教員は社会貢献度の高い役割を担っていますが、負担が大きく働き方の柔軟性も低いため、辞めたいと感じる人も少なくありません。教員を辞めたいと感じる理由やメリットデメリットなど、退職の前に考えておきたいポイントを詳しく解説します。
この記事のポイント
- 教員を辞めたい主な理由
- 教育現場には、民間企業にはない特殊な労働環境や制約があり、教員の負担や不満につながっています。
- 退職のメリットとデメリット
- 自分の希望する働き方や環境を目指せる一方で、公務員の持つ権利を手放すデメリットもあります。
- 退職後の選択肢
- 塾講師や家庭教師、教材の制作など、教員の経験を生かせる仕事の選択肢があります。
教員を辞めたい理由で多いのは?
教員は生徒の成長をサポートし教育する社会でも重要な役割の1つです。やりがいを覚えることもある一方で、一般的な企業とは異なる職場環境や勤務実態から教員を辞めたいと感じる人もいます。ここでは、教員を辞めたいと思う主な理由を見てみましょう。
長時間労働で休日出勤がある
教員が担当する業務は、授業や授業の準備だけではありません。入学式や運動会などの校内イベントに関する業務、部活動の顧問などもあります。
経験のない部活動の顧問を担当することになれば、ルールなど必要な知識の勉強も必要です。平日の昼間は授業を行っているため、授業以外の業務は早朝や夕方、休日を使わなくてはなりません。
労働基準法の第32条では「使用者は労働者に休憩時間を除き1週間に40時間を超えて労働させてはならない」と定めていますが、超過しているのが実態です。
長時間労働が慢性化すると、休息やリフレッシュに充てる時間が減ります。長期的に疲労やストレスが蓄積すると健康にも影響するため、長時間労働から脱却したいと考える人もいるでしょう。
IT化が遅れていて業務が非効率
社会にはスマートフォンやタブレットが普及し、日常生活に欠かせないツールとなっていますが、教育現場ではIT化が進まず非効率な業務を強いられているケースもあります。
IT化を進めるにはデバイスやソフトウェアなどへの投資が必要ですが、資金がなければ導入できません。また、ITになれていない人や変化を嫌う人は、新しいツールやプロセスの導入に抵抗を感じるため、古い体質が維持されやすい事情もあります。
資料を作成する際、テンプレートや過去の似た資料をコピーして編集すればゼロから作り直す必要はありませんが、ファイルを共有できる環境が整ってなければ困難です。非効率な業務を改善できるIT化が遅れてしまうと、教員の負担軽減が進みません。
人間関係のストレスが多い
学校では生徒と向き合う時間が多い一方、上司や同僚、保護者などとのコミュニケーションが求められます。教員はそれぞれ自分の教育観を持っていますが、現場では学校や上司の教育方針に従わなければならず、相違がある場合の葛藤は大きなストレスにつながります。
保護者への対応も重要な役割の1つです。自分の子どもが学校内でトラブルに遭った際など、学校に頻繁にクレームを入れる保護者もいるため、時には理不尽な意見や要望にも向き合わなければなりません。
人間関係のトラブルがあっても周囲からのサポートを受けにくい環境は、心理的なストレスが大きくなります。
指導する責任が重い
生徒が安心して学校生活を送れるよう、教員は1人1人の行動や成長に目を配ります。しかし、それぞれ個性が違うため思うように良好な関係が構築できない、理解度に合わせられず授業が想定通りに進まないなどの困難にぶつかることもあります。
生徒全員の状況を常に把握するのは難しく、特に新任教員や経験の浅い教員は理想とできることのギャップに悩みがちです。責任感の強い人ほど1人1人に寄り添って大きく成長してほしいと思うため、悩みも大きくなるでしょう。
また、進路相談は生徒の人生を大きく左右するため、生徒に適したアドバイスが必要です。自分の提案が生徒の人生に影響を与えることに、大きなプレッシャーを感じる人もいます。
将来への不安がある
公立学校の教員は、他の職業と待遇が大きく異なります。所定労働時間を超過した場合、一般的にはその分の時間外勤務手当が支給されますが、公立学校では支給されません。
学校は遠足などの校外学習や長期休暇などがあり、教員1人1人の勤務時間を正確に測るのが困難です。そのため、時間外勤務が命じられない代わりに給料月額の4.0%に相当する教職調整額が支給されています。
給与が十分でないと考える人は副業で収入を増やそうとしますが、公務員は副業禁止です。副業は収入を増やすだけでなく、現在の環境では得られない知識や経験を得られるメリットもあります。
勤務時間が長くプライベートの時間が少ない、収入増加の希望がない、成長を実感できない環境では、将来に不安を覚える人もいるでしょう。
出典:公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法|e-Gov
教員を退職するメリット・デメリット
退職前にしておきたい重要な作業は、どのようなメリットとデメリットがあるかを事前に整理することです。メリットの部分だけを見て決断をしてしまうと、後悔が残るかもしれません。ここでは、退職する際の主なメリットとデメリットを紹介します。
退職することで得られるメリット
退職で得られる主なメリットは、以下の4つです。
- 自分の時間を確保しやすくなる
- 保護者対応など難しい人間関係がなくなる
- 教員という肩書きがなくなる
- 自分に適した職場を探せる
勤務時間の長さから、プライベートの時間がないという問題がなくなります。同様に変則的で長時間勤務になる企業もありますが、転職前に勤務実態や条件を確認すればプライベートと両立できる仕事が見つかるでしょう。
また、保護者への対応に悩んでいる場合は、安定したコミュニケーションができる職場を見つけると気分も前向きになります。
生徒の見本である教員は、学校以外でも生徒や保護者の目に触れる可能性があるため、外出中も気が抜けません。肩書きがなくなることで気が楽になります。
働き方に制限が多い学校から柔軟性が高い職場に移ることで、自分の希望する働き方ができるようになるでしょう。
退職にはデメリットもある
退職によるデメリットには以下の3つがあります。
- 公務員の場合、手厚い福利厚生が受けられなくなる
- 雇用の安定性が低くなる
- 社会的信用低下のリスクがある
公立学校の教員は、交通費の全額支給、長期の夏季休暇取得、定期昇給、ボーナス支給などの手厚い福利厚生を受けられます。民間企業では、昇給やボーナスは業績次第で変動し、長期の休暇取得も初年度から数年間は難しいでしょう。
また、民間企業に転職する大きなリスクの1つは、倒産や業績悪化による人員削減による解雇です。公務員は、業績や経済状況によって待遇が大きく変化することはありません。
さらに心配なのが、退職による社会的信用の低下です。住宅や自動車を購入する際のローン審査では、社会的信用度の高い公務員は通過しやすい傾向にあります。退職により信用度が下がると、将来の生活に大きな影響を与える場合もあるでしょう。
教員は年度途中でも退職できる?
教員は、年度末まで待たなければならないなどの規定はないため、どのようなタイミングでも退職できます。体調が良くない、精神的な負担が大き過ぎて耐えられない状況であれば、年度末まで待つのは本人だけでなく生徒にも良くありません。
しかし、年度途中で退職すると学校は代わりの人材を見つけなくてはならず、担当している業務の引継ぎや担当クラスの生徒のケアなども必要です。退職を決断したら、時期を問わずなるべく早い段階で上司に伝えましょう。
教員を辞めると決めたら?
デメリットも考慮した上で辞めると決断したら、退職と次の職場探しに向けて準備を始めます。大切なのは、退職までに必要な作業と退職後の選択肢を事前に整理することです。周囲への影響を最低限に抑えるためにも、早めの準備を心掛けましょう。
退職までの流れ
退職の意思を固めたら、校長にその旨を伝えます。校長の予定を確認し、退職について話す時間を確保してもらいましょう。電話など間接的な手段ではなく、直接会って自分の考えを伝えるのが礼儀です。
代わりの人材を確保できるように、なるべく早いタイミングで伝えます。一般的な学校では10月に次年度の人事希望を取るため、年度末で退職する場合は9月までに意思を伝えるとよいでしょう。
10月以降になる場合でも、少なくとも3カ月前には伝えると学校側もスムーズに対応できます。
退職後の選択肢
教員の仕事が好きなのに環境に恵まれなかった場合は、学区を変えて再度教員としてチャレンジもできます。学校の雰囲気は地域によって大きく異なり、教職員や保護者のタイプも変わります。
進学校を目指す家庭の多い学区や学校と地域のつながりが強い学区など、自分の教育観に合う学区を探してみるのもよいでしょう。教えることが得意でやりがいを感じる場合は、塾の講師や家庭教師も選択肢の1つです。
部活動や校外学習などに時間を取られることに苦痛を感じている人にとって、学習指導に集中できるのは大きなメリットです。予備校などで実力を認められれば、収入増加も期待できます。
学校で使う教材を出版社で作成する業務、製品紹介や顧客サポートをする営業職なども候補となります。仕事で重視する要素を事前に整理してから転職先を探すと効率的です。
教員を辞めて 異業種に転職する際のポイント
教員の業務は民間企業の業務とは異なる部分も多く、自分の目標と企業が求める人物像にギャップがあると採用に至らない、思っていた業務と違ったなどの失敗につながります。
異業種へ転職する場合は自己分析を行い、基本的なビジネススキルも習得しておきましょう。自己分析では「なぜ転職したいのか」「転職先でどうなりたいか」「アピールできるスキル」などを明確にします。
学校と企業では、業務遂行に必要となるスキルが異なります。業務効率が求められる上に、社内の関連部門や社外の業者との折衝など、問題解決へ臨機応変に対応できる理解力や迅速性も必要です。
ビジネスマナーやスキルは、転職前に本やインターネットで調べておきましょう。
教師を辞めたい方が退職前にできる対処法
さまざまな理由で今より自分に合った環境を求める人はいますが、本当に退職が良い選択かどうかを最後に確認しましょう。
周囲の人に相談する、休暇制度を利用する、辞めたい理由を明確にするなどの対処法を試してからでも遅くはありません。
周りの人に相談する
辞めたいと感じたら、1人で悩まず親しい人に相談してみましょう。1人で考えていると、自分の置かれた環境を客観視できません。
同僚である必要はなく、家族や友人に話すだけでも新しい視点が得られます。解決策が見つからなくても、共感を得られるだけで気持ちが晴れることもあるでしょう。
同僚と良好な関係が築けないなど職場に問題がある場合、校長に相談するのも一案です。校長が問題を把握し、対応に動いてくれるケースもあります。
また、上司から理不尽な要求をされているなどの場合は、労働組合に相談すると改善される可能性もあります。
有給や制度を利用して仕事を休む
体力的に限界を感じている、精神的に疲れて集中力が続かないなどのケースでは、まとまった休息を取ってリフレッシュすると効果的です。
責任感から長期休暇を取りづらいと感じ、疲れながらも働き続けている人もいます。しかし、集中力が続かない状態で生徒たちと接していると教育にも悪影響を与えかねません。
特別な理由なく取得できる年次有給休暇の他、夏季休暇やリフレッシュ休暇などもあります。「疲れを取るために休暇を取得したい」と、校長に相談してみましょう。元気な状態になってから退職を決めても遅くありません。
辞めたい理由を明確にする
退職を決断する前に、なぜ辞めたいのかを冷静に考えてみましょう。今抱えている問題を解決するのに、退職が良い手段であるかどうかを確認します。
疲れているのに休みが取れない、職場の人間関係が良くない、保護者とのもめ事が多いなどの場合、環境を変えれば解決できる問題かもしれません。校長に相談して改善してもらう、または学区を変えるなどの対応が取れます。
一方、業務にやりがいを感じなくなった、給与などの待遇が満足できないなど、教員の仕事そのものに興味がなくなった場合は、希望の条件をかなえる仕事に就いた方がよいでしょう。
辞めた後の生活を考える
精神的に疲れていると冷静な判断ができません。今の環境から逃れたいという一心で辞める決断をしてしまうと、退職後に問題を抱えることになり後悔します。
日常生活を快適に送るには安定した収入を維持する必要がありますが、退職後すぐに転職先が見つかるとは限りません。転職先がしばらく見つからない場合に備えて、少なくとも数カ月分の生活費は蓄えておきましょう。
教員を辞める前に、今後実現したい目標や次の転職先候補など、退職後のことを考えておくとよいでしょう。
毎日笑顔でいられる仕事を探そう
教員は、生徒の成長を自分の手でサポートできるなどやりがいを感じる仕事です。しかし、重圧も大きく、長時間勤務や保護者対応などの難しさなど、教員に掛かる負担は少なくありません。
疲労や不満を抱えながら教員を続けているとモチベーションも上がらず、自分だけでなく生徒にも好ましくありません。辞めると決断したらなるべく早期に準備を始めることが大切です。
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