離職率で働きやすさはわかる?高い企業・低い企業の特徴を解説

企業の離職率は、従業員の働きやすさと関係性が深い指標の1つです。離職率について理解を深めておけば、転職活動中の企業探しに役立てられるでしょう。離職率の基本知識や調べ方、離職率が低い企業のメリット・デメリットを解説します。

離職率とは

退職のイメージ

(出典) photo-ac.com

そもそも離職率とは、どのような割合のことを指すのでしょうか。離職率の具体的な意味や計算方法、一般労働者の平均離職率を紹介します。

一定期間で従業員が離職した割合

離職率とは、ある時点における全従業員のうち、一定期間内に会社を辞めた従業員の割合です。自己都合退職者・会社都合退職者・出向者・出向復帰者が、離職者としてカウントされます。

離職率の計算式は「(一定期間における離職者数)÷(期初または前期末時点での従業員数)×100」です。例えば2022年中に50人が会社を辞めた場合、2022年1月1日時点での全従業員数が1000人なら、同年の離職率は「50人÷1000人×100=5%」と計算できます。

離職率が高い企業は、一定期間内に離職する従業員数が多いことになるため、何らかの問題を抱えているといえます。転職活動中に企業をリサーチする際は、離職率もチェックするとよいでしょう。

2020年の平均離職率は10.7%

厚生労働省が公表する雇用動向調査結果を見ると、2020年における常用労働者の動きが分かります。2020年の離職者数は約727万人、一般労働者の平均離職率は10.7%です。

過去10年を見ても、一般労働者の離職率はほぼ横ばいで推移しています。一般労働者とパートタイム労働者を合わせて集計した場合、2020年の平均離職率は14.2%です。

離職率を男女別に見ると、男性よりも女性の離職率が高い傾向があります。一般労働者とパートタイム労働者を比較した場合、パートタイム労働者の方が離職率は高めです。

参考:令和2年雇用動向調査結果 入職と離職の推移|厚生労働省

業界により離職率には差がある

飲食店の女性スタッフ

(出典) photo-ac.com

離職率を業界別に見ると、業界間で大きな差があることが分かります。厚生労働省のデータを参考にしながら、離職率が高い業界と低い業界の特徴を見ていきましょう。

参考:令和2年雇用動向調査結果 産業別の入職と離職|厚生労働省

サービス業は離職率が高い

厚生労働省の雇用動向調査結果では、業界別の離職率も分かります。2020年の業界別離職率のトップ3は以下の通りです。

  • 宿泊業・飲食サービス業:26.9%
  • サービス業(他に分類されないもの):19.3%
  • 生活関連サービス業・娯楽業:18.4%

離職率が高い上記の業界の多くは、いずれも企業ではなく一般消費者を相手に商売を行う接客業です。クレーム対応などにより従業員が不満をためやすい点が、接客業の離職率を高めている原因の1つといえるでしょう。

休日出勤が多く労働時間が長いのも、接客業に見られる共通点です。他の業界に比べ給与も低いため、労働条件や待遇に対する不満から離職率が高くなっていると考えられます。

離職率が低い業界の特徴

離職率が高い業界だけでなく、低い業界もチェックしておきましょう。2020年における離職率が低い業界のトップ3を紹介します。

  • 鉱業・採石業・砂利採取業:5.6%
  • 金融業・保険業:7.7%
  • 複合サービス事業:7.8%

離職率が低い業界の多くに共通するのが、BtoB業界であることです。一般消費者を相手に取引を行うBtoCと違い、企業を相手にするBtoBでは、接客のストレスがたまりにくいと考えられます。

平均給与が比較的高めであるのも、離職率が低い業界に見られる特徴です。給与が高ければ生活が安定しやすくなるため、退職しようと考える人は少なくなるでしょう。

離職率が高くなる理由

スケジュール帳と時計

(出典) photo-ac.com

離職率が高い企業に共通する主な特徴を紹介します。離職率が低い業界の企業でも、以下に挙げる項目の多くが当てはまるようなら、離職率は高いでしょう。

労働時間が長い

離職率が高い企業は、労働時間が長かったり休みが少なかったりする傾向があります。仕事がハードになり心身のストレスがたまるため、離職者も出やすくなるでしょう。

残業しなければ評価が上がらない企業や、上司がいつまでも会社に残っているため先に帰りにくい雰囲気の企業も、従業員の労働時間は必然的に長くなります。いずれも、社風が離職率を高めている代表例です。

適切な労務管理が行われていない企業では、特定の従業員に業務が集中するケースもあります。自分だけ仕事が多いという従業員は不満をためやすくなり、退職してしまいかねません。

給与体系や評価制度に問題がある

離職率が高くなる理由としては、人事評価制度に問題があるという点も挙げられます。正当な評価を受けられず、自分の給与に納得がいかない従業員は、辞めてしまう可能性が高いでしょう。

給与が上がらなければモチベーションが下がりやすくなる点もポイントです。仕事にやりがいを感じなくなったり、何のために働いているのか分からなくなったりして、転職する人が出てきます。

人事評価制度に問題がある企業は、従業員のキャリアアップも実現しにくくなります。向上心のある優秀な人材が流出しやすくなるため、離職率も高くなってしまうでしょう。

人間関係など職場環境に問題がある

離職率が高い企業の多くに見られる共通点が、職場環境の悪さです。人間関係や労働環境が悪ければ、ストレスをためる従業員が増えて離職率が高くなります。

人間関係の問題で近年重要視されているのが、ハラスメントの問題です。企業が何の対策も行わず、セクハラやパワハラが横行している場合は、退職者が多くなるでしょう。

離職率が低い職場は上司と部下の信頼関係が構築されており、ミスの責任を個人のみに押し付けるようなこともありません。ミスが発生しても、ルールや仕組みに原因がないか考える文化が定着しています。

産休・育休が取得しにくい

離職率を下げるためには、出産や育児でイレギュラーな働き方になりやすい女性のケアがポイントといえます。産休や育休を取得しやすい企業は、女性が長く働けるため離職率も低めです。

企業によっては、妊娠したら会社を辞めることが暗黙のルールになっているケースもあります。このような文化が根づいている企業では、いつまでたっても離職率は下がらないでしょう。

出産・育児・介護などで通常どおりの勤務ができない人でも、多様な働き方が認められている企業なら仕事を続けやすいため、離職率は下がる傾向があります。

離職率が低い企業のメリット・デメリット

打ち合わせをする男女

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離職率が低い企業に転職するメリットとデメリットを紹介します。辞める人が少なければデメリットはないようにも感じられますが、人によってはリスクにもなり得る点を覚えておきましょう。

安定して長く働ける可能性が高い

離職率が低い企業にはさまざまなメリットがあります。辞めたくなる要素が少ないため、安定して長期的に働きたい人におすすめです。

人間関係が良好で給与体系や評価制度に問題がなく、労働時間も適切である点が、離職率が低い企業の大きな特徴です。職場でストレスがたまることもほとんどないでしょう。

風通しのいい社風や手厚い福利厚生も、人が辞めない企業の魅力です。サービス残業や過剰なノルマもなく、いわゆるホワイト企業である可能性が高くなります。

昇進・昇給のチャンスが少ないことも

離職率が低い企業では辞める人が少ないため、在籍歴の長い社員が多くなります。今より上のポジションを狙いたくても、ポストになかなか空きが出ないケースが考えられるのです。

昇進・昇給のチャンスが少なくなる恐れがあるため、積極的に出世し給与を上げたいと狙っている人には向いていない可能性があります。

転職志向の低い従業員が多い点や人材の流動性が低い点もポイントです。安定を求める人が多い雰囲気の中では新たな能力やスキルが身につきにくいため、転職によるキャリアアップも図りにくくなるでしょう。

離職率の調べ方

タイピングする女性

(出典) photo-ac.com

企業ごとの離職率は、個人が調査して分かるものなのでしょうか。転職活動で離職率を参考にする方法を紹介します。

離職率を公開していない企業は多い

企業の離職率は、公式ホームページや採用情報で確認できる可能性があります。大手企業なら、IRとして公表しているケースも多いでしょう。

ただし、多くの企業は離職率を一般に公開していません。離職率を相対的な比較の材料として使われると、採用活動時に応募者数が減ってしまう恐れがあるためです。

面接時に離職率を聞くことも可能ですが、「離職率を教えてください」とストレートに聞くのはNGです。「できるだけ長く働きたいと思っているのですが、御社の平均的な勤続年数を教えていただけないでしょうか」のように、オブラートに包んで聞きましょう。

口コミを参考にする

企業に関する口コミサイトを活用すれば、離職率が分かるケースもあります。実際に勤務していた人からの情報ならば、信憑性は高いでしょう。

ただし、匿名性が高いサイトを使う場合は、掲載されている情報の正確性が低い恐れもあります。あくまでも参考情報として扱うことが大切です。

企業がSNSで情報発信をしている場合は、職場環境が確認できないか見てみましょう。社内風景や社風などが分かれば、自分に合いそうな企業かどうか判断する際の参考になります。

離職率が低い企業の探し方

正確な離職率が分からなくても、さまざまな観点から離職率の低さを見抜くことは可能です。以下に当てはまる企業なら、離職率が低い可能性が高いでしょう。

  • 常に求人が出ているわけではない
  • 従業員の年齢層が偏っていない
  • 従業員数が増加傾向にある
  • 研修・教育の制度が整っている
  • 福利厚生が充実している
  • 多くの従業員が産休・育休制度を利用している

そもそも企業自らが離職率の低さをアピールしている場合は、信用してもよいでしょう。「離職率」や「定着率」といったキーワードでネット検索すれば、離職率の低さを自らアピールしている企業が見つかりやすくなります。

会社選びには離職率も参考にしよう

考え事をしている男性

(出典) photo-ac.com

労働環境や人間関係に問題がある企業は、辞めてしまう人が多くなるため離職率も高くなります。安定して長く働ける職場に転職したいなら、離職率の低い企業を選ぶのがおすすめです。

ただし離職率が低い企業は、昇進・昇給のチャンスが少なくなるため、上のポジションを積極的に狙いたい人には向いていないかもしれません。離職率について理解を深め、転職先を選ぶ際の参考にしましょう。

小寺良二
【監修者】All About キャリアカウンセラー/起業・経営ガイド小寺良二

若者の就職支援を専門とするキャリアカウンセラー。アメリカの大学を卒業後、アクセンチュアを経てリクルートに入社し100社以上の新卒・中途採用のコンサルティングを経験。独立後は採用と就職活動の双方を知る「若者就職支援のプロ」として官公庁や人材企業の若年就労支援プロジェクトに携わる。全国の大学で教員やキャリアカウンセラー向けの研修を行うなど、若者支援者の養成にも力を入れている。
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著書:
美文字履歴書の書き方&マナー