年収と所得の違いは何?両者の違いを特に意識したいシーンとは

似たような意味を持つように思われる「年収」と「所得」には、はっきりとした違いがあります。社会人として仕事をするなら、両者の違いを知っておかないと損をしてしまうかもしれません。年収と所得の違いを知って、お金に関する知識を深めましょう。

年収と所得の違い

給料と通帳と電卓

(出典) pixta.jp

労働の対価として受け取るお金を表す言葉には、さまざまな種類があります。年収と所得もその1つです。社会人なら正しく理解しておきたい、年収と所得の違いについて解説します。

年収の定義

年収とは、1月1日から12月31日までの1年間に、勤務先の企業から支払われた総支給額のことです。所得税・住民税・社会保険料などが引かれる前の金額を表します。

ボーナスや時間外手当・家族手当・役職手当などの手当が支給されている場合には、これらの額も含めた総支給額が年収です。

なお年収と収入は、同義語として位置づけられています。税制上で総支給額を表す際には、年収ではなく収入という言葉を用います。税金の計算をする場面では、年収は収入と呼ばれるため、正しく使い分けましょう。

所得の定義

所得とは、年収から必要経費を引いた金額を指します。会社員やパートタイマーが受け取る給与所得の場合、給与等の収入金額(給与所得の源泉徴収票の支払金額)から「給与所得控除額」を差し引いた後の金額が所得です。

給与所得控除とは、給与所得者が受けられる控除のことです。55万円~195万円の幅があり、給与所得控除額に基づいて算出されます。例えば収入金額(年収)が162万5,001円~180万円の場合、控除額は「収入金額×40%−10万円」です。

所得税や住民税は所得の額に応じて算出されるため、税金を計算する場面では所得の額を正しく把握している必要があります。

参考:No.1410 給与所得控除|国税庁

手取りとは?

手取りとは、自分が実際に受け取る金額を指します。会社から支給されるすべてのお金から、所得税・住民税・社会保険料などを引いた金額が手取りです。

税金や保険料は、家族構成や年齢など個々人の属性によって変化するため、年収が同じでも手取り金額は異なります。そのため、年収から正確な手取り額を算出するのは困難です。

ただし、おおよその手取り額は年収から予測できます。手取り額の目安は以下の通りです。

  • 年収1,000万円以下:年収の70~80%
  • 年収1,000万円超2,000万円以下:年収の60~70%
  • 年収2,000万円超:年収の50~60%

例えば年収が600万円の場合には、手取りは420万~480万円と推察できます。

年収と所得を厳密に分ける必要がある場面

確定申告書類

(出典) pixta.jp

日常生活においては、年収と所得の違いに注目する場面はそれほど多くありません。しかし、両者を明確に区別しなければならない場面で混同してしまうと、思いもよらないトラブルに見舞われる可能性があります。年収と所得を区別すべき場面を紹介します。

確定申告や年末調整をするとき

確定申告や年末調整に関する書類を作成する際には、年収と所得の違いに敏感になる必要があります。

確定申告では、収入(年収)と所得をそれぞれ記入します。所得を書くべきところに年収を書いてしまうと、実際よりも多くの所得税を払わなくてはいけなくなったり、本来なら受けられるはずの控除が受けられなくなったりする弊害が生じるでしょう。

年末調整においては、収入金額と所得金額それぞれを記入する欄がある「基礎控除申告書」を作成する際に注意が必要です。申告書の裏面に記載されている計算式を使って所得を計算し、正しい額を記載するようにしましょう。

奨学金を利用するとき

奨学金の審査においては、年収と所得どちらも審査対象になり得るため、奨学金の利用を検討する場面でも、両者の違いに注意する必要があります。

利用を検討している奨学金がどちらを基準に審査をするのか把握しておかないと、審査をクリアできず奨学金を受けられなくなるかもしれません。

日本学生支援機構の場合には、給与所得者か給与所得以外の所得を得ている人かにより、基準が異なります。給与所得者の場合は給与収入が審査対象、給与所得以外の所得がある人については合計所得金額が審査対象です。

参考:収入・所得を確認する際の注意点 | JASSO

ローンを組むとき

場合によっては、ローンを組む際にも、年収と所得の違いを意識する必要があります。ローンを組む際に提出を求められるケースが多いのが、源泉徴収票です。

源泉徴収票には支払金額と所得がどちらも記載されているので、源泉徴収票の提出を求められた場合は、年収と所得の違いを意識しなくても、ローンを組む手続きができます。

ただしカーローンやカードローンなど、借入額などによっては証明書の提出が不要なローンの場合、年収と所得どちらかの金額を自己申告するケースがあります。正しい方を申告しないと、組めるはずのローンが組めなくなる可能性があるため注意が必要です。

年収の壁と所得の関係

給料袋と給与明細

(出典) pixta.jp

社会人として働いているなら、「年収の壁」という言葉を耳にした経験があるかもしれません。年収の壁の中には、所得額が大きく関係しているものがあります。社会人なら知っておきたい、年収の壁と所得の関係について確認しましょう。

年収の壁とは

税金の納付額が増えたり、社会保険料の支払いが発生したりする年収が、年収の壁です。税金については「100万円の壁」「103万円の壁」「150万円の壁」「201万円の壁」が、社会保険については「106万円の壁」「130万円の壁」があります。

例えば103万円の壁は、所得税の課税が始まる年収のラインです。年収が103万円以下の場合、給与所得控除55万円を引いた所得から、所得控除である基礎控除48万円を差し引くと、課税所得が0円になります。

この額を年収で表すと103万円(55万円+48万円)になるため、所得税の課税が始まるラインを103万円の壁と表現するのです。

参考:No.1800 パート収入はいくらまで所得税がかからないか|国税庁

配偶者控除・配偶者特別控除と所得要件

所得と深い関係があるのが、配偶者控除と配偶者特別控除です。配偶者特別控除は150万円の壁の根拠となっています。

配偶者控除とは、控除対象配偶者がいる場合に受けられる所得控除です。配偶者の年間合計所得が48万円以下、つまり年収に換算すると103万円(合計所得48万円+給与所得控除55万円)以下であれば、適用されます。

配偶者特別控除とは、控除対象配偶者に48万円を超える所得があった場合に受けられる所得控除です。配偶者の年間合計所得が48万円超133万円以下の場合に適用されます。

配偶者特別控除は、配偶者の所得が95万円超、つまり年収換算で150万円(合計所得95万円+給与所得控除55万円)を超えると控除額の減額が始まります。これがいわゆる150万円の壁です。

参考:
No.1191 配偶者控除|国税庁
No.1195 配偶者特別控除|国税庁

年収と所得のチェック方法

電卓で計算する

(出典) pixta.jp

年収と所得の違いを知っていても、実際の自分の年収額・所得額が分からなければ意味がありません。年収を調べる方法と所得を算出する方法を紹介します。自分の年収や所得が分からない人は、これを機会にチェックしてみるとよいでしょう。

年収を調べる方法

年収を確かめる手段として最も手軽かつ確実なのが、源泉徴収票をチェックする方法です。源泉徴収票とは、1年間に得た収入と自分が納めた税金などの額が記載された書類を指します。源泉徴収票の「支払金額」の欄に書かれている金額が年収です。

源泉徴収票を紛失してしまった場合は、給与明細と賞与明細をチェックしましょう。給与明細・賞与明細それぞれの「総支給額」に記入されている金額を、1年分合計した金額がおおよその年収です。

給与明細や賞与明細も手元にないという人は、役所に出向いて所得証明書を発行してもらいましょう。所得証明書とは、市区町村が発行する所得額が記載されている書類です。これを確認すれば正確な年収が分かります。

所得を計算する方法

所得は、総支給額(年収)から給与所得控除を差し引くことで求められます。所得を求める際に差し引く給与所得控除の額は、以下の通りです。

  • 162万5,000円まで:55万円
  • 162万5,001円から180万円まで:収入金額×40%-10万円
  • 180万1円から360万円まで:収入金額×30%+8万円
  • 360万1円から660万円まで:収入金額×20%+44万円
  • 660万1円から850万円まで:収入金額×10%+110万円
  • 850万1円以上:195万円(上限)

例えば年収が600万円だった場合、給与所得控除額は600万円×20%+44万円で164万円です。これにより、給与所得額は600万円-164万円=436万円と計算できます。

年収と所得はしっかり区別しよう

確定申告作業

(出典) pixta.jp

年収とは勤務先から支払われる総支給額を指します。税金や社会保険料が差し引かれる前の金額です。

これに対して所得は、総支給額から給与所得控除を差し引いた後の金額です。所得税や住民税を計算する場面では、所得の額を元に納めるべき税金を割り出します。

年収と所得は表すものが明確に異なります。そのため両者を混同していると、予想外のトラブルに見舞われる可能性があるため注意が必要です。社会人として生計を立てて収入を得ているなら、両者の違いについてしっかり確認しておきましょう。