近年、人材不足を解消するために、多能工を育成する企業が増えています。しかし、多能工という言葉を聞いたことはあっても、意味を詳しく知らない人も多いのではないでしょうか。多能工が注目される理由や、メリット・デメリットについて解説します。
多能工とはどういう意味?
製造業などの現場では、以前から多能工という言葉が使われています。どのような意味なのか、具体的に見ていきましょう。
1人で複数の業務や作業を行うこと
多能工とは、1人の従業員が複数の異なる業務・作業を行うことや、複数の業務をこなす技術・技能を身に付けた人材を指します。「マルチスキル」とも呼ばれ、もともとは製造業などの生産現場で使われていた言葉です。
工場のラインを効率的に稼働させるなど、工場の生産性向上に向けた手法として活用されていましたが、現在では他の業界からも注目されるようになりました。
なお、多能工とは反対の意味を持つ「単能工」という言葉もあります。単能工とは、1人が1つの定められた業務を担当することです。また、複数の技術・技能を身に付けるのではなく、1つのスキルを専門的に活用することを意味します。
多能工が注目される理由
多能工が多くの業界で注目されるようになったのはなぜでしょうか。主な理由を3つ紹介します。
生産性の向上につながるため
生産性の向上につながるというのが、理由の1つです。1人の従業員が複数の作業を行えるようになると、業務量の偏りがある部署などにおいても、状況に応じた柔軟な人員配置が可能になります。
例えば、業務内容によっては、特定の時間帯・時期などに業務が集中することもあります。多能工化を推進すれば、業務量の変動に応じて必要な人員を配置できるようになり、効率的に作業を進められるでしょう。
また、1人が複数の業務スキルを身に付けることで、自分の業務を終えた後に他の人の仕事を手伝えるため、全体的な作業時間の短縮にもつながります。
安定的な事業継続が可能になるため
多能工化を進めると、限られた従業員に業務を依存することがなくなるため、業務の属人化を防げます。特定の従業員の異動や離職などがあっても、他の人が対応できれば業務が滞ることはありません。
また、業務の専門性が高く熟練した従業員に頼りがちな場合は、技術・技能を引き継ぐ次世代の人材を育成することが必要です。
業界にかかわらず、成果物の品質を一定に保つことが、顧客からの信頼につながります。多能工を育成することで、技術・技能の伝承が可能になり、安定的に事業を継続していけるでしょう。
働き方改革の推進につながるため
働き方改革の推進が期待できるという理由もあります。働き方改革とは、労働者が個々の事情に応じて、柔軟な働き方を選択できるようにすることを目的としているものです。
多能工によって業務を効率化できれば、働き方改革で課題となる長時間労働の改善につながります。長時間労働の改善に取り組むことで、生産性の低下が課題となる企業も少なくありません。
しかし、多能工化を推進すると、効率的に業務を進められるようになるため、作業時間の短縮が可能になります。結果として、長時間労働の改善による生産性低下という課題も解消できるでしょう。
多能工として働くメリットは?
多能工は、働く側にとってはどのような利点があるのでしょうか。多能工として働く、主なメリットを紹介します。
業務を1人で負担しなくてよい
多能工の利点は、1人の従業員が複数の業務を行うことによる、業務の平準化です。結果として、業務内容による負荷の偏りが解消され、1人の従業員にかかる負担が軽減されるというメリットにつながります。
突発的な業務量の増加があったときにも、他の従業員に応援してもらえるので、1人で負担する必要がありません。
また、特定の従業員だけしか業務を行えない場合、休みを取りにくいという問題も起こりやすくなります。しかし、多能工化が進んでいる職場では、自分が不在でも他の従業員が業務をカバーしてくれるため、有給休暇などを取得しやすくなるでしょう。
スキルアップできる
働きながらスキルアップできるのも、メリットの1つです。自分の担当以外の業務にも携わることで、さまざまなスキルを習得できます。
例えば、スーパーなどの小売業では、品出し担当が夕方のピークタイムに、レジ係の応援に入ることも珍しくありません。品出しとレジ打ちを兼務することで、両方の業務に必要なスキルが身に付くでしょう。
多くの業務に携わることによって、実務経験の実績が増えれば、キャリアアップを目指した転職にも役立つ可能性があります。
職場のチームワークが向上する
同じ業務を複数の従業員でカバーしながら取り組むため、職場のチームワークが向上するというメリットもあります。自分の業務だけを行っていると、他の従業員がどのような仕事をしているか把握するのは難しいものです。
しかし、多能工としてさまざまな業務に関わることで、他の従業員の苦労などについても理解できるようになるでしょう。従業員同士の間に、お互いを思いやる気持ち・連帯感が生まれれば、職場全体の雰囲気も良くなります。
多能工として働くデメリット
多くのメリットがある一方で、デメリットを感じる人もいます。どのようなデメリットがあるのか、詳しく見ていきましょう。
複数のスキルを身に付けるまで時間がかかる
新しい仕事を覚えたり、複数のスキルを身に付けたりするには、ある程度の時間が必要です。OJTや定期的な研修などを行わなければならず、面倒に感じる人もいるでしょう。
場合によっては、自分には向かない業務を覚えなければならず、他の人より時間がかかってしまうこともあるかもしれません。しかし、複数の技術・技能を習得できれば、自分の強みになります。
さまざまな場面で生かせるスキルが身に付けば、キャリアの幅も広がるでしょう。焦らずに、1つずつ仕事を覚えていこうという気持ちを持つことが大切です。
モチベーションを維持できない可能性もある
複数の業務を学ばなければならないことを、負担に感じる人もいます。人員不足などによって、自分がやりたくない業務の応援に回されることもあり、嫌々ながら仕事をするといったケースも起こり得るでしょう。
また、会社の都合で無理やり仕事を増やされていると感じ、不満を抱く人もいるかもしれません。多能工として働くことを理解せずに入社してしまうと、仕事に対するモチベーションを維持できず、早期離職などにつながる可能性もあるため注意が必要です。
専門性を高めにくい
多能工は、複数の業務をこなすための技術・技能を習得するもので、単能工のように1つの業務に対して専門性を高める働き方ではありません。
そのため、自分の強みとして専門性の高さをアピールしたい人にとっては、メリットを感じられないことも多くあります。また、1つの仕事に専従したい人にも、向いていない働き方といえるでしょう。
しかし、昨今では組織の生産性を重視し、多能工化を進める企業が増える傾向にあります。多能工と単能工のメリットを比較しつつ、自分に合った働き方を見いだすことが大切です。
多能工として働くには?
多能工を目指すためには、どのような準備や取り組み方が必要になるのでしょうか。主なポイントを、2つ挙げて解説します。
スキルや業務を棚卸しする
まず、自分のスキルを棚卸しすることから始めましょう。そのためには、現在担当している業務内容を洗い出すことがおすすめです。
一連の作業のうち、一部分だけを担当している場合などは、区分や工程などに分けて洗い出します。スキルマップを活用して、自分にできる業務を可視化するのもよいでしょう。
「1人では作業が難しい」「時間をかければ1人で作業できる」「他者にも指導できるほど熟知している」など、レベル別に分けると現状を把握しやすくなります。
多能工化の目的を理解して取り組む
仕事へのモチベーションを維持しながら働くには、まず多能工の目的などについて理解しておく必要があります。多能工は、企業だけでなく、従業員にとってもメリットのある働き方です。
例えば、業務が効率化されることで残業時間が減少するほか、1人の従業員にかかる負荷が減って、理想的なワークライフバランスが実現する可能性もあるでしょう。
また、技術・技能を習得する際は、だらだらと時間をかけないことも大切です。自分が保有しているスキル・適性を踏まえて、計画的に学んでいくことが必要です。
多能工に必要な資質
多能工は、従業員にとってもメリットがあるとはいえ、全ての人に向いているとは限りません。必要とされる主な資質を、2つ挙げて紹介します。
コミュニケーション能力
複数の従業員が協力して業務を進めるため、コミュニケーション能力が必須です。多能工化には、職場のチームワークが向上するというメリットがあります。
しかし、そのためには従業員同士が、うまくコミュニケーションを取れていなければなりません。例えば、業務内容に関して疑問点があったときは、自分から積極的に聞きにいくことが大切です。
また、多能工の教育課程では、上司との1on1でスキルの習得状況を確認されたり、業務の範囲・内容が負担になっていないか聞かれたりすることもあります。そういった場面で自分の状況を分かりやすく伝えるためにも、コミュニケーション能力が必要です。
新しい知識やスキルを学ぶ意欲
複数の業務を行うための技術・技能を習得するには、新しい知識・スキルを学ぼうという意欲が必要です。多能工化を推進している職場では、できるだけ多くの業務に携われる人材が重宝されます。
しかし、そのような人材になるためには、それだけ多くの技術・技能を学ばなければならないということです。好奇心が旺盛で、新しい知識を学ぶことに抵抗がない人は、研修・教育を受ける段階でもそれほど苦労を感じないでしょう。
ただし、ただ覚えるだけでなく、仕事として安心して任されるレベルまで技術・技能を磨くことが大切です。
多能工化が進んでいる業界
多能工化は、現在さまざまな業界で注目されています。中でも、特に活用が推進されている業界を3つ紹介します。
製造業
製造業では、製品をできるだけ速く、かつ大量に生産するために、多能工の存在が欠かせません。工場などの製造現場では、機械の稼働率が生産性に大きく影響します。
例えば、機械のセッティングを行える人が1人しかいない場合、生産ラインの組み替え待ちやトラブル発生時の対応待ちなどで、時間的ロスが多くなります。
しかし、多能工化によって誰もが機械をセッティングできるようになれば、ラインの組み替えや突発的なことにも対応しやすく、稼働率のアップにつながるでしょう。
また、柔軟な人員配置が可能になったことによって、人件費などのコスト削減に成功した例もあります。
ホテル業
ホテル業界では、ユーザーのニーズが多様化しており、競合他社との差別化を図るためにも、生産性の向上や質の高いサービスの提供が必要です。しかし、一方で人手不足の課題が深刻化しているという状況もあり、多能工化の推進が求められます。
ホテル業は、業務内容によって繁閑の時間帯が明確に分かれているのが特徴です。例えば、フロント業務の仕事は、チェックイン・チェックアウトで混み合う時間帯に集中します。
フロント担当の従業員が、その他の業務も兼任できれば、仕事の繁閑に合わせて柔軟な人員配置が可能になり、人手不足の課題解消につながるでしょう。
流通業
スーパーをはじめとする流通業でも、多能工化に成功している企業が多くあります。スーパーでは、多能工化によって品出し・総菜係・レジ担当などの業務を、平準化する例が珍しくありません。
例えば、早朝や来客の少ない午前中はレジ担当が品出し業務を手伝ったり、買い物で混み合う時間帯に、他の部門からレジ打ちの応援に来てもらったりするのが一般的です。
このように、1人の従業員が複数の業務を兼務できれば、生産性の向上が可能になります。ほかにも、多能工化を進めて書き入れ時の売り切れ発生を防いだところ、売り上げがアップした例もあるようです。
多能工でスキルアップを目指そう
複数の業務を行う技術・技能を身に付けた多能工は、製造業をはじめとする、さまざまな業界で注目されています。
生産性の向上・安定的な事業継続といった企業側のメリットだけでなく、スキルアップや業務負荷の軽減など、従業員にとっても魅力のある働き方です。幅広いスキルを身に付けたい人や、多くの業務を経験したい人に向いているといえるでしょう。
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