看護師のラダーとは?評価システムの仕組みやメリット・注意点

「看護師として働き始めたけれど、このまま続けていけるだろうか」と不安を感じたとき、チェックしたいのが評価システムです。看護師特有の仕組みである「ラダー」とは、どのような評価システムなのでしょうか。メリットと注意点も解説します。

看護師の「ラダー」とは

カルテをつける女性看護師

(出典) photo-ac.com

2016年、日本看護協会によって、看護師のクリニカルラダーが定められました。今後看護師のキャリア形成に欠かせない指標になると予想されるため、その目的と内容をしっかり把握しておきましょう。

段階的なステップアップを目指す仕組み

クリニカルラダーとは、はしご(ladder)を登るように、段階的に実務能力を高めていくための評価システムです。

医療に携わる重要な仕事である看護師は、それぞれが確実に看護実践能力を高めていかなければいけません。達成目標を明確に示したクリニカルラダーがあれば、効率的なステップアップが望めます。

現時点では病院ごとに異なる基準が設けられ、中にはラダーのない病院もある状態です。日本看護協会規定のクリニカルラダーは、看護師の能力を全国標準で評価する助けとなるでしょう。

参考:看護師のクリニカルラダー(日本看護協会版)|群馬県看護協会

クリニカルラダーの目的

クリニカルラダーの役割は、個人が持つ知識と技術を適切に評価することです。看護実践能力の評価は、環境の変化に左右されません。

引っ越しや転職により働く場所が変わっても、それまでと同じように実力を発揮できます。ひいては看護全体の質が高まり、患者が安心して看護を受けられる体制が整っていくでしょう。

なお、似た言葉に「キャリアラダー」というものもあります。一般的にキャリアラダーはキャリア形成に重きを置いたものですが、医療業界においてこの2つが区別されることはほとんどありません。

評価レベルは5段階

クリニカルラダーに設けられた、各レベルの定義は次の通りです。

レベル1:基本的な看護手順に従い必要に応じて助言を得て看護を実践する
レベル2:標準的な看護計画に基づき自立して看護を実践する
レベル3:ケアの受け手に合う個別的な看護を実践する
レベル4:幅広い視野で予測的判断をもち看護を実践する
レベル5:より複雑な状況において、ケアの受け手にとっての最適な手段を選択しQOLを高めるための看護を実践する

看護学校で知識を習得したといっても、すぐにベテラン看護師と同じように動けるわけではありません。新人看護師は、まず初心者に相当するレベル1を目指します。

クリニカルラダーの基盤となったパトリシア・ベナーの看護論に照らし合わせると、レベル2は新人・レベル3は一人前・レベル4は中堅です。レベル5をクリアすると、看護の達人とみなされます。

出典:看護師のクリニカルラダー(日本看護協会版)

参考:ベナー看護論 : 達人ナースの卓越性とパワー/1992.6. | テーマ別データベース | リサーチ・ナビ | 国立国会図書館

クリニカルラダーの評価項目

パソコンを見ながら話す医者と看護師

(出典) photo-ac.com

クリニカルラダーの評価項目は、ニーズをとらえる力・ケアする力・協働する力・意思決定を支える力の4つです。それぞれの意味を詳しく見ていきましょう。

ニーズをとらえる力

患者に寄り添った看護をするためには、1人1人のニーズを正しくすくい取れるかが重要です。しかし、全ての患者が具体的にどうしてほしいのか、明確に伝えてくれるとは限りません。

そこで観察眼や傾聴力を磨き、患者の様子や普段の会話から、悩みや心配事を読み取る力が必要とされます。

最初は熟練した看護師の助言を受けるところから始めて、いずれは患者が口にしない望みや患者自身が気付いていないニーズをも、正しくすくい取れるようになることが最終目標です。

ケアする力

読み取ったニーズから適切な看護計画を立て、患者に適した看護を実践できるかどうかを測る項目です。看護の過程でPCDAサイクルを回し、継続的に看護の実施と振り返りを繰り返します。

PCDAサイクルとは、計画(Plan)・実行(Do)・評価(Check)・改善(Action)の繰り返しにより、業務の最適化を図る方法です。日々よりよい方法を模索することにより、看護の質が向上します。

上のレベルへ到達するには、新しい知見やスキルを手に入れる努力を惜しまず、患者の個性に合わせたケアを実践する力を身に付けていかなければいけません。

協働する力

チームの一員として看護を適切に実践できるか、チーム内で円滑なコミュニケーションが取れるかが問われる項目です。

ニーズをとらえたりケアしたりする力があっても、連携ができなければ患者にとって最適な看護は実現できません。そこで看護師同士はもちろん、ほかの職種との情報交換を密に行い、看護に生かす動きが求められるのです。

いずれは自ら関係者に働きかけ、他職種同士がスムーズに連携できるよう調整役を担うことが期待されます。

意思決定を支える力

治療方法の選択や最期の迎え方など、患者の自分らしい選択をサポートする力を評価します。

医療従事者の中でも、患者の最も近くにいるのが看護師です。そのため選択を迫られた患者の心情を推し量り、意思決定できるよう患者を支える役割を果たさなければいけません。

患者とその家族が求める治療方針が異なったときには、双方の意見をすり合わせられるよう他職種と連携を取ることも必要でしょう。

レベル5の達成を目標とすることで、患者の尊厳を守る最善の方法を患者とともに考えられる看護師を目指せます。

ラダー制度のメリット

打ち合わせをする白衣の女性

(出典) photo-ac.com

看護師のような専門職をはじめ、さまざまな職種でラダー制度が取り入れられています。ラダー制度には、どのようなメリットがあるのでしょうか。

キャリアステップが分かりやすくなる

設定された目標がないと、自分が現時点でどれだけのスキルを持っているのか分かりにくいものです。また転職する際には、面接担当官は人柄や話の内容など、曖昧な情報しか得られません。

そこで有用なのがクリニカルラダーです。レベルごとに達成に必要な項目がはっきりと示されているため、どの段階にいる看護師も明確な目標を持って日々の業務にあたれます。

ラダーは病院や施設側にとっても、その看護師が必要とされるスキルを持っているのかどうかを判断するために最適な材料となるでしょう。

公平・公正な評価が得られる

ラダー制度のもう1つのメリットは、評価結果や処遇の決定に透明性があることです。

直属の上司が普段の働き方を見てスキルの上達度を測るような方法だと、上司の主観が評価内容に影響しがちです。ある程度の基準が定められていても、評価者による偏りは避けられないでしょう。

もし納得のいかない評価を下されれば、仕事へのモチベーションが落ちてしまうかもしれません。しかしラダー制度に基づく評価は上司の主観を挟みにくくなり、曖昧さは限りなく抑えられます。

公平公正に判断してもらえることにより、看護師自身が納得のいく評価を得られるでしょう。

ラダー制度で注意したいポイント

打ち合わせをする医者と看護師

(出典) photo-ac.com

クリニカルラダーのメリットを知って、導入している病院で働きたいと思う人は多いはずです。ただ、ラダーにはデメリットになり得る側面もあります。クリニカルラダーがあるがゆえの問題につまずかないよう、注意したいポイントを押さえておきましょう。

評価に影響されすぎない意識が大切

クリニカルラダーは知識と技術を基に看護師を評価するシステムです。通常の査定と同様に、評価結果は給与や賞与への影響も少なくないでしょう。

評価を意識するあまり、つい技能ありきの看護になってしまいがちなことが、クリニカルラダーを導入している医療機関で働くときの注意点です。自分の評価ばかりを追うようになれば、患者に寄り添う看護が後回しになってしまいます。

しかし、卓越したスキルを持っていたとしても、患者にとってよい看護師になれるとは限りません。自分がどんな看護師でありたいかという意識を強く持ち、評価に振り回されすぎない心構えが大切です。

スケジュール管理が不可欠

クリニカルラダーの各段階をクリアしていくには、日々の学習が欠かせません。講習や研修に参加し、新しい知識を蓄える必要もあるでしょう。

得た知識を日々の看護に生かすため、日々の業務を振り返り改善点を模索する時間も不可欠です。ただでさえ忙しいといわれる看護師にとって、ラダーのための勉強は過度な負荷になり得ます。

多忙で心身を壊さないためにも、しっかりスケジュール管理をしながら働く工夫が必要です。

着実にキャリアアップできるシステム

考え事をする白衣の女性

(出典) photo-ac.com

看護師の能力とは場数を踏み、論理的思考を働かせることで鍛えられていきます。一概に経験年数が長いからといって、能力が高いとは言い切れません。

クリニカルラダーでは、どれだけ知識と技術を有しているかを基に評価が下されます。看護師個人の能力が適切に評価されるため、看護全体の質を高めることにつながると期待されているのです。

仕事に勉強に忙しい毎日となりますが、ラダー制度で得た評価は一生ものの武器になります。現在の環境によっては転職も視野に入れつつ、最終目標となるレベル5を目指して努力を重ねましょう。求人探しに悩む場合は、ぜひスタンバイをご活用ください。

スタンバイ|国内最大級の仕事・求人探しサイトなら