SPとはどんな仕事?ボディガードとの違いや必要なスキルを解説

内閣総理大臣・海外からの国賓などを警護するSPについて、詳しく知っている人は少ないかもしれません。どのような人が任務に就いているのでしょうか?SPの仕事内容や必要とされるスキルのほか、民間のボディガードとの違いについても解説します。

SPとはどういう仕事?

SPのイメージ

(出典) pixta.jp

SPと聞くと、特殊な機関に配属される仕事というイメージを抱く人も多いかもしれません。まずは、SPとはどのような職業なのか、詳しく見ていきましょう。

警視庁の警備部警護課の警察官

SPとは、警視庁の警備部警護課に配属されている警察官のことを指します。皇族・内閣総理大臣・国賓など、法律で定められている重要人物を警護するのが仕事です。

SPは「セキュリティポリス(Security Police)」の略で、イニシャルがデザインされた「SPバッジ」をスーツの襟に付けています。

一般的には、警護任務に従事している警察官全体を指してSPと呼ぶケースがよくありますが、厳密には上記の部署以外の警察官はSPではありません。

なお、要人警護をSP(セキュリティポリス)と呼ぶのは日本独自の慣例で、アメリカでは同様の仕事を担う機関を「シークレットサービス」と呼びます。

SPの給料は?

SPは警視庁に所属している警察官なので、給料も東京都の公務員の俸給に準じます。警視庁の警察官の給料は、「東京都職員給料表」の「公安職給料表」に記載された「職務の級」と「号給」の組み合わせによって決められています。

2023年度の警視庁の採用案内によると、大学卒業程度に該当する1類採用者の初任給は25万9,300円、高校卒業程度に該当する3類採用者は22万1,800円です(2023年1月1日時点)。

民間企業におけるボーナスに該当する期末・勤勉手当は、年間でおおむね4.55カ月分が支給されます。

参考:東京都人事委員会公式ホームページ | 東京都職員給料
  :給与・昇任制度 | ワークライフバランス | 令和5年度警視庁採用サイト

民間のボディガードとの違い

民間にも、SPと同じように個人を警護する仕事がありますが、一般的にはボディガードと呼ばれています。SPとボディガードの大きな違いは、所属しているのが公的な組織か民間企業かという点です。

また、警護の対象となる人物や所持できる武器も、SPとボディガードでは異なります。SPは、法律で定められた対象者以外の警護はできませんが、警察官なので拳銃を所持できます。

一方のボディガードは、SPの警護対象とならない政治家・国内外の著名人など、幅広い人物の警護が可能です。しかし、殺傷能力のある武器は持てません。

SPの仕事内容

トランシーバー

(出典) pixta.jp

SPの具体的な仕事内容は、あまり知られていないかもしれません。どのようなことを行っているのか、詳しく見ていきましょう。

要人の警護

SPは、政府の要人・海外からの国賓など、法律で定められた対象者の警護を担当します。警察法施行令第13条第1項の規定に基づいて定められた「警護要則」の第2条によると、警護対象者は以下の通りです。

  • 内閣総理大臣
  • 国賓
  • そのほか、身辺に危害が及ぶことによって国の公安に係るおそれがある者として警察庁長官に定められた者

また以下のように、身辺を警護する対象者によって、警備課内は第1〜第4まで4つの係に分かれています。

  • 第1係:内閣総理大臣
  • 第2係:衆参両議院の議長及び副議長・最高裁長官・国務大臣
  • 第3係:国賓などの公式訪問賓客・一部の在日大使
  • 第4係:総理大臣経験者などの政府要人・都知事など

第4係では、公人以外の警護を担当するケースもありますが、対象者は非公開とされています。

参考:警護要則 第2条 | e-Gov法令検索

近接保護部隊

近接保護部隊とは、警護対象者の近くにいて、身辺を警護する部隊のことです。一般的にイメージされるSPの姿は、この近接保護部隊が近いかもしれません。対象者が外出する際に、自宅を出てから帰宅するまでの間、身の安全を守ることが任務です。

常に対象者の周りを鋭く観察し、不審者がいないかチェックします。万が一対象者が襲撃に遭うなど、何らかのトラブルが起きた場合には、近接保護部隊のSPが身を挺して守らなければなりません。

警護中は対象者から離れることはできないため、気軽にトイレに行けないといった苦労もあります。

先着警護部隊

先着警護部隊は、警護対象者が向かう先での事故・事件の発生を未然に防ぐ、「アドバンス」と呼ばれる任務を担当する部隊です。対象者よりも早く現場に到着して、不審物・不審人物の存在がないかといった点を確認します。

また、対象者が向かう先の都道府県警察の身辺警戒員・警備部隊も、SPを支援して警護します。そのため、公安警察とともに所轄の警察本部に出向き、協力の要請・打ち合わせをするのも先着警護部隊の仕事です。

SPになる方法は?

警備員

(出典) pixta.jp

SPになるには、まず警視庁の警察官になることが必要です。SPになるまでの道のりのほか、民間のボディガードとして働く方法も解説します。

警視庁の警察官試験に合格する

SPになるためには、まず警視庁の警察官採用試験に合格しなければなりません。警視庁の警察官採用試験は、大学卒業程度の「1類」と高校卒業程度の「3類」に分かれ、年に数回実施されます。

それぞれの受験要件を確認し、該当する区分の試験を受けましょう。2023年度の受験要件は以下の通りです。

  • 1類(大学卒業程度):35歳未満で、大学を卒業しているか、2024年3月までに卒業見込みの人。または、21歳以上35歳未満で、大学卒業程度の学力を有する人
  • 3類(高校卒業程度):35歳未満で、高校を卒業しているか、2024年3月までに卒業見込みの人。または、17歳以上35歳未満で高校卒業程度の学力を有する人

参考:採用案内(警察官) | 採用情報 | 令和5年度警視庁採用サイト

総理大臣官邸警備隊からスタート

警視庁の警察官になった後は、警護課に配属されることが必要です。警護課に配属されたら、「総理大臣官邸警備隊」として制服勤務から始まります。

総理大臣官邸警備隊とは、総理大臣官邸の敷地内・外周の警備をする部隊のことで、機動隊とともに24時間体制で官邸を警備します。

主な仕事内容は、官邸の各門から出入りする人や車、荷物などのチェックです。総理大臣官邸警備隊員の仕事は、SPへの登竜門とされています。

民間で働く場合は警備会社に就職

民間のボディガードとして働くには、個人を対象とした警護サービスを提供している警備会社に、就職することが必要です。ボディガードに必要な条件は会社によって異なるため、明確な基準はありません。

とはいえ、人物の警護という特性上、ある程度の体力や気力、武道などの経験はあった方が望ましいでしょう。

警察官・自衛官などから、民間のボディガードに転職する人も少なくありません。また、企業で十分に実績を積んだ後、フリーのボディガードとして活躍する人もいます。

警備会社への転職には、求人数が豊富な「スタンバイ」を活用するのがおすすめです。さまざまな条件で検索できるので、ボディガードを募集している会社探しにも役立ちます。

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SPに必要なスキル・条件は?

拳銃を構える警察官

(出典) pixta.jp

SPになるには、どのようなスキル・条件が必要とされるのでしょうか?2つ挙げて解説します。

柔道・剣道や射撃のスキル

SPになるには、「柔道または剣道が3段以上」「拳銃操法は上級」という条件をクリアしていることが必須です。拳銃操法は上級・中級・初級の3つに分かれていますが、上級に該当する警察官は数十人に1人程度しかいないといわれています。

身長の目安は厳格に決まってはいないものの、173cm以上あるのが望ましいでしょう。ただし、これらのスキルがあれば誰でもSPになれるわけではありません。条件を満たしている警察官の中から、SPの候補者として選ばれることが必要です。

なお、人数は少ないものの、女性のSPも存在します。女性の場合は、「身長160cm以上」「柔道・剣道・合気道のいずれかの有段者」であることが条件です。

所属長からの推薦

SPが所属する警護課に配属されるためには、SPとしての適性や体力検定・勤務評定などの総合的な評価に基づいた、担当上司からの推薦が必要です。上司から推薦されて初めて、警護課による書類選考・面接を受けられます。

さらに、警護課の面接に受かった後は、警護講習という訓練が待っています。しかし、警護講習を受けた人が全員SPになれるわけではありません。ほかのSP候補生との競争に勝ち抜いた人だけが、SPとしての任務に就けるのです。

SPに向いている人は?

警察官の後姿

(出典) pixta.jp

SPは、要人を警護する責任の重い仕事ですが、どのような人が向いているのでしょうか?向いている人のタイプを2つ挙げて紹介します。

危機管理能力の高い人

SPの仕事を遂行するには、危機管理能力が必要です。警護をしている間は、いつ何が起こるか予測がつきません。

常に周りを監視し、いざというときは瞬時に動いて警護対象を守ることが求められます。そのためには、いち早く危険を察知できるスキルも必要となるでしょう。

また、緊急時には身を挺して警護対象を守る勇気・正義感の強さも重要です。常に冷静に判断し、適切な行動に移せる人はSPの仕事に向いているでしょう。

体力に自信がある人

SPの仕事には、体力も必要です。もちろん要人警護の仕事は、体力だけが全てというわけではありません。

しかし、勤務時間が不規則で警護中は休憩も取れない、肉体的な負担が大きい仕事です。突然の襲撃に遭ったときでも素早く動けるよう、筋力・瞬発力も求められます。

またSPになるには、一般的な警察官以上に優れた逮捕術・格闘能力が身に付いていなければなりません。常に鍛錬するためにも、相応の体力を備えていることが望ましいでしょう。

SPは警視庁の警察官の仕事

警視庁のイメージ

(出典) pixta.jp

内閣総理大臣・国賓などの要人を警護するSPは、警視庁の警察官が担っている仕事です。警視庁以外の各道府県の警察にも警護課に相当する仕事はありますが、厳密にSPと呼べるのは警視庁に所属する警察官だけです。

要人の命を守る責任の重い職務なので、武道・拳銃の操作方法などのほかにも、いざというときには自分の身を投げ出す勇気・使命感も求められます。SPを目指すなら、警視庁の警察官となった上で、実務経験を積みましょう。