インフラエンジニアという言葉は聞いたことがあるものの、具体的な仕事内容を理解している理系の学生は少ないかもしれません。インフラエンジニアの仕事は、ITシステムの基盤を構築することですが、その業務範囲は多岐にわたります。
本記事では、インフラエンジニアの種類・仕事内容、そして年収・キャリアパスについても紹介します。
この記事のポイント
- インフラエンジニアの役割と重要性
- インフラエンジニアは、ITシステムを支える基盤を構築・維持する技術者です。ネットワーク・サーバー・セキュリティ・データベース・クラウドなど、それぞれの専門分野に分かれており、社会のデジタル基盤を守る重要な職業です。
- インフラエンジニアの種類と仕事内容
- インフラエンジニアは大きく分けて、ネットワークエンジニア・サーバーエンジニア・セキュリティエンジニア・データベースエンジニア・クラウドエンジニアの5種類があります。いずれもITインフラを支える仕事ですが、設計・構築・運用・保守といった業務内容や求められるスキルは異なります。
- インフラエンジニアの将来性
- ITインフラの需要は今後も高まり続けると予想されており、安定した職業としても魅力があります。
インフラエンジニアとは
インフラエンジニアは、以下のエンジニアの総称です。
- ネットワークエンジニア
- サーバーエンジニア
- セキュリティエンジニア
- データベースエンジニア
- クラウドエンジニア
これらの職業では、ITシステムが円滑に機能するための基盤を構築し、維持・管理します。
現代社会において、ITインフラは生活インフラ(電気、ガス、水道)や交通インフラ(道路、鉄道、空港)と同様に、私たちの生活を支える不可欠な要素です。まずは、インフラエンジニアの基本について確認していきましょう。
ITインフラの基盤を支えるエンジニア
ITインフラとは、システムの基盤となる通信回線・機器・アプリケーションなどを指します。これらの設計・構築・運用・保守を担うのがインフラエンジニアです。
システムエンジニアと混同されがちですが、両者の役割は異なります。インフラエンジニアはIT基盤を構築し、システムエンジニアはその上でシステムを開発するのが主な業務です。
交通インフラに例えると、インフラエンジニアは道路を作る技術者で、システムエンジニアはその道路を走る車を作る技術者にあたります。インフラエンジニアの業務は多岐にわたり、担当分野によって分類されます。
インフラエンジニアの種類
インフラエンジニアは以下の5種類で構成されています。
- ネットワークエンジニア
ルーターやスイッチを用いて、ITインフラの通信網を設計・構築・管理する技術者 - サーバーエンジニア
Webサーバーやファイルサーバーなど、システムの中核となるサーバーを運用・管理する技術者 - セキュリティエンジニア
ファイアウォールや認証システムなど、ITインフラのセキュリティ対策を担当する技術者 - データベースエンジニア
データベース管理システム(DBMS)やSQL言語を活用し、データの管理・最適化を行う技術者 - クラウドエンジニア
AWSやAzureなどのクラウド環境の設計・構築・運用を行う技術者
厳密な定義はありませんが、これらの分野を総称してインフラエンジニアと呼びます。担当領域によって業務内容は大きく異なりますが、いずれもITシステムを支える重要な役割を担っています。
【種類別】インフラエンジニアの仕事内容
それでは、上記で触れた5種類のエンジニアについて、詳しく見ていきましょう。
ネットワークエンジニア
ネットワークエンジニアは、ネットワーク関連全般に携わるエンジニアです。安定した通信環境の提供・維持に努めることが主な役割になります。ITインフラの基礎にあたるエンジニアであり、インターネットを支える現代の生活に欠かせない存在です。
ネットワークエンジニアの仕事内容
ネットワークエンジニアの仕事は、大きく分けて上流工程(設計・構築)と下流工程(運用・保守)の2種類があります。それぞれ見ていきましょう。
【ネットワークの要件定義・設計】
ネットワークの目的や用途、想定するユーザー数やその通信量、求める通信速度や予備回線の有無などをクライアントにヒアリングして要件定義します。要件定義をもとにネットワーク機器やケーブルの選定、ネットワーク機器に入れる設定ファイルなどを設計します。
【ネットワークの構築】
ネットワーク機器を設置したのちに、ケーブルを敷設・接続します。ノートパソコンとネットワーク機器を接続して設定ファイルを入れ、開通テスト後にクライアントに納品します。
【ネットワークの運用・保守】
ネットワークやサーバーに問題がないか監視する業務です。問題が発生した際は関係部署にエスカレーションを実施し、障害の状態を報告して指示を仰ぎます。
サーバーエンジニア
サーバーエンジニアは、サーバーの設計・構築・運用・保守を担う技術者です。Webサイトやインターネットサービス・メールの送受信など、あらゆるITサービスの基盤を支えています。
ITインフラという意味ではネットワークエンジニアも同じため、混同されている人もいるかもしれません。ネットワークエンジニアが通信環境の設計・構築を担当するのに対し、サーバーエンジニアはサーバーそのものの設計・構築を担います。
サーバーエンジニアの仕事内容
ネットワークエンジニアと同様に、要件定義から運用・保守まであります。サーバーエンジニアはサーバーの知識だけでなく、OSやネットワークの知識も必要です。
【サーバーエンジニアの要件定義・設計】
クライアントのニーズをヒアリングし、サーバーの用途・必要なスペックを決定します。例えば社内でデータを共有する場合、データ量・通信頻度・バックアップの有無などを考慮し、最適なサーバー構成を設計します。
【サーバーエンジニアの構築】
設計内容に基づき、サーバーの設置や配線、OS・アプリケーションのインストールを実施します。正常に動作するか検証した後、クライアントに納品します。
【サーバーエンジニアの運用・保守】
構築したサーバーが問題なく稼働しているかを監視します。障害が発生した際には、迅速に対応し、障害による影響を最小限にするのが保守の役割です。
セキュリティエンジニア
セキュリティエンジニアは、セキュリティ関連全般に携わるエンジニアです。「情報セキュリティ白書」によると、ランサムウェアによる被害は2023年に197件発生しており、企業にとって無視できないリスクとして、セキュリティ対策の重要度は高まっています。
参考:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)|情報セキュリティ白書2024
セキュリティエンジニアの仕事内容
悪意のある第三者の攻撃からサーバーやシステムを守ることが目的です。システム設計から運用・保守の他、企業に対するセキュリティ診断、コンサルティングも行います。ネットワークやサーバー、データベースやクラウドの知識といった幅広い知識が必要です。
【セキュリティに関する企画・提案】
サイバー攻撃に対抗するための手段を企画・提案します。例えるなら、システムの防御力を上げる方法・手段を伝授してくれる、セキュリティのアドバイザーといえるでしょう。
クライアントの現状のシステムを把握し、最適なセキュリティプランを提示します。
【セキュリティを考慮したシステムの設計・実装】
サイバー攻撃から身を守るためのシステムを設計・実装します。ファイアウォールやプロキシ、IDS/IPSを構築する他、アクセス制限や認証システムを設計・実装したり、セキュリティソフトを導入したりします。
【システムの運用・保守】
サイバー攻撃に対して最前線で戦うのが運用・保守です。脆弱性情報の収集・分析やインシデント発生時の対応、インシデント防止のための情報収集の他、ネットワークやサーバーの監視を行います。
データベースエンジニア
データベースとは、使いやすく整頓されたデータの集合体です。このデータベースを構築するのが、データベースエンジニアの仕事になります。
データの保管・管理に特化したエンジニアであり、在庫管理や顧客情報管理、POSシステムといった膨大なデータを一元管理する上で欠かせない存在です。
データベースエンジニアの仕事内容
サーバーエンジニアと同様に、データベースの要件定義から運用・保守まで担当します。
【データベースの要件定義・設計】
データベースの目的や用途など、データベースで実現したいことをクライアントにヒアリングして全体像を明確にし、要件定義書にまとめます。次に要件定義書をもとに、テーブル名や列名、データの属性や主キーといったデータベースを構成する要素を設計します。
【データベースの構築】
設計書をもとにSQL言語を使ってデータベースを構築します。
【データベースの運用・保守】
データベースが問題なく稼働するよう管理します。データベースの監視の他、ユーザー権限の管理やバックアップ、障害が発生した際の復旧作業などが主な業務です。
クラウドエンジニア
クラウドエンジニアは、クラウドサービス上のインフラを扱うエンジニアです。AWSやAzureといったクラウドベンダーが提供するITリソース上でシステムを構築します。
ネットワークエンジニアやサーバーエンジニアは物理的な機器が対象ですが、クラウドエンジニアは物理的な機器を取り扱わない点で違いがあります。しかし、サーバーやネットワーク、セキュリティといった区分がないため、多くの専門知識が必要になります。
クラウドエンジニアの仕事内容
クラウドエンジニアの仕事は、クラウド環境の設計・構築、クラウド上のシステムの設計・構築・運用・保守になります。では、それぞれ見ていきましょう。
【クラウド上でネットワークの設計・構築】
クラウドベンダーが提供する仮想マシンに対してネットワークを設定します。クラウドルーターには、AWSの「Amazon VPC」やGoogle Cloudの「Cloud Router」があります。ネットワークエンジニアと違って、ケーブルの接続といった物理的な作業はありません。
【クラウド上でサーバーの設計・構築】
クラウドベンダーが提供する仮想マシンに対してサーバーを構築します。AWSの「Amazon EC2」やMicrosoft Azureの「Azure Virtual Machines」が有名です。
【クラウド上でデータベースの設計・構築】
クラウドベンダーが提供する仮想マシンに対してデータベースを構築します。AWSの
「Amazon RDS」やMicrosoft Azureの「Azure SQL Database」があります。クラウド上でのネットワークの構築やサーバーの構築と同様に、物理的な作業は不要です。
インフラエンジニアの平均年収
ここでは、インフラエンジニアの平均年収・スキル別の収入目安について詳しく解説します。
2025年2月の平均年収は約456万円
求人情報一括検索サイト「スタンバイ」によると、インフラエンジニアの平均年収は、約456万円、年収中央値は437万円(2025年2月の実績値)です。なお国税庁が発表した「民間給与実態統計調査」では、日本全体の平均年収は460万円となっています。
もちろん経験年数・スキルによって、より高い年収を得ることも可能ですが、インフラエンジニアの平均年収は全国平均とほぼ同水準であり、決して少なくない給与が得られるといえます。
ITインフラは今後もなくならない分野であり、今後も需要が見込まれる職業です。求人件数も増加しているため、就職や転職の際にも有利に働く可能性があります。
加えて、システムの要件定義・設計は複雑ゆえにAIによる代替が難しく、将来性も十分に期待できるでしょう。
出典:「インフラエンジニア」求人の給与・年収・時給情報|スタンバイ
参考:「令和5年分 民間給与実態統計調査」|国税庁
スキル別の収入目安
インフラエンジニアとして働く上で、スキルの習得度・実務経験は年収に大きく影響します。そこで参考になるのが、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が定める「ITスキル標準(ITSS)」です。
ITSSは、IT分野におけるスキルレベルを7段階で示し、キャリアパスや成長の目安として広く活用されています。ここでは、このITSSにおける各レベルの特徴と、それに対応する年収の目安を詳しく紹介します。
ITSSレベル1~2の年収
ITSSレベル1は、IT企業における実務未経験者や新入社員が該当し、情報技術に携わる上で最低限の知識を持つレベルです。レベル2は、上位者の指導のもとで業務に取り組みながら、一定の作業を独力でこなせるレベルを指します。
これらのレベルの平均年収は420万~620万円程度とされています。この段階では、自身のキャリアアップを実現させるため、積極的にスキルを磨いていく必要があります。
ITSSレベル3の年収
ITSSレベル3は、高度IT人材として、求められた作業を全て独力で遂行できるスキルを持つレベルです。このレベルでは専門分野確立を目指し、プロフェッショナルとしての応用的な知識や技能を確立します。
平均年収は450万~700万円程度とされており、この段階でも引き続き、自身のスキルを磨く必要があります。
ITSSレベル4の年収
ITSSレベル4は、よりハイレベルな高度IT人材に該当します。
スキルの専門分野を確立し、自らのスキルを活用して、独力で業務上の課題の発見と解決をリードできるレベルです。後進の育成にも貢献しながらも、自身のスキルを磨き続ける姿勢が求められます。
平均年収は500万~780万円程度とされており、社内でも高く評価される存在といえます。
ITSSレベル5以上の年収
ITSSレベル5以上になると、企業や業界をリードする役割が求められます。
レベル5は、社内においてテクノロジーやメソドロジー、ビジネスの創出・推進を担い、企業内のハイエンドプレイヤーとして認められるレベルです。
またレベル6は、活躍の場が社外にも広がり、国内全体でハイエンドプレイヤーとして認められるレベルです。
さらにレベル7は、先進的なサービスの開発や市場化をリードした実績を持ち、世界で通用するプレイヤーとして認められるレベルです。
このような高いスキルレベルに達した人材の平均年収は600万~950万円程度と、非常に高い水準となっています。
参考:「IT・デジタル人材の労働市場に関する研究調査」における個人アンケート調査について
参考:2.ITスキル標準とは -ものさしとしてのスキル標準│IPA 独立行政法人 情報処理推進機構
インフラエンジニアの将来性
インフラエンジニアの将来性は今後どのように変化していくのでしょうか。近年、インフラを取り巻く環境は変わり、求められる役割やスキルも変化しつつあります。
ここからは、インフラエンジニアの需要の変化や、市場価値の高いインフラエンジニアになるにはどうすればよいかを説明します。
インフラエンジニアの需要
インフラエンジニアはかつて、物理的なサーバーの設置や機器の保守といった業務が中心でしたが、時代の流れとともに、クラウド環境でのインフラ構築や運用へとシフトしています。
同時に求められるスキルも変化しており、特にクラウド技術・ソフトウェアを用いたインフラ管理の知識が重視されるようになってきました。
さらに、国内企業のDX推進は急務となっており、経済産業省も「2025年の崖」としてその課題を指摘しています。このような背景から、インフラエンジニアへの需要は今後も高い水準で続くと予想されます。
AI技術の進展が注目される一方で、それを支えるITインフラの重要性は変わらず、インフラエンジニアは今後も社会に不可欠な存在であり続けるでしょう。
参考:DXレポート ~IT システム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~│経済産業省
市場価値の高いインフラエンジニアになるためには
IT業界は、トレンドの移り変わりが早い世界です。現在求められている技術が、数年後も変わらずに必要とされるとは限りません。
市場価値の高いインフラエンジニアになるには、最新技術を常にキャッチアップし、知識やスキルをアップデートし続けることが重要です。
中でも、近年はクラウドの知識が求められています。クラウドの普及により、従来の物理サーバー構築を専門とするインフラエンジニアの需要は減少傾向にあります。そのため、ハードウェア・ソフトウェアの領域に限らない知見を身に付けていきましょう。
ただし、クラウド化が進んだとしても、ITインフラの基盤であるサーバーやネットワークの知識は不可欠です。今後は、インフラエンジニアとしての基本技術に加え、複数の分野を横断した知見が求められるでしょう。
さらにAI技術が進化し、自動化が進む中でも、人間にしかできない仕事があります。予期せぬトラブルへの対応や、複雑な顧客ニーズに応える柔軟な判断力は、エンジニアにとって欠かせないスキルの1つです。
DXが進むIT社会の現代において、先端技術を扱える人材は重宝されます。社会から必要とされるエンジニアになるためにも、最新の技術や知識について日頃から情報収集を心がけましょう。
長く活躍するインフラエンジニアを目指そう
インフラエンジニアは、ネットワークエンジニア・サーバーエンジニア・セキュリティエンジニア・データベースエンジニア・クラウドエンジニアの総称です。ITの基盤を担うエンジニアとして、現代社会において欠かせない存在となっています。
クライアントの要望に基づいてシステムを構築する仕事の性質から、AIに代替されるリスクは低く、長期的に活躍できる職業です。
また、ネットワークやサーバーに問題が発生した際の対応には予測不可能な状況が多く、AIでは代替が難しい領域です。さらに、ITインフラは今後もなくならないため、将来性が高い職業といえるでしょう。
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