年功序列とは?メリット・デメリットや成果主義との違いについて解説

年功序列とは、勤続年数や年齢に応じて給与額を決める評価制度です。評価基準が明確で、人事評価しやすいといったメリットがありますが、近年は成果主義に移行する企業も少なくありません。双方を比較し、自社に適した評価制度を導入しましょう。

この記事のポイント

近年は年功序列から成果主義に移行しつつある
社会的背景や働き方の多様化によって、評価制度の見直しが進んでいます。
あらゆる面で成果主義が優れているわけではない
例えば、定着率の向上が見込める点は、成果主義にはない年功序列のメリットです。
自社に適した評価制度を導入することが大切
どちらか一方を取るのではなく、双方の要素を社風にマッチした割合で取り入れましょう。

年功序列とは?

ミドル・シニアの男女

(出典) pixta.jp

「年功序列」はよく耳にする言葉ですが、長年勤めた人ほど給料が多くもらえる制度という漠然としたイメージを持つ人もいるかもしれません。まずは、年功序列の概要を見てみましょう。

勤続年数や年齢で役職や賃金を決定する人事制度

年功序列は「年功賃金」とも呼ばれ、明確な定義を持つ言葉ではありません。一般的には、勤続年数や年齢によって基本給が増加する評価制度を指します。

厚生労働省が管轄する総合情報サイト「確かめよう労働条件」でも、「企業における勤続年数や労働者の年齢の上昇に従って、賃金(基本給)も上昇する仕組みであると考えられます」としています。

年齢に応じて給料が上がるため、ライフステージに合わせた金額が保障される仕組みです。

出典:確かめよう労働条件|厚生労働省

年功序列が定着した背景

日本で年功序列が定着した背景には、1950年から1960年代の高度経済成長期があります。この時代は引き続き見込まれる経済成長を見据え、人材の流出を防ぐ施策が必要でした。

そこで慣行化したのが、長期雇用を前提とした評価制度です。年功序列は、同時期に定着した新卒一括採用・終身雇用制度と合わせて「日本型雇用」「日本的雇用」と呼ばれます。

年功序列のメリット

オフィスで働く男女

(出典) pixta.jp

日本国内で広く採用される年功序列の評価制度には、どのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、メリットを3点詳しく解説します。

定着率と帰属意識が高まる

年功序列は人材の流出防止が目的で、長期雇用を前提とする制度です。長く勤めるだけ昇給・昇格が望めるため、定着率の向上につながります。

長期的な雇用は組織に対する帰属意識を高めます。ライフステージに応じた給料を得られることから、終身雇用と併せて将来への安心感が期待できる点も魅力です。

人事評価がしやすくなる

年功序列では、勤続年数という公平で明確な要素を基準とするため、評価を行いやすい点がメリットです。個別に詳細な評価項目を設定する必要がなく、人材評価に関わるコストの削減が期待できます。

明確な評価基準があれば、評価する人間が変わっても評価内容は変わりません。こうした公平性の担保も年功序列のメリットといえます。

人材育成がしやすくなる

年功序列型の企業では、ベテラン社員が豊富に在籍するケースが多く見られます。研修をはじめとする教育制度が充実しており、人材育成がしやすい点も年功序列の特徴です。

人材育成計画が軌道に乗り、若手社員が定着すれば、社内のノウハウも蓄積されます。教育投資を企業が負担するために若手社員の給料が低く、教育投資の必要性が薄い中堅以上の社員には上乗せした賃金を支払うという仕組みは、合理的といえるでしょう。

年功序列のデメリット

パソコン前で悩む女性

(出典) pixta.jp

年功序列にはいくつかのメリットがありますが、デメリットが存在するのも事実です。次に、デメリットを3点を見ていきます。

若手社員のモチベーション低下につながる

勤続年数を昇給の基準とする年功序列型の組織では、努力や成果が評価につながりにくい側面があります。この状況が若手のモチベーション低下や不公平感に影響するのがデメリットです。

年功序列の仕組みの中では、成果を出さなくても一定の給与は得られます。何も必要以上に努力しなくてもよいと考える人もいるかもしれません。こうした社風が根付くと、イノベーションが起こらず、企業における競争力の低下を招きます。

能力ある人材が集まらない可能性がある

勤続年数に応じた給与水準を採用する企業に対して、能力がある若手は不満を抱きやすくなります。一定以上の成果を出せる人材は、自身をより評価する組織を選ぶためです。

年功序列型の評価制度には、人材の流出や意欲低下を招くリスクが潜んでいます。

人件費が高騰する

年功序列では、勤続年数に応じた昇給が約束されています。したがって、社員の年齢層が上がれば、人件費も高騰します。

企業は、事業が成長しているかどうかに関係なく、年配の社員に高い給料を支払わなければなりません。万が一、業績が悪化しても、高齢社員の給料を安易に下げるわけにはいかない仕組みといえます。

年功序列と成果主義の違い

オフィスで会議をする男女

(出典) pixta.jp

近年、年功序列に代わって広まりつつあるのが成果主義と呼ばれる評価制度です。ここからは年功序列と成果主義を比較し、移行しつつある理由について解説します。

年功序列と成果主義比較表

成果主義とは、勤続年数や年齢に関係なく、取り組む仕事の内容や出した成果、責任の大きさに応じて給料を決める仕組みです。

成果主義はバブル崩壊後に注目されるようになった制度です。それまでの高度経済成長期のように、勤続年数に応じて安定した給料を支払う見通しが立たなくなったためといわれています。

以下に示すのは、年功序列と成果主義を簡潔に比較した表です。

  年功序列 成果主義
評価の基準 ・勤続年数・年齢 ・取り組む仕事の内容・仕事の成果
定着率 向上が見込める 低下のリスクがある
基準の透明性 明確で、公平性がある 不透明になる恐れがある
人件費 高騰する場合がある 業績による分配が容易
社員の意欲 若手の意欲低下が懸念される 短期的な意欲向上が見込める
競争力 低下が懸念される 強化が見込める
人事評価コスト 一律の基準があるため、負荷が小さい 個別の評価を行うため、負荷が大きい
社員同士の連携 取りやすい 協調性が育たない可能性がある

この表から読み取れるように、どちらか一方があらゆる面で優れているわけではありません。

成果主義は仕事内容に応じて給料が支払われるため、社員のモチベーション向上につながるのは確かです。しかし、より高い評価・報酬を求めた人材の流動化を招き、定着率を下げるリスクもあります。

年功序列から成果主義に移行しつつある理由

成果主義はバブル崩壊の時代に注目され始めた制度です。日本経済の低迷により、人件費が年々膨れ上がる年功序列の維持は現実的ではありませんでした。

また、働き方の多様化が浸透しつつある現代においては、従来の年功序列がなじまないのも事実です。時代の変化にマッチした優秀な人材を確保するために、成果主義に移行する流れが広がっています。

年功序列を維持するには

研修を受ける社員たち

(出典) pixta.jp

成果主義は必ずしも年功序列より優れているわけではありません。例えば、人材定着を目指したい企業であれば、年功序列の維持も視野に入ります。ここからは、年功序列を適切に維持するための施策を2点紹介します。

賃金格差を是正する

年功序列は、同じ仕事に取り組んで同じ成果を出しても、若手社員より中堅社員がもらう給料が多いという仕組みです。勤続年数という一律の評価には高い透明性があるものの、評価基準における業績の割合を見直してもよいでしょう。

年功序列を維持するには、成果を出しても昇給がなく若手社員の労働意欲が低下するという状況をなくす取り組みが必要です。

人材育成に注力する

年功序列を維持するのであれば、人材育成に注力しましょう。社員が安定してノウハウを蓄積する点は、年功序列の強みです。既存社員の生産性向上やスキルアップに生かせば、社員の向上心やモチベーションの維持につながります。

スキルアップの推奨は、長く在籍すれば昇給が期待できるというマンネリ化した社内風土の抑止力にもなるでしょう。

年功序列から成果主義に移行するには

デスクで手を組む二人

(出典) pixta.jp

続いて、年功序列から成果主義に移行する場合を見ていきます。競争力を高め、社内イノベーションを起こしたいといった将来像があれば、成果主義への移行も選択肢です。ここでは、移行のポイントを2点紹介します。

明確な評価基準を設定する

成果主義の評価基準は、仕事内容や成果の大きさなど、多くが定性的なものです。これらの基準が年功序列的なままだと、かえってモチベーションが低下します。

客観的で計測可能な指標を定義づけ、基準を明確にしなければ、社員の不満を招きます。誰が評価しても内容が変わらない評価基準の設定が重要です。給与についても、具体的な評価項目や数値を決めておきましょう。

段階的に移行する

移行するといっても、いきなり完全な成果主義にする必要はありません。混乱を避けるためにも、社風にマッチした度合いで段階的に成果主義を導入するのが基本です。移行の際は、社員が納得できるように十分な説明をしましょう。

制度の変化は社員1人1人の将来設計に関わる重要な問題です。年功序列の仕組みを残しつつ、少しずつ移行するとよいでしょう。

自社に適した評価制度の導入を

オフィスでの会議

(出典) pixta.jp

年功序列と成果主義は、どちらか一方がより優れていると断言できるものではありません。年功序列が時代になじまなくなりつつあるのは事実ですが、定着率の向上や社員同士の連携の取りやすさといった点は、成果主義に足りない側面でもあります。

年功序列と成果主義という二項対立で考えるのではなく、それぞれの要素を自社にマッチした割合で取り入れるとよいでしょう。