看護師の初任給は実際のところ高いのかどうか、気になっている人は少なくないでしょう。初任給の平均額のほか、手取り額の計算方法も解説します。また「初任給が安い」と感じた場合、なぜそのようなことが起こるのかも見ていきましょう。
看護師の初任給は高いって本当?
看護師の初任給は、平均でどのくらいなのでしょうか?日本看護協会による「2021年 病院看護・外来看護実態調査報告書」をもとに見ていきましょう。
報告書に記載されている初任給は、通勤手当・住宅手当・夜勤手当・当直手当などが含まれている金額です。また、夜勤は3交代で夜勤8回、もしくは2交代で夜勤4回のパターンを想定しています。
看護師の初任給
国家試験に合格し、厚生労働大臣から免許を取得したのが看護師です。看護師になるには、法律で定められている教育を受けなければなりません。
大学で専門的な知識を学ぶ場合もあれば、高校卒業後に看護短期大学や看護師養成所の3年間の課程で学ぶこともあります。それぞれの初任給の平均額をチェックしましょう。
- 大卒:26万7,440円
- 高卒+3年課程卒:25万9,233円
大卒の方が8,207円高い結果となっています。
参考:2021年 病院看護・外来看護実態調査報告書|日本看護協会
准看護師の初任給
准看護師は、都道府県が行う試験に合格し、都道府県知事から免許を取得した人のことです。看護師が高校卒業後に必要な教育を受けるのに対し、准看護師は中学校卒業後から養成所へ通い取得できます。
進路によっては、高校卒業後・大学卒業後に准看護師養成所へ通うこともあるでしょう。それぞれの初任給の平均額は、以下の通りです。
- 中卒+准看護師養成所卒:22万1,805円
- 高卒+准看護師養成所卒:22万2,737円
- 大卒+准看護師養成所卒:22万6,813円
中卒より高卒、高卒より大卒の方が初任給は高い傾向にありますが、それほど大きな違いはありません。
参考:2021年 病院看護・外来看護実態調査報告書|日本看護協会
初任給の全体平均との比較
初任給の全体平均と、看護師・准看護師の初任給を比べてみましょう。2021年の初任給の全体平均は、最終学歴別に以下の通りです。
- 大卒:22万5,400円
- 高専・短大卒:19万9,800円
- 専門学校卒:20万6,900円
看護師の初任給は、全体平均と比較すると高い傾向にあります。ただし、看護師の初任給は夜勤手当を含む金額です。
夜勤手当などの手当を含まない看護師の平均初任給は、大卒20万9,990円・高卒+3年課程卒20万3,445円と、決して高いわけではありません。
参考:2021年 病院看護・外来看護実態調査報告書|日本看護協会
初任給は地域や規模によって差がある
看護師であれば、どこでも高い初任給を受け取れるわけではありません。地域や病院の規模が、初任給の金額に影響します。
高額なのは都市部
初任給が高くなりやすいのは、都市部です。大卒の看護師の平均初任給を都道府県別に見ると、以下の都市部は高額の傾向にあることが分かります。
【大卒】
- 千葉県:29万4,596円
- 東京都:28万8,910円
- 神奈川県:28万982円
- 大阪府:28万822円
大卒看護師の平均初任給が最も高い千葉県では、大卒看護師の平均初任給26万7,440円より、2万7,156円高い金額となっています。
都市部で平均初任給が高いのは、高卒+3年課程卒でも同様です。
【高卒+3年課程卒】
- 千葉県:28万6,903円
- 東京都:28万2,088円
- 神奈川県:27万4,423円
- 大阪府:27万3,165円
高卒+3年課程卒の平均初任給25万9,233円と、最も高い千葉県の金額差は2万7,670円です。
参考:2021年 病院看護・外来看護実態調査報告書|日本看護協会
地方は安い傾向
一方、地方は平均初任給が安い傾向にあります。47都道府県のうち平均初任給が最も安いのは、大卒も高卒+3年課程卒も宮崎県です。宮崎県の平均初任給を見てみましょう。
- 大卒:23万1,576円
- 高卒+3年課程卒:22万4,463円
看護師の平均初任給より、大卒は3万5,864円、高卒+3年課程卒は3万4,770円安い金額です。新卒者全体の平均初任給よりは高い傾向ですが、最も平均初任給の高い千葉県とは6万円以上も差があります。
参考:2021年 病院看護・外来看護実態調査報告書|日本看護協会
病院の規模や運営母体も関係する
病院の規模も、看護師の初任給と関係しています。大卒も高卒+3年課程卒も、病床数が多く規模の大きな病院の方が、平均初任給が高い傾向です。
- 大卒(99床以下):26万636円
- 大卒(500床以上):27万5,096円
- 高卒+3年課程卒(99床以下):25万3,714円
- 高卒+3年課程卒(500床以上):26万6,511円
また、運営母体が社会保険関係団体・日本赤十字社・私立学校法人の場合も、それ以外と比べて平均初任給が高くなっています。
参考:2021年 病院看護・外来看護実態調査報告書|日本看護協会
実際の初任給が安いと感じるときの理由
看護師の平均初任給は夜勤手当も含めると、全体平均より高いという結果が出ています。しかし、実際に初任給を受け取ると「思っていたより安い」と感じることもあるでしょう。なぜ安いと感じるのか、主な理由を解説します。
締め日の都合
初任給が安いと感じる場合、まずは締め日を確認しましょう。例えば、締め日が毎月15日の勤務先へ4月1日に入職した場合、初任給として受け取れるのは4月1~15日に働いた分のみです。
15日間分しか受け取れないため、初任給は安くなってしまいます。この場合、1カ月分の給与を満額受け取れるのは、2回目の給料日からです。
夜勤をしていない
日本看護協会の報告に掲載されている平均初任給には、夜勤手当が含まれています。夜勤手当の金額は、給与の16~20%も占めるため、入っているかどうかで看護師の給与は大きく変わります。
入職したてでまだ夜勤をしていないなら、その分の手当が含まれておらず、初任給を安く感じることもあるでしょう。仕事に慣れて夜勤をし始めると、給与の水準は上がります。
初任給の手取り額の計算方法は?
初任給の平均額で記載されているのは、「額面」の給与です。実際に支給され受け取れる「手取り額」とは異なります。初任給の手取り額の計算方法を見ていきましょう。
初任給は基本給+各種手当
手取り額を計算するには、額面給与が分からなければいけません。初任給の額面給与は、「基本給+各種手当」で計算します。
夜勤が始まるのは、日勤で仕事を覚えてからの職場が大半のため、夜勤手当・交代勤務手当・当直手当は初任給には付かないことが多いでしょう。初任給に付くのは、資格手当・通勤手当・住宅手当などです。
例えば、基本給20万円・資格手当1万円・通勤手当7,000円・住宅手当1万8,000円であれば、初任給の額面給与は23万5,000円と計算できます。
額面給与は全額受け取れない
額面給与は、支給される金額すべてのことです。ただし、全額を受け取れるわけではありません。働いて収入を得ると、一定の割合で計算した税金・社会保険料を納める必要があります。
この税金・社会保険料は、給与から天引きされる仕組みです。大卒看護師の平均初任給は26万7,440円ですが、振り込まれるのは税金・社会保険料が差し引かれた後の金額です。
初任給から差し引かれる金額
初任給の手取り額を計算するためには、額面給与から差し引かれる税金・社会保険料をチェックしましょう。
- 所得税
- 住民税
- 雇用保険
- 健康保険
- 厚生年金
以上が額面給与から差し引かれるものですが、初任給はこれらすべてが天引きされるわけではありません。初任給からは、雇用保険と所得税が控除されるケースが多いでしょう。
雇用保険の保険料は、事業主と労働者で負担しています。このうち労働者が納めるのは、給与の5/1000(0.5%)です。
また、所得税は「源泉徴収税額表」をもとに求めます。このとき使用するのは、社会保険料控除後の給与額です。
参考:令和4年度雇用保険料率のご案内
参考:給与所得の源泉徴収税額表(令和4年分)
看護師・准看護師の初任給手取り額を計算
額面給与から税金・社会保険料を控除すると、実際に受け取れる手取り額が分かります。看護師・准看護師の平均初任給をもとに、手取り額の計算をしていきましょう。
控除されるのは「雇用保険料」と「源泉徴収税(所得税)」のみとして計算します。また、源泉徴収税は扶養家族がいない場合を想定した金額です。
看護師の手取り額
大卒看護師の平均初任給は、額面で26万7,440円です。この金額をもとに雇用保険料・源泉徴収税額を算出し、差し引きます。
- 雇用保険料:26万7,440円×0.5%=1,337円
- 源泉徴収税額:7,180円
- 手取り額:26万7,440円-1,337円-7,180円=25万8,923円
高卒+3年課程卒の平均初任給25万9,233円でも、同じように計算してみましょう。
- 雇用保険料:25万9,233円×0.5%=1,296円
- 源泉徴収税額:6,850円
- 手取り額:25万9,233円-1,296円-6,850円=25万1,087円
大卒も高卒+3年課程卒も、雇用保険料・源泉徴収税額の合計約8,000円が、額面給与から差し引かれます。
准看護師の手取り額
准看護師の平均初任給でも、手取り額を計算していきましょう。中卒+養成所なら以下の通りです。
- 平均初任給:22万1,805円
- 雇用保険料:22万1,805円×0.5%=1,109円
- 源泉徴収税額:5,480円
- 手取り額:22万1,805円-1,109円-5,480円=21万5,216円
高卒+養成所でも同じように計算すると、平均初任給22万2,737円-雇用保険1,113円-源泉徴収税5,560円=21万6,064円です。
また大卒+養成所なら、平均初任給22万6,813円-雇用保険1,134円-源泉徴収税5,680円=21万9,999円と算出できます。
准看護師の場合、初任給から差し引かれるのは約6,500円です。
看護師の初任給は手当込みなら平均より高額
看護師の初任給は手当が含まれていれば、全体平均より高額です。
しかし、入職してすぐは夜勤を担当しないことが多く、締め日によっては入職から数日分の給与しか発生しないこともあるでしょう。この場合、思っていたより初任給が少ないと感じるかもしれません。
また額面給与からは、税金・社会保険料が差し引かれます。初任給から差し引かれるのは、雇用保険料・源泉徴収税の2種類であることがほとんどです。
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医療・お金・法律分野における三種の専門資格取得。医療、介護現場の生の声に応える、本当に知りたい情報を発信。企業、個人への医療・介護教育にも取り組む。
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