営利を目的とした企業で働く中で、「もっと人や社会の役に立ちたい」と感じ始める人もいるのではないでしょうか。売上やノルマに縛られず、自分の力を必要としている人や地域のために力を発揮できる環境があれば、もっと前向きに仕事に向き合えるかもしれません。
そうした価値観を重視し、実際に社会や地域への貢献を仕事の軸としているのが、団体職員です。しかし、具体的にどのような仕事をしているのかあまり知られていない部分も多くあります。団体職員の仕事内容やメリット・デメリット、向いている人の特徴を紹介します。公務員との違いについても解説するので、参考にしてください。
この記事のポイント
- ・団体職員は非営利団体で働く人の通称
- 社会福祉や地域支援などの公的な活動に携わることが多く、準公務員と呼ばれるケースもあります。
- ・非営利団体にはさまざまな種類がある
- 団体職員が所属する組織には、主に、NPO法人・学校法人・医療法人・商工会・社会福祉法人などがあります。
- ・団体職員になる方法は会社員とほぼ変わらない
- ハローワークや求人サイトのほか、団体の採用サイトから応募する方法があります。
団体職員とは?
まず、団体職員とはどのような働き方をしている人なのか確認しておきましょう。公務員や会社員との違いについても解説します。
非営利な団体で働く人の通称
団体職員とは、非営利な団体で働く人を指す通称です。法律上での明確な定義はなく、あくまで一般的な呼び方にとどまります。
社会福祉や地域支援など、公的な活動に携わることが多いため、準公務員と呼ばれるケースもあります。非営利な団体とは、文字通り営利を目的としない組織のことで、社会貢献活動を主な事業内容としている団体を指します。
ただし、「非営利」といっても、利益を出せないわけではありません。さまざまな事業を通じて収益が生じた場合は構成員に分配せず、団体の活動費や職員の人件費などにあてるという意味です。
公務員との違い
公務員は、国や地方自治体などの公的機関に所属する職種です。国家公務員と地方公務員の2種類があり、行政・警察・税務など幅広い分野にわたって業務を担っています。
国や自治体が実施する公務員試験に合格しなければ、公務員として働くことはできません。一方、団体職員はNPO法人や社会福祉法人、商工会などの非営利団体に所属し、各団体が定める独自の基準に基づいて採用されます。
また、公務員は法律によって身分が保障されており、解雇や異動のルールも厳格に定められていますが、団体職員にはそのような保障はありません。
会社員との違い
団体職員と会社員の違いは、主に組織の目的にあります。会社員が所属するのは利益の追求を目的とする営利企業です。
社会貢献や地域支援より、組織の成長を主な事業目的としています。そのため、会社員の活動目的も、売上や利益の最大化です。
また、会社員は実績を上げれば昇進や昇格も可能ですが、団体職員の場合はキャリアアップの機会がほとんど用意されていないケースが多いでしょう。ただし、仕事内容はどちらも、事務作業・企画立案・広報活動などで大きな違いはありません。
団体職員の主な仕事内容
団体職員の主な仕事内容についても見ていきましょう。代表的な5つの組織を挙げて紹介します。
NPO法人
NPO法人とは、「特定非営利活動促進法」に基づいて設立された非営利組織です。NPOは「Non-Profit Organization」の略で、正式には「特定非営利活動法人」と呼ばれます。
活動分野は幅広く、福祉・教育・環境・まちづくり・国際協力など、20種類以上に及ぶのが特徴です。
職員の仕事内容も、新規事業の企画立案・資金調達・広報活動・行政への報告書作成など、多岐にわたります。小規模な法人では、1人で複数の役割を兼務することも少なくありません。
学校法人
学校法人は、小学校から大学、専門学校までの私立学校を設置・運営するための組織で、文部科学大臣や都道府県知事の認可を受けて設立されます。
職員には、教員のほかに、経理や総務といった事務職、キャリア支援や広報などの専門職も含まれます。学生や地域社会のために安定した教育環境を支えるのが、学校法人で働く職員の役割です。
職場によっては語学力や専門知識が求められる場合もありますが、教育を陰で支えるやりがいのある仕事といえます。
医療法人
医療法人とは、病院・診療所・介護老人保健施設などを運営する組織で、地域住民の健康維持を目的として設立されています。個人経営の病院や診療所との主な違いは、営利を目的としていない点です。
医療法人には、医師はもちろん、看護師・薬剤師・介護士・事務職など、さまざまな職種が存在します。職種によって仕事内容は大きく異なるほか、組織の規模が大きくなるほど、担当業務が細分化される傾向にあります。
商工会
商工会とは、地域の中小企業の経営者が集まり、経営支援や地域振興を行う非営利組織です。商工会法に基づいて設立されており、経済産業省の管轄にあります。
全国に1,600以上の商工会があり、組織の会員として加入できるのは原則として事業者のみです。商工会の主な役割は、会員事業者の支援です。
経営相談・巡回指導・補助金申請サポート・融資相談などの業務のほか、地域イベント・復興支援、セミナーや交流会の開催など、地域と密接に関わる活動も行います。
社会福祉法人
社会福祉法人とは、社会福祉法に基づいて設立される非営利法人です。高齢者福祉・児童福祉・障害者支援といった社会福祉事業の実施を目的としており、特別養護老人ホーム・保育所・障害者支援施設・デイサービスなどを運営しています。
また、子育て支援などの公益事業だけでなく、貸ビルや駐車場経営といった収益事業を行うことも可能です。職員の仕事内容は施設によって異なり、保育士や介護福祉士など、専門の資格が必要となる職種もあります。
団体職員として働くメリット
団体職員には、安定して働けるというメリットがあります。ほかにはどのような利点があるのか、具体的に見ていきましょう。
民間企業と比較して安定性が高い
団体職員として働くメリットの1つが、経営の安定性です。非営利団体の多くは、国や自治体からの補助金・助成金を受けて運営されており、民間企業のように景気や業績に左右されにくい点が特徴です。
突然の倒産や大幅な人員整理といったリスクが比較的少なく、長期的に働きやすい環境が整っています。毎月の給与と年2回のボーナスが支給される場合も多く、安定した収入を得られるでしょう。
福利厚生面で、公務員に近い水準の待遇が用意されるケースもあります。独自の公的年金制度や、退職金制度が整備された団体もあります。
社会貢献ができる
社会や地域への貢献を実感できる点も魅力です。非営利組織の多くは、国や自治体、地域社会の利益を目的に活動しており、人や社会に役立つ仕事に携われます。
例えば、障害者支援施設での生活サポートや、地域イベントを通じたまちづくり支援などは代表的な例です。業務を通じて、地域住民や支援した相手から感謝の言葉を受け取る機会もあり、自分の仕事が社会に貢献していると感じられるでしょう。
数字や売上といった目に見える成果だけでなく、誰かの生活を支えているという実感がやりがいにつながります。
残業が少なくノルマがない
売上目標や営業成績など、厳しいノルマを課されることが少なく、ストレスを感じにくい傾向にあります。業種や職種によって差はあるものの、残業時間が少ない職場も多く、ワークライフバランスを重視したい人にとっては大きな魅力です。
趣味や学習などに使う時間を確保しやすいため、プライベートを充実させたい人にも適した環境といえます。
また、有給休暇の取得制度が整備されているなど、一般企業と同様の福利厚生が整っている団体も多くあります。ただし、ノルマがないとはいえ、職務に対する責任感は必要です。
団体職員として働くデメリット
安定して働けるなどのメリットがある一方で、非営利団体ならではのデメリットも存在します。主なデメリットを3つ紹介します。
給与やボーナスが増えにくい
団体職員は、一般企業の会社員と比較して給与やボーナスが増えにくい傾向にあります。非営利組織は公益性を重視しており、営利企業のように売上や業績に応じたインセンティブ制度や歩合制の給与体系を採用していないためです。
成果に応じた報酬を重視する人や、大幅な収入アップを目指したい人にとっては、物足りなさを感じるかもしれません。
しかし、給与水準が大きく変動しないということは、裏を返せば安定性につながります。毎月の収入や賞与の金額が一定していれば、将来設計や家計の管理がしやすくなります。
就職のハードルが高い場合もある
団体職員の求人は、民間企業のように定期的な募集があるとは限りません。欠員が出た場合や事業拡大のタイミングで不定期に募集されるのが一般的です。
また、非営利組織は比較的小規模な団体も多く、そもそも採用人数が少ないという事情もあります。希望する団体への就職・転職を目指すには、求人情報をこまめにチェックすることが重要です。
関連分野の資格取得や実務経験を積んでおくのもおすすめです。もしくは、自らNPO法人を立ち上げるという選択肢もあります。
キャリアアップが難しい
キャリアアップの機会が限られている点も、デメリットとして挙げられます。非営利組織は、営利企業のように事業を拡大し続けることを目的としていないため、昇進や役職を増やす機会が一般企業ほど多くありません。
また、専門分野に特化した研修制度やスキルアップの機会が少ない団体も多く、他業界への転職やキャリアチェンジが難しい傾向にあります。
ただし、近年では、人材育成に力を入れている非営利団体も増えています。積極的に学び、成果を積み重ねることで、スキルアップできる可能性もあるでしょう。
団体職員に向いている人
団体職員にはどのような人が向いているのでしょうか。主な特徴を3つ挙げて解説します。
社会貢献事業に携わりたい人
団体職員の仕事は、利益追求よりも社会的な意義や地域への貢献を優先するため、キャリアアップより「人や社会の役に立ちたい」という気持ちを持つ人に向いています。
非営利組織では、成果が必ずしも数字で表れるとは限りません。しかし、その分、支援を必要とする人々からの感謝や信頼に触れる機会が多く、働く意義を実感しやすい環境です。
また、公務員とは異なり、組織によって柔軟な運営が可能なため、地域の状況やニーズに合わせた支援ができる点も魅力です。行政制度の枠組みにとらわれず、民間的な視点や工夫を生かしながら活動したい人にとっても、やりがいを感じられる仕事でしょう。
地域に密着して働きたい人
地域に密着して働きたい人にも向いています。団体職員になると、その地域特有の課題や魅力と向き合いながら働けるのが特徴です。
例えば、農業協同組合や商工会、地域福祉団体などでは、地域住民と直接接しながら支援活動を行うこともあります。身近な社会に貢献したいと考える人には、やりがいを感じられる仕事といえるでしょう。
また、業務を通じて住民の声を直接聞く機会も多く、自分の仕事が地域にどう役立っているのかを実感しやすい環境にあります。
人と接することが好きで、地元や地域社会のために力を尽くしたいと考える人にとって、高いモチベーションを維持しながら取り組めるでしょう。
安定性を求める人
非営利組織は、大きな収入や目覚ましいキャリアアップを求める人より、生活の安定を重視する人に向いています。毎月の給与や賞与が安定して支給されることが多く、長期的な生活設計も立てやすいでしょう。
営業成績や業績によってキャリアが大きく変動することは少ないものの、育児休暇や扶養手当などの福利厚生が整備されている場合もあり、長期間にわたり安心して働けます。
たとえ収入が突出して高くなくても、毎月の給与や休日、勤務時間が一定であることに安心感を抱く人には向いている職場環境といえるでしょう。
団体職員になるには?
一般企業に比べてハードルが高いという特徴はあるものの、就職できるチャンスがないわけではありません。団体職員になるための方法を見ていきましょう。
ハローワークや求人サイトなどを利用する
団体職員になるための方法は、基本的に一般企業への就職や転職活動と大きな違いはありません。ハローワークや求人サイトなどを利用するのが一般的です。
ハローワークを利用すると、就労支援サービスが無料で受けられます。履歴書の添削や面接対策、職業相談などが受けられるため、初めて団体職員を目指す人でも安心して転職活動ができるでしょう。
また、地元に密着した情報が集まるため、地域で活動するNPO法人や社会福祉法人などの求人にも出会いやすいのが特徴です。
求人サイトでは、全国規模で幅広い団体の求人情報にアクセスできます。検索条件を絞ることで、希望の業種や地域に合った団体を効率よく探せるでしょう。
仕事・求人情報一括検索サイトのスタンバイは、団体職員の求人検索も可能です。スマホからもアクセスできるので、スキマ時間を使った求人探しにもおすすめです。
団体の採用サイトから応募する
希望する団体の公式サイトから直接応募するのも有効な方法です。非営利団体では、公式サイトに採用ページを設けていることが多く、職種・募集要項・求める人物像などが詳しく掲載されています。
活動理念や取り組み、過去の実績を確認できるため、自分の価値観に合った団体を見つけやすくなるでしょう。ただし、欠員が出たときだけ一時的に募集する場合もあり、常時採用情報が掲載されているとは限らない点に注意が必要です。
入りたい団体が決まっている場合は、定期的にサイトを確認したり、問い合わせフォームを通じて情報提供をお願いしたりするのも良い方法です。
団体職員に転職する際の注意点
団体職員への転職を検討している人は、注意点についても知っておくことが大切です。転職後にミスマッチを起こさないためにも事前に確認しておきましょう。
ボランティアの場合がある
団体によっては、活動しているスタッフのほとんどが無償のボランティアということも少なくありません。給与が発生する場合でも、契約社員やアルバイトなど非正規雇用のケースがあるため、応募時には雇用形態や労働条件をしっかり確認することが重要です。
ただし、ボランティアやアルバイトから、正規職員として登用されることもあります。希望する団体に正規雇用の求人がない場合は、ボランティアやアルバイトから始めてみるのも一手です。
活動内容をしっかり確認する
団体職員として働く際は、組織の理念や活動内容に共感できるかをしっかり確認しておくことが必要です。活動内容に興味や理解が持てない場合、やりがいを感じられず、長く働き続けられない可能性もあります。
自分の価値観や目標と合致する団体であれば、仕事へのモチベーションも高まりやすく、同じ志を持つ仲間とともに前向きな気持ちで働けるでしょう。団体の活動が、自分にとって意味のあるものか見極めることが大切です。
団体職員は社会貢献に携われる仕事
団体職員は、非営利組織で働く人の通称です。社会や地域への貢献に携われる仕事で、活動分野は福祉・教育・医療・地域振興など多岐にわたります。
景気に左右されず、残業やノルマもほとんどないため、安定性やワークライフバランスを重視したい人に向いている仕事です。ただし、求人の少なさやキャリアアップの難しさなどの課題もあるため、メリット・デメリットを理解しておきましょう。
自分の価値観に合った団体でやりがいを持って働くためには、活動内容や理念に共感できる職場を選ぶことが大切です。