夫婦で育児休業を取得するなら、パパ・ママ育休プラスを利用するのがおすすめです。育児休業可能期間を延長できるため、復職に向けた準備をしやすくなるでしょう。パパ・ママ育休プラスとはどのような制度なのかや、取得要件などについて解説します。
この記事のポイント
- 育児休業制度のおさらい
- 育児休業とは、1歳未満の子どもを育てるために取得できる休業のことです。2022年10月1日以降、育児休業は分割して2回取得できるようになっています。給付金支給期間については、保育所利用ができない場合において、最長2歳になるまで延長ができます。
- パパ・ママ育休プラスとは?
- 育児休業の可能期間を1歳2カ月まで延長できる制度です。基本的には、既に育休を取得している配偶者より後に育休を取得することにより取得対象となります。ただし、パパ・ママ育休プラスを利用しても、全体の最大取得可能期間が1年2カ月に延長されるわけではないため、取得方法をしっかりと確認しましょう。
- パパ・ママ育休プラス期間中の育児休業給付金
- パパ・ママ育休プラスは、育児休業制度の一部となるため、通常の育児休業給付金と同じ金額が支給されます。また、健康保険料と厚生年金保険料も免除対象です。
まずは育児休業制度をおさらい
パパ・ママ育休プラスは、育児休業制度の一部です。そのため、まずは育児休業制度について理解することが大切です。制度の概要や給付金の支給要件、産後パパ育休について見ていきましょう。
出典:そのときのために、知っておこう。 育児休業制度 | 厚生労働省
育児休業制度の概要
育児休業とは、1歳未満の子どもを育てるために取得できる休業のことです。「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」で、規定されています。
育児休業は、産前・産後休業の後に取得することが可能です。産前・産後休業とは、働く女性が出産前後に取得できる休業のことを指します。
かつての育児休業制度では、育児休業を分割で取得することは原則不可でした。しかし、改正法が2022年10月1日に施行され、現在は分割して2回取得できるようになっています。
育児休業の申出期限は、原則1カ月前までです。分割して取得する場合は、取得の際にそれぞれ申し出る必要があります。
出典:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律 第5条 | e-Gov法令検索
育児休業給付金の支給要件
育児休業給付金は、以下の要件を満たすことで支給されます。
1歳未満の子を養育するために、育児休業を取得した被保険者であること
休業開始日前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある(ない場合は賃金の支払いの基礎となった時間数が80時間以上の)完全月が12カ月以上あること
一支給単位期間中の就業日数が10日以下または就業した時間数が80時間以下であること
出典:育児休業給付の内容と支給申請手続 PDF7枚目 | 厚生労働省
有期雇用労働者については、「引き続き雇用された期間が1年以上」という取得要件もありました。しかし、改正法施行後はこの部分が撤廃され、「1歳6カ月までの間に労働契約が満了することが明らかでない」のみとなっています。
給付金支給期間は2歳まで延長可能
保育所利用の希望を出していながら、当面の間保育所を利用できないことが分かっている場合、職場への復帰は難しいでしょう。このようなケースでは、子どもが1歳6カ月または2歳になるまで、育児休業の給付金支給期間を延長できます。
期間の延長を希望する際は、延長できる理由ごとに確認書類が必要です。例えば、保育所の利用が当面の間難しい場合は、市町村が発行した入所保留の通知書などを提出しなければなりません。
なお、給付金支給期間の延長手続きは、1歳と1歳6カ月になるタイミングのそれぞれで必要です。2歳まで延長する場合、延長希望の手続きを2回行うことになります。
出典:育児休業給付の内容と支給申請手続 PDF17枚目 | 厚生労働省
産後パパ育休について
産後パパ育休(出生時育児休業)とは、子どもが生まれてから8週間以内に、最長4週間の育休を2回まで分割して取得できる制度です。男性の育児参加を促進するために、改正法で新設されています。
改正法施行前は、「パパ休暇」と呼ばれる制度が設けられていました。パパ休暇では出産後に1回しか育休を取得できませんでしたが、産後パパ育休では時期を分けて休めるようになっています。
労使協定を締結していれば休業中に就業できることも、産後パパ育休の大きなポイントです。分割取得と併用することで、子どもが生まれた後もより柔軟に働けます。
なお、産後パパ育休で休みを分割取得したい場合は、最初にまとめて申し出を行わなければなりません。
出典:育児休業給付の内容と支給申請手続 PDF2枚目 | 厚生労働省
パパ・ママ育休プラスとは?
育児休業制度の内容をおさらいできたら、パパ・ママ育休プラスについて理解を深めていきましょう。取得要件や申請方法など、制度の概要を紹介します。
育児休業可能期間が延長される制度
パパ・ママ育休プラスは、育児休業の可能期間を通常の子どもが1歳になるまでから、1歳2カ月まで延長できる制度です。この制度は2010年に施行され、特に男性の育児参加を促進する目的があります。
通常の育児休業制度では、父親でも母親でも、子どもが1歳になるまでの間しか休業を取ることができません。しかし、パパ・ママ育休プラスを利用することで、父親の休業期間を1歳2カ月まで延長できるため、この追加の2カ月間を使って母親の職場復帰をサポートすることが容易になります。
なお、育児休業制度では、父母それぞれが取得できる休業期間は最大で1年間です。パパ・ママ育休プラスを利用しても、全体の最大取得可能期間が1年2カ月に延長されるわけではありません。
出典:改正育児・介護休業法のあらまし PDF9枚目 | 厚生労働省
パパ・ママ育休プラスの適用要件
パパ・ママ育休プラスは、以下3つの要件を満たすことで適用されます。
育児休業開始日が、当該子の1歳に達する日の翌日以前であること
育児休業開始日が、配偶者が取得している育児休業期間の初日以後であること
配偶者が当該子の1歳に達する日以前に育児休業を取得していること
出典:育児休業、産後パパ育休や介護休業をする方を経済的に支援します PDF4枚目 | 厚生労働省
つまり、既に育休を取得している配偶者より後に育休を取得すれば、基本的にはパパ・ママ育休プラスの対象になります。
育児休業自体は夫婦の片方が専業主婦(主夫)でも取得できますが、パパ・ママ育休プラスは共働きでなければ利用できません。どちらも育児休業を取得することが、パパ・ママ育休プラス適用の前提となります。
パパ・ママ育休プラスの適用例
パパ・ママ育休プラスを利用すれば、さまざまなパターンで育児に取り組むことが可能です。代表的な適用例を紹介します。
- 子どもが1歳になるまで母親のみ育休を取得し、母親が職場復帰したら父親が1歳2カ月まで育休を取得する
- 母親の育休中に父親も育休を取得し、夫婦で長期間子育てを行う(育休の同時取得が可能)
- 母親が産後しばらくしてから職場復帰し、祖父母に子どものお世話を任せて夫婦ともに働く期間を経て、父親が1歳2カ月まで育休を取得する(育休が夫婦で連続する必要はない)
このように、育児休業の分割取得とパパ・ママ育休プラスを上手に組み合わせて利用すれば、家族構成や働き方に合わせて柔軟に育児を進められます。
申請方法と必要書類
パパ・ママ育休プラスの申請時には、主に以下の書類の準備が必要です。
被保険者の配偶者であることが確認できる書類
被保険者の配偶者の育児休業の取得を確認できる書類
出典:「パパ・ママ育休プラス」「延長交替」時の必要書類 | ハローワーク飯田橋 雇用継続課
前者の書類は「世帯全員について記載された住民票の写し」など、後者の書類は「配偶者の育児休業取扱通知書の写し」などです。
自分で申請することも可能ですが、一般的には勤務先を通して申請します。上記の書類が用意できたら勤務先に提出し、申請手続きを行ってもらいましょう。
パパ・ママ育休プラスの申請期限は、育休開始予定日の1カ月前です。ただし、勤務先の状況により手続きに時間がかかることもあるため、早めに相談しましょう。
パパ・ママ育休プラス期間中の育児休業給付金
育児休業期間中は、所定の給付金が支給されます。パパ・ママ育休プラスを利用する場合、給付金はどうなるのでしょうか?
支給額は通常の育児休業給付金と同じ
パパ・ママ育休プラスは、あくまでも通常の育児休業における期間を、延長できる制度です。パパ・ママ育休プラス自体に給付金があるわけではないため、通常の育児休業給付金と同じ金額が支給されます。
育児休業給付金の基本的な支給額は、次の通りです。
- 休業開始時賃金日額×支給日数×67%(育児休業開始から181日目以降は50%)=支給額
また、支給額には上限と下限があり、給付率により異なります。
(給付率67%)支給上限額 310,143円 支給下限額 55,194円
(給付率50%)支給上限額 231,450円 支給下限額 41,190円
出典:育児休業給付の内容と支給申請手続 PDF10枚目 | 厚生労働省
上記の支給下限額は、育児休業期間中に会社から給与が支払われなかった場合の金額です。育児休業期間中に支払われた給与の金額によっては、上記の金額を下回ることがあります。
健康保険料と厚生年金保険料は免除される
パパ・ママ育休プラスおよび育児休業期間中は、健康保険料と厚生年金保険料の本人負担分および会社負担分が免除されます。健康保険の給付は、通常通り受けることが可能です。
保険料免除の手続きは、会社が担当しますので、従業員が個別に行う必要はありません。会社は「育児休業等取得者申出書」を年金事務所または健康保険組合に提出することで、手続きが完了します。
さらに、パパ・ママ育休プラスおよび育児休業期間中に会社から給与が支給されない場合、雇用保険料も免除されます。
出典:育児休業、産後パパ育休や介護休業をする方を経済的に支援します PDF2枚目・7枚目 | 厚生労働省
パパ・ママ育休プラスの育児休業給付金支給例
パパ・ママ育休プラスを利用中に、育児休業を延長する場合は、休業の取得状況により給付金の取り扱いが異なってきます。代表的な4つのパターンで、給付金の支給例を見ていきましょう。
なお、いずれのケースでも延長事由を満たさない場合は、給付金の対象となる育児休業を延長できないことに注意が必要です。
出典:育児休業給付の内容と支給申請手続 PDF17枚目 | 厚生労働省
父母のどちらかにパパ・ママ育休プラスが適用されるケース
- 母親:産前・産後休業の後に育児休業を取得、子どもが1歳になったら育児休業を延長
- 父親:母親が1回目の育児休業を取得した後に育児休業を取得(子どもが1歳2か月に達する日前までの期間)
母親の1回目の育児休業が上限の1年に達しているため、2回目の育児休業はパパ・ママ育休プラスの対象にはなりませんが、育児休業給付金の支給対象になります。
父親の育児休業は、育児休業開始日が母親の育児休業の初日以後であり、子どもが1歳になる前に始まっているため、パパ・ママ育休プラスの対象です。子どもが1歳2カ月になるまでの間、通算1年間を上限として育児休業給付金が支給されます。
- 母親:育児休業を数カ月取得した後職場に復帰、子どもが1歳になる前に育児休業を再取得
- 父親:子どもが1歳になるまで育児休業を取得、その後延長
母親の2回目の育児休業はパパ・ママ育休プラスの対象ですが、父親の2回目の育児休業(延長分)は対象外です。父母ともに、全ての育児休業が給付金の対象になります。
父母のどちらにもパパ・ママ育休プラスが適用されるケース
- 母親:産前・産後休業の後すぐに育児休業を取得、職場復帰を挟んで子どもが1歳になる前に育児休業を再取得
- 父親:母親の1回目の育児休業中に育児休業を取得、職場復帰を挟み、母親の2回目の育児休業中で子どもが1歳になる前に育児休業を再取得
母親の2回目の育児休業は子どもが1歳になる前に取得しており、父親の1回目の育児休業取得後に始まっているため、パパ・ママ育休プラスの対象です。
父親の2回目の育児休業も子どもが1歳になる前に取得しており、母親の2回目の育児休業取得後に始まっているため、パパ・ママ育休プラスの対象となります。
父母ともに、全ての育児休業が給付金の対象です。
パパ・ママ育休プラスの対象外となるケース
- 母親:産前・産後休業の後すぐに育児休業を取得、職場復帰を挟んで子どもが1歳になる前に育児休業を再取得
- 父親:母親の2回目の育児休業中に育児休業を取得、母親の2回目の育児休業が終わる前に職場復帰
母親の2回目の育児休業は、父親の育児休業が始まる前に取得しているため、パパ・ママ育休プラスの対象にはなりません。2回目の育児休業は、子どもが1歳になるまでしか取得できないことになります。
この場合、子どもが1歳になった後も母親が育児で休みたいのなら、育児休業の延長を申請する必要があります。
また、このケースで母親の2回目の育児休業にパパ・ママ育休プラスを適用させたい場合は、父親の育児休業開始日を母親の2回目の育児休業開始日前に設定しなければなりません。
1歳6カ月まで育児休業を行うケース
- 母親:産前・産後休業の後すぐに育児休業を取得、職場復帰を挟んで子どもが1歳2カ月になる前から1歳6カ月になる日まで育児休業を再取得
- 父親:母親の1回目の育児休業中に、子どもが1歳2カ月になるまで育児休業を取得
父親の育児休業はパパ・ママ育休プラスの適用要件を満たしているため、1歳2カ月まで休業期間を延長できます。全ての期間において、育児休業給付金の対象です。
母親の2回目の育児休業については、1歳2か月に達する日前までの分は支給対象になりません。いつから延長を開始するかにより、支給対象となる期間が異なります。
なお、育児休業を3回取得した場合、3回目の育児休業は原則として給付金の支給対象外です。ただし、以下の除外事由に該当する場合は、回数制限から除外されます。
・別の子の産前産後休業、育児休業、別の家族の介護休業が始まったことで育児休業が終了した場合で、新たな休業が対象の子または家族の死亡等で終了した場合
・育児休業の申し出対象である1歳未満の子の養育を行う配偶者が、死亡、負傷等、婚姻の解消でその子と同居しないこととなった等の理由で、養育することができなくなった場合
・育児休業の申し出対象である1歳未満の子が、負傷、疾病等で2週間以上の期間にわたり世話を必要とする状態になった場合
・育児休業の申し出対象である1歳未満の子について、保育所等での保育利用を希望し、申込みを行っているが、当面それが実施されない場合
出典:育児休業給付の内容と支給申請手続 PDF8枚目 | 厚生労働省
パパ・ママ育休プラスを上手に活用しよう
パパ・ママ育休プラスは、育児休業期間を通常の1歳までから1歳2カ月まで延長できる制度です。これにより、夫婦間での職場復帰支援がしやすくなるため、育児と仕事のバランスを取りやすくなります。
この制度は元々、男性の育児参加を促進するために始まりましたが、特定の条件を満たすことで母親も利用可能です。例えば、育児休業を分割して取得し、パパ・ママ育休プラスを利用すれば、夫婦それぞれが最大1歳2カ月まで育児休業を取ることが可能です。
育児休業に関する十分な理解があれば、パパ・ママ育休プラスの活用も容易になります。子どもが生まれた後も安心して充実した育児を送るために、出産や育児に関する制度への理解を深め、適切に活用しましょう。