パン職人になるには資格がいる?実際の仕事内容と必要なスキルを解説

パン職人とは?

焼いたパン

(出典) photo-ac.com

日本では近年、女性を中心に「パン熱」が高まっています。さまざまなパン屋が出店する「パンフェス」などのイベントが各地で行われるほどです。早朝から行列のできる人気店や、メディアに取り上げられるような有名職人の店もあります。店舗の内装や、パンの包装など、ブランディングに力を入れるパン屋も増え、フランス語でパン職人を意味する「ブーランジェ」という言葉も一般的になってきて、パン職人におしゃれなイメージを持つ人が多くなりました。

一方でパン職人は、小麦粉などの重たい材料を運んだり、立ちっぱなしで重量のあるパン生地を扱ったりと「力仕事」でもあります。家庭のパン作りとは違って、素材も工程も異なるさまざまなパンを多数、同時進行で作ります。さらに、開店時間や提供時間に合わせて、限られた時間で仕上げなければなりません。美しく仕上げることはもちろん、段取りのよさ、手早さといったスピード感が求められます。

職場や人員によっても異なりますが、限られた時間で商品をそろえるために、複数の職人が同時に作業を行うことも少なくありません。工程を分担することも多く、1人の作業の質や遅れが全体に影響します。求められるレベルの作業をこなしつつ、チームワークを大切にできるかも、重要な能力として問われるでしょう。

また、パン職人に限りませんが、食品を扱う職業として、高い衛生管理意識は必須です。関連する資格もあり、取得しているパン職人も多いようです。

パン職人の職場や仕事内容は?

街中のパン屋、パン工場、レストランやカフェのベーカリー部門などが、パン職人の活躍の場です。早朝から開店することが多く仕込みもあるので、勤務開始時間はさらに早くなります。夏場でもまだ暗いうちから仕事が始まることが多いようです。

開店の数時間前から準備や仕込みが始まり、閉店後も片づけや翌日の仕込みを行うことが多く、勤務時間は長い傾向です。個人で経営している店では、曜日による定休日を作っていることが多い一方、大きな商業施設に出店している店や工場などでは年中無休という場合もあります。このような職場ではシフト制の勤務が多く、休日も不規則になるでしょう。

パン工場では製造工程の一部のみを担当することが多く、「このパンを自分が作った」という実感は得にくいかもしれません。一方で、自分が製造に携わった製品を、全国たくさんの人に口にしてもらえたり、店頭で目にすることができたりするのは、やりがいを感じられる点といえそうです。

チェーン展開している大手のパン屋などでは、店舗や職人によって品質にばらつきが出ないよう、材料や工程、形を本部が指定しているケースがほとんどです。製品によっては、あらかじめ工場で作った生地が各店舗に配送され、店舗での作業は成形・焼成のみということも珍しくありません。一方で、店舗限定の商品を作ったり、売れ行きの傾向から商品構成を考えたりと、独自の工夫も行います。また、季節商品や新商品開発の社内コンペが行われることもあり、現場から積極的にアイデアを発信する姿勢が重要です。

個人店などでは材料の仕入、商品の開発、価格設定などの作業全般を行います。小麦粉は産地や銘柄によって特性が異なるので、作るパンによって使い分けたりブレンドしたりします。小麦粉の選定や最適な配合率の調整も、パン職人の仕事です。また、パンにも流行があります。どういう理由でどういうパンが人気なのか、どんな素材が話題になっているか、世の中の動向を敏感に捉えられるようアンテナを張っておくことも重要です。また、販売の人手が足りなければ、接客を担当することがあるため、お客様とのコミュニケーションも大切な仕事になるでしょう。

パン職人は職場の種類を問わず、小麦粉をはじめ重量のある材料を運んだり、生地をこねる機械やオーブンなどの大型機材を扱ったりすることが多い仕事です。また、オーブンの熱で、夏場は作業スペースが非常に高温になる場合もあります。体力勝負なので、健康管理はパン職人にとって重要な仕事のひとつといえるでしょう。

知っておきたいパン職人の1日

パンを作る準備

(出典) photo-ac.com

出勤の途中にパンを買い求める人も多いため、街のパン屋は他の店舗よりも早めに開店するのが通常です。午前8時前にオープンする店舗の場合、パン職人は午前3~5時までの間に出勤して、パン作りをスタートするケースが多いようです。

前日に仕込んでいた生地を成形して焼き上げながら、サンドイッチやホットドッグといった総菜パンも作っていきます。開店の1~2時間前になると、次々と焼き上がるパンをお店の陳列棚に並べたり、POPを書いたりして準備をします。

開店後も「焼きたてパン」を切らさないように焼き続け、ひと息つけるのは10時頃になるでしょう。スタッフと交代で休憩を取り、休憩時間の後は、売り切れたパンの補充と翌日の仕込みを進めていきます。

街のパン屋が最も繁盛する時間帯は、11~15時といわれています。ピークタイムが過ぎた15時以降は、パンの売れ残りが出ないようにセールをしたり、パンの詰め合わせを作ったりするのが一般的です。翌日の仕込みが終わった後は、厨房の後片付けを行います。

早朝から勤務をした場合は早めに退社できるケースもありますが、後片付けが終わるのが19時以降になることも珍しくありません。パン職人の仕事は体力勝負なのがよく分かるでしょう。

カフェやレストラン、ホテルのベーカリー部門に勤務する場合は、一般的なパン屋よりも出勤は遅めです。勤務先にもよりますが、午前8時前に出勤し、11時のオープンに向けてパンを焼き上げていきます。パンを売りにするレストランも多いため、できるだけ焼きたてを提供できるように、客の入りを見ながらタイムリーにパンを補充します。パン職人がひと息つけるのは、ランチタイム終了後の14時以降でしょう。休憩が終わるとまもなく、ディナーの準備が始まります。後片付けが終了して家路に向かうのは21時頃になることが多いようです。

パン職人になるには?

たくさんのパン

(出典) photo-ac.com

パン職人になるために必須の資格はありません。経験を問わず、アルバイトスタッフとしてパン職人を募集しているお店の求人に応募する方法もあります。「この店だ」と思えるパン屋があれば、直接訪ねて未経験から修業を願い出るのもひとつの方法です。

ただし、「弟子入り」のような形で店に入った場合、いつパン製造の実務に関われるかは確かではありません。長い間、清掃や調理器具の手入れ、販売業務などをこなしながら見習いをするケースも考えられます。

しかし、報酬を得ながら知識や技術が身に付けられることは大きなメリットといえます。技術が身に付き、一定の経験を積んだら、素材や製法がより自分の作りたいパンに近いお店に転職したり、開業を目指したりという選択肢もあるでしょう。

近年は、専門学校(製菓学校や調理学校の製パンコース)や短期大学など、学校で基本的な知識や技術を習得してから求人を探す人が多いようです。調理は材料を混ぜ合わせる順番やタイミング、加熱の温度や時間など、ちょっとした条件の違いでできあがりが全く異なってくるものです。中でもパンは特に、厳密な材料の計量、季節や天気による発酵の調整などが必要な食品です。

学校では、小麦粉や酵母などの素材の特性や扱い方を体系的に学べます。また、種類も製法も多様なパン作りを広く学べるほか、オーブンや生地こね機など大型機材の扱い方も実践的に習得できるのが魅力です。

また、卒業後に即戦力として就職できるようなカリキュラムを用意している専門学校も多くあります。実際に即戦力になれるかは個人の資質にもよりますが、すでに基本的な知識と技術が身に付いている人を求める職場は少なくありません。学校を通じて採用を行うお店や会社は多くあります。卒業後の進路についてサポートがあるのは、学校で学ぶ大きなメリットといえるでしょう。

中には、学校を卒業した後に、パンの本場と考えられているフランスやドイツなど海外での修業を志す人もいるようです。海外での修行には相応の語学力や経済力が必要になるため、誰もが気軽にできる選択ではありません。とはいえ、その国で習得したいスキルや将来的な生かし方が明確であれば、チャレンジする価値は十分にあるでしょう。

資格は必要?

パン職人の業務自体には、資格は必要ありません。調理師免許も不要です。ただし、「パン製造技能士」や「製菓衛生師」は、就職や転職の際に一定の知識や技能の証明となったり、開業する場合に必要になったりと、取得していることが望ましい資格です。

パン製造技能士は技能検定制度による国家資格で、パンの製造に必要とされる技能の習得に軸を置いています。試験を行うのは都道府県です。2級、1級、特級の3段階に分かれており、学科試験のほか、実技試験が課されます。基本的に2級の受験には2年以上の実務経験、1級の受験には7年以上(2級に合格していれば2年以上)、特級の受験には1級合格後に5年以上の実務経験が必要です。受験に必要な実務経験は学歴・訓練歴によって異なるため、厚生労働省のオフィシャルサイトで確認しましょう。

製菓衛生師は国家資格で、お菓子やパンの製造技術や知識のほか、公衆衛生や衛生管理といった「食の安全」に軸を置いた資格です。試験は都道府県によって行われます。受験資格は以下の2つを満たしていることです。

  • 義務教育を修了している(または学校教育法で同等と見なされている)人
  • 都道府県知事の指定する製菓衛師養成施設(製菓学校など)において1年以上製菓衛生師として必要な知識や技能を習得した人、または、2年以上菓子製造業に携わった人

製菓衛生師の資格を取得していると、食品を取り扱う施設で必ず設置しなければならない「食品衛生責任者」に、講習なしでなれるというメリットもあります。将来的に開業を考えている人は、資格取得の手間がひとつ減るでしょう。

開業するには?

技術を身に付け、パン屋の経営に必要なスキルをひととおり習得したら、開業を目指すパン職人も少なくありません。開業にはパン作りの技術はもちろん、機材、店舗、スタッフなどを用意するための開業資金少なからず必要です。特に生地こね機やオーブンなどの機材は、高額な傾向にあります。

大型機材を置く場所や作業スペースのため、店舗もある程度の広さが必要です。賃料は、ある程度高額にならざるを得ないでしょう。パン屋にはオーブンや冷蔵庫など消費電力の大きい機材が多いため、光熱費が多額になる点にも留意しましょう。

かかるコストを考えれば、開業のハードルは低いとはいえません。しかし、自分が作りたいパンや打ち出したい特色が定まり、それがお客様に受け入れられれば、人気店になって大きな売上を生む可能性もあります。

以前は、天然酵母やオーガニック小麦など、ナチュラルな素材を使用するお店が注目を集めていました。近年は、夜に開店する店や店主が本場ニューヨークで修業をしたベーグル専門店、注文に応じてその場で具をはさむサンドイッチ専門店、アレルギーやベジタリアンに対応した卵や牛乳不使用の店など、さまざまな特色を持つパン屋が増えています。

いかに独自色を出し、お客様のニーズを捉えて喜ばれるパンを提供するかが、開業成功のカギとなるでしょう。仕入や値付けなどの経営感覚や、店舗内装や包材などでイメージを演出したりSNSやメディアに取り上げられるよう工夫したりといったプロモーションの感覚など、さまざまな能力が必要になります。

経営に必要な全てを1人でカバーしきれなければ、それを得意な人を探して協力してもらう工夫も必要です。パン作りの専門家でありながら、経営者としての感覚が求められるでしょう。

パン職人の求人は?

パンを焼く女性

(出典) photo-ac.com

パン職人の求人は、アルバイト採用後に正社員登用の可能性のあるもの正社員として即戦力を期待するものまで多様です。パン屋は天然酵母、国産小麦、ベーグル専門、食パン専門など、それぞれ独自のこだわりや強みを持つところが多いでしょう。使う素材やパンの種類によって、技術もそれぞれ異なります。自分がどんな技術を身に付けたいか、どんなパンを作りたいかという視点は、職場を選ぶうえで非常に重要です。

学校で学び基本的な知識や技術が身に付いている場合は、仕事は比較的探しやすいといえます。企業側が学校を通じて採用活動を行う場合もあるほか、学校が積極的に就職のサポートを行うことが多いためです。大手のパン屋をはじめ毎年採用をするところでは、同じ学校から卒業生を採用することもあります。就職を検討する職場で先輩が働いている場合は、実務内容や待遇について確認しやすいでしょう。

学校を出ず未経験でパン職人を目指す場合、清掃や販売などの仕事から入るケースもあるでしょう。どの仕事も大切な経験ではありますが、本来目指しているパン製造の実務になかなか近づけないかもしれません。少しでもパン職人としての実務経験を積みたいという意志をしっかり持ち、応募の際に細かく確認したり面接の際に早く実務に関われるよう交渉したりという積極性が必要でしょう。

パン職人の年収は?

※スタンバイ掲載中の全求人データ(2017年6月時点)から作成

求人データによると、年収200万円台が約16%、300万円台約33%、400万円台が約27%で、400万円台までが75%以上を占めています。立ちっぱなしでの力仕事、早朝からの勤務、長くになりやすい勤務時間といった条件にもかかわらず、それほど高収入とはいえません。収入よりも、パン作りにやりがいを見いだせる人や、もっとおいしいパンを作りたいという探究心を持てる人に向く仕事といえるでしょう。また、簡単な道ではありませんが、開業して人気店になれば、大きな売上を生む可能性はあります。

出典:
公益社団法人 日本食品衛生協会「食品衛生にかかわる資格」

※文中に記載の各種数値は、2017年6月時点のものになります。