地方公務員は安定した職業の代名詞ともいえますが、AIの台頭や税収の減少などにより、「将来性が期待できない」という声も上がっています。地方公務員を待ち受ける未来やこれからの時代を生き抜くのに必要なスキル、働くメリット・デメリットを解説します。
地方公務員に将来性はある?
地方公務員は、都道府県・市区町村などの地方自治体で働く公務員を指します。既に地方公務員として働いている人やこれから目指す人の中には、将来性が気になる人も多いのではないでしょうか?
AIが普及しても仕事はなくならない
近年は、さまざまな業界でAIの導入が検討されています。「AIに仕事を奪われる」という声もありますが、AIの導入で地方公務員の仕事はなくなってしまうのでしょうか?
結論からいうと、一部の事務処理や問い合わせサービスなどはAIが担う可能性があるものの、全ての仕事がなくなることはありません。
AIが苦手とするのは、人と接触する仕事・創造性が高い仕事・思考する仕事です。緊急事態の対応業務や企画立案作業、住民へのヒアリングなどは、人間にしかできない仕事といえるでしょう。
リストラや倒産の恐れがない
民間企業と違い、地方公務員の給与は住民の税金によって賄われています。大幅な収入アップは期待できませんが、リストラや倒産の恐れがなく、一度就職したら安定して長く働ける可能性が高いでしょう。
不況の影響を受けない点や職を失うリスクがほとんどない点において、将来性はあるといえます。
地域経済の再生や社会福祉の充実、雇用の確保など、地方公務員が中心になって解決しなければならない課題は山積みです。今後、活躍の場はさらに広がっていくでしょう。
地方公務員を待ち受ける未来
職を失うリスクは少ないものの、地方公務員になれば生涯安泰というわけではありません。地方公務員を取り巻く環境は常に変化しています。どのような未来が待ち受けているのかを先読みし、必要な手を打ちましょう。
税収の減少によって人件費が削減される
日本では、働き手である生産年齢人口が減少しています。公務員の給与は国民が納める税金によって賄われているため、このまま働き手が減って税収が減少すれば、公務員の給与減につながりかねません。
人件費を削減するため、新規採用者を減らす自治体も出てくるでしょう。組織の総員が減少しても、業務の質は一定レベルを保たなければならず、結果としてワーク・ライフ・バランスが実現しにくくなる可能性があります。
少子高齢化や過疎化、経済のグローバル化が進む日本において、地方公務員の業務量は増加しており、個別対応を求められる場面も多くなっています。「給与は上がらないのに、業務量ばかり増える」という状態になるかもしれません。
能力や待遇の格差が拡大する
遠くない将来、単純な窓口業務や書類作成業務、申請の審査などは、AIやRPA(ロボットによる業務自動化)などの新技術に代替されるでしょう。新技術が導入されると、職員配置をどのようにするかが課題となります。
新技術に代替されない知識・スキルを持っている人や新技術を使いこなす能力がある人は、生き生きと働けますが、そうでない人は「仕事ができない人」になってしまう可能性があるでしょう。
地方公務員の給与に能力の差はあまり反映されませんが、今後テクノロジーが発展して業務内容や人事評価制度が変われば、待遇格差が広がっていくと考えられます。
優秀な中途人材の採用が強化される
人的・財政的リソースが縮小しているのにもかかわらず、行政ニーズは年々多様化し、かつ増加の一途をたどっています。
限られたリソースで質の高い仕事を行っていくためには、職員個人の能力を上げるとともに、優秀な人材の採用を強化しなければなりません。
近年は、民間企業出身者を積極的に採用する地方自治体が増えています。民間企業には、専門的な知識やスキルを持った人が多く、即戦力としての活躍が期待できます。
副業や短期契約といった形で人材を充足する動きもあり、今後はさまざまな働き方の職員が増えるでしょう。
働き方改革により職場環境の整備が進む
民間企業では、2019年4月1日から働き方改革関連法が順次施行されていますが、地方公務員の職場には、多様な働き方がそれほど浸透していないのが実情です。
ただし、テレワークやフレックスタイム、ワーク・ライフ・バランスの取り組みを推進する自治体は増えており、職場環境の整備は徐々に進むでしょう。
人々のライフプランや価値観が多様化する現代、有能な人材を確保するには、働き手にとって魅力のある職場にしていく必要があります。
地方公共団体のテレワーク導入状況(2022年10月1日時点)を見ると、全1,788団体のうち、1,150団体(64.3%)がテレワーク導入済みで、都道府県と指定都市(計67団体)は100%の導入率となっています。市区町村の導入数は1,083団体(62.9%)と全体平均より低くなっていますが、前年の849団体(49.3%)から着実に増加しました。
参考:地方公共団体におけるテレワークの取組状況調査結果の概要|総務省
地方公務員に今後求められる能力
地方公務員に求められる能力や資質は、時代とともに変化します。地方公務員法で定める「全体の奉仕者」としての自覚や責任感のほかに、今後はどのような能力が求められるのでしょうか?
企画力と発信力
一口に地方公務員といっても、さまざまな職種・ポジションがあり、業務内容や働き方が異なります。市役所や県庁などで働く一般行政職の場合、これまでは国が示すガイドライン通りに事務作業を行う能力が重要視されてきました。
地域活性化に向けた街づくりが求められる中、今後は地域を盛り上げるプロデューサーとしての役目を担うことになるでしょう。柔軟な発想力やアイデアを実現可能なレベルにまで落とし込める企画力、地域の魅力を広める発信力などが求められます。
ITや数量データを使いこなすスキル
今後は、地方公務員の業務にも最新のデジタル技術が導入されていきます。データや根拠に基づいて政策立案をする「EBPM(Evidence-based policy making)」の重要性も強調されており、これからの時代は、IT技術や数量データを使いこなすスキルが必須となるでしょう。
どのようなスキルをどの程度まで身に付ければよいかは、役割や仕事内容によって異なりますが、IT技術に関しては、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が実施する「ITパスポート試験」を1つの目安にしましょう。
業務に最低限必要なITの基礎知識が身に付くほか、情報セキュリティーや情報モラルについても理解が深まります。
グローバルな視野と他文化への理解
近年は、地域住民の多国籍化が進んでいます。国籍・民族が異なる人々が互いに尊重し合いながら地域社会で暮らす「多文化共生」に向け、地方公務員にはグローバルな視野と他文化への理解が求められるでしょう。
今後は、多言語対応をする自治体の窓口が増える可能性があります。全ての職員が外国語をマスターする必要はないとはいえ、言葉や文化が異なる人々とのコミュニケーションの取り方を学び、言葉の壁や心の壁を解消する努力をしなければなりません。
職員に対して、異文化コミュニケーションのトレーニングを行う自治体も増えています。
地方公務員として働くメリットは?
地方公務員として働くメリットは、収入や雇用が安定しているだけではありません。社会的信用の高さや退職金の手厚さも、地方公務員ならではの利点でしょう。
社会的信用が高い
社会的信用とは、経済力や社会的地位などに裏付けされた信用力を指します。各種ローンを組んだり、消費者金融でお金を借りたりする際は、本人に十分な返済能力があるかどうかが審査されます。
急なリストラや倒産の心配がなく、手堅い収入がある地方公務員は、社会的信用が高いのがメリットです。過去に債務整理や返済遅延といったトラブルを起こしていない限り、住宅ローンやクレジットカードの審査に落ちる可能性は少ないでしょう。
民間企業よりも退職金が手厚い
公務員の退職金(退職手当)に関する事項は、法律によって定められています。退職金の平均額は減少傾向にあるものの、民間企業と比べて手厚いのが特徴です。
地方公務員の退職手当制度において、退職金の支給率は退職理由や勤続年数によって変わります。在職期間が6カ月以上1年未満の場合でも、1年としてカウントされる点に注目しましょう。
総務省では「令和4年地方公務員給与の実態」の中で、1人当たりの退職金の平均額(全地方公共団体・全職員)を公開しています。11年以上25年未満勤続後の場合、平均額は1,121万9,000円です。
地方公務員として働くデメリットは?
収入や雇用の安定性が期待できる半面、「専門性を養いにくい」「副業が禁止されている」といったデメリットもあります。地方公務員を目指すべきかで悩んでいる人は、働き方やルールをよくリサーチした上で、進むべき方向を決めましょう。
専門性を養いにくい
地方公務員には、定期的な部署異動があります。仕事に慣れてきたと思ったら、別の部署に異動して新たに仕事を覚えなければならないため、一部の専門職・技術職を除いては、専門的スキルが身に付きにくいのがデメリットです。
例えば、一般行政職の場合、データ入力や編集、書類作成がメインとなります。条例の知識やパソコン操作のスキルは身に付くものの、これらは転職市場で高評価されるスキルとは言い難いのが現実です。
公務員として働き続けるのであれば問題はありませんが、公務員から民間企業に転職を考えたとき、アピールできるスキルが見つからない人は少なくないようです。
副業が禁止されている
地方公務員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務しなければなりません。地方公務員法の第38条は、営利企業への従事を制限しています。
ほかにも、信用失墜行為の禁止(第33条)や秘密を守る義務(第34条)、職務に専念する義務(第35条)などの規定があり、現状では副業・兼業は認められていません。
例えば、YouTuberとして動画投稿をするのは構いませんが、地方公務員の信用を失墜させるような内容を投稿したり、チャンネルを収益化させたりする行為はNGです。
自分の特技で収益を得たい人やビジネスに興味がある人にとって、地方公務員は向いていないといえます。
時代とともに地方公務員の仕事は変化する
急なリストラや倒産の心配がない地方公務員は、民間企業に比べて安定性が高いのがメリットです。AIの導入で仕事がなくなるという声も上がっていますが、実際のところ、人にしか担えない仕事も多くあり、完全に代替される心配はないでしょう。
とはいえ、地方公務員の役割や求められるスキル、仕事内容は時代とともに変化しています。時代のニーズを先読みし、必要な知識やスキルを主体的に身に付けていく必要があります。
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