助産師は、出産を介助し、赤ちゃんを取り上げるのが主な仕事です。やりがいがあると同時に責任も重い仕事ですが、どのような人が向いているのでしょうか?向いている人・向いていない人の特徴や、助産師に必要な資質について紹介します。
助産師に向いている人の特徴は?
まずは、助産師にはどのような人が向いているのかを見ていきましょう。特徴を3つ挙げて紹介します。
人の世話をするのが好きな人
人を世話することが好きな人は、助産師に向いているといえます。助産師の仕事は、出産時に立ち会って胎児を取り上げることだけではありません。
出産前には妊婦の体調や食事内容を管理しながら、母乳指導・乳児指導なども行います。出産が始まってからも、無事に出産できるよう細かいケアが必要です。
出産後は妊婦だけでなく、新生児のケアも始まります。世話好きな人は、細かいところにまで配慮することが得意でもあるので、妊婦をしっかりサポートできるでしょう。
マッサージなどの身体的な接触も多いため、人とふれあって世話するのが苦手な人は、苦痛に感じるかもしれません。
心身ともに寄り添える人
思いやりのある人や、他人への共感力が高い人も助産師に向いているでしょう。出産を控えた妊婦は、さまざまな不安を抱えがちです。特に初めて出産する人は、自分の体の変化に気持ちが追いつかず、精神的に不安定になってしまうことも多くあります。
助産師は、そのような妊婦の気持ちに寄り添うことが大切です。どんなに小さな悩みにもしっかり耳を傾け、不安を取り除いてあげることが求められます。出産までの間に信頼関係を築く上でも、心身的なサポートは重要です。
出産を終えた後も、初めての育児に戸惑う人は少なくありません。出産前から出産後までを、トータルにサポートできる人が求められます。
コミュニケーション能力が高い人
助産師にとって、コミュニケーション能力は必須です。出産時には妊婦へ声をかけたり、励ましたりしながらサポートする必要があります。
自分から積極的にコミュニケーションを取りにいけるのはもちろん、妊婦が何でも相談できるよう、気軽に話しかけやすい雰囲気を作ることも大切です。
また、出産は医師・看護師とのチームワークの上で成り立っています。スタッフが連携して出産に取り組むためには、協調性・コミュニケーション能力は不可欠といってよいでしょう。日頃から、スタッフ間で円滑なコミュニケーションを取ることが必要です。
助産師に向かないのはどんな人?
助産師に向かないのは、どのような人なのでしょうか?向いていない人の特徴も見ていきましょう。
何でも1人で頑張ってしまう人
何でも1人でやろうと頑張ってしまう人は、助産師の仕事に向いていないでしょう。出産は、医師・看護師と連携しながらチームで取り組むものです。
さまざまな判断が求められる場面はあるものの、全てを1人で決めてしまうと、判断を間違えてしまう可能性もあります。
例えば、何かトラブルが起きたときは、医師とも連携して乗り越えなければなりません。責任感を持って取り組むことは大切ですが、1人で何もかも決めず、周りの看護師・先輩助産師などとも情報を共有して進めていくことが求められます。
優柔不断・決断力がない人
優柔不断な人・責任を取りたくないという人も、助産師には向いていないでしょう。出産は、順調に進むことばかりではありません。途中で何かトラブルが発生したときには、助産師の正しい判断が必要です。
出産は母子の命に関わるものなので、少しの判断の遅れ・ミスが、最悪な結果につながる恐れもあります。「自分の判断によって責任が発生する」ということばかりを考えてしまう人は、臨機応変かつ迅速な対応ができないでしょう。
正常分娩では、助産師がリーダーとして出産を介助します。正しく迅速に判断できる人でなければ、母子の命を預かる助産師の仕事は難しいでしょう。
気持ちの切り替えが苦手な人
つらいこと・悲しいことがあったときに、気持ちを引きずってしまう人も、助産師の仕事には向かないかもしれません。出産は喜ばしいことですが、必ずしも毎回無事に出産できるとは限らないからです。
中には、胎児が育たず妊娠を継続できなかったり、出産時にトラブルが起きて無事に出産できなかったりするケースもあります。そのような場面で、助産師が動揺してしまっては、妊婦にもその不安が伝わってしまうでしょう。
悲しい出産を経験した妊婦や、その家族と悲しみを共有することは重要ですが、助産師として仕事をするなら、気持ちを切り替えられる強さも必要です。
助産師に求められるもの
助産師には、出産に関するスキル以外に、責任感・倫理感やハードな勤務に耐えうる体力なども求められます。それぞれ詳しく見ていきましょう。
責任感・倫理感
助産師は、命の誕生に直接関わる重要な仕事です。正常分娩の場合、助産師は現場のリーダーとして出産に関わり、赤ちゃんを無事にこの世に誕生させる責任があります。
途中でトラブルが起こったときは、助産師の判断が胎児・母体の命を左右するといっても過言ではありません。困難な事態に出くわしたときも、最後までしっかり任務を遂行できる、強い責任感が備わっていることが重要です。
また、中には望まない妊娠をする人もいるでしょう。妊娠・出産は、女性にとってライフステージが大きく変化する出来事です。
高い倫理感を持った上で、出産に関する意思決定に関して、個人の考えを尊重しつつ支援できる視野の広さ・思いやりも求められます。
ハードな勤務に耐えうる体力
助産師には、長時間の勤務にも耐えられる体力も求められます。出産は妊婦だけでなく、助産師にとっても体力を消耗する出来事です。
出産の兆候が現れてから生まれるまで、時間がかかる場合がほとんどです。無事に生まれてくるまで、緊張感を保って取り組まなければならないため、基礎的な体力は不可欠といえます。
出産は24時間いつ始まるか予想が難しいだけでなく、複数人が重なって、長時間勤務になることもよくあります。夜中に呼び出しを受けたり、休日出勤したりすることも少なくありません。
助産師の主な仕事内容
保健師助産師看護師法では、以下のように定められています。
この法律において「助産師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、助産又は妊婦、じよく婦若しくは新生児の保健指導を行うことを業とする女子をいう。
つまり、1人の女性の産前から産後までをケアするのが、助産師の主な仕事です。また、女性のみが従事できる職業です。出産前・分娩時・出産後の、具体的な仕事内容を紹介します。
出典:保健師助産師看護師法 第1章 第3条 | e-Gov法令検索
出産前の生活指導や産前教育
出産前の妊婦に対しての主な仕事内容は、食生活・健康の指導です。妊娠すると妊婦の体重は増えていくものですが、必要以上に増加すると母体の健康・出産に悪影響を及ぼしてしまう可能性があります。
体重が増えすぎないように、食事・運動を指導するのは大切な仕事です。出産を控えて、不安・悩みを抱えている妊婦の相談に乗る場合もあります。
また妊婦や父親に対して、出産に関する基礎知識・親になる心構えなどの産前教育を行うのも、助産師の仕事です。
母子手帳の受け取り方や陣痛が来たときの対処法、妊娠中から出産後までの心身の変化・母子の状態などについて説明します。
分娩の介助
陣痛が始まったら、無事出産するまでをサポートします。病院・診療所での出産は、3人体制(医師1人・直接介助の助産師1人・赤ちゃんを受け取る助産師または看護師1人)で取り組むのが一般的です。
妊婦の希望があったときには、助産所や自宅で医療機関と連携を図りながら、出産に立ち会うケースもあります。正常分娩の場合、助産師が中心となって妊婦へ声をかけたり、腰をさすったりしながら出産を介助します。
母子の状態を観察しながら、呼吸法を促したり、場合によっては胎児の頭を押さえたりして、出産の進行をコントロールするのが助産師の役割です。万が一異常があったときには、医師に処置を引き継ぎ、助産師は補助に回ります。
産後の母子のケア
出産から約2カ月間の産褥期(さんじょくき)には、母体の体調管理や、母親になるためのサポートが主な仕事です。
出産を終えた女性の体が完全に回復するまでには、時間がかかります。母体に異常がないかを確認しながら、回復を支援するのが助産師の役割です。
また、産後すぐにスタートする育児に、不安を抱える人も少なくありません。授乳に関して指導したり、おむつの換え方・沐浴の方法など育児についてアドバイスしたりしながら、入院中から退院後の生活を支援します。
この他、新生児訪問や乳児健診などで、赤ちゃんに異常がないか観察するのも助産師の仕事です。
助産師のやりがいは?
助産師の仕事は、責任が重いからこそ大きなやりがいも得られるといってよいでしょう。助産師のやりがいを3つ挙げて紹介します。
命の誕生に立ち会える
妊娠中から見守っていた妊婦が出産し、命が誕生する瞬間に立ち会えることは大きな喜びといえるでしょう。出産は、女性にとって大きなライフイベントです。
人生の節目ともなる出産に立ち会い、新しい命を生み出すサポートをするのは、助産師にしかできない貴重な仕事です。赤ちゃんを直接取り上げる助産師に対しては、産婦人科医以上の信頼感を持っている妊婦も少なくないでしょう。
また、妊婦とともに力を合わせ、出産という大きな仕事を成し遂げた達成感も味わえます。無事に出産できたことを家族と共有する喜びは、次の仕事へのモチベーションにもつながるでしょう。
長く働くほど専門性が高まる
出産の専門職である助産師は、経験を積むほどに専門性も高まります。妊婦に安心感を与えられるのは、経験豊富な助産師です。そのため、ベテランになっても需要があるのも、助産師の特徴といえるでしょう。
病院によっては、定年を設けていないところも多くあります。長く働くほど経験が増え、妊婦から信頼される助産師になれるのは、仕事を続けていく上での大きなやりがいになるでしょう。長期的に活躍したい人にとっても、魅力的な仕事です。
他の看護職よりも給料が高い傾向にある
助産師は、他の看護職に比べると収入が高い傾向にあります。2022年の厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によると、助産師の平均年収は約584万円(※)でした。
看護師の平均年収は約508万円(※)だったので、比較すると年間約76万円も多いことになります。仕事をする上で、収入も大切なモチベーションアップの材料です。
助産師は命を預かる責任の重い仕事ですが、その役割に見合うだけの高収入を得られるのが魅力といえるでしょう。
※年収は、厚生労働省が毎年公表している「賃金構造基本統計調査」を元に、「きまって支給する現金給与額(企業規模計10人以上)」に12カ月を掛けた上で、「年間賞与その他特別給与額」を足して算出
向いている人の特徴を確認して助産師を目指そう
助産師は、新しい命の誕生に関わるやりがいのある仕事です。1人の女性を、妊娠中から出産後まで長期にわたってサポートするため、世話好きな人・コミュニケーション能力の優れた人が向いているといえます。
また、1日に複数の出産が重なることや、出産そのものが長期戦になる場合も多く、体力も必要とする仕事です。
助産師になるには、看護師免許に加えて助産師資格を取得する必要がありますが、その分収入も高くなり、長く活躍できるなどメリットも数多くあります。
向いている人の特徴に当てはまっていることが分かったら、助産師になることを検討してみてはいかがでしょうか。助産師の資格取得後は、求人検索エンジン「スタンバイ」で自分に合った職場を探すのがおすすめです。
助産師として1万件以上の出産に携わり、8千人以上の方を対象に産前・産後のセミナー講師を務める。海外での生活を機にバースコンサルタントを起ち上げ、現在「妊娠・出産・育児」関連のサービスの提供、アドバイスを行う。関連記事の執筆・監修、商品・サービスの監修、産院のコンサルタント、国・自治体の母子保健関連施策などに従事。
監修者のコメント
助産師は、妊娠・出産・産後、赤ちゃんの専門家ですが、女性の一生を支えるヘルスケアの専門家でもあります。性教育から更年期、老後にいたるまで、女性とその家族を支える包括的な知識が必要です。そのため、助産師になってからも常に新しい情報・知識をアップデートし、ケアや指導に反映させていかなければなりません。逆をいえば、常に自分を磨くことができる仕事ともいえるでしょう。生涯現役で働くことができる助産師、ぜひ多くの人に目指してほしいと思います。