2025年からの制度改正により、税制上の扶養から外れてしまう年収額が103万円から123万円へと変更となりました。
家族の扶養に入りながらアルバイトで働いている場合は、年収123万円の壁に注意する必要があります。年収と扶養の関係や扶養内で働くメリット・デメリットを解説します。
123万円と扶養の関係
年収123万円は、税制上の扶養に入れるかどうかのボーダーラインです。家族に影響を与えるだけでなく、自分に納税の義務が発生する点にも注意しましょう。
所得税がかかるようになる
給与所得者の所得からは、給与所得控除65万円と基礎控除58万円が差し引かれます。所得税は控除後の所得に課されるため、合計所得が123万円以下であれば、65万円+58万円=123万円となり、所得税は発生しません。
アルバイトによる年収が123万円を超えると、控除を引いた後にも所得が残ることになり、所得税の納税義務が発生してしまうのです。
所得税の税額は、「課税される所得金額×税率−控除額」で計算できます。例えば、年収が125万円の場合、所得税の税額は以下のように算出が可能です。
(125万円−123万円)×5%−0円=1,000円
税率や控除額は、国税庁のWebサイトで確認しましょう。
扶養する側は控除が適用されなくなる
親の扶養に入っている場合、アルバイトによる自分の年収が123万円以下なら、親に扶養控除が適用されます。親の所得から扶養控除分が差し引かれるため、親の税負担が軽減されるのです。
一方、自分の年収が123万円を超えると、親の扶養控除は適用されなくなります。親の所得が増えることに伴い、親が負担する所得税や住民税も増えてしまうのです。
自分の年収が123万円を超えた場合、自分に税負担が発生する上、親の税負担も重くなる点に注意しましょう。
(ただし、年齢が19歳以上23歳未満の「特定扶養親族」の場合は、年収188万円まで親が段階的に控除を受けられる新しい制度ができています。)
参考:家族と税|国税庁
扶養内で働くメリット
家族の扶養に入ることで、税金や社会保険料の負担がなくなる、あるいは軽減される場合があります。自身の給料の手取り額が増えやすい点や、扶養している側の節税につながる点がメリットです。
税金・社会保険料の負担が軽減される
扶養には「税制上の扶養」と「社会保険上の扶養」の2種類があり、それぞれ基準が異なります。
「社会保険上の扶養」に入ると、自分自身で健康保険料や年金保険料を支払う必要がなくなります。
社会保険上の扶養とは、主に世帯主が加入している健康保険や厚生年金の被扶養者になることです。アルバイトの場合は、親や配偶者の扶養に入るケースが多いでしょう。
社会保険の扶養に入ると、保険料の負担なく健康保険証が使え(医療費の自己負担3割)、将来の国民年金(基礎年金)の納付期間として認められる点が大きなメリットです。
ただし、社会保険の扶養には年収の壁があり、一般的に年収130万円がボーダーラインです。また、勤務先の従業員数や労働時間によっては年収106万円で会社の社会保険への加入が義務付けられ、扶養から外れる場合があります。
なお、家族と同居していなくても、一定の条件を満たせば社会保険上の扶養に入れます。
働いた給料の手取り額が増えやすい
扶養に入らずに働く場合、毎月の給与から所得税や住民税、社会保険料が天引きされます。
一方、扶養の範囲内で働く場合、これらの負担がないか、あっても少額なため、働いた分が手取りになりやすいのがメリットです。
特に注意したいのが社会保険の壁です。例えば、年収が123万円を超えて所得税が発生しても、税額は緩やかにしか増えません。しかし、106万円や130万円の壁を超えて社会保険上の扶養から外れると、毎月数万円の社会保険料が引かれ、一時的に手取り額が大きく減ってしまう「働き損」の状態になることがあります。
扶養している側も節税につながる
扶養内で働くことで、扶養している側(親など)の税負担が軽くなる点も重要です。
あなたの年間給与収入が123万円以下の場合、扶養者は「扶養控除」を適用でき、所得税や住民税が安くなります。扶養控除が適用されれば扶養者の手取りが増え、会社によっては扶養手当が支給されることもあります。
生計を同じくする家族の収入を増やすことは、結果として自分の生活を助けることにも繋がります。
123万円を超えて働きたいと考えるなら、まずは家族とよく話し合うことが大切です。扶養から外れることで家族全体の手取り収入がどう変化するのかをシミュレーションし、働き方を慎重に検討する必要があります。
扶養内で働くデメリット
扶養内で働き続けることには、メリットだけでなくデメリットもあります。どのようなリスクがあるのかを知り、今後の働き方を検討することが重要です。
収入の上限が決まってしまう
扶養内で仕事を続けようと考えると、どうしても収入の上限を意識する必要があります。特に税制上の扶養を意識する場合、年間給与収入を123万円以下に、社会保険の扶養を意識する場合は130万円(※)以下に抑える必要があるためです。 (※勤務先の条件によっては年収106万円以上で社会保険への加入義務が生じます)
現状の収入に満足していなくても、これらの「年収の壁」がある限り、際限なく働いて給料を上げることはできません。収入を増やしたい場合、壁を大きく超えて稼がなければ、新たに発生する税金や社会保険料の負担で、かえって手取りが減ってしまう「働き損」になる可能性があります。
また、扶養内での勤務を続けることが、ご自身の長期的なキャリア形成に必ずしもポジティブな影響を与えるとは限らない点にも注意が必要です。年齢が上がるにつれて、正社員などへのキャリアチェンジが難しくなる傾向もあります。
勤務先が見つかりにくいケースも
扶養内で働く以上、シフトに入れる時間や日数が制限されます。そのため、「もっとたくさんシフトに入ってほしい」と考えている会社では、採用されにくいケースが考えられます。
特定の仕事に就きたいという希望があっても、労働時間に自分で制限を設けなければならないため、希望がかなえられない状況も多いでしょう。
例えば、税制上の扶養である年収123万円を意識する場合、毎月の平均収入を約10万2,000円に抑える必要があります。アルバイトを探す際は、この金額を超えないようにシフトを組める勤務先に選択肢が限られてしまいます。
123万円以外の「壁」とは?
年収の壁には、123万円以外にも98万円・106万円・130万円の壁があります。それぞれでどのような制限がかかるのか確認しましょう。
98万円の壁
収入の少ないアルバイトが稼ぎを増やしていく過程で最初にぶつかる壁は、年収が100万円弱に達した時です。自分の収入に対して住民税がかかるようになります。
所得税は年収123万円を超えると発生するため、収入を増やしていくと住民税の方が先に課されることになるのです。
年収いくらから住民税が発生するのかは、住んでいる自治体により異なります。収入が90万円台に達した段階で、住民税がかかることを意識する必要があるでしょう。
住民税が発生する具体的なボーダーラインを知りたい場合は、住んでいる自治体に直接確認するのがおすすめです。
106万円の壁
年収が106万円に達した場合、以下の要件をすべて満たすと社会保険(健康保険・厚生年金)への加入義務が発生し、社会保険上の扶養から外れます。
- 従業員数が51人以上の企業で働いている
- 週20時間以上働いている(残業を除く)
- 2カ月以上の雇用期間が見込まれる
- 賃金が月額8万8,000円以上(手当・賞与を除く)
- 学生ではない
上記の条件をすべて満たすと、年収が106万円以上になった時点で、社会保険料を自身で支払う必要があります。
参考:動画・チラシ・ガイドブック | 社会保険適用拡大 特設サイト|厚生労働省
130万円の壁
年収が130万円以上になると、無条件で社会保険上の扶養から外れます。上記の「106万円の壁」の条件を満たさない場合でも、原則、社会保険への加入が必要となります。
社会保険上の扶養から外れた場合は、勤務先の健康保険・厚生年金に加入するか、自分で国民健康保険と国民年金に加入するかを選択しなければなりません。
勤務先の健康保険や厚生年金に加入すれば、年金の上乗せ分が発生するため、老後にもらえる年金が増えます。障害厚生年金が支給される点や、保険料の負担が会社と折半になる点もメリットです。
一方で社会保険上の扶養から外れると、社会保険料の控除分により手取りが一気に減ります。扶養内で働くかどうかを考える際、年収130万円は大きな壁になるでしょう。
扶養内で効率的に働くコツは?
どうしても家族の扶養に入りながら働きたい場合は、効率的に働くことを意識しましょう。扶養内で効率的に働くコツを紹介します。
勤務先に相談する
扶養内で仕事をしたい場合は、勤務先の理解を得ておきましょう。あらかじめ勤務先に扶養内で働きたいと伝えておくことで、仕事がやりやすくなります。
これからアルバイトを探すケースでも、応募の際に扶養内で仕事をしたい旨を伝えておく必要があります。急な出勤が無理であることを伝えておけば、働き始めた後に迷惑をかける心配もありません。
早くアルバイト先を決めたいからといって、扶養に入りながら働きたいことを黙っているのはNGです。面接の際には、マイナスの評価を受けそうなこともきちんと伝えなければなりません。
シフトをしっかり管理する
扶養内で効率的に働くためには、シフトと年収をきちんと管理することが重要です。まずはご自身がどの「年収の壁」を意識するのか(例:社会保険に加入しない130万円未満、所得税のかからない123万円未満など)を決め、その上限額をオーバーしないようにシフトを管理する必要があります。
掛け持ちでアルバイトをしている場合は、合算した収入で判断されるため、うっかり上限額を超えてしまう可能性があり特に注意が必要です。「働き損」にならないように、計算しながら掛け持ちをしましょう。
アルバイト先によっては、上限額を超えそうになった際に教えてもらえるケースもあるため、勤務先に相談しておくのがおすすめです。
交通費についても確認が必要
交通費は原則として非課税となるため、年収には含まれません。扶養内で働くことを意識する場合、通常は交通費まで考慮する必要はないでしょう。
ただし、交通費が時給に含まれているケースでは、勘違いにより123万円を超えてしまう事態もありえます。交通費として別途支払われるのか、時給や日給にあらかじめ上乗せされているのか、分かりにくい場合は確認しておきましょう。
なお、バスや電車などの公共交通機関を使っている場合、月当たりの交通費が15万円を超えると課税対象になります。
税金の制度を正しく理解して効率的に働こう
年収が123万円を超えると税制上の扶養から外れるため、自分の収入に所得税が課されるようになります。親など扶養する側の税負担が増してしまう点もポイントです。
年収が106万円や130万円に達すると、社会保険上の扶養からも外れます。年収の壁の仕組みを正しく理解し、効率的に働きましょう。