毎月の給与と同様に、ボーナスからも税金と社会保険料が天引きされます。内訳や計算方法を理解しておけば、手取りをいくらもらえるのか把握しやすくなるでしょう。具体的な計算のやり方や、ケース別のシミュレーションをご紹介します。
ボーナスから引かれる税金は?
ボーナスには、所得税・復興特別所得税がかかります。給与と違い、住民税は引かれないことも確認しておきましょう。
所得税・復興特別所得税
ボーナスから差し引かれる税金は、所得税・復興特別所得税です。所得税は毎月の給与と同じく、源泉所得税の形で徴収されています。
所得税は1年間の所得にかかる税金であり、正確な税額は年間所得が確定しなければ分かりません。概算で割り出した源泉所得税を、あらかじめ給与やボーナスから天引きし、年間所得が確定したら年末調整で税金の過不足分を精算します。
東日本大震災の復興に活用される復興特別所得税は、『所得税額×2.1%』の計算式で算出されます。2037年12月31日まで徴収される税金です。
住民税は引かれない
毎月の給与からは、所得税・復興特別所得税に加え、住民税も天引きされています。一方、ボーナスからは住民税が差し引かれていません。
所得税が『その年』の所得にかかる税金であるのに対し、住民税は『前年』の所得に発生する税金です。前年の所得は既に確定しているため、住民税は概算で割り出す必要がなく、納付年の税額を最初から正確に計算できます。
前年分の住民税を前もって12分割したものを、『毎月の給与から天引きする』のが住民税です。給与以外の収入からは住民税を差し引く必要がないため、ボーナスからも住民税は引かれないことになります。
ボーナスは社会保険料も引かれている
ボーナスからは税金だけでなく、社会保険料も差し引かれています。社会保険料の内訳と、それぞれの具体的な内容を解説します。
健康保険料
日本は、国民皆保険制度を導入している国です。全ての国民が公的医療保険に加入する必要があり、会社員の場合は組合健保や協会けんぽに加入しています。
健康保険料の金額は、加入している保険の種類や加入者の収入などにより異なります。扶養家族分の健康保険料を支払う必要はなく、被保険者1名分の保険料で済むことが特徴です。
40歳になると、健康保険料に加えて介護保険料も支払わなければなりません。介護保険とは、主に介護を必要とする65歳以上(または特定疾病に該当する40~64歳まで)の人を社会全体で支える仕組みの制度です。
介護保険料は、加入している健康保険の保険料と一緒に差し引かれます。保険の種類や収入により保険料が異なるのは、健康保険料と同じです。
厚生年金保険料
日本の公的年金制度においては、20歳以上60歳未満の全ての人が『国民年金』に加入しなければなりません。会社員や公務員は、国民年金と併せて『厚生年金』にも加入しています。
会社員が自営業より老後の年金を多めにもらえる理由は、国民年金に厚生年金が上乗せされているためです。現役時代に国民年金と厚生年金の保険料を支払い続けることで、老後に受け取れる年金額も多くなります。
会社員の給与やボーナスから差し引かれる厚生年金保険料は、国民年金保険料分が含まれて計算されています。保険料の金額は、収入が多くなるほど高くなります。
雇用保険料
雇用保険は、主に失業した人の生活をサポートするための保険です。一定の条件を満たすして働く場合は、原則として雇用保険に加入しなければなりません。
失業給付や育児休業給付などは、雇用保険料を原資として支払われるものです。給与やボーナスから引かれる雇用保険料の金額は、事業の種類や年度ごとに決まる保険料率により変わります。
会社と従業員が折半で負担する健康保険料や厚生年金保険料と違い、雇用保険料は会社負担の割合が大きいことが特徴です。
なお、労働者の雇用や生活を守るための保険には、雇用保険のほかに労災保険もあります。労災保険料は会社が全額を負担するため、給与やボーナスからは差し引かれません。
ボーナスから引かれる金額の計算方法
ボーナスから差し引かれる税金と社会保険料は、計算式を使って求めることが可能です。それぞれの計算方法を紹介します。
所得税の計算式
ボーナスにかかる所得税は、『(ボーナス-社会保険料)×源泉徴収税率』の計算式で求められます。社会保険料は、健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料の合計額です。
源泉徴収税率は、国税庁が公表する『賞与に対する源泉徴収額の算出率の表』で確認できます。税率を確かめるためには、ボーナス支給月の前月の給与から社会保険料を差し引いた金額を計算しておかなければなりません。
ボーナスの源泉徴収税率は、前月の給与金額が多いほど高くなり、扶養親族が多いほど低くなります。所得税を計算する際は、自分の税率を国税庁の表でチェックしましょう。
参考:賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表(令和4年分) | 国税庁
各種社会保険料の計算式
健康保険料の計算式は『ボーナス(1000円未満切り捨て)×健康保険料率×1/2』です。保険料率は、勤務地や加入組合により異なります。例えば、40歳以上で協会けんぽ(東京支部)に加入している場合、保険料率は11.82%です。
厚生年金保険料は『ボーナス(1000円未満切り捨て)×18.3%×1/2』の計算式で求められます。現在の保険料率は18.3%で固定されていますが、今後引き上げられる可能性もあります。
雇用保険料の計算式は『ボーナス×労働者負担率』です。2023年4月1日から2024年3月31日の労働者負担率は『0.6%』と決められています。
参考:
令和4年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表 | 協会けんぽ | 全国健康保険協会
令和4年度雇用保険料率のご案内 | 厚生労働省
【ケース別】手取り額のシミュレーション
ボーナスの手取り額を、ケース別にシミュレーションします。東京都勤務・協会けんぽ加入を条件とし、以下に挙げるケースでいくらになるのか見ていきましょう。
なお、税率や保険料率は以下の各種資料を参考にしています。
参考:賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表(令和4年分) | 国税庁
参考:令和4年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表 | 協会けんぽ | 全国健康保険協会
20代・独身
20代・独身・ボーナス40万円・前月給与額24万円の場合、ボーナスにかかる社会保険料は次のようになります。
- 健康保険料:40万円×10.00%×1/2=2万円
- 厚生年金保険料:40万円×18.3%×1/2=3万6600円
- 雇用保険料:40万円×0.6%=2400円
ボーナスにかかる社会保険料の合計は、『2万円+3万6600円+2400円=5万9000円』です。
また、前月の給与にかかる社会保険料は、以下のように計算できます。
- 健康保険料:24万円×10.00%×1/2=1万2000円
- 厚生年金保険料:24万円×18.3%×1/2=2万1960円
- 雇用保険料:24万円×0.6%=1440円
前月の給与から社会保険料を差し引いた金額は『24万円-(1万2000円+2万1960円+1440円)=20万4600円』となるため、源泉徴収税率は4.084%です。ボーナスにかかる所得税は『(40万円-5万9000円)×4.084%=1万3926円』となります。
よって、ボーナスの手取り額は『40万円-1万3926円-5万9000円=32万7074円』です。
30代・扶養家族数1人
30代・扶養家族1人・ボーナス60万円・前月給与額30万円の場合、ボーナスにかかる社会保険料は以下の通りです。
- 健康保険料:60万円×10.00%×1/2=3万円
- 厚生年金保険料:60万円×18.3%×1/2=5万4900円
- 雇用保険料:60万円×0.6%=3600円
社会保険料の合計は『3万円+5万4900円+3600円=8万8500円』となります。
前月給与にかかる社会保険料も計算しましょう。
- 健康保険料:30万円×10.00%×1/2=1万5000円
- 厚生年金保険料:30万円×18.3%×1/2=2万7450円
- 雇用保険料:30万円×0.6%=1800円
前月給与から社会保険料を引いた金額は『30万円-(1万5000円+2万7450円+1800円)=25万5750円』となるため、源泉徴収税率は4.084%です。ボーナスにかかる所得税は『(60万円-8万8500円)×4.084%=2万889円』となります。
よって、ボーナスの手取り額は『60万円-2万889円-8万8500円=49万611円』です。
40代・扶養家族数2人
40代・扶養家族2人・ボーナス100万円・前月給与額41万円の場合、ボーナスにかかる社会保険料は次のようになります。
- 健康保険料:100万円×10.00%×1/2=5万円
- 厚生年金保険料:100万円×18.3%×1/2=9万1500円
- 雇用保険料:100万円×0.6%=6000円
社会保険料の合計は『5万円+9万1500円+6000円=14万7500円』となります。
前月給与にかかる社会保険料は以下の通りです。
- 健康保険料:41万円×10.00%×1/2=2万500円
- 厚生年金保険料:41万円×18.3%×1/2=3万7515円
- 雇用保険料:41万円×0.6%=2460円
前月給与から社会保険料を差し引いた金額は『41万円-(2万500円+3万7515円+2460円)=34万9525円』となるため、源泉徴収税率は6.126%です。ボーナスにかかる所得税は『(100万円-14万7500円)×6.126%=5万2224円』となります。
よって、ボーナスの手取り額は『100万円-14万7500円-5万2224円=80万276円』です。
社会保険料が引かれ始めたのはいつから?
かつては、ボーナスから健康保険料と厚生年金保険料が引かれていませんでした。いつから、どのような理由で引かれ始めたのかを解説します。
総報酬制の導入がきっかけ
ボーナスから健康保険料と厚生年金保険料が引かれるようになったのは、『総報酬制』が導入された2003年からです。
総報酬制の導入前は、健康保険料と厚生年金保険料を、毎月の給与をベースに計算していました。しかし、月給のみをベースにすると、年収が同一の場合にボーナスが多い人ほど保険料負担が軽くなるという矛盾が発生してしまいます。
保険料負担の不公平を是正する目的で導入されたのが、総報酬制です。給与に加えボーナスも保険料の対象にすることで、保険料の負担割合に対する不公平が解消されています。
納めすぎた税金は還付される
ボーナスから天引きされた源泉所得税は、年末調整で戻ってくることがあります。納めすぎた税金が還付されるケースを確認しましょう。
税金が年末調整で戻ってくるケース
ボーナス支給月の前月に残業が増えて給与が多くなった場合、税金の還付を受けることがあります。ボーナスの源泉徴収税率は、前月の給与で決まるためです。
普段の月給より前月の給与が多いと、年間所得による税率よりボーナスの源泉徴収税率が高くなるケースがあります。税金を納めすぎている場合、年末調整で戻ってくるのです。
ボーナス支給後に子どもが16歳以上になったり、結婚したりと扶養家族が増えたケースでも、納めすぎた所得税の還付を受けられることがあります。
給与形態によっては追加徴税されることも
通常の給与が安く、ボーナスが高い給与形態の場合、前月の給与額を基準にした源泉徴収税率が低くなるため、不足分を年末調整で追加徴税されることがあります。
ボーナス支給月の前月に何らかの理由で給与が少なくなった場合も、納税額の不足が発生しかねません。年末調整で還付を受けられるケースと逆のパターンです。
ボーナス支給後に子どもが結婚・就職して扶養家族が減ったり、離婚して控除対象配偶者がいなくなったりしたケースでも、追加徴税されることがあります。
ボーナスから引かれるお金を計算してみよう
ボーナスからは、税金と社会保険料が引かれます。ボーナスにかかる税金は所得税・復興特別所得税、社会保険料は健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料です。
差し引かれる税金や保険料は、自分で計算すれば求められます。具体的な計算式を覚え、自分の状況に当てはめて手取りをいくらもらえるのかシミュレーションしてみましょう。
就業規則など社内諸規程作りのプロフェッショナル。人事労務コンサルタント・特定社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー(AFP)。企業人時代を含め通算24年の人事コンサルを経験。一部上場企業から新設企業までを支援。セミナー講師、雑誌・書籍の執筆実績も多数。
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