コンサルティング業界の市場規模は拡大傾向にありますが、業界内ではコモディティ化が進んでいます。変化の激しい時代に、コンサルタントの将来性はあるといえるのでしょうか?コンサルタントとして生き残るためのスキルやキャリアパスを解説します。
コンサルタントの将来性は?
コンサルタントは、クライアントの経営課題を解決に導く職業です。今後、コンサルティング業界はどのように変化していくのでしょうか?現状と将来性を解説します。
市場規模は拡大中
コンサルティング業界の市場規模は拡大傾向にあります。市場規模が拡大を続ける限り、コンサルタントの需要はなくならないと考えてよいでしょう。
デジタル技術の発展に伴い、多くの企業はビジネスモデルや業務プロセスの見直しを迫られています。昨今のコロナ禍で、経営の立て直しを図らなければならない企業も多く、コンサルタントの力が必要とされる場面が多いのが現状です。
近年は経済のグローバル化により、海外事業を展開する企業が増えています。海外進出戦略の策定や現地法人の課題解決において、プロのアドバイスは欠かせません。
コンサルタントの存在自体は知っていても、実際にサービスを利用したことがない企業も多いため、コンサルティング業界にはまだまだ成長の余地があります。
転換期であることも事実
市場規模が拡大している一方、コンサルティング業界はビジネスの転換期にあります。仕事に就く上で資格を必須としないため、労働市場にはコンサルタントを名乗る人があふれているのが実情です。
今後は、同業者間で仕事を奪い合うようになり、アピールポイントがない人は十分な収入が得られない可能性があるでしょう。ネット上で情報が何でも手に入る近年では、コンサルタントにはより高度な専門知識と課題解決能力が求められているのです。
コンサルティングにはさまざまな専門分野が存在します。ITのように、将来性の高い分野を強化すれば、新たな顧客を獲得できる可能性が高いでしょう。
将来性が「ない」といわれる理由
市場規模の拡大が見込まれる一方、「コンサルタントには将来性がない」という声も聞かれます。将来性を不安視する背景には何があるのでしょうか?
コモディティ化の進行
1つ目の理由が、コモディティ化の進行です。コモディティ化とは、付加価値の高い商品・サービスと認識されていたものが、市場の活性化によって一般化してしまうことを指します。
コモディティ化が進行すると、クライアントの商品・サービス選びの基準が価格になってしまい、市場では低価格競争が生じます。同時に、コンサルタントの質の低下も懸念されるでしょう。
また、コンサルタントが事業会社(※)に転職する事例も増えています。有能な元コンサルタントが社員になれば、企業としては高い費用を払ってコンサルティングファーム(以下、ファーム)に外注する必要がありません。
※事業会社:営利を目的として経済活動を行う会社。ファームにとってのクライアント企業に該当する
要求レベルの上昇・AIの台頭
2つ目の理由は、要求レベルの上昇とAIの台頭です。これまでコンサルタントの仕事というと、解決策の立案や助言がメインでした。
しかし近年は、「施策を現場にも浸透させてほしい」というクライアントが増えており、現場に入って課題解決に取り組める人材が求められています。提案や助言だけで、実行支援を担えないコンサルタントは、生き残りが難しいといえるでしょう。
将来的にAIが導入されれば、今後のキャリアにマイナスの影響が及ぶ可能性もあります。調査・データ分析・レポート作成といった作業はAIに代替されるため、データや情報の調査分析、将来予測を行うアナリスト分野は厳しい状況に立たされるかもしれません。
将来性が「ある」といわれる理由
コンサルティング業界は拡大を続けているため、コンサルタントの仕事がゼロになる可能性はほぼありません。そのほかにも、「将来性がある」とされる理由があります。
経験・スキルが求められる
コンサルティング業務には、専門的な知識や経験、スキルが求められます。いくら経営者自身がネット上で知識やノウハウを獲得できる時代になったとはいえ、単に情報を得るのと実際に取り組むのとでは大きな違いがあります。
今後、実力が伴わない「自称コンサルタント」は淘汰されていきますが、結果にしっかりとコミットできる有能なコンサルタントの需要は増えていくでしょう。近年は、多くのファームが経験者採用の強化に動いています。
経営者がコンサルタントを活用する理由の1つに、課題解決にかかる時間と手間が大幅に短縮できる点が挙げられます。企業を取り巻くビジネス環境は刻々と変化しているため、スピーディーに結果を出せるコンサルタントは引く手あまたとなるでしょう。
IT系のコンサルタントは需要が高い
コンサルティングにはさまざまな専門分野があります。M&Aを得意とする人もいれば、医療・ヘルスケアに特化する人もおり、それぞれが自分の専門分野に磨きをかけています。
将来的な需要が高まるのは、ITの分野から企業課題にアプローチする「IT系のコンサルタント」です。
日本では政府がDXを推進していますが、デジタルテクノロジーを活用できる環境が整っていない中小企業は少なくありません。実際のところ、社内だけでDXを進めていくのは難しく、経営やITに精通したプロの力が必要です。
経済産業省のDXレポートでは、企業が既存システムの問題を解決できない場合、2025年以降に最大で年12兆円の経済損失が生じる可能性が示唆されています(2025年の崖)。
DXの推進が急務となる中、優秀なIT系のコンサルタントの需要は右肩上がりとなるでしょう。
参考:DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~(METI/経済産業省)
今後のコンサルタントに求められるもの
コモディティ化が進む中、コンサルタントには、これまで以上に自分の専門性やスキルを磨く姿勢が要求されています。競争や変化の激しい業界を生き抜くには、どのような資質やスキルが必要なのでしょうか?
提案で終わらない実行力
前述の通り、多くのクライアントはコンサルタントに「現場における実行支援」を求めています。解決策の提示や助言だけでなく、クライアントとともにプロジェクトを実行できる力を身に付けましょう。
実行力のあるコンサルタントを目指すには、現場の状況に合った具体策を立てることが重要です。経営層の意見だけをヒアリングするのではなく、実際に現場に入り、現場スタッフの声をくみ上げる必要があります。
これからの時代は、行動力やコミュニケーション力、現場スタッフの気持ちに寄り添う姿勢がある人材が活躍するでしょう。
より高い専門性
コンサルタントの母数が増えた分、高い専門性と豊富な経験値が求められています。選ばれる人材になるためには、自分の専門分野をとことん極め、他社(他者)との差別化を図らなければなりません。
多くのファームでは、経験者採用を強化しています。コンサルタントの職種が未経験でも、特定の分野に精通していれば、採用される可能性は高いでしょう。
コモディティ化した人材は、AIに仕事を奪われやすくなります。次の時代に求められることを先読みしながら、自分のスキルや経験を磨いていきましょう。
今まで必要とされた資質も重要
時代が変わっても、コンサルタントに求められる資質はほぼ変わりません。以下に挙げるような資質を備えている人ほど、業界で長く活躍できるでしょう。
- 論理的思考力
- コミュニケーション能力
- 精神的・肉体的なタフさ
- プロ意識
論理的思考力とは、物事の因果関係を整理しながら、筋道を立てて考える力です。全ての社会人に必要ですが、課題解決に関わるコンサルタントにとっては、特に重要なスキルです。
コンサルタントは、一定の期間内に成果を上げなければならないため、仕事が激務になりやすい傾向があります。プレッシャーも大きく、精神的・肉体的なタフさがなければ務まらないでしょう。
「必ず結果を出す」「最高のパフォーマンスを発揮する」というプロ意識を持ち、自己研鑽に励む姿勢も欠かせません。責任感や使命感に欠ける人は、コンサルタントには不向きです。
コンサルタントになる方法
未経験者がコンサルタントになるには、どのようなルートをたどればよいのでしょうか?転職に生かせる経験やスキル、アピールポイントを解説します。
経験者採用も一般的
コンサルタントを目指す王道のルートは、ファームへの就職・転職です。新卒一括採用をしないわけではありませんが、ファームでは職務経歴がある人を採用するのが一般的です。
年齢でいえば、20代から30代半ばまでの人材が採用されやすいでしょう。企業で働いた経験があり、社会人としての素養やビジネスの基本がしっかりと身に付いている人が歓迎されます。
コンサルティング業界に限らず、年齢が上がるほど転職の難易度は高くなります。コンサルタントの場合、特定分野に精通したスペシャリストであれば、40代以上の転職も十分に可能です。ただし、専門的知識に加え、マネジメント経験が求められます。
転職時に生かせる経験やスキル
他業種・他職種から転職する場合は、自分の過去の経験やスキルをアピールしましょう。業界知識や経験値の豊富さは、転職時に大きなアピールポイントとなります。
例えばIT系ファームの場合は、エンジニアとしての経験が高く評価されるでしょう。戦略系ファームでは、経営企画職や事業開発職の経験者が採用されやすい傾向があります。
企業の財務・会計担当者として働いた経験がある人の場合は、財務・会計に特化したファームに転職し、財務・会計コンサルタントとして活躍する道があるでしょう。
評価対象になる資格
コンサルタントになる上で必須の資格はないですが、就職・転職では資格を持っている人が有利になるケースがほとんどです。自分の能力を客観的に証明できるため、採用するファームはもちろん、クライアントからの信頼度も高くなるでしょう。
ファームにはさまざまな種類があり、どのような分野を担当するかによって求められる資格は変わります。
例えば戦略系ファームなら、MBA(Master of Business Administration、経営学修士)の学位があると有利です。IT系ファームへの就職・転職では、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「ITストラテジスト試験」や「プロジェクトマネージャ試験」などの資格が役立ちます。
士業系の資格は、その分野におけるプロフェッショナルである証しです。公認会計士・税理士・社会保険労務士・中小企業診断士の資格がある人は、就職・転職が有利に進むでしょう。
ITストラテジスト試験 | 試験情報 | IPA 独立行政法人 情報処理推進機構
プロジェクトマネージャ試験 | 試験情報 | IPA 独立行政法人 情報処理推進機構
コンサルタントのキャリアパス
コンサルタントとしてファームに就職した後は、どのようなキャリアの選択肢があるのでしょうか?ファーム内での昇格や他社への転職が一般的ですが、人によっては独立する道もあります。
コンサルタントとしてプロフェッショナルに
コンサルタントとして経験を積み、その道のプロフェッショナルになるキャリアパスがあります。未経験者がファームに入社した後、まずはアナリスト(アソシエイト)からスタートするのが一般的です。
アナリストはコンサルタントのスタートポジションで、調査やデータ分析、レポート作成といった業務に携わります。一人前のコンサルタントになった後は、シニアコンサルタント(アソシエイトマネージャー)としてプロジェクトの中核を担います。
ここでいうシニアとは高齢者の意味ではなく、一定の実績を積んだ上級者のことです。その後は、マネージャーやシニアマネージャーに昇進し、コンサルタントファームの最上位の役職であるパートナーを目指します。
ほかのファームへ転職
キャリアアップや収入アップのために、ほかのファームに転職する選択肢もあります。多くのコンサルタントは、以下のようなポイントをファーム選びの基準にするケースが多いようです。
- 今よりも労働環境や待遇がよいこと
- 業務の幅が広がること
- 自分が得意とする専門分野を極められること
同じ専門分野を扱うファームに転職する人もいれば、別の分野に挑戦する人もおり、転職の目的はさまざまです。
例えば、戦略系のファームから企業・事業再生のファームに転職すれば、自分の専門分野を確立できるでしょう。財務・会計コンサルタントの中には、M&A関連を強みとするファームに転職する人も少なくありません。
事業会社へ転職
ファームを離れて事業会社に入社し、事業経営を推進するコンサルタントもいます。事業会社は、ファームにとってのクライアント企業です。
特に事業承継を検討している事業会社は、オーナー交代後の新体制に不安を抱えているケースが多く、後継者の右腕として活躍できるチャンスがあるでしょう。
また、外資系企業の多くは、ファームにプロジェクトを発注しているため、ファーム出身者(ポストコンサルタント)は歓迎されやすいといえます。
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独立という方法も
ファームで経験を積み、独立するコンサルタントもいます。特にIT系のコンサルタントの需要は高く、DXを進める中小企業からの依頼が多く舞い込む可能性が高いでしょう。
独立を視野に入れている人は、自分の専門分野を磨くとともに、クライアントと信頼関係を深めることが重要です。独立後は自分で案件を獲得しなければならないため、人的ネットワークや営業力が重要といえます。
独立には、事業計画の策定や資金の確保といったさまざまな事前準備が必要です。必ずしもうまくいくとは限らないため、情報収集やプランニングをしっかりと行いましょう。
コンサルタントとしての将来性は自分次第
コンサルティング業界の市場規模は拡大しており、今後もコンサルティングの需要は途切れないでしょう。一方で、業界ではコモディティ化が進んでおり、何らかの付加価値を提供できないコンサルタントは、クライアントから選ばれない可能性があります。
多くのクライアントは実行支援までのフルサポートを求めています。「コンサルタントの提案は絵に描いた餅」と言われないように、現場での支援ができる能力を養っていく必要があるでしょう。
自分の能力と努力によって、どこまでも成長できるのがコンサルタントの魅力といえます。