出向とは?左遷や派遣との違いと拒否できるのかについて紹介!

会社の辞令でよく聞く『出向』とは、どのような意味を持つ言葉なのでしょうか?出向には2種類あり、どちらのパターンかによって意味も異なります。派遣・左遷といった言葉との違いのほか、拒否できるのかについても解説します。

出向とは?

辞令とボールペン

(出典) photo-ac.com

働く会社が変わる『出向』には2つのタイプがあります。あまりよくないイメージを持つ人もいるかもしれませんが、実際はどんな仕組みなのでしょうか?出向の種類や意味合いについて解説します。

「在籍出向」と「移籍出向」の2種類

出向には、『在籍出向』と『移籍出向』の2パターンがあります。判断基準は『元の会社に籍を置くかどうか』です。

在籍出向は元の会社に籍を置いたまま新しい会社で働くことを指し、働く人は出向元・出向先のどちらとも労働契約を結びます。一方で移籍出向は、勤めていた会社との雇用関係を打ち切って、新しい会社に籍を移すものです。

移籍出向は自己意思で行う転職とは異なり、会社の意向によりグループ会社へ籍を移すといった人事的な都合が関わっています。『転籍(転籍出向)』とも呼ばれ、いずれ出向元に戻る前提の在籍出向とは意味合いが異なります。

近年は左遷と異なるケースも多い

出向は、グループ会社や子会社への移動を伴うことが多く『左遷』と似たイメージを持つ人もいますが、出向という言葉自体に悪い意味はありません。

左遷は降格を伴いますが、出向は経験豊富な社員を必要な場所に配置するための戦略というケースもあります。元の会社に戻る前提の『在籍出向』は、今後の出世や経験にもつながるでしょう。

また、出向を左遷と捉えるかどうかは、内容にもよります。出向は一般的な異動とは異なり、社員の同意を得た上で条件を伝えてから意向を確認する会社も多いでしょう。

近年では、若手の育成を前提に在籍出向を命じる会社も増えており、悪いイメージは薄くなってきています。

コロナ禍の影響で一時的な出向が増えている

コロナ禍では、一部の業界で仕事ができなくなり、休業を余儀なくされるケースが増えています。一方で人手不足に悩む業界もあり、人材をうまく活用するために一時的な出向を命じることが多くなっているようです。

在籍出向には、出向元・出向先ともにメリットがあります。出向元・出向先が話し合って給与の支払い割合を決めることで、雇用が難しい会社(出向元)は社員を解雇することなくコストの削減が可能です。

人手不足に悩む会社(出向先)も、コストを抑えながら一時的に従業員を増やせます。『人材をシェアする』目的の在籍出向は、航空業界やホテル業界などで取り入れられているようです。

参考:在籍型出向「基本がわかる」ハンドブック(第2版)

派遣との違い

出向と派遣は、『どの会社に籍を置いているか』という点が異なります。『派遣(派遣労働)』は派遣元会社と労働契約を結び、人手が必要な会社(派遣先)で働く形態です。働く人は派遣先と雇用契約を結びません。

一方、在籍出向は出向元・出向先の両方と労働契約を結ぶ形態です。移籍出向では出向先の会社と契約を結び直します。

なお、『紹介予定派遣』で派遣元から派遣先に雇用契約が移る場合、広い意味では移籍出向であるともいえます。紹介予定派遣とは、一定期間が経過した後に派遣先と働く人の合意が取れた場合のみ、派遣先との正式な雇用契約が結ばれる派遣です。

出向の目的とは?

複数人で会議する様子

(出典) photo-ac.com

会社が出向を命じるとき、いくつかの目的があります。目的によっては、今後社員が活躍するきっかけにもなるでしょう。一般的によく知られる4つの目的を紹介します。

雇用の調整のため

雇用調整が目的の出向には、『業績の問題で一時的に雇用維持が難しくなったケース』や『年齢や経験に見合う役職を自社で用意できないとき』が該当します。

一時的に雇用維持が難しいだけというときは、在籍出向の形を取ることが多いでしょう。あくまでも一時的な措置のため、いずれ業績が回復する見込みがある場合に行われます。

反対に人手が足りないときも、雇用調整の目的で社員の移動が求められます。グループ会社や子会社に人手が必要なとき、人員の移動で調整できるなら効率的です。

特定の社員に見合う役職を与えるためグループ会社へ移ってもらい、その後も出向先で業務を続けてほしい場合は、移籍出向を提案することが多くなります。

人材育成のため

特定の社員を育成するため、出向を命じるケースもあります。特に若手・中堅社員に在籍出向を打診する場合は、人材育成が目的といえるでしょう。

大手企業で若手社員に重要な役職を与えることは困難ですが、小規模企業や海外拠点で経験を積ませることは可能です。出向先でスキルや経験を磨き、いずれ元の会社に戻ってもらうために出向を命じます。

出世を見込める優秀な社員には、会社全体の業務や仕事の流れを知ってほしいという目的もあるでしょう。人材育成のための出向は、本人にとって今後のキャリアアップにもつながります。

会社の経営戦略のため

新規事業の立ち上げや業績アップが必要な時期に、特定のスキルを持つ社員は重宝されます。事業が軌道に乗るまで、優秀な社員を出向させるという戦略も取られるでしょう。

社員を適切な場所に配置し、人材をうまく使うのは経営戦略の1つです。元の会社でも必要な人材を移動させるときは、一時的な在籍出向を命じるケースが大半でしょう。

しかし場合によっては、子会社の立ち上げの際に責任者として移籍出向を検討するケースもあります。

会社間の交流のため

出向の目的には、会社同士の交流も含まれます。取引先との交流や、関係会社との密接なコミュニケーションが必要な場合が代表例です。橋渡し役がいるだけで、会社同士のコミュニケーションもうまくいくでしょう。

また、お互いの業務内容を知ることで、よりよい交流の方法も見つかります。業務を円滑に進めるためにも、関わりの深い企業への出向は効果的な戦略です。

在籍出向をした人は出向元の会社に戻ってからも、新しく構築した人間関係をうまく活用して業務を進められます。

出向は拒否できるのか?

就業規則とボールペン

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働く環境が変わる出向に抵抗があり、辞令を拒否できるのか気になる人もいるでしょう。出向を拒否できるかどうかは、状況や会社のルールによっても変わってきます。

まずは就業規則をチェック

状況によっては出向で労働環境が大きく変化することもあり、『就業規則』によって根拠を定めているのが一般的です。

在籍出向の場合、就業規則に『出向を命じる可能性』や『社員が出向に応じる義務』が記載されていれば、原則として出向しなければなりません。

社員にとって大きなデメリットがなく、期間が決まっている在籍出向なら、異動や転勤と同様の辞令と考えてよいでしょう。

出向拒否ができるケース

在籍出向を命じられた場合でも、状況によっては拒否ができます。就業規則に書かれていても、社員に著しいデメリットがある場合は同意が必要です。

給与や労働条件が大幅に悪くなるなど、問題があるときは労働相談の対象になることもあります。客観的に必要がないと見なされるものや、嫌がらせに該当するものも拒否が可能です。

また、『移籍出向』に関しては、退職を伴うため原則として社員の同意が必要とされています。基本的には会社と出向を命じられた社員が話し合うことになりますが、状況によっては裁判で争われるケースもあります。

出向のメリット・デメリットも把握しよう

出向には、いくつかのメリットとデメリットがあります。

出向する社員にとって、『経験を積みスキルを磨けること』は大きなメリットです。元の会社ではできない業務を経験し、異なる組織での働き方を学ぶことは大きな経験値になります。

また、新しい環境で出会った人や同僚は、元の会社に戻っても貴重な人脈となるでしょう。出向中に何らかのプロジェクトを成し遂げれば、出世のきっかけになるかもしれません。

しかし、出向先の社風が合わない場合には、能力を発揮しにくい状況が続くでしょう。移籍出向であれば元の会社に戻れないため、新たな会社で関係を作っていく必要もあります。場合によっては、給与が下がってしまうという問題も考えられるでしょう。

出向がメリットになるかデメリットになるかどうかは、本人の状況や出向の目的が大きく関わってくるといえそうです。

出向中の給与・保険はどうなる?

給料袋と給与明細書

(出典) photo-ac.com

出向するにあたって、給与や保険の支払いがどうなるのか気になる人も多いでしょう。在籍出向では基本的には会社同士で話し合うことになりますが、あらかじめ決まっているルールもあります。

給与の支払い

在籍出向にあたって『どこが給与を支払うか』には、いくつかのパターンがあります。国税庁では出向元が負担することとなっていますが、実際にどちらかどれだけ負担するかについて明確なルールはありません。

出向元・出向先どちらかの会社が全額を負担する、または会社同士が話し合って割合や分担を決めます。実際の負担者は出向元・出向先の間で結ばれる『出向契約』によって変わりますが、労働者に業務を与えている出向先が負担するケースが多いようです。

実質的に支払うのが出向先の場合、出向元に給与分を支払う形で事務処理が行われることもあります。

移籍出向の場合は、籍を移した時点から出向先の社員です。移籍が完了した後に給与を負担するのは出向先となります。

参考:第9款 転籍、出向者に対する給与等|国税庁

保険の支払い

在籍出向を命じられた社員の社会保険・雇用保険・労災保険は、一定のルールに基づいてどこが負担するかが変化します。

社会保険・雇用保険を負担するのは、原則として給与を支払っている会社です。ただ、実際には出向先が出向元に対して給与分のお金を支払っていても、『手続きの窓口』が出向元になっているときは出向元が社会保険・雇用保険を負担します。

労災保険は『業務を行う会社』が全額を負担する保険です。給与を支払っているのが出向元であっても、実際に働く場となる出向先が負担します。

正しい意味を把握して今後の動向を決めよう

パソコンの前で考える男性

(出典) photo-ac.com

出向には『在籍出向』と『移籍出向』の2種類があり、それぞれに特徴があります。
在籍出向は2つの会社に籍を置いて働くパターン、移籍出向は出向先に籍を移すパターンです。

出向は左遷と違って必ずしも待遇や業務レベルの低下を伴うものではなく、時にはキャリアアップのために提案されることもあります。

本人にとってプラスになる出向であれば、出世やスキルアップも期待できるでしょう。出向を命じられたときは目的や自社の状況を把握した上で、ステップアップを目指せるのか判断するのが賢明です。