給与明細の記載項目の意味や見方を解説。保管する必要性も紹介

社会保険や税金の仕組みを知らず、いくら払っているのか分からない人もいるでしょう。給与明細の見方を理解すれば、自分が何にいくら支払っているのかを知ることができ、正確な収入をきちんと把握できます。給与明細の見方や、書類保管の重要性を解説します。

給与明細とは?

給与袋と電卓

(出典) photo-ac.com

会社から毎月受け取る給与明細とは、どのような書類なのでしょうか?給与明細の基礎知識と、会社の交付義務について解説します。

給与計算の根拠をまとめた書類

給与明細とは、給与計算の根拠となる情報をまとめた書類です。会社が給与をいくら支給し、実際に入金される手取り額がいくらになるのかは、給与明細を見れば分かります。

給与明細の内容は、勤怠情報・支給額・控除の3つに大きく分けられているのが一般的です。総支給額から控除合計額を差し引いた手取り額は、『差引支給額』や『銀行振込額』の欄に記載されています。

また、会社からもらえる給与関連の書類には、給与明細以外に源泉徴収票もあります。源泉徴収票とは、年末調整が完了した後に年1回発行される書類です。

1年間で納めた所得税の過不足分を年末調整で計算した結果が、源泉徴収票に記載されます。源泉徴収票には、住民税に関する記載はありません。

給与明細の交付は義務

会社には、給与明細の交付が所得税法で義務付けられています。給与が支給されるたびに、会社は従業員へ給与明細を渡さなければなりません。

給与明細の交付期限は、給与支払日までです。給与支払日が毎月月末と決まっているなら、会社は毎月月末までに給与明細を従業員へ交付する必要があります。

会社が発行してくれない場合は、法律で交付が義務付けられていることを伝えた上で、発行を依頼してみましょう。それでも交付を受けられない場合は、所轄の労働基準監督署に相談すれば会社を指導してもらえます。

給与明細に記載されている項目

給与支給明細書と電卓

(出典) photo-ac.com

給与明細から分かる情報は、勤怠情報・支給額・控除の3つです。それぞれの内訳と具体的な内容を覚えておきましょう。

出勤日数や残業時間などの勤怠情報

一般的な給与明細には、勤怠情報が記載されています。勤怠情報の主な内訳は、就業日数・出勤日数・労働時間・欠勤日数・有給消化日数などです。

就業日数とは、会社で定められた出勤日数を指します。欠勤や有給消化がなかった場合、就業日数と労働日数は同じです。

また、給与明細には、残業や休日労働の情報が記載されているケースもあります。普通残業・深夜残業・休日出勤の項目に分かれているのが一般的です。

勤怠情報を見る際は、実際の勤務状況と合っているかチェックしましょう。会社側がミスをして、記録が間違っている可能性もあります。正しい情報が記載されていない場合は、担当者に確認してみましょう。

基本給や手当などの支給額

給与明細の支給額とは、会社が従業員に支給するお金のことです。給与明細に記載されている支給額は、基本給と手当に大きく分かれています。

手当の主な内訳は、役職手当・資格手当・住宅手当・家族手当・通勤手当・残業手当・深夜勤務手当・休日出勤手当などです。

手当の種類は、法律で定められているものと、会社が任意で決められるものに分けられます。残業手当・深夜勤務手当・休日出勤手当は、法律で支給が義務付けられている手当です。会社が任意で定める手当は、金額の計算が会社ごとに異なります。

また支給額の欄には、差引支給額も記載されています。差引支給額は、総支給額から各種控除額を引いた金額です。

総支給額は会社から出ていくお金、差引支給額は従業員の手取り額と考えれば分かりやすいでしょう。

社会保険や税金などの控除

会社が従業員に支給するお金は、全額が従業員の手に渡るわけではありません。社会保険料と税金を差し引いた金額が、差引支給額として従業員の手取り額になります。

社会保険料や税金などの控除額は、給与明細の控除欄で確認可能です。会社によっては、社宅費・労働組合費・財形貯蓄費など、労使協定で定められた『法定外控除』が差し引かれているケースもあります。

毎月天引きされている控除額のうち、所得税の金額はあくまでも概算で算出したものです。年末調整で所得税の再計算を行い、天引きした分が多ければ、納めすぎた税金が還付されます。大半の会社では多めに差し引いているため、年末調整でお金が戻ってくるのです。

天引きされる社会保険は4種

給料袋と給与明細書

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給与明細の控除欄には、いくつかの社会保険料が記載されています。代表的な4種類の保険料について解説します。

厚生年金保険料

公的年金の種類は、『国民年金』と『厚生年金』に分かれています。日本に住む20歳以上60歳未満の全ての人が加入する年金が国民年金、会社員・公務員が国民年金に加えて加入する年金が厚生年金です。

厚生年金は国民年金に上乗せされるため、国民年金しか加入していなかった人に比べ、厚生年金加入者は老後に受け取れる公的年金が多くなります。

給与明細に記載されている厚生年金保険料の金額は、国民年金と厚生年金の保険料を合計した金額です。収入が多くなるほど、厚生年金保険料の金額も高くなります。

転職後すぐに再就職する場合は、再就職先で引き続き厚生年金に加入できます。退職日から再就職日まで期間が空くケースでは、原則として国民年金に加入しなければなりません。

雇用保険料

雇用保険料は、失業給付・育児休業給付・就職促進給付などの原資となる保険料です。労働者が、何らかの理由で困った場合に役立てられる掛金と考えればよいでしょう。

雇用保険料の金額は、給与の総支給額に保険料率を掛けて算出します。保険料率は年度ごとに見直される上、事業の種類によっても変わります。

一定の条件を満たす事業者は、原則として雇用保険に加入しなければなりません。しかし、雇用保険料を負担したくない会社や手続きに不備がある会社は、雇用保険に加入していないケースがあります。

自分の会社が雇用保険未加入の場合、失業時や休業時に給付を受けられない事態にも陥りかねません。給与明細の雇用保険料が空欄になっている場合は、会社に確認しましょう。

健康保険料

日本の医療保険には、国民全員でお互いの医療負担を軽減する『国民皆保険制度』が導入されています。全ての国民が、何らかの公的医療保険に加入しなければなりません。

会社員の場合は、『組合健保』または『協会けんぽ』へ加入することになります。公務員が加入する保険は『共済組合』、そのほかの人が加入するのは『国民健康保険』です。75歳以上の人は『後期高齢者医療制度』に加入します。

会社員が加入する組合健保や協会けんぽの保険料は、加入者の収入や加入している保険の種類などにより変わります。扶養家族がいる場合も加算はなく、被保険者1人分の保険料で済むことが特徴です。

介護保険料

40歳以上の人は、介護保険への加入が義務付けられています。介護が必要になった65歳以上の人を、社会全体で支える仕組みが介護保険制度です。

介護保険で受けられる主なサービスには、施設サービス・居宅サービス・地域密着型サービス・住宅改修などがあります。40〜64歳の人でも特定疾病患者と認められれば、介護保険を受けることが可能です。

40〜64歳までの健康保険被保険者は、加入している健康保険の保険料と一緒に介護保険料が徴収されます。収入や保険の種類により保険料が変わるのは、健康保険と同じです。

天引きされる税金は2種

給与支給明細書の画像

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毎月天引きされている2種類の税金についても、理解を深めておきましょう。所得税と住民税の基本を解説します。

源泉所得税

個人の所得には、所得税が課されます。所得税は、1年間の所得に対して課される税金です。

会社員の場合、給与額が変動したり扶養家族の人数が変わったりすると、所得税の金額も変わります。正確な所得税額はあらかじめ計算できないため、概算した所得税を『源泉所得税』として天引きしているのです。

源泉所得税に過払いがある場合は、年末調整で還付されます。最終的にいくら所得税を納めたのか知りたい場合は、給与明細ではなく源泉徴収票を見なければ分かりません。

所得税は『累進課税方式』を採用しており、所得額が増えると税率も上がる仕組みです。2037年までは、所得税に加え税率2.1%の『復興特別所得税』も徴収されます。

住民税

住民税は、都道府県や市区町村に納める地方税です。会社員の場合は、給与所得に住民税がかかります。住民税の税率は『10%』です。

所得税がその年の所得に対して発生するのに対し、住民税は『前年分の所得』に対して課されます。

そのため、入社1年目の新入社員は住民税が発生せず、給与明細の住民税欄も空欄です。ただし、アルバイトなどで『100万円を超える収入』があった場合、住民税の課税対象となることがある点には注意しましょう。

なお、ボーナスは住民税の課税対象外となります。

給与明細は一定期間保管しておこう

給与明細書と蛍光ピンクのペン

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従業員に給与明細の保管義務はありませんが、一定期間保管しておくのがおすすめです。保管すべき期間と理由について解説します。

最低2年間は保管すべき

給与明細は、最低でも『2年分』は保管しておきましょう。失業給付をもらう条件として、『退職日から2年前までに通算12カ月以上雇用保険に加入していること』というものがあるためです。

残業代の未払い請求を行う場合も、給与明細を残しておけば有力な証拠になります。2020年4月1日以降に支払われた賃金は、請求権の時効期間が5年のところ、当分の間は3年となっています。

そのため、未払い請求を行う可能性がある場合は、給与明細を『3年分』残しておくとよいでしょう。

確定申告を行うケースでは、還付や控除の時効が5年となっていることから、『5年分』の給与明細を保管するのが理想です。

住宅ローンを組む際などで必要なことも

住宅ローンを組んだりクレジットカードを作ったりするときも、給与明細が必要になる場合があります。給与明細で収入の証明ができるためです。

借入を行う際は、申込者の収入が審査項目の1つになります。基本的には、所得証明書や源泉徴収票の提出を求められますが、これらの書類がなくても給与明細の提出で対応可能です。

年度途中に退職して年末を無職で迎えた場合は、その年の源泉徴収票がありません。このようなケースでも給与明細を見せれば、年間でどのくらいの収入があったのかを計算できます。

給与明細の見方を把握しきちんと確認しよう

給与明細書・現金・電卓

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給与明細には、勤怠情報・支給額・控除が記載されています。それぞれの内訳を確認し、どのようなお金が出入りしているのかを知ることが大切です。

給与明細の見方が分かれば、今の給与と転職先の給与を比べる際にも役立ちます。税金や社会保険の仕組みもきちんと理解し、自分の給与を正しく把握しましょう。

給与明細は、失業給付や住宅ローンの申請などに必要となることもあるので、最低でも2年間は保管しておくことが重要です。

小西道代
【監修者】All About 労務管理ガイド小西道代

労務トラブルを未然に防ぐ社会保険労務士・行政書士。行政書士法人グローアップ代表、社会保険労務士法人トップアンドコア役員。大学卒業後、日本マクドナルドに入社。幅広い年齢層と共に働くことで、法律や制度だけではない労務管理・組織運営に興味を持ち、弁護士事務所等で経験を積む。自身も喫茶店を経営した経験から、労務トラブル予防の労務相談を得意とする。
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