ストックオプションとは、企業が従業員や役員に株式を購入する権利を与える制度です。興味はあるものの、どのような制度なのか詳しく知らない人もいるのではないでしょうか。制度の内容や、メリット・デメリットについて詳しく解説します。
ストックオプションとは?
ストックオプションを導入している企業は増えています。どのような仕組みなのか詳しく見ていきましょう。
企業が従業員に付与する自社株の取得権
従業員や役員に、あらかじめ決めた金額(権利行使価格)で自社株を取得できる権利を与える制度を指します。もともとアメリカで始まり、日本では1997年5月の商法改正で導入されました。
権利を持つ従業員や役員は、自社株の時価が権利行使価格より上がった時点で購入や売却を行うことで、株価が上昇した分の差額を利益として受け取れます。
ただし、株式会社であればどの企業でも導入できるわけではありません。市場での株式売買は、上場企業に限られます。そのため、既に株式を上場しているか、将来上場の予定があるベンチャー企業などに向いている制度です。
従業員持株会との違い
従業員持株会は、持株会に参加している従業員の毎月の給与や賞与から天引きされた拠出金で、自社株を共同購入することです。参加できるのは従業員のみとなり、取締役などの経営陣は会員にはなれません。
会員となった人には、出資額に応じた配当金が支払われる仕組みです。また、購入した株式は従業員ではなく、持株会が保有します。
従業員持株会の場合、毎月自動で積み立てられるため、中長期的な資産形成に向いているといえるでしょう。会社が天引きした拠出金に奨励金を上乗せするので、株価が下がったときのリスクが低減されるというメリットもあります。
新株予約権との違い
新株予約権とは、事前に決められた金額で発行された株式の購入権を与えることで、ストックオプションもその一種です。新株予約権には大きく分けて、以下の4つの種類があります。
- 社内向け:ストックオプション
- 社外向け:資金調達を目的としている。対象は社外の一般投資家や権利者
- 無償割当:既存の株主に対して追加的な株式を無償で提供する権利
- 有利発行:第三者に向けて有利な金額や条件で発行される。株主総会の特別決議が必要
また、一定期間内に社債を株式に転換できる「新株予約権付社債」というものもあります。
無償ストックオプションの種類
従業員や役員に向けて無償で付与されるものを「無償ストックオプション」といいます。権利の付与に当たり、発行価額を支払う必要がなく、報酬的な要素を強く持つのが特徴です。無償ストックオプションには3種類あります。詳しく見ていきましょう。
税制適格ストックオプション
税制の優遇を受けられる制度のことをいいます。権利行使時(株式の取得)においては課税されず、売却する際に得た所得に対し、所得税15%・住民税5%・復興特別所得税0.315%の合計20.315%が課税されるという仕組みです。
1回のみの課税なので、権利を付与された人にとっては節税できるというメリットがあります。ただし優遇を受けるには、租税特別措置法第29条の2で定められている以下の要件を満たすことが必要です。
- 発行価額:無償
- 対象者:発行会社または完全子会社の取締役・執行役・従業員・権利承継相続人
- 権利行使期間:付与決議日の後2~10年(設立5年未満の非上場会社は15年を経過する日まで)
- 権利行使価額:1株当たりの金額が、付与契約を締結した時点の株式時価以上であること
- 譲渡禁止規定:第三者への譲渡禁止
- 権利行使限度額:年間の合計額が1,200万円未満であること
- 保管委託:証券会社などの金融取引業者が保管・管理すること
税制非適格ストックオプション
税制の優遇を受けないため、権利行使時(株式の取得)と売却のどちらにも課税される制度です。権利行使時点の株価との差額で利益を得た分は給与所得として、また売却時には譲渡所得税が課税されます。
取得時と売却時に課税されることとなるため、税制適格の場合に比べると負担が大きくなるのがデメリットです。しかし、「権利行使期間に制限がない」「権利行使限度額がない」「他人に譲渡できる」といったメリットもあります。
出典:No.1543 税制非適格ストック・オプションに係る課税関係について|国税庁
1円ストックオプション(株式報酬型ストックオプション)
税制非適格ストックオプションの1つです。権利行使価額が1円に設定されていることが多く、退職金として付与する企業もあります。企業側にとっては、権利行使時に発行価額を給与として損金算入できるのが利点です。
また付与される側は、退職時に権利を行使すると取得時の利益に退職所得控除が適用されるため、課税額を低く抑えられます。付与する側とされる側のどちらも税務上のメリットを得られるのが特徴です。
有償ストックオプションの特徴
ストックオプションには、無償のほかに有償もあります。有償ストックオプションの特徴や種類について、詳しく見ていきましょう。
無償ストックオプションとの違い
購入権を得るために一定の価格(発行価額)を支払うという点が、無償との大きな違いです。発行価額を支払った時点では購入権を予約しただけで、実際に株式を取得しているわけではありません。
企業が設定した条件を満たした時点で、購入する権利を使えるという仕組みです。株を売ったときの額が購入額を上回れば、差額を利益として得られます。
発行価額は、公正価値を基に決められます。権利を行使する際は、行使する時点の株価以上の価格になるのが一般的です。購入した株式の株価が上がれば利益を得られるため、比較的投資の要素が強い制度といえます。
信託型ストックオプション
信託型ストックオプションの場合、その他の種類とは保管方法が異なります。全員が購入した分をいったん信託に預け、期間満了までまとめて保管してもらうのが特徴です。
期間中は業績に応じたポイントを付与され、満了時に保有しているポイントに応じたストックオプションに交換できます。国税庁では、信託型で得た利益は給与所得として課税されるという見解を出していますが、税務上の取り扱いに注意が必要です。
ストックオプションのメリット
メリットについても確認しておきましょう。付与される従業員や役員にとってだけでなく、企業が導入する目的も含めて主なポイントを3つ挙げて紹介します。
従業員のモチベーションアップにつながる
導入によって、企業側は従業員のモチベーションアップを狙えます。取得した株式の売買で利益を得るには、業績を上げて株価をアップさせることが必要です。そのためには、従業員1人1人が仕事へのモチベーションを上げて業績向上を目指さなければなりません。
会社の利益が自分にとってのメリットにもつながるため、従業員が自発的に会社の価値を上げようと努力します。付与される従業員や役員にとっても、やりがいを感じながら仕事に取り組めるでしょう。
株式購入に当たってのリスクが少ない
一般的な株式購入より損失のリスクが少ないというメリットがあります。株式を購入する際は、株価の下落によって損失を被る可能性も少なくありません。しかし、自社株を購入できる権利が付与されるだけなら、株の下落による損失を受けにくいという特徴があります。
権利を行使するタイミングは自分で決められるため(無償ストックオプションの場合は期限がある)、株価が下がったときは行使しなければ損失を被ることもありません。再び上がるまで待って権利を行使できるので、下落による損失のリスクを抑えられます。
従業員の税負担を軽減できるケースもある
種類によっては、利益分にかかる税金を節税できるケースもあります。税制適格の要件を満たしていれば、株式を売買したときの譲渡所得税のみが課税されるため、付与される従業員にかかる税負担の軽減が可能です。
また、無償ストックオプションには報酬としての要素がありますが、給与に上乗せして支給するより税率が低くなるというメリットがあります。
給与に上乗せすると、報酬分も合わせて給与所得となり、最大45%の所得税と復興特別所得税(原則としてその年分の基準所得税額の2.1%)が課税されるのが基本です。しかし、株式売買として利益を得る場合は譲渡所得となり、納税するのは税率約20%の譲渡所得税となります。
ストックオプションのデメリット
メリットが多い制度ですが、企業側にとってはデメリットもある制度です。従業員側にも影響する可能性があるので、確認しておきましょう。
権利行使後に離職される可能性もある
ストックオプション制度が目的で入社した従業員の場合、権利行使によって利益を得た後、そのまま離職してしまう可能性があります。優秀な人材が流出する恐れを防ぐために、「ベスティング条項」を設けている企業もあるようです。
ベスティング条項には、付与してから行使までに一定の期間を設けるものと、付与後一定期間ごとに行使できる株式の割合を増やすものの2パターンがあります。付与を受けるときは、ベスティング条項の設定についても確認しておきましょう。
付与されない従業員から不満が生まれる
付与の基準があいまいだと、従業員から不満が出る可能性もあります。付与されている人・されていない人の間に不和が生じやすく、職場の人間関係が悪化する恐れもあるでしょう。
職場の人間関係は、仕事へのモチベーション低下や働きにくさの原因にもつながります。付与するかどうかは、勤続年数や仕事の成果などを基準としていることが一般的です。周りの人が付与されているのに自分は付与されていない場合、付与基準について確認してみるとよいでしょう。
株価が下がるとモチベーションも低下する
株価が下落してしまうと利益を得られなくなるため、付与されている従業員のモチベーションの低下が考えられます。従業員のモチベーションが低下すれば、会社の業績が上がらず、株価もアップしにくくなるという悪循環に陥る可能性もあるでしょう。
株価が上がらなければ、優秀な人材が離職する恐れもあります。株価は常に変動するものであり、下落と上昇を繰り返すのが一般的です。付与されている従業員は、下落しているときは権利を行使せず、業績アップによって再び上がるタイミングを待ちましょう。
ストックオプションの仕組みや種類を知ろう
ストックオプションとは、自社株の取得権を会社が従業員に付与する制度です。無償・有償のさまざまな種類があり、内容も異なります。付与される場合は仕組みをしっかり確認しておきましょう。
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