看護師の仕事は好きでも、現状の働き方に満足できない人もいるのではないでしょうか。看護師の働き方は多様化しており、病院だけが活躍の場ではなくなりました。転職先の選択肢と、それぞれの業務内容・勤務形態を解説します。
この記事のポイント
- 看護師の就業場所と割合
- 割合が最も多いのは病院ですが、近年は看護ステーションへの就業割合が増えています。
- 看護師の就業場所の種類
- 大学病院や一般病院、診療所などの医療機関に加え、社会福祉施設・一般企業学校・行政施設など多岐にわたります。
- 看護師として働く病院以外の選択肢
- 企業の医務室で働く「産業看護師」や、派遣会社から医療機関や施設に派遣される「派遣看護師」などがあります。
近年の看護師の働き方は多様化している

看護師の就業先は病院が多くを占めていますが、近年は病院以外の就業先で働く人も増えました。これには、看護師独特の働き方が大きく関係しています。その理由を、就業先の割合と年齢階級の割合の2つから見てみましょう。
看護師の就業場所とその割合
厚生労働省が発表した「令和4年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」によると、2022年末時点の病院で働く看護師(実人員)は67.8%となり、全体の約6割を占めています。
これだけ見ると多くの人が病院を選んでいるように感じますが、2012年末時点では73.6%だったため、割合としては減少傾向にあります。
一方で診療所・訪問看護ステーション・介護保険施設等・社会福祉施設は増加傾向にあり、中でも増加しているのが訪問看護ステーションです。2022年末時点の訪問看護ステーションの割合は5.4%となり、2012年末時点より2.4%増えています。
その他の就業先の割合は、診療所が13.7%(1.3%増)介護保険施設等が7.7%(1.5%増)、社会福祉施設が1.7%(0.3%増)です。
このようなデータの変化から、病院以外で働く看護師が増加していることが分かります。
出典:令和4年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況|厚生労働省
出典:平成24年年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況|厚生労働省
看護師の働き方改革の必要性
厚生労働省が発表した、2022年末時点の年齢階級で見た看護師の割合は、45〜49歳が14.0%と最も多く、次に多いのは25〜29歳(13.0%)です。25歳以下と55歳以上は10.0%以下のため、看護師の多くが25〜54歳に集中しています。
女性の割合が約9割となる看護師は、結婚や出産といったライフステージの変化に対応しづらく、離職せざるを得ない人もいます。また、年齢が上がるにつれ体力も落ち、夜勤や長時間勤務による負担で離職を考える人も少なくありません。
このような問題を解決するために、公益社団法人日本看護協会では「看護師の働き方改革」を推進しています。
主な内容は、夜勤勤務における拘束時間の見直し、時間外労働の削減、役割や能力に合わせた賃金などの処遇改善などです。働き方の多様化が進むことで、働きやすい環境が整ってくるでしょう。
出典:令和4年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況
出典:就業継続が可能な看護職の働き方の提案
【看護師の働き方】就業場所の種類

看護師の就業場所は、大きく「一般病院や大学病院」「診療所やクリニック」「福祉施設」「訪問看護ステーション」「一般企業」「学校や行政の施設」の5つに分けられます。ここでは、それぞれの特徴や業務内容を見ていきましょう。
一般病院や大学病院
一般病院は、特定の専門領域を持たない、20床以上の病床(ベッド数)がある医療機関です。医療法人や公益法人、社会福祉法人が運営しています。診療科は病院によって異なり、病院の規模もさまざまです。
一般病院での業務内容は、採血や投薬、各種測定などの看護全般です。病院によっては外来看護師と病棟看護師に分かれ、病棟看護師は交代制で夜勤も行います。
大学病院は、国立・公立・私立の大学に付属する医療機関です。診療に加え研究・教育・研修を目的としており、高度先進医療を提供しています。
大学病院では各診療科へ従事することとなり、採血や検温、投薬、入院患者のケアなど幅広い業務を担います。就業場所としては最も負荷がかかると言えますが、先進医療を学べたり専門的な知識を得られたりするなど、スキルアップできるのが大きな魅力です。
診療所やクリニック
診療所とクリニックは、どちらも病床数が19床以下の医療機関を指します。診療所は19床以下の病床を持つ「有床診療所」と、病床を1つも持たない「無床診療所」のことです。
内科や耳鼻科、歯科、美容外科など診療内容はさまざまで、看護師の業務内容も就業先によって変わります。通常の看護業務に加え、事務作業・診療準備・片付けなどを行うケースもあるため、業務範囲は比較的広いといえるでしょう。
しかし、外来のみの診療所・クリニックであれば日勤のみとなり、夜勤はありません。診療時間も決まっていることから残業も少なく、大学病院や一般病院に比べてワークライフバランスは整えやすくなります。
入所型やデイサービス型などの福祉施設
福祉施設は介護施設や養護施設、障がい者支援施設などの総称です。入所型・デイサービス・ショートステイ型・グループホーム型など施設によって形態が異なるため、看護師の業務内容も施設と形態の種類によって変わります。
福祉施設は生活支援が主な目的です。医師がいる施設であれば点滴や採血なども行いますが、病院に比べ医療処置は少なくなります。主な業務内容は、利用者の健康管理やけがなどの応急処置、服薬の管理などです。
勤務体制は施設によって変わり、入居型・ショートステイ型・グループホーム型では夜勤があることも少なくありません。しかし、施設の規模によっては日勤のみとなる場合もあるため、病院勤務に比べ体力的な負担は少ないといえるでしょう。
訪問看護ステーション
訪問看護ステーションは、病気や障がいを持つ人の自宅療養を支援する施設です。訪問看護ステーションの数は年々増えており、看護師の新しい働き方として注目されています。
主な業務内容は、健康チェックや点滴・注射・測定などの医療処置、身体介護です。医師の指示の下、1人で利用者の自宅へ訪問します。
訪問看護では医師や介護士、行政などとの連携が必要になるため、コミュニケーション能力が必要です。病院での看護よりも利用者との距離が近くなることから、1人の人とじっくり向き合えるようになります。
訪問看護ステーションの多くが平日の日勤のみとなり、土日の勤務は基本的にありません。中にはオンコール対応を取るステーションや、夜間訪問を実施するステーションもあるため、勤務体制はステーションによって異なります。
一般企業
看護師の経験を生かせる一般企業での働き方は、多岐にわたります。
1つ目は、臨床開発モニターです。製薬会社、または医薬品開発業務受託機関へ勤務し、臨床開発試験の進行をサポートします。2つ目は、治験コーディネーターです。就業先は治験施設支援機関や、医療機関の治験事務局となり、治験の進行サポートに加え被験者のサポートも行います。
臨床開発モニターと業務内容は似ていますが、臨床開発モニターは開発者側に立ち、治験コーディネーターは被験者側に立つという違いがあります。
3つ目は、フィールドナースです。クリニカルスペシャリストやクリニカルコーディネーターとも呼ばれ、医療機器メーカーにて営業サポートやサービスサポートを行います。どの働き方も医療処置は少なくなりますが、一般社員と同じ働き方となるため夜勤はありません。
学校や行政の施設
看護師は、看護大学や看護専門学校で看護教員として働く道もあります。看護教員は教える側となるため、医療行為は演習のみです。その代わり、授業のカリキュラムを組んだり、生徒と面談をしたりと、臨床現場とは異なるスキルが求められます。
看護教員は3〜5年以上の実務経験が必要となり、加えて専任教員課程の修了、もしくは大学・大学院での教育科目単位取得が必要です。学校ではありませんが、保育園看護師という選択肢もあります。保育園看護師の主な業務は、子どもの体調管理・衛生管理・指導・応急処置などです。
看護教員・保育園看護師ともに、日勤のみの土日休みの仕事があります。看護師としてのスキルアップは望めないものの、規則正しい生活を送れるようになるでしょう。
行政で活躍できるのは、保健所や保健センターです。保健所や保健センターでは、健康相談や健康診断、家庭訪問などを行います。公務員として働くことになりますが、一般採用試験のみとなり、公務員試験を受ける必要はありません。
【看護師の働き方】勤務形態の種類

看護師の勤務形態は、大きく「交代制」「日勤のみ」「夜勤専従」の3種類に分けられます。勤務形態が変わると生活リズムも変わってくるため、勤務形態ごとの特徴に加え、メリットとデメリットを把握しておきましょう。
交代制(夜勤あり)
病棟勤務の看護師の働き方で多いのが、夜勤のある交代制の勤務形態です。交代制には「2交代制」と「3交代制」の2種類があります。
2交代制は日勤と夜勤を12時間ずつ、日勤は8時間で夜勤を16時間など、職場によって異なります。3交代制は、日勤・準夜勤・深夜勤というように、夜勤の時間帯が2つに分かれているのが特徴です。
交代制の勤務は休日が不定期となり、平日が休みになることも少なくありません。不規則な生活になりやすく、体力的な負担が多いのもデメリットといえるでしょう。
一方で、夜勤手当により収入がアップするというメリットもあります。特に、2交代制の夜勤手当は3交代制より多いので、効率良く稼ぎたい人にはおすすめです。
日勤のみ
入院設備のないクリニックや診療所に勤務している看護師は、フルタイムで日勤のみの常勤と呼ばれる働き方をしているのが一般的です。
日勤の場合、原則として1日8時間、週に最大40時間までの勤務となります。週休2日制が基本となり、就業先によっては土日休みとなる場合もあるため、一般企業と同じような勤務体系で働きたい人におすすめです。
一週間の休みが固定されていることから予定を組みやすく、仕事とプライベートを両立しやすくなります。また、夜勤もないため体力的な負担が少なく、家族と生活リズムがずれることもありません。
夜勤手当が付かない分、病棟勤務に比べて収入は少なくなりますが、ボーナスや退職金などの福利厚生は整っているケースがほとんどです。
夜勤専従
夜勤専従とは、入院設備のある病院や介護施設などで、夜勤の時間帯だけ勤務する働き方のことをいいます。
夜勤専従で働いている看護師には、基本的に日勤の業務はありません。2交代制の場合、1回当たりの勤務は約2~3時間の休憩を入れて16時間と長時間になります。人手が少ない時間帯なので、業務の負担も幅広くなりがちです。
しかし、勤務日数は週の半分程度となるので、プライベートの時間をしっかり確保したい人にはおすすめです。勤務日数が少ない上に、夜勤手当で高収入を期待できるのもメリットといえるでしょう。
正規雇用・非正規雇用のどちらの雇用形態もありますが、非正規雇用求人の方が比較的多く、月に1~2回だけスポットで勤務している人もいるようです。
病院以外で働く看護師の例

看護師の働き方が多様化したことで、病院以外で働く選択肢が増えています。看護師資格と臨床現場での経験を生かしながら、活躍の場を広げられる仕事をチェックしてみましょう。
企業看護師
企業内にある診療所や医務室に勤務する看護師のことを、企業看護師(産業看護師)といいます。主な業務内容は、健康診断の実施・健康指導・感染症対策・けがの応急処置・体調不良への対応です。健康診断結果を基に、個人面談を行うこともあります。
デスクワークが中心となるため、看護師でありながら医療行為は多くありません。また、電子カルテの他に資料作成などもあるため、場合によってはパソコンスキルも求められるでしょう。
産業看護師の就業時間は一般社員と変わらず、夜勤のない週休2日制が基本です。ワークライフバランスは整えやすいものの、1人体制が多いことから就業先の規模によっては忙しくなることもあります。
就業先によっては産業保健師との連携も必要となるため、コミュニケーション能力が必要となるでしょう。
派遣看護師
派遣看護師は、派遣会社と雇用契約を結ぶ看護師です。就業先は医療機関や社会福祉施設となりますが、給与や社会保険、休暇の管理などは派遣会社が行います。
派遣看護師の雇用形態は「登録型派遣」「紹介予定派遣」「常用型派遣」の3つに分かれ、雇用形態によって働き方が変わるのが特徴です。
登録型派遣は、派遣会社から紹介された就業先で一定期間勤務する雇用形態を指します。派遣期間が終了したら雇用契約も終了するため、別の就業先へ派遣される場合は再度雇用契約が必要です。
紹介予定派遣は、半年以内に雇用契約へ切り替えることを前提とした雇用形態を指します。派遣看護師として働くことで現場の雰囲気を確かめられるため、ミスマッチを防げることが魅力です。
常用型派遣は、派遣会社の社員として派遣される雇用形態を指します。派遣期間が終了しても雇用契約は継続され、派遣先がない場合も給与は支払われる点が登録型派遣との大きな違いです。
トラベルナース
トラベルナースは応援ナースとも呼ばれ、看護師不足の医療機関に赴任する看護師です。日本ではまだなじみの薄い働き方ですが、短期間に集中して働けるという点から注目を集めています。
赴任期間は原則6カ月となり、赴任先との話し合いにより延長も可能です。延長しない場合は休暇を取る、次の赴任先を探すなど自由に選択できるため、ライフスタイルを尊重して働けます。
トラベルナースのメリットは、勤務地を自由に選べること、高収入が期待できること、引っ越し費用がかからないことです。
看護師不足の医療機関で働くため忙しくはなりますが、住んでみたい土地に行けたり、長期休暇を取れたりできるのは、トラベルナースだからできることといえるでしょう。
看護師も自分に合った働き方を見つける時代

看護師は責任を伴う仕事ですが、同時にやりがいも感じられます。しかし、病院勤務は夜勤があるため不規則な生活になりやすく、仕事と家庭の両立が難しいことも事実です。
看護師の世界も働き方が多様化し、就業先の選択肢だけでなく、雇用形態の選択肢も増えています。
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