住居手当の基礎知識を整理。支給条件やデメリットを要確認

住居手当が出る企業への転職を検討しているなら、金額や支給条件を確認しておくことが重要です。税金や社会保険料との関係も知っておけば、疑問の解消につながるでしょう。住居手当のメリットや注意点、金額の相場について解説します。

住居手当とは

住居手当のイメージ

(出典) photo-ac.com

住居手当とは、具体的にどのような手当のことを意味するのでしょうか。住居手当の概要や代表的な種類について解説します。

住宅に関する福利厚生

住居手当とは、企業が従業員の住宅関連費を補助するための手当です。住宅手当と呼ばれるケースもあります。

福利厚生の一環として支払われるものであり、企業に支給の義務はありません。企業によっては、住居手当を支給していないところもあります。

支給される金額も、企業側が自由に設定することが可能です。全従業員に一律の金額で支給しているケースもあれば、従業員それぞれの事情に合わせて金額を個別に決めているケースもあります。

代表的な住居手当

住居手当にはいくつかの種類があります。代表的な住居手当が「住宅ローン手当」「家賃補助」「社員寮・社宅」「引っ越し手当」です。

一般的に住居手当という場合は、住宅ローンを補助する手当のことを指します。賃貸物件に住む従業員を対象とした家賃補助と区別するケースもあれば、住宅ローンと家賃の補助を合わせて住居手当と呼ぶケースもあります。

住居手当は現金で支給されるため、給与と同様に課税対象です。一方で住まいを提供する社員寮や社宅の場合は、一定の条件を満たせば福利厚生費として計上できることから、非課税扱いにできます。

引っ越し手当は、文字通り引っ越し費用を補助する手当です。近年は職場の近くに引っ越す従業員を対象に、引っ越し手当を支給する企業も出ています。

住居手当の相場

電卓を打つ経理の女性

(出典) photo-ac.com

各種データを参考に、住居手当の平均支給額を紹介します。企業により金額に差がある点や、そもそも支給する企業自体が減っている点も押さえておきましょう。

平均支給額は1万円台

住居手当の支給額は、各種の調査結果を見れば相場が分かります。日本経済団体連合会と東京都産業労働局のデータを見てみましょう。

日本経済団体連合会の「福利厚生費調査結果報告」によると、2019年度の福利厚生費のうち、従業員1人あたりの住居手当の平均支給額は、月に1万1639円です。

東京都産業労働局の「中小企業の賃金事情」では、都内の中小企業の住居手当額が示されています。2019年時点での平均支給額は、1万7788円です。

2つのデータを参考にすると、支給額は1万~2万円が相場であるといえます。全国平均よりも東京都の平均が高いことから、地方より都市部のほうが金額は高くなると考えられるでしょう。

参考:福利厚生費調査結果報告 P4 | 日本経済団体連合会

参考:中小企業の賃金事情 P51 | 東京都産業労働局

住居手当の金額に法律上の決まりはない

住居手当をはじめとする各種手当は、法律上は給与に分類されるものです。ただし手当の支給は法律で義務化されているわけではなく、企業が任意で決められるため、金額や支給条件も企業が自由に決められます。

支給額の決め方は、「家賃の50%(上限2万8000円)」「一律1万5000円」など、企業によりさまざまです。共働き世帯の場合は、一般的に世帯主のみ支給対象となります。

住居手当の支給は減少傾向

住居手当を支給する企業は、近年減少傾向にあります。日本経済団体連合会の資料を見ても、福利厚生費のうち住宅関連費は、2000年度以降、減少に転じ抑制傾向にあることが分かるでしょう。

住居手当を支給する企業が減っている背景には、評価制度に成果主義を採用する企業が増えている点があります。業績への貢献度にかかわらず住宅補助費が支給される制度は、評価時に成果を重視するようになった時代の流れに逆行しているためです。

働き方改革により、同一労働同一賃金の実現が求められているのもポイントです。同一労働同一賃金では、同じ内容の仕事をしている従業員に待遇格差を設けてはならないため、一部の従業員にのみ住居手当を支給することが難しくなっています。

参考:福利厚生費調査結果報告 P16 | 日本経済団体連合会

住居手当と税金

電卓をうつ男性

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住居手当と税金・社会保険料の関係について解説します。課税対象になるケースとならないケースがあることを理解しましょう。

住居手当には所得税と住民税がかかる

会社から住宅ローンや家賃の補助を現金で支給される場合は、給与所得の一部となるため所得税・住民税がかかります。同じく課税対象となっている基本給や他の手当と合算し、課税所得を算出した上で税額が導き出されます。

健康保険料・厚生年金保険料・介護保険料と手当の関係も理解しておきましょう。これらの社会保険料は、給与額から算出する「標準報酬月額」により金額が決まります。住居手当をはじめとした各種手当は、標準報酬月額に含めなければなりません。

なお通勤手当は月15万円までは非課税となるため、社会保険料に関しても対象外になると思われがちですが、標準報酬月額の計算には含まれます。

社宅は条件を満たすと課税対象外

住居手当として会社から社宅を借りる場合、従業員が家賃の50%以上を会社に支払えば、手当に相当する分は非課税になります。

例えば従業員が家賃12万円の社宅に住んでいるケースでは、従業員が会社に毎月6万円以上支払っていれば課税されません。家賃と支払額の差額分は会社から補助を受けていることになりますが、現金支給とは異なり非課税となるのです。

社宅ではなく会社が賃貸物件を借りて従業員に貸す場合も、上記のルールが適用されます。ただし、元々従業員が賃貸契約していた物件を社宅扱いに変更することは認められません。

参考:No.2597 使用人に社宅や寮などを貸したとき|国税庁

住居手当のメリットと注意点

住宅と手当のイメージ

(出典) photo-ac.com

住居手当にはメリットしかないように見られがちですが、いくつか注意しなければならないポイントもあります。スムーズに転職先の企業候補を探すために、メリットと併せて注意点も知っておきましょう。

住居に関する金銭的な負担が減る

住居手当の大きなメリットは、住宅費の負担を軽減できることです。実質的な手取りが増えるため、収入のうち自分で自由に使える可処分所得を増やせます。

転職に合わせて引っ越しを考えている場合も、住居手当が出れば物件の選択肢を増やすことが可能です。より職場に近い物件や好立地の物件を選びやすくなるでしょう。

特に実家住まいだった人が転職を機に1人暮らしを始める場合、転職後の住宅費は大きな負担としてのしかかります。住居手当が出る企業に転職すれば、金銭面の不安が軽くなるでしょう。

支給条件を満たす必要がある

住居手当の注意点としては、支給を受けるために条件を満たさなければならない点が挙げられます。基本的には、誰でも住居手当をもらえるわけではありません。

住居手当の支給条件を決める基準には、「勤務先や駅からの距離」「家賃の相場」「持ち家か賃貸か」「世帯主かどうか」「扶養家族がいるか」といったものがあります。

住居手当の条件は、従業員の間で不公平感が生まれないように設定されているのが一般的です。例えば住居手当に職場からの距離が設定されている場合、距離が遠い人には住居手当が出ない代わりに通勤手当が支給されるでしょう。

基本給に含まれない点に注意

住居手当は基本給に含まれません。ボーナスが支給される企業の場合、ボーナスは基本給を基準に金額が決まるため、月の支給額が同じならば、住居手当があるとその分のボーナス額が減る結果になります。

例えば基本給20万円で住居手当なしの企業と、基本給18万円+住居手当2万円の企業は、月の給与額は同じですがボーナスの金額に差が生まれます。

今後ますます住居手当を出す企業が減っていくことを考えると、今は手当をもらえていても将来的には廃止されるかもしれません。仕事を探す際には、住居手当より基本給にこだわって企業を比べるのがおすすめです。

住居手当は福利厚生の1つだが注意点も

電卓と給与明細と現金

(出典) photo-ac.com

住居手当は従業員の住宅費を補助してもらえる制度です。会社の福利厚生の一環であり、住居手当が出れば金銭的な負担が減るでしょう。

一方で、手当をもらうためには条件を満たす必要がある上、基本給に含まれないためボーナス額が少なくなる恐れがあります。住居手当のメリットや注意点を理解し、手当以外の要素も考慮して企業を選ぶようにしましょう。