介護業界で働いている人の中には、2022年に給料アップを実感した人もいるのではないでしょうか?給料が上がった背景や賃上げが適用される具体的な条件、および金額を解説します。全額支給されないケースも併せて見ていきましょう。
2022年に介護職の給料がアップ!
2022年には、介護職として働く人たちの給料を上げる政策が実施されています。まずは、給料が上がることになった背景を解説します。
2022年2月から月額9,000円相当上がった
2022年2〜9月の8カ月間にわたって、介護職員の給料が月額9,000円相当引き上げられました。月額9,000円は、介護職員の収入の3%に当たる額です。年額にすると10万8,000円になります。
今回の給料改善は、岸田総理が総裁選に出馬した当初から掲げていた分配政策の一環で、2021年11月に閣議決定されたものです。
財源は国費で、「福祉・介護職員処遇改善臨時特例交付金」が適格事業者に支給される形として実施されました。
介護職の給料改善の狙いは?
介護職の給料は、ほかの職業と比べて低いのが実情です。給料が低いのは、介護報酬に上限があって利益が限られることに加えて、一部の事業所では内部留保費が多く、介護職員の待遇改善に活用されていないことが指摘されてきました。
給料が低く訴求力が弱いため人手不足に陥ったり、介護職に就いた人も給料に見合わない重労働に耐えかねて転職したりという悪循環が起き、介護業界では人材不足が常態化しています。
「福祉・介護職員処遇改善臨時特例交付金」の支給は、低賃金労働に起因する人材不足、および定着不足を解決するために実施されたものです。
また、新型コロナウイルス感染症の蔓延によって、介護職の重要性が浮き彫りになったところで、介護職員が継続的に働き続けられる環境を確保しようとする目的があります。
賃上げの要件と対象は?
今回の賃上げ政策は、全ての介護職員が対象となるわけではありません。自分が賃上げの対象者かどうかは、気になるところでしょう。具体的な要件と対象者を解説します。
介護職員処遇改善加算I〜IIIの事業所
自分自身が賃上げの対象者か確かめる前に、勤務先が要件を満たしているかチェックする必要があります。
賃上げ政策の恩恵を受けるには、勤務先が介護職員処遇改善加算I〜IIIの、いずれかに該当する事業所であることが必須です。
介護職員処遇改善加算とは、賃金体系の明確化・教育制度の充実化に加えて、職場環境の整備に取り組んでいる事業所を対象として、介護報酬を上乗せする制度です。上乗せされた介護報酬は、従業員の給料に反映される仕組みになっています。
2021年度の調査によると、全体の94.1%の事業所が介護職員処遇改善加算I〜IIIへの届け出を行っていました。
なお、訪問看護や居宅介護支援などは、介護職員処遇改善加算の対象外です。
介護現場で働く介護職員
賃上げの対象は、利用者・入居者の介護を実際に行う介護職員です。介護福祉士の資格がなくても問題ないほか、パート・アルバイトとして働いている人も対象に含まれます。
ただし、対象の事業所で働いていても、直接的に介護に携わっていなければ、頭数にはカウントされません。例えば、ケアマネジャー・管理栄養士・事務職員などは対象外となります。
保育士や看護師なども対象
同じタイミングで、保育士や幼稚園教諭などに加えて、看護職員を対象とした賃上げの枠組みも適用されています。
保育士や幼稚園教諭に代表される保育・教育施設で働く職員には、介護職員と同様に、収入の1〜3%に当たる月額4,000〜9,000円相当が補助金として交付されました。
看護師や保健士などの看護職員を対象とした賃上げは、月額4,000円相当(収入の1%)です。基本的には、コロナ医療に取り組む医療機関で働く人が対象となります。
9,000円上がらないケースは?
今回の介護職員を対象とした賃上げは、月額9,000円相当とされていますが、実際には1人1人の給料が月額9,000円上がるとは限りません。賃上げ額が9,000円に届かないケースを紹介します。
交付金の一部が給料以外に当てられた場合
支給された交付金が、介護職員の待遇改善につながることを担保するために、交付金の2/3以上は職員の基本給・毎月の手当への上乗せとするよう、用途が指定されています。
用途が指定されているため、確実に賃上げが行われるものとして安心できるでしょう。しかし、残りの1/3は事業所が自由に用途を決めて使えることになります。
つまり、1人当たり9,000円相当の交付金が分配されても、きちんと給料に反映されるのは6,000円にとどまる可能性が高いのです。
参考:福祉・介護職員処遇改善臨時特例交付金 取得要件について|厚生労働省
対象外の従業員にも交付金を配分する場合
介護施設で働いていても、ケアマネジャー・介護助手・事務職員などは、今回の賃上げの対象外となっています。
しかし事業所の判断で、介護職員以外の人の賃上げに、今回の交付金を使用することも可能です。
ただし、介護職員以外にも分配する場合でも、各事業所に配分される交付金は、介護職員数をもとに計算されます。支給額が変わらないまま、受け取る人の数が増えることになるため、1人当たりの賃上げ額は減ります。
事業所の介護職員数が多い場合
賃上げに使用できる交付金は、介護施設の人員配置基準にもとづいて計算されます。
人員配置基準とは、利用者・入居者に対して、必要な介護職員の人数比率を示したものです。利用者・入居者3人当たり、1人の介護職員が必要とされています。
利用者・入居者3人に対して、1人より多くの職員がいる場合でも、3人当たり1人の職員がいるものとして交付金の金額が計算されます。
サービスに対して介護職員が多く在籍している場合も、1人当たりの賃上げ額は月額9,000円に届かなくなるため注意が必要です。
2022年10月以降も給料が上がったまま?
介護職員を対象とした月額9,000円相当の賃上げは、2022年9月までです。10月以降も賃上げが継続するのか、あるいは一時的な賃上げに過ぎないのでしょうか?
介護報酬に組み込まれる形で継続
2022年2〜9月の賃上げは、国費を財源として交付金を給付する形で、一時的な措置に過ぎません。
10月以降は「介護職員等ベースアップ等支援加算」と名称が変わり、介護報酬を財源に引き続き月額9,000円相当が上乗せされています。
具体的には、今回と同様に介護職員処遇改善加算I〜IIIの、いずれかに該当する事業所であることが要件です。また、2/3以上は基本給・毎月の手当に使われる仕組みである点も同じです。
自力で給料アップを実現するには?
介護業界全体としての給料アップが実現するためには、介護報酬の上限を引き上げることが必須です。しかし、個人レベルの問題で見ると、努力次第で給料が上がる可能性もあります。
給料を上げるためには、介護福祉士などの資格を取得するのが有効です。資格が有ることで、給料が上がるだけでなく昇進も早くなり、給料の高い管理職として働けるようになります。
また、人材の定着を目指す施策として、勤続年数が高いほど給料が上がる仕組みがあるため、長く働き続けることも効果的です。
とはいえ、勤務先での給料相場が低いときは、早期転職を目指した方がよいケースもあります。転職先を探すときには、「スタンバイ」を利用するのがおすすめです。
全国1,000万件以上の求人数を誇るスタンバイなら、自分の求める条件に合った施設を見つけられるでしょう。
介護職での給料アップを目指そう
2022年2〜9月に、国の政策として介護職員の賃上げが実施され、月額9,000円相当の交付金が各事業所に支給されました。対象は、介護職員処遇改善加算I〜IIIの事業所で働く介護職員です。
介護業界で働く人にとって、月額9,000円相当の賃上げはうれしいものですが、実際には必ずしも全額が毎月の給料に上乗せされるとは限りません。
月額9,000円相当の賃上げは、10月時点でも継続していますが、能動的なアプローチによる給料アップも重要です。資格の取得や、給料相場の高い事業所への転職などを通して、給料アップを目指しましょう。
介護ジャーナリスト、介護福祉士。20年以上の介護現場の取材と約10年にわたる在宅介護の経験を踏まえ、執筆や講演のほか、コメンテーターとして活動。介護ジャーナリストの草分け的存在。
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