお札

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産業カウンセラーは、勤務先の企業や雇用形態によって年収に差があります。開業しているケースもあり、状況によって年収には大きな開きがあるでしょう。社員として雇用されている場合は、一般的な企業や教育機関の社員と同様年収300万~500万円程度の年収が推定されます。

一般社団法人 日本産業カウンセラー協会では、2010~2011年にかけて「産業カウンセラー等の実態調査」を行っています。調査結果によると、常勤は51.5%、フリーランスは42.6%です。産業カウンセラーはフリーランスを含む契約社員や非常勤として働く人も多く、全体としては200万~500万円程度と幅広い収入帯が考えられるでしょう。

「産業カウンセラー」という職業よりも、どこに勤務するか、開業する場合は安定した取引先があるかなどが重要な要素となりそうです。

産業カウンセラーの求人

タイピングする手元

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常勤、非常勤、社員、アルバイト、パートなど多様な働き方を選ぶことができます。各業界でのカウンセラー職や総務スタッフなどでは、産業カウンセラーの資格取得者が歓迎される傾向にあります。

出典:
一般社団法人 日本産業カウンセラー協会
日本産業カウンセラー協会 東京支部
日本産業カウンセラー協会 神奈川支部
日本産業カウンセラー協会 関西支部