給料未払いによるトラブルはどこに相談する?正しい手順で対処しよう

入る予定の給料が振り込まれていないと、困惑するでしょう。生活危機に陥るほど深刻な問題にもなりかねません。給料未払いが発覚したときに相談できる場所や、注意点について解説します。給料未払いの請求方法も紹介するので、チェックしましょう。

給料未払いは泣き寝入りするしかない?

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(出典) photo-ac.com

給料が振り込まれなかったとき、会社に連絡しても対応してもらえない場合があります。そんなときは、泣き寝入りするしかないのでしょうか?

給料未払いに対して法律ではどのように定められているのか、チェックしておきましょう。

給料未払いは罰則対象!立派な違法行為

給料未払いは、れっきとした違法行為です。会社都合で未払いになったり、支給が遅れたりすれば、罰則の対象にもなります。

『労働基準法第二十四条(賃金の支払)』では、以下のように定められています。

賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。
賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。

会社側は労働者に対して、あらかじめ決められた日に、賃金を全額支払わなければいけません。たとえ業績が悪化して支払うのが難しい状況でも、未払いや延滞が起きれば30万円以下の罰金に科せられる可能性があります。

給料未払いが違法行為になる以上は泣き寝入りせず、しっかり対応してもらうようにしましょう。

引用:労働基準法 | e-Gov法令検索

給料未払いが発覚したときに相談できる場所

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上司や経理部署に相談しても給料が振り込まれない場合は、これから紹介する場所に相談してみましょう。専門的なアドバイスがもらえるので、解決へと近づけるはずです。

①労働組合

労働組合とは、その会社に勤める労働者たちで結成されている団体です。会社に労働組合がある場合は相談してみましょう。待遇や労働環境の維持改善を図ることを目的としており、労働者側にトラブルや相談があれば随時対応し、組織として解決へと動いてくれます。

労働組合の役員は、同じ職場で働く労働者なので、相談しやすいことがメリットです。また、職場のことを理解しているので、詳しく説明しなくても伝わりやすいでしょう。

ただし、組合幹部が会社側寄りになっている場合、十分な対応をしてもらえない可能性があります。さらに、労働組合は交渉や争議行為を起こすことはできますが、未払いの給料を回収できるほどの強制力はありません。

②総合労働相談コーナー

総合労働相談コーナーとは、厚生労働省が全国に設置する相談窓口です。給料未払いをはじめ、賃金の引下げや解雇、パワハラなどさまざまな労働問題に対応しています。

相談は予約不要で、面談または電話で受け付けており、無料で利用できることがポイントです。法律に基づいてアドバイスしてくれるので、何から対応すればよいの分からない人は、具体的な情報をたくさん得やすいでしょう。

また、法律違反の疑いがある場合は、『労働基準監督署』に事案を取り次いでもらえます。ただし、総合労働相談コーナーは解決のための情報を提供する場所であり、未払いの給料を強制的に回収することはできません。

総合労働相談コーナーで解決できない場合は、弁護士への依頼を検討する必要があります。

参考:総合労働相談コーナーのご案内|厚生労働省

➂法テラス

法テラス(日本司法支援センター)とは、法的トラブルを解決するために国が設立した総合案内所です。会社関係や金銭・家族・生活・住居など、刑事事件以外のあらゆるトラブルを弁護士や司法書士に相談できるので、具体的なアドバイスを得やすくなっています。

電話相談の場合は平日9~21時まで対応しており、収入や資産が一定額以下の人は、1回30分を目安に同一問題につき3回まで無料で利用できます。

法テラスは相談・案内をする機関なので、会社への指導・是正勧告など直接の介入はできません。誰に相談したらよいのか分からない人、専門家の助言を受けたい人におすすめの相談場所です。

参考:法テラス

④弁護士

弁護士は法律に基づいた助言や、代理人として法的手続きを行ってくれる心強い存在です。たとえ会社側が支払いに応じない場合でも、裁判を起こして判決をもらえば会社の財産を差し押さえて、給料の未払い分を強制的に回収できます。

また、弁護士は給料未払いの証拠がなくても相談に乗ってくれることもポイントです。手元に証拠がない場合でも諦めずに済むかもしれないので、一度相談してみるとよいでしょう。

ただし、弁護士に依頼する際には、着手金・報酬金が発生します。少なく見積もっても20万円前後はかかることが予想されるので、お金をかけてでも取り戻したい人や未払い金額が大きい人におすすめです。

⑤労働基準監督署

所轄している区域内の企業が、労働関係法令を遵守しているかを監督する行政機関です。

労働基準法に違反する企業に対しては勧告・指導、また悪質な場合は立ち入り検査・送検ができるなど、強い権限を持っていることが特徴です。労働基準監督署へは無料で相談できます。

ただし、給料未払いを示す明確な証拠がなければ、対応してもらうのは難しいでしょう。さらに、労働基準監督署には会社の財産を差し押さえる権限がありません。

会社側が支払いに応じない場合は、強制的に回収できないので、弁護士に依頼することになるでしょう。

相談する際の3つの注意点

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給料未払いがあっても、対応してもらえないケースもあります。主な注意点を把握し、適切に対応してもらえるようにしましょう。

警察では対応してくれない

給料の未払いは違法行為にあたるので、警察に相談すればよいと思う人もいるかもしれません。しかし、給料未払いは民事事件なので、警察は介入できないのです。

警察に相談しても、個人間のトラブルには介入できないことを理由に、断られてしまう可能性があるでしょう。

具体的なアドバイスを得られることもないので、最初から労働基準監督署や総合労働相談コーナー、法テラスなどの専門的な機関に相談した方がスムーズに進められます。

給料未払いの証拠が必要になる

相談先にスムーズに動いてもらうためには、給料未払いの事実を示す証拠が必要です。証拠がなければ、相談しても対応してもらえない可能性があります。

給料未払いがあったことを客観的かつ具体的に示せる証拠は、以下の通りです。

  • 給与明細書
  • タイムカード
  • 源泉徴収票
  • 雇用契約書
  • 労働条件通知書
  • 給料が振り込まれる預金通帳
  • 就業規則等
  • そのほか、給料未払いを示す証拠となる書類

手元に証拠となるものがない場合は、弁護士に相談しましょう。弁護士は会社に対して資料の開示請求ができるので、証拠を集められる可能性があります。

給料未払いには時効がある

給料未払いの請求権には時効があり、一般的には支払われるはずだった給料日から『3年間(賃金)』または『5年間(退職金)』です。

時効が進行するのは、例えば2020年4月1日に発生した給料の請求権は2023年3月31日で時効になります。

ただし、2020年4月より前に請求権が発生している未払い分については、請求できる期間は『2年間』なので要注意です。

時効を迎えてしまうと、もらうべき給料でも請求できなくなります。時効が成立する前に、早めの対応を心掛けましょう。

参考:未払賃金が請求できる期間などが延長されています| 厚生労働省

未払い給料の請求方法とは?

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会社に未払いの給料を請求する方法を解説します。流れを把握しておけば、焦らずに対応できるようになるので、しっかりチェックしておきましょう。

手順1.会社に内容証明郵便で請求書を送る

会社に連絡しても給料が支払われない場合、まずやるべきことは請求書を送って通知することです。請求書には、未払いがあること・未払いの金額・給料の振込先などを記載します。迅速に対応してもらえるよう、回答期限を記載しておくのもポイントです。

また、請求書は『内容証明郵便に配達証明を付けて送る』ようにしましょう。内容証明郵便で送ることで、送った事実や内容を証拠として残せるので、会社側は「受け取っていない」と言い逃れできなくなります。

労働基準監督署に提出する証拠の1つにもなるので、必ず内容証明郵便を利用しましょう。

手順2.労働基準監督署に申告する

請求書を送ったにもかかわらず何のアクションもない場合は、給料未払いの証拠を準備した上で労働基準監督署に申告します。労働基準監督署から指導が入れば、会社は事態の重大さを改めて認識し、支払ってくれる可能性が高くなるでしょう。

ただし、証拠が不十分の場合、労働基準監督署では対応してもらえない場合もあります。手元にある証拠が少ないときは、一度弁護士に相談して証拠を集めることから始めましょう。

労働基準監督署では強制的に支払いを命じることはできないので、指導に応じない場合は、法的措置を検討することになります。

手順3.法的措置を取る

最後まで会社が対応してくれない場合は、裁判所にて法的措置を取ることになります。弁護士を雇っていれば優位に進められる可能性は高いですが、必ずしも必要というわけではありません。

労働問題に関する法的措置には、主に以下5つの選択肢があります。

  • 民事調停:調停委員が中立の立場となって、双方の言い分を聞き入れて落としどころをつける。費用を抑えやすく、弁護士をつけずに進められる。
  • 労働審判:裁判官1名と労働審判員2名が間に入り、最大3回の審理で判決を出す。
  • 支払督促:裁判所から会社に、文書で支払いの請求を行う。
  • 少額訴訟:給料未払いの金額が60万円以下の場合に利用できる。原則一度の審理で判決が下されるので、長期化しにくい。
  • 通常訴訟:民事調停や労働審判などで決着がつかないときは、通常訴訟に移行できる。長期化しやすく、弁護士費用や訴訟費用など出費が増える。

いきなり裁判所に相談するのはハードルが高すぎると感じる人は、事前に法テラスに相談しておくとよいでしょう。

請求金額が少額の場合は?

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未払いの給料が数万円ほどの場合は、なるべくお金をかけずに請求しなければいけません。出費がかさめば、給料を取り戻すどころか赤字になる可能性もあります。

請求金額が少額の場合は、『少額訴訟債権執行』を検討してみましょう。

「少額訴訟債権執行」も方法の1つ

 

少額訴訟債権執行とは、未払いの給料が60万円以下の場合に利用できる訴訟手続きです。審理は原則1回となっているので、早く判決が下される分、長引かないというメリットがあります。

また、裁判を起こすときは、優位に進められるように弁護士を立てるのが一般的です。しかし、少額訴訟債権執行は弁護士費用がかからない上に、申し立て手数料は5000円ほどとなっています。

出費を抑えやすいので、未払いの給料が数万円ほどと少額でも、泣き寝入りせずに済むでしょう。

参考:申立手数料・予納郵便切手等一覧表(少額訴訟債権執行)|東京簡易裁判所

給料未払いに関するよくある質問

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最後に、給料未払いに関するよくある質問を集めました。疑問や不安は、この場で解決しておきましょう。

会社が倒産していても未払い請求はできる?

給料未払い分の8割の金額は請求可能です。会社が倒産して給料の支払いが難しい場合は、国が未払い賃金の一部を立替払いする制度『未払賃金立替払制度』が適用されます。

ただし、会社が1年以上事業活動を行っていたことが必要です。また、ボーナスや未払い賃金の総額が2万円未満の場合は支給対象にはなりません。

詳しくは厚生労働省のホームページをチェックするか、労働基準監督署に相談してみましょう。

参考:未払賃金立替払制度の概要と実績 |厚生労働省

退職した後も未払い請求はできる?

退職した後でも未払い請求はできます。たとえすでに転職した後だったとしても、給料の未払いがある場合は請求可能です。

ただし、本来の給料日から3年を経過している場合は、会社側が未払い請求を拒否できるようになります。しっかり支払ってもらうためにも、早めに請求するようにしましょう。

なお、2020年4月1日より前の給料未払いに関しては、請求できる期間は2年となっているので注意が必要です。

参考:未払賃金が請求できる期間などが延長されています - 厚生労働省

バイト・パートでも未払い請求はできる?

雇用形態に関係なく、バイト・パートでも未払い請求は可能です。バイト・パートも、正社員と同じように給料をもらう権利があります。未払い分が少額でも、泣き寝入りせずに未払い請求をしましょう。

ただし、弁護士に依頼すると費用がかさんで、高くついてしまう可能性があります。請求金額が少ない場合は、費用を抑えやすい民事調停や労働審判といった手段を考えてみましょう。

給料未払いがあっても取り戻せる!

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給料は労働の対価であり、支払うのは会社の義務です。給料未払いが発生したときは、まず労働組合や総合労働相談コーナー、法テラスなどの専門的な機関に相談しましょう。法律に基づいたアドバイスを得られるので、やるべきことが見えてくるはずです。

また、未払い分が少額でも、民事調停や労働審判などを自分で起こせば、少ない負担で取り戻せる可能性は十分にあります。相談できる場所や請求方法を参考にし、未払いの給料を取り戻しましょう。

小岩 和男
【監修者】All About 労務管理ガイド小岩和男

就業規則など社内諸規程作りのプロフェッショナル。人事労務コンサルタント・特定社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー(AFP)。企業人時代を含め通算24年の人事コンサルを経験。一部上場企業から新設企業までを支援。セミナー講師、雑誌・書籍の執筆実績も多数。
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著書:
ぜんぶわかる人事・労務
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