病理医は患者と接する機会が少ないこともあり、一般的にはあまり知られていないかもしれません。しかし適切な治療の実現には欠かせず、医療の向上にも貢献する重要な職業です。病理医が担う仕事の内容ややりがい、年収事情と将来性まで解説します。
病理医とは何か
病理医はその名の通り、病理診断を担当する医師を指します。医療における病理医の役割や臨床医との違い、なるための道のりを見ていきましょう。
病理医の役割
病理医の所属先は、「病理診断科」や「病理科」と呼ばれます。病理解剖・組織診断・細胞診断を通じて、病気の確定診断をしたり、治療に役立つ情報提供をしたりするのが、主な役割です。
病理医の診断の結果、臨床医の診断の誤りが分かることもあり「Doctor of Doctors(医師のための医師)」ともいわれています。
患者と接する機会は少ないものの、病理医の専門的な知識は、正確な診断と適切な治療のために欠かせません。診断結果が患者の治療方針を大きく左右する、責任ある職業です。
臨床医との違い
病理医と臨床医の最大の違いは、患者との関わり方です。臨床医は直接患者と接し、診察や治療を行います。一方、病理医は主に検査室で、患者から採取された組織や細胞を顕微鏡で観察・診断します。
そして診断結果を元に、臨床医に対して治療方針を提案するのです。病理医は診察室に現れない代わりに、裏方として活躍していると考えてよいでしょう。
病理医と臨床医は、働き方も異なります。病理医は主治医になることがないため、当直やオンコール対応がほとんどありません。医師の中でも勤務時間が安定しており、ワークライフバランスを取りやすい職業といえます。
病理医になるための道のり
病理医になるには、臨床医同様、医学部を卒業し、医師国家試験に合格する必要があります。医師免許取得後、2年間の初期臨床研修を経るのも、臨床医と同じです。
初期臨床研修を終えたら、専門の研修プログラムを3~4年ほど履修し、病理専門医試験に合格すると、晴れて病理専門医として認定されます。
ただし病理診断の業務自体は、医師免許があれば可能です。実際に、病理専門医資格を取得していない病理医も存在します。
内科医や外科医などを経験してから病理医になる人もいるので、自分のキャリアプランに照らし合わせて決めるとよいでしょう。
病理医の仕事内容
病理医には、医療の根幹を支える重要な業務があります。主要な3つの業務の詳細と、チーム医療や医学研究における貢献について解説します。
病理解剖・組織診断・細胞診断
病理医の主要な業務は、病理解剖・組織診断・細胞診断の3つです。病理解剖では、亡くなった患者の体を解剖し、死因や病気の進行状況を詳しく調べます。これにより、将来の医療の質向上に貢献するのが目的です。
組織診断では、生検や手術で採取した組織を顕微鏡で観察し、病気の種類や進行度を判断します。手術中に病理診断を下し、手術の方針を決める「術中迅速診断」も重要な業務です。
細胞診断では、細胞検査士の資格を持つ専門技師と共同で、体のさまざまな部位から採取した細胞を調べ、診断します。
カンファレンスと研究
上記の3つ以外の業務としては、カンファレンスへの参加や研究、後進への指導などが挙げられます。
「Doctor of Doctors」と呼ばれる病理医は、臨床各科のカンファレンスに参加し、解剖例や手術例について、病理学的見地から見解を述べることで、診療に貢献します。
蓄積されたデータを使用した研究活動も、病理医の業務の一環です。病理研修医や医学生、医師を目指す高校生などへの指導・教育に取り組むこともあります。
病理医のやりがいと適性
医療の裏方的な存在の病理医には、臨床医とは異なるやりがいがあります。病理医ならではのやりがいや、適した人物像について見ていきましょう。
病理医のやりがい
病理医による診断結果は、患者の治療方針を大きく左右します。患者と接する機会は少なくても、自身の診断が臨床医の判断に影響を与えるのです。
正確な病理診断は適切な治療につながり、患者の生命を救うことさえあります。自分の診断が患者に利益をもたらすと分かったときには、大きな喜びを感じられるでしょう。
また解剖を通じて亡くなった患者の病態を明らかにし、医療全体の質向上に貢献できるのも、病理医のやりがいといえます。専門領域を究めれば、新たな治療法を開発したり、診断技術を向上させたりすることも可能です。
病理医に向いている人の特徴
病理医に向いている人には、いくつかの特徴があります。まず、地道な作業を丁寧にこなせる忍耐強さが求められます。顕微鏡を用いた検体観察には、集中力と細やかな観察眼が不可欠です。
診断結果を臨床医に正確に伝えるための、コミュニケーション能力も重要です。医学の進歩に対応するため、常に新しい知識を吸収する探究心も欠かせません。
患者の背景を想像し、その治療に貢献しようとする使命感を持つことも、長く活躍するために大切です。チーム医療の一員として、協調性を持ちながらも自身の専門性を発揮できる人材が求められます。
病理医の年収と将来性
病理医に興味がある人にとっては、収入や将来性も気になるポイントでしょう。年収事情やAI技術の進歩による影響など、病理医を取り巻く現状を解説します。
病理医の平均年収
病理医の平均年収は、一般的に1,000万円から1,500万円程度といわれています。これは、医師全体の平均年収とほぼ同等の水準です。厚生労働省の職業情報提供サイトでは、内科医の平均年収は1,436.5万円とあります。
病理医に限らず、年収は経験や専門性、勤務先の規模などによって変動するものです。病理診断には高度な専門知識と技術が求められるため、経験を積むほど年収も上昇すると考えてよいでしょう。
出典:内科医 - 職業詳細 | job tag(職業情報提供サイト(日本版O-NET))
深刻な病理医不足の現状
日本の医療現場では、病理医の不足が深刻な問題となっています。厚生労働省の調査によると、2022年12月31日時点での病理医数は2,243人で、医師全体の0.7%に過ぎません。
そのうちのほとんどが病院勤務であり、診療所に勤務する人は51人しかいないのが現状です。病気の確定診断や治療方針決定に欠かせない割に、従事する人数が少なく、臨床医にとっても患者にとっても、貴重な存在といえるでしょう。
出典:厚生労働省|令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況
病理医の将来性
近年のAI技術の進歩により、病理診断の効率化が進むと予想されています。このため、病理医の将来性に不安を感じる人もいるでしょう。しかしAIが今すぐ、病理医に取って代わるわけではありません。
むしろAIは、病理医の業務をサポートし、より高度な診断を可能にするツールとなり得ます。今後、病理医にはAIが出した診断結果を適切に解釈し、最終的な判断を下す役割が求められるでしょう。
より高度なAI開発のために、病理の知識や経験を生かす機会もあるはずです。がん患者の増加や個別化医療の進展により、病理医の需要自体は今後も高まる上に、人材が不足している現状から、将来性について心配はいらないと考えられます。
より良い医療の提供に貢献する病理医
病理医は患者から採取した組織や細胞を観察し、疾患の診断を行う専門医です。収入は臨床医にひけを取らず、一般的に高水準です。専門資格の取得は容易ではありませんが、人材不足は深刻で、将来性もあります。
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