近年U・I・Jターンによって、都心部から離れ、地方の企業に転職する人が増えています。地方への移住には、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?U・I・Jターンそれぞれの違いや、移住先地域での転職方法について詳しく解説します。
この記事のポイント
- U・I・Jターンの違い
- 生まれ育った地に戻るUターン、他地域へ移住するIターン、近隣地域に戻るJターン。それぞれの背景やメリットが異なります。
- メリット
- 通勤のストレス軽減、生活費抑制、子育て環境向上。地域移住にはこれらの利点があります。
- デメリット
- 収入減、生活不便、地域適応難。移住には地方ならではの課題も潜んでいます。
U・I・Jターンの違いとは?
Uターン・Iターン・Jターンという言葉を、見聞きした経験がある人は多いのではないでしょうか?それぞれ、移住を伴う転職などに関わる言葉ですが、どのような違いがあるのか具体的に見ていきましょう。
生まれ育った地元に戻る「Uターン」
Uターンとは、進学・就職などで出身地をいったん離れた後に、再び生まれ育った土地に戻って生活することを指します。
Uターンを考えるタイミングは人それぞれですが、子育て・親の介護など家庭の事情によって戻るほか、転職をきっかけに地元へ帰りたいと思う人も多いようです。
Uターンによる転職の場合、慣れ親しんだ場所に戻って働けるため、生活環境の変化に関する苦労が比較的少ないというメリットがあります。
知らない土地ではないので、移住に伴う心配もあまりないケースが多いでしょう。1度都会に出て生活したものの、地元の方が住みやすいと感じた人におすすめの移住パターンです。
生まれた地域以外に移住する「Iターン」
Iターンは、主に都心で働く人が、出身地とは異なる地域に移住することを指します。生まれ育った地元から、別の地域に移住するパターンも少なくありません。
例えば、観光などで訪れたことをきっかけに、その地域での生活に興味を持ち、移住を決意するケースもあります。都心部で働いていた人が、都会に住みにくさを感じて、地方への移住を決めるという例もあるでしょう。
また、起業・独立を望む人が、国・自治体の優遇制度を求めて移住する場合もあります。国・自治体それぞれが、地方での起業や住宅購入などを支援する制度を設けているので、気になる人は各窓口で確認してみましょう。
地元の近隣地域に戻る「Jターン」
Jターンとは、出身地を出て都会で働いている人が、生まれ育った場所の近隣地域に戻って働くことを指します。
Uターンと同様に、親の介護などで故郷に戻りたいものの、地元の利便性が低い・転職先が少ないといった理由から、近くの地域に移住するケースも多いようです。
地元に近い地域なので、知らない土地でも多少の安心感はあるでしょう。また、「地方の生活環境と都会の利便性のどちらも捨てがたい」という人にも向いています。とはいえ、地方移住の中でJターンは少ない傾向にあるようです。
総務省による調査結果では、Jターンした人の中では60代の割合が高いことが分かります。現役時代は都心で働き、リタイア後に田舎暮らしをしたい人が、地元に近い場所を選ぶケースが多いと推測できるでしょう。
参考:総務省|「田園回帰」に関する調査研究会|平成29年度 第2回 「田園回帰」に関する調査研究会
U・I・Jターンのメリット
U・I・Jターンによる地方移住には、どのようなメリットがあるのでしょうか?主なメリットを3つ紹介します。
通勤のストレスが減る
都会での勤務に比べて、通勤のストレス・負担を軽減できるというメリットが挙げられます。都心では満員電車での通勤で、会社に到着するまでに疲れてしまうという人も多いでしょう。
しかし、地方ではマイカーで出勤できるケースもあり、都心に比べて通勤時の負担は少ないのが特徴です。電車通勤の場合でも、都会のような通勤ラッシュに巻き込まれる可能性が低いため、気持ちに余裕も生まれます。
独立行政法人労働政策研究・研修機構の「UIJターンの促進・支援と地方の活性化」に関する調査でも、地方移住による変化として「通勤の負担」が減っていることが分かります。
参考:調査シリーズNo.152「UIJターンの促進・支援と地方の活性化―若年期の地域移動に関する調査結果―」|労働政策研究・研修機構(JILPT)
生活費を抑えやすい
都心に比べて生活費を抑えやすい点も、地方移住のメリットの1つです。地方は都心に比べて地価が安い傾向にあるので、賃貸・購入どちらの場合においても、特に住居費の負担を抑えて生活できます。
移住者に向けた支援を実施している自治体では、住宅を安価で提供しているだけでなく、引っ越し費用を補助するケースもあるでしょう。
また、飲食店の料金の相場も都心に比べて安い場合が多いため、レジャー費なども抑えられる可能性があります。
流通のコストがかからない分、地元の食材を安く手に入れることも可能です。実家に戻る場合は、光熱費なども含めて、さらに生活費の負担を軽減できるかもしれません。
比較的子育てしやすい
子育て世代にとっては、比較的子どもを育てやすい環境が整っているというメリットもあります。
「自然豊かな環境で伸び伸び育つ」という情操的な面の長所もありますが、働きながら子育てをしている人にとっては、都心に比べて子どもを預けやすいのが魅力です。
保育園の待機児童がゼロという自治体もあるほか、実家や実家の近くに移住する場合は、留守中の育児を祖父母に頼めるケースもあるでしょう。
また、子育て支援の一環として、移住支援金の加算や保育費・医療費などの助成が手厚い自治体もあります。
ただし、子育てに関する支援や待機児童などの状況は自治体によって異なるため、移住前にしっかり確認しておきましょう。
U・I・Jターンのデメリット
U・I・Jターンにはさまざまなメリットがある一方で、地方ならではのデメリットも存在します。どのようなデメリットがあるのか、具体的に見てみましょう。
収入がダウンする可能性がある
地方では、都心部に比べて物価などが安い一方で、賃金も低い傾向にあります。そのため、地方に移住することで収入が減る可能性もあるでしょう。
厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によると、2022年の都道府県別賃金は東京が第1位で375万5,000円でした。一方、最も安かったのは青森県の247万6,000円であり、約127万円もの差があります。
ただし、この結果はあくまでも平均値なので、地方に移住したすべての人の年収が下がるとはいえません。また、生活費自体が抑えられる可能性もあるため、年収の額そのものが下がっても、一概に生活の質が落ちるとはいえないでしょう。
参考:賃金構造基本統計調査 令和4年賃金構造基本統計調査 調査の説明3調査結果の概要 | ファイル | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口
生活に不便を感じるケースがある
都会の利便性に慣れている人にとっては、生活に不便を感じるケースも多々あるでしょう。地方は、都会とは異なりスーパー・コンビニが近くにあるとは限りません。
医療機関・学校など、生活する上で欠かせない施設までの距離が遠く、車が必需品となる可能性もあります。
総務省統計局が「65歳以上の世帯員のいる世帯」「夫婦ともに65歳以上の世帯」「65歳以上の単身世帯」を対象にした調査によると、最寄りの医療機関まで1km以上の距離があると答えている人の割合は、地方ほど高いことが分かりました。
若いうちは気にならなくても、年齢が上がるにつれて生活インフラに不安を感じる可能性もあります。
参考:統計局ホームページ/統計トピックスNo.44/2 高齢者世帯と最寄りの医療機関までの距離について
地域になかなかなじめない可能性がある
なじみのない地域に移住する場合は、その土地の人間関係に溶け込むのが難しい場合もあります。地方では、都市部に比べて地域内の人間関係が密なケースも少なくありません。
古くから住んでいる人ばかりが集まっている地域では、移住者がなじむまで時間がかかる可能性もあります。独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査によると、移住当初に苦労したことの第3位が「困ったことを相談する人がいなかった」でした。
移住先で人間関係を構築できないと、地域の情報なども入手しにくい事態も起きるでしょう。特にIターン・Jターンのように、地元とは異なる地域に転居する場合は、完全に移住する前に何度か足を運んで、土地柄などを知っておくのがおすすめです。
参考:「UIJターンの促進・支援と地方の活性化―若年期の地域移動に関する調査結果|独立行政法人労働政策研究・研修機構」
U・I・Jターンで転職する方法は?
U・I・Jターンで転職する主な方法には、「地元の企業への転職」「起業・フリーランスとして独立」「地域おこし協力隊への参加」の3つがあります。それぞれのケースについて、詳しく見ていきましょう。
地方の企業に転職する
U・I・Jターンでは、移住する地方の企業に転職するケースが大半といってよいでしょう。転職先探しには、地元のハローワークや求人情報などをチェックするのが一般的です。
年代によって転職事情が異なるのは、都心部・地方どちらでもあまり変わりはありません。20代の場合は比較的転職先が見つかりやすいですが、ある程度のスキルを身に付けておくのがおすすめです。
30代は、転職先企業で役立つスキル・資格を取得しておくとよいでしょう。40代になると即戦力となる実績も求められるため、それまでの経験を生かせる仕事を探すのがベストです。
また、どの年代でも、現職を辞める前に転職先を探しておくのが重要といえます。
起業やフリーランスとして独立する
U・I・Jターンをきっかけに、起業やフリーランスとして独立する方法もあります。ITエンジニア・ライター・プログラマー・デザイナーなどは、場所を選ばずに働けるため、地方でフリーランスとして独立しやすい仕事です。
起業する場合、地域での人脈づくりや事業のニーズ調査などの準備は必要ですが、都心部より事務所開設などの開業資金を安く抑えられる可能性があります。
雇用創出や地域活性化のために、Uターン・Iターンによる誘致を進めている自治体の助成金や、地方創生などの支援金の活用を検討してみるのもおすすめです。
地域おこし協力隊に参加する
地域おこし協力隊とは、一定期間その地域に住んで、地域ブランド品の開発・販売・町おこし事業などをサポートする活動です。地域おこし協力隊に参加すると、必要経費として、隊員1人あたり480万円を上限として支給されます。
任期は1~3年と決まってはいますが、終了した後も起業や事業承継に向けた支援があるため、そのまま定住する人も多いようです。
総務省のデータでは、2022年3月末時点で約65%の人がそのまま同じ地域に定住しています。地方での起業を考えている人は、まずは地域おこし協力隊からのスタートを考えてみるのもよいでしょう。
U・I・Jターンで失敗しないポイント
U・I・Jターンのように移住を伴う転職では、注意点を知っておくことが重要です。失敗しないためのポイントを2つ紹介します。
情報を十分に収集する
移住を決める前に、情報収集を徹底しておくことが大切です。転職先の会社探しはもちろん、SNSを活用したり現地に足を運んだりしながら、地域の特性や住みやすさなどについてもしっかりリサーチしておきましょう。
都道府県によっては、移住者向けのポータルサイトを作成しているところもあります。また、可能ならワーケーションで移住を体験してみるのもおすすめです。実際に地方に暮らしながら仕事をしてみることで、生活インフラなどを具体的に確認できます。
家族の同意を得る
U・I・Jターンでは、転居によって生活環境が大きく変わるため、家族の同意を得る必要があります。配偶者が仕事をしている場合は、相手のキャリアプランにも配慮しなければならないため、できるだけ早い段階で相談することが大切です。
子どもがいる家庭では、入園・入学のタイミングで判断するのが望ましいでしょう。また、実家での同居を伴うUターンの場合は、実家の親も含めて十分に話し合い、お互いに納得しておくことが重要です。
転職の際はU・I・Jターンも選択肢の1つ
転職にはさまざまなパターンがあり、近年は地元やほかの地方への移住を伴うU・I・Jターンも選択肢に入れる人が増えています。
転居を伴う転職は、家族の生活にも影響を与えるため、事前にしっかり話し合って同意を得ておきましょう。
地方での転職先を探す際は、求人検索エンジン「スタンバイ」を活用するのがおすすめです。全国の求人が掲載されているので、地方に移住して転職したい人はチェックしてみましょう。