葬儀社や専門会社で働く葬祭スタッフの中には、「納棺師」と呼ばれる人がいます。彼らは、どのような仕事をしているのでしょうか?主な仕事内容や、向いている人の特徴を解説します。年収や目指す方法など、転職に役立つ情報も確認しましょう。
納棺師の仕事とは?
葬儀の際に活躍する「納棺師」の仕事内容には、どのようなものがあるのでしょうか?仕事の流れや、主な仕事内容を解説します。
臨終時の儀式「末期の水」
納棺師は、臨終の儀式から葬儀に関わります。必ずしも納棺師が行うとは限りませんが、「末期の水(まつごのみず)」と呼ばれる儀式は臨終前後に行われるものです。
以前は臨終前に行われるケースが一般的でしたが、現在では遺族が臨終を見届け、葬儀の準備を始めてから行われることが増えています。納棺師以外に、その他の葬祭スタッフや遺族が対応するパターンもあるようです。
故人の口に水を含ませる儀式は、仏教の故事から始まったといわれています。釈迦が亡くなる前に、水を求めた話が由来です。
なお、宗教・宗派によって儀式には違いがあります。一般的にキリスト教や浄土真宗では末期の水を行わないため、納棺師は宗派による違いも理解しておく必要があるでしょう。
故人の体を清める「湯灌(ゆかん)」
納棺師は、故人の体を浴槽やシャワーで洗い流す「湯灌」に携わるケースがあります。故人の外見を美しく整える目的のほか、宗教上の理由でも行われる作業です。
かつては儀式として遺族が行っていましたが、現在では納棺師などの専門スタッフが対応するか、体を拭き清める清拭のみ行うケースも増えています。
湯灌は故人の体を移動させ、直接触れる専門的な作業です。必須の仕事ではありませんが、遺族が希望する場合にはオプションとして提供します。
故人の姿をケアする「死化粧」
死化粧(エンゼルメイク)は、故人の顔に化粧を施し、美しく整える作業です。これは納棺師・葬祭スタッフが行うことが多いですが、場合によっては看護師・介護職員が行うこともあります。
死化粧は、エンゼルケアの一部として行われるのが一般的です。エンゼルケアとは、故人の体を清潔に保ち、見た目を整えるための一連の処置を指します。
医療器具の除去のほか、体液や排泄物の処理・清拭(せいしき)・更衣・死化粧(エンゼルメイク)などが含まれます。主に看護師・介護職員が行いますが、葬儀社に依頼することも少なくありません。
なお、遺体を長期間保存するための専門的な処置「エンバーミング」というものもありますが、これは専門資格を持ったエンバーマーが行うものです。遺体の血液を防腐剤に置き換えるなど、化学的・外科的処置が行われ、より高度な技術と設備が必要です。
納棺師は、故人の体を清めて身支度を整え、棺に納める仕事を行います。これには死化粧や髪の手入れ、爪切りなどが含まれます。
納棺師の仕事は、エンゼルケアやエンバーミングとは異なり、主に見た目を整えることに焦点を当てているのが特徴です。
故人を棺に納める「納棺」
葬儀の際には、故人を棺(ひつぎ)に納める作業が行われます。納棺師は、納棺に至るまでの一連の作業に関わるケースが一般的です。
宗教によっては死に装束を着せたり、遺族の希望する服に着替えさせたりなどの作業も含まれます。
納棺の前に、棺に副葬品を入れるのも納棺師の役割です。遺族が副葬品を納めるケースもありますが、入れてよいもの・よくないものの判断など、サポート役を務めます。
納棺師に向いているのはどんな人?
故人や遺族と触れ合う納棺師は、特殊な仕事です。納棺師を含む、葬祭スタッフに向いている人の特徴を紹介します。適性があるかどうか、チェックした上で転職を検討しましょう。
感情的になりすぎない人
納棺師を含む葬儀スタッフは、故人や遺族と接する機会が多くなります。悲しんでいる遺族に感情移入しすぎると、仕事がつらくなることもあるでしょう。
また、直接故人の体に触れる作業も多く、冷静さが求められます。遺族に配慮しながら、進行を担わなければなりません。人に配慮できる精神状態を常に維持できる人が向いているでしょう。
葬儀に関わるスタッフには、相手に寄り添う気持ちも求められますが、過度な感情移入は禁物です。繊細で人の悲しみを自分のことのように感じてしまう場合は、仕事として割り切れるかどうかを考えておく方がよいでしょう。
オンとオフの切り替えが上手な人
多くの人の葬儀に関わる納棺師は、オンとオフの切り替えも大切です。ずっと仕事のことを考えると、気がめいってしまうかもしれません。
葬儀中は、悲しんでいる人に接する機会も多くなります。気持ちが落ち込み、悲しい気分になりやすい仕事のため、仕事とプライベートを切り離せる人が向いているでしょう。
1日に複数の葬儀を担当するケースが多く、仕事中にも気持ちの切り替えが求められます。割り切って仕事ができる人は、長続きもしやすいでしょう。
精神力と体力を兼ね備えている人
納棺師の仕事は、葬儀の進行だけではありません。故人の体に触れる作業も多く、精神力が求められます。
故人の体を洗い清め、棺に納める作業には体力も必要です。人間の体を持ち上げ、動かせる程度の力がなければ作業が進みません。
複数人で対応することが多いものの、1日に何度も重いものを運ぶため、体力も重要です。
納棺師の一般的な年収
葬儀に関わる納棺師は、いったいどの程度の収入を得ているのでしょうか?給与所得者と開業するケースで、それぞれ紹介します。転職を検討している場合、一般的な年収も判断の材料になるでしょう。
納棺師を含む職業の年収は約394万円
厚生労働省の職業情報提供サイト「job tag」を見ると、「令和5年賃金構造基本統計調査」から導き出される納棺師を含む職業の平均年収は、約394万円です。
納棺師のみの年収は公開されていないため、job tagでは職業を「葬祭ディレクター」として、納棺師を含む葬祭スタッフなどの年収が計算の上で公開されています。
平均年収が400万円以下となると低いようにも感じられますが、さまざまな職業が含まれているため、一概に納棺師の年収が低いとはいえません。仕事を覚え、キャリアを積めば昇給も見込めるでしょう。
出典:葬祭ディレクター - 職業詳細 | job tag(職業情報提供サイト(日本版O-NET))
開業する場合は年収に幅がある
納棺師は、葬儀社に勤務して働くだけではありません。納棺を専門に扱う会社と契約し、フリーで働くケースもあります。
そのほか、自分で開業を考える可能性もあるでしょう。給与所得者とは異なり、開業してフリーランスになるか起業する場合には、年収に幅があります。
経験・スキルを身に付けた納棺師なら、多くの会社から依頼があり、年収が大幅に上がる可能性も高いでしょう。柔軟な働き方を求め短時間勤務を検討している場合は、年収も低くなる傾向です。
納棺師を目指す方法
納棺師になるには、まず何をすればよいのでしょうか?目指すためにできることを、紹介します。これから納棺師を目指すのであれば、仕事に就く方法を把握しておきましょう。
専門学校や養成施設で勉強する
納棺師を目指す場合、専門学校や養成施設に通う方法があります。実際の仕事で役立つ技術・知識を学べるため、すでに葬儀関連の仕事で働いている人や、強い意志がある人なら学校に通うのもよいでしょう。
ただし、自分に適性があるのか見極められていない状態では、長い時間をかけて専門知識を身に付けても、仕事が合わない可能性も考えられます。
専門学校に通う場合は卒業まで数年間かかるため、適性の有無は事前に見極めておいた方がよいでしょう。アルバイトで葬儀関連の仕事に就きながら、専門学校で学ぶ方法もあります。
納棺師を募集する会社の求人に応募する
専門学校や養成施設に通わなくても、納棺師の仕事に就けます。葬儀社や納棺専門会社の求人に応募し、納棺師として採用されれば仕事が可能です。
未経験OKの求人も多いため、これまでに葬儀関連の仕事に就いていたかどうかは、採用にほとんど関係ありません。
「スタンバイ」でも、納棺師・葬祭スタッフの求人を探せます。経験の必要性や条件は求人ごとに異なるため、これまでの仕事経験に合う求人を見つけましょう。
納棺師には資格が必要?
故人の体に触れる機会が多い納棺師には、資格が必要なのではないかと考える人もいるかもしれません。仕事に就くに当たって、取得が求められる資格・役立つ資格はあるのでしょうか?
納棺師の職に就くための特別な資格はない
納棺師の仕事に就く上で、必須の資格はありません。実際に仕事をしながら、技術・知識を身に付ける形が一般的です。
特に葬儀社では、作業ごとに特別な専門家を用意しているわけではなく、全ての業務に対応するケースもあります。葬儀の進行や故人の外見を整える作業、納棺に至るまで、さまざまな業務に就く会社も多いでしょう。
納棺師を募集している専門の会社では、民間資格の保有者・経験者を募集している可能性もありますが、働く場所を問わず必須の資格は設けられていません。
民間の認定試験・資格は存在する
民間団体では、納棺師の技術・知識を証明する、認定試験・資格試験を行っているところもあります。一般社団法人日本納棺士技能協会の「納棺士認定試験」や、株式会社おくりびとアカデミーの「アカデミー認定納棺師」などが、よく知られる試験・資格です。
しかし、仕事に就くための必須資格ではなく、あくまでも一定の経験・知識・スキルを保有していることを、証明するためのものとなっています。資格がないからといって、仕事ができないわけではありません。
転職・キャリアアップを目指す場合は有利になる可能性もありますが、学費・入会金が発生するケースもあるため、必要かどうかは都度考えましょう。
出典:株式会社おくりびとアカデミー - おくりびとアカデミー
取得すると役立つ関連資格もある
葬儀の進行をサポートするに当たり、役立つ資格は複数あります。
例えば、葬儀の進行全体に関わりたいと考えているなら、「葬祭ディレクター技能審査」が役立つでしょう。1級と2級があり、認定の教育機関で学んだ人や、葬祭実務経験を持つ人が受験の対象です。
また、故人の体にエンバーミングを施し、できるだけ生前の姿に近づける処理・メイク技術を学びたいと考えるなら、「エンバーマー」の資格取得を検討しましょう。
エンバーマーのライセンスは、日本で指定の養成施設に通ってから試験に合格するか、海外で取得する方法があります。
出典:エンバーマー養成校のご案内 | 一般社団法人 日本遺体衛生保全協会
葬儀で重要な役割を果たす納棺師を目指そう
故人を棺に納める納棺師は、葬儀の進行で重要な役割を果たします。棺に納めるだけでなく、故人の体のケアや姿を整える作業など、幅広い業務に携わるケースも多いでしょう。
仕事に就くために必須の資格はありませんが、適性があるかは見極めが必要です。日常生活で葬儀に関わる場面は少なくなっているため、判断は慎重に行いましょう。
問題がない場合は、求人サイトを活用して納棺師の募集を探してみることをおすすめします。