客先常駐はどんな働き方?メリット・デメリット、キャリアパスも解説

ITエンジニアの働き方の1つに「客先常駐」というものがあります。雇用されている企業ではなく、顧客の企業のオフィスに常駐して業務を進める勤務形態です。

企業におけるITエンジニアに対する需要の高まりとともに、注目が高まっている働き方ですが、メリットもあればデメリットもあります。客先常駐の特徴を把握し、多角的に分析すれば、働き方を見直す上で役に立つでしょう。

この記事のポイント

・客先常駐とはどのような働き方?
客先常駐は所属する会社の指示によって顧客企業に派遣され、一定期間その場所で業務を進める働き方です。
・客先常駐のメリットは?
客先常駐には「顧客との関係を築きやすい」「多様な経験を積める」「残業が少ない傾向がある」といったメリットがあります。
・客先常駐のデメリットは?
客先常駐には「上流工程のスキルが身に付きにくい」「モチベーションを保ちづらい」「人間関係がストレスになる可能性」といったデメリットがあります。

客先常駐という働き方とは?

エンジニアの男性

(出典) pixta.jp

客先常駐は、ITエンジニアのキャリア形成における重要な選択肢になりつつあります。

契約形態や指揮命令権など、客先常駐の全体像を把握しておけば、キャリアプランを考える上で役に立つでしょう。客先常駐の意味や働き方の特徴について詳しく解説します。

客先常駐の意味と基本的な仕組み

客先常駐とは、顧客である企業に常駐して業務を進める働き方のことです。ITエンジニア・コンサルタント・税理士など多様な職種で見られますが、中でもITエンジニアでは多く採用されています。

ITエンジニアに客先常駐が多い理由は、主に3つあります。まずは「顧客環境への適合」です。システム構築時には、顧客の環境に合わせて作業する必要があります。このためエンジニアが現場にいる方が、効率的に業務を進められます。

2つ目は「セキュリティ保護」です。機密情報を含む企業システムに関する業務は、社内でのみ行うことで、情報漏れのリスクを軽減できます。3つ目は「スキルと親和性」です。エンジニアが客先に常駐することで、開発環境やトラブル対応など、顧客ニーズに応じた技術を提供できます。

客先常駐の3種類の契約形態

客先常駐における契約形態には、請負契約・SES(システムエンジニアリングサービス)契約・派遣契約の3つがあり、それぞれ指揮命令権の所在や報酬の対象が異なります。

請負契約は仕事の完成を約束する契約で、成果物に対して報酬が支払われる形態です。プロジェクトの進め方に関しては受注側に裁量があり、顧客からの直接的な指揮命令はありません。

SES(システムエンジニアリングサービス)とは、顧客企業のプロジェクトを進めるために、期間を決めてエンジニアの労働を提供する形態です。

SES契約は準委任契約であり、労働力の提供を目的とし、報酬は労働時間に対して支払われます。客先での作業ではあるものの、指揮命令権はSES企業にあるのが特徴です。顧客企業は直接指示を出せず、これを行うと偽装請負として違法行為に該当する可能性があります。

派遣契約も労働力の提供を目的としますが、指揮命令権は派遣先の企業にあります。報酬は労働時間に対して支払われ、指揮命令系統が客先にある点がSES契約との大きな違いです。

客先常駐と他の働き方の比較

話し合うビジネスパーソン

(出典) pixta.jp

客先常駐と他のITエンジニアの働き方を比較することで、その特徴をより明確に理解できます。自社開発・受託開発・社内SEなど、ITエンジニアの働き方にはそれぞれ独自の特徴があり、メリット・デメリットも異なります。

環境や役割・責任範囲・契約形態など、さまざまな観点から働き方の違いを見ていきましょう。

自社開発との違い

客先常駐と自社開発では、ITエンジニアとしてのキャリアパスや責任範囲が大きく異なります。客先常駐では、顧客企業に常駐してシステム開発や運用・保守などの業務を行いますが、成果物の完成ではなく「労働の対価」として報酬を得る形態が基本です。

環境の変化が多く、案件ごとに職場環境や業務内容が変わるため、多様な経験を積める反面、特定分野のスキルを深く磨きにくいという特徴があります。

一方で自社開発では、システムの企画から運用・保守まで一貫して自社内で担当します。同じ環境で長期的に働くため、特定分野の専門性を高められるのが利点です。

大きなプロジェクトに携わる機会も多く、プロジェクトリーダーやマネージャーなど上流工程の経験を積みやすい環境といえます。

受託開発との違い

客先常駐と受託開発は、プロジェクトへの関与度合いが相違点です。

客先常駐の場合、エンジニアは顧客企業のオフィスで、チームの一員として日々の業務に取り組みます。このため顧客先の責任者やチームメンバーとの密なコミュニケーションが必要です。

受託開発では、自社内でプロジェクトを進行させるのが基本で、成果物の完成に対して責任を負います。要件定義から納品まで、自社の裁量でプロジェクトを進められる自由度があるでしょう。

顧客とのやりとりは、定期的な進捗報告や要件確認の場面に限定されるケースが多いと考えられます。

契約形態も異なり、客先常駐は主に「準委任契約」で労働時間に対して報酬が発生するのに対し、受託開発は「請負契約」で成果物に対して報酬が支払われるのが特徴です。

このため、受託開発ではより高い専門性や責任が求められる一方、客先常駐では顧客環境への適応力が重視されるでしょう。

社内SEとの違い

客先常駐と社内SEは、業務を遂行する場所や役割に明確な違いがあります。客先常駐エンジニアは顧客企業のオフィスで働き、案件ごとに環境が変わるため、多様な技術や業務に触れる機会があるでしょう。

社内SEは自社内の情報システム部門などに所属し、社内システムの企画から運用・保守までを一貫して担当します。

業務内容も大きく異なり、社内SEはシステムの予算管理、企画・導入、開発、運用・保守、社内ヘルプデスクまで幅広く担当するのが特徴です。客先常駐は、特定のプロジェクトや工程に特化して作業するケースが多い点が異なります。

キャリア面では、社内SEは1つのシステムを長期的に管理できるため専門性を高めやすく、平均年収も客先常駐より高い傾向にあります。また経営層との直接的なコミュニケーションの機会も多く、キャリアアップの道筋が明確です。

客先常駐のメリット

オフィスで働く女性

(出典) pixta.jp

ITエンジニアの仕事をしていると、「客先常駐は大変」「やめたほうがいい」といった意見を耳にした経験があるかもしれません。しかし、客先常駐にも良い面はあります。客先常駐で得られるメリットを確認しましょう。

顧客との関係を築きやすい

客先常駐のメリットは、顧客と密なコミュニケーションが取れる点です。ITエンジニアの仕事では、顧客への小まめな確認や相談が欠かせません。

受託開発の場合、メールやチャット、電話でのやりとりが中心となるため、コミュニケーションの齟齬(そご)が起きやすいといえます。

一方の客先常駐はすぐに顧客と話せる立場にあり、相手の表情や身ぶりから多くの情報が得られます。日常的に顧客と顔を合わせ、確認や相談をスムーズに済ませられるのは、客先常駐の長所といえるでしょう。

さまざまな経験を積める

客先常駐の2つ目のメリットは、さまざまな企業で働ける点です。受託開発や社内SEなどの場合、職場は所属する企業のオフィスに限られます。転職しなければ、何年も同じ環境で働き続ける可能性もあるでしょう。

客先常駐は自社と異なる企業で働くのが基本で、さらに半年から1年という短いスパンで職場が変わります。このためさまざまな環境で、多種多様な経験が積めるのです。

数々の現場を渡り歩いて得た経験は、社会人としての視野の拡大につながります。自分に合った職場環境や仕事内容が分かってくるので、転職をする際にも、快適な職場を選びやすくなるでしょう。

残業が少ない傾向にある

客先常駐のメリットの3つ目は、残業を頼まれる機会が少ない点です。客先常駐は決まった時間だけ働く形態が多く、働いた時間に応じて報酬が決まります。

もし残業が発生すれば、出向先の顧客企業は超過した分の給料を支払わなくてはなりません。顧客企業は、客先常駐を契約する際にあらかじめ予算を設定しています。予算を超えては困るため、顧客企業は客先常駐のスタッフに残業をあまり依頼しないというのが実情です。

ただし、まったく残業がないわけではありません。プロジェクトの進行が遅れている場合などには、客先常駐のスタッフにも残業が求められるケースはあるでしょう。

客先常駐のデメリット

頭を抱える女性

(出典) pixta.jp

苦労が多いとの指摘が目立つ客先常駐ですが、具体的にはどのような点がデメリットとされているのでしょうか?悪い面を改めて確認することで、働き方の実像が見えてきます。

上流工程のスキルが身に付きにくい

客先常駐のデメリットは、マネジメントや設計など上流工程に関わるスキルや知識が身に付きにくい点です。

客先常駐の仕事は下流工程が中心で、上流工程に携わるITエンジニアに求められる提案力・設計力・マネジメント力などを鍛えるのは容易ではありません。

また客先常駐は、半年から1年というスパンで次の職場へと移るのが一般的です。常駐先が変われば作業内容も大きく変化するため、1つの仕事にじっくり腰を据えて挑む経験ができません。仕事を進める中で上流工程のスキルを磨きたい人には、適さない働き方といえます。

モチベーションを保ちづらい

客先常駐のデメリットの2つ目は、やる気を維持するのが難しい点です。やる気を削ぐ原因の1つに、評価してくれる上司が常駐先にいないことが挙げられます。

客先常駐として顧客企業で働いているにもかかわらず、人事評価を担当する上司は自社にいるので、現場には自分のがんばりを直接評価してくれる人はいません。評価される機会が少なければ、仕事に対する張り合いがなくなってしまうでしょう。

自社への帰属意識の欠如も、やる気が低下する要因の1つです。客先常駐により帰属意識が薄れ、「自社に貢献しよう」という意気込みがなくなると、モチベーションを保ちにくくなると考えられます。

人間関係がストレスになる可能性

客先常駐のデメリットとして、常駐先での人間関係が強いストレスになり得る点も挙げられます。

常駐先では、一緒に働く人は同僚ではなく顧客です。顧客相手にフランクな態度で接するのは難しいため、働いている間は常に周りに気を使う必要があります。自社にいる同僚に対するように、気さくにあいさつや会話を交わすのは困難でしょう。

他人行儀なコミュニケーションを常としている人は、それほど苦痛を感じないかもしれませんが、友人同士のような関係性で同僚と接したい人にとっては、ストレスを感じやすい環境といえます。

客先常駐に向いている人とは

打ち合わせをするビジネスパーソン

(出典) pixta.jp

客先常駐に向いている人の特徴を2つ紹介します。当てはまる人は、客先常駐に挑戦してみると、実りある実績や大きな成功が得られるかもしれません。

コミュニケーション能力が高い人

初対面の人とやりとりをする機会が多い客先常駐には、コミュニケーション力に長けている人が向いています。

短いスパンで働く現場が変わる客先常駐では、初めて会った人とコミュニケーションを取る場面が数多く訪れます。初対面の人と話すたびに緊張し、スムーズにやりとりできないようでは、業務を円滑に進められないでしょう。

コミュニケーション力の高さは、顧客企業の社員に囲まれて仕事をする状況においても力を発揮します。自分の立場をわきまえた的確な対応ができるので、常駐先でも角が立ちにくいでしょう。

現場での経験を積みたい人

客先常駐は、現場に出て多くの経験を積みたいエンジニア初心者に向いています。客先常駐の現場は人手不足の傾向にあり、業界未経験者もチャレンジしやすいでしょう。

また客先常駐は、特色の異なる企業を渡り歩くことで、さまざまな経験が積める働き方です。ITエンジニアとしての経験が浅い人にとっては、自らの可能性を広げるための足がかりになり得ます。

常駐先で得た経験をもとにキャリアアップしていけば、将来的に大きく飛躍することも夢ではありません。

客先常駐のキャリアパス

在宅ワーク中の男性

(出典) pixta.jp

客先常駐の仕事にチャレンジするなら、将来的なキャリアパスまで頭に入れておくと役に立つでしょう。キャリアを選択する場面において、将来の見通しは重要な意味を持ちます。客先常駐の2つのキャリアパスを確認しましょう。

企画・開発を担当する自社SE

客先常駐のキャリアパスとしてオーソドックスなのが、自社開発を行っている企業に転職し、システムを開発する側に回ることです。

保守や運用の仕事が多くなりがちな客先常駐の業務と違い、クリエイティビティを発揮できる企画や開発に関わる業務は、やりがいの大きな仕事といえるでしょう。ITエンジニアという仕事の醍醐味を体感できるはずです。

自社SEであれば、顧客企業に常駐する必要もないので、のびのびと働けます。客先での人間関係に悩んでいる人にとっては、魅力的な働き方といえるでしょう。

職場の環境が頻繁に変わる可能性もないため、1つの仕事にじっくりと取り組みたい人にもぴったりです。

フリーランスとして独立

独立も、客先常駐から考えられるキャリアパスの1つです。客先常駐とフリーランスエンジニアの働き方はよく似ているため、スムーズにキャリアチェンジができるでしょう。

多くの顧客企業を転々とする客先常駐を続けていると、自然と人脈が広がっていきます。その人脈を武器に独立すれば、仕事に困らないフリーランスとして活躍できるでしょう。

フリーランスエンジニアの魅力は、自分で請け負う仕事を選べる点です。客先常駐を続けていると、自分がストレスなくできる仕事がどのようなものなのか、特徴が分かってくるはずです。

経験を生かし、自分に合う仕事を受注すれば、会社員時代よりも個性に合った働き方を実現できます。

客先常駐という働き方について把握しよう

パソコン操作をするビジネスパーソン

(出典) pixta.jp

「大変」「苦労が多い」「やめとけ」といわれるケースも多い客先常駐ですが、他の働き方との違いや、メリット・デメリットを正しく知れば、その実像が見えてきます。

客先常駐への理解をより深めるために、実際の求人情報を見るのもおすすめです。求人情報を分析すれば、どのような働き方を実現できるのかをイメージしやすくなります。

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