ビルオーナーは、不動産投資の中でも高い収益が期待できるとされています。一方、多額の資金を投じる必要があり、リスクも高いといえます。ビル経営を軌道に乗せるためにも、収入や必要資金の目安、メリットデメリットを押さえておきましょう。
ビルオーナーのなり方や収入
ビルオーナーといってもさまざまな形態があり、収入源も複数あります。まずはビルオーナーのなり方や、収入の目安を解説します。
ビルオーナーになるには
ビルオーナーとは、オフィスビルや商業ビルなどを所有し、テナントに貸すなどして運用する人を指します。1棟のビル全体を所有する場合もあれば、一部のフロアや区画を所有するテナントオーナーの形態もあります。
個人でも法人でも、ビルを所有すれば誰でもなれますが、不動産投資の知識があると成功しやすいでしょう。
ビルを所有には、既存のビルを買う・自分が持っている土地に新築する・不動産投資信託(REIT)などに投資するなどの方法があります。
ビルオーナーの主な収入源と収益構造
ビルオーナーの主な収入源は、テナントからの賃料収入です。賃料は「賃料単価×面積」で計算され、物件の規模や立地によって大きく変動します。例えば、東京の延べ床面積100坪程度のオフィスビルでは、満室の場合で年間約2,600万円と試算されています。
ビル経営では、賃料以外の収入源も豊富です。敷金・保証金はもちろん、駐車場の契約料や、携帯電話基地局・広告看板・自動販売機などの設置料が入ってくることもあるでしょう。
支出としては、金融機関への借入返済・固定資産税・管理手数料などの固定費に加え、修繕費や清掃費などの変動費が挙げられます。これらの支出を収入から差し引いた額が、ビルオーナーの実質的な収益となります。
出典:全国6大都市圏オフィスビル市況調査(2024年1月度調査レポート)
ビルオーナーの必要資金と物件選び
どのくらいの資金があれば、ビルオーナーになれるのでしょうか。適切な資金計画と、物件選びのポイントについて見ていきましょう。
必要な自己資金の目安と内訳
ビルを購入する際は、一般的に物件価格の15~30%程度の自己資金を用意するのが理想的です。例えば、2億円のビルを購入する場合、最低でも3,000万円から6,000万円の自己資金が必要となります。
自己資金は主に頭金と諸費用に充てられます。頭金は物件価格の10~20%が目安となり、諸費用は物件価格の4~10%程度です。諸費用には、仲介手数料・登記費用・不動産取得税などが含まれます。
残りはローンを組むことになりますが、自己資金が少ないと審査が厳しくなる可能性があります。予期せぬ出費に備え、現金を残しておく必要もあるでしょう。しっかりと計画を立てて、無理のない範囲で物件を検討することが重要です。
資金調達の方法と融資条件
ローンを組む際、金融機関は物件の収益性や借入人の返済能力を厳しく審査します。一般的に、物件価値の70~80%程度が融資の上限です。融資条件には、自己資金比率・返済期間・金利などがあり、物件の立地や築年数、オーナーの信用力によって変動します。
資金調達の方法として、銀行融資以外にも、REITや不動産クラウドファンディングなどの選択肢があります。これらは少額から投資でき、リスク分散も可能です。ただし、投資対象によっては、思うような収益を得られなかったり、大きな損失となったりすることもあります。
収益性の高い物件を選ぶポイント
収益性の高い物件を選ぶ鍵は、立地と将来性です。都心部や交通の便が良い場所は、テナント需要が高く、安定した収益が見込めます。特に、東京の中規模オフィスビルは、供給不足により賃料が下がりにくい傾向にあります。
再開発が進む地域や、商業施設が充実したエリアも注目です。将来性を見極める際は、周辺の開発計画や人口動態も考慮しましょう。建物自体の質も重要です。設備が充実し、メンテナンスが行き届いた物件は、資産価値が維持されやすいでしょう。
多様なテナントニーズに対応できる柔軟性のある物件や、環境に配慮したグリーンビルなども、長期的な収益性が期待できます。ただし、高収益が見込める物件は価格も高くなりがちなので、投資額と期待収益のバランスを慎重に検討することが大切です。
ビル経営のメリット
ビル経営には、他の不動産投資にはないメリットがあります。主なメリットを3つ紹介します。
高い収益性が期待できる
ビル経営は、高い収益性が期待できる魅力的な投資方法です。テナントから得られる賃料は、一般的な賃貸住宅の倍近くになることも珍しくありません。
特に、人通りの多い都心部や大通り沿いの立地であれば、テナントの入居がスムーズで、安定した賃料収入を見込めます。
またほとんどの場合、テナントの経営状態が順調な限りは入居し続けるため、一般的な賃貸住宅に比べて空室が発生する頻度が低いのも特徴です。
原状回復の費用と手間が少ない
ビルオーナーの大きなメリットの1つに、原状回復にかかる費用や手間の削減があります。一般的に、オフィスや店舗などのテナント物件では、入居時にスケルトン状態で引き渡されます。
内装工事や設備の設置費用は、テナント側の自己負担です。退去時も同様に、テナントが内装や設備を撤去し、元の状態に戻して返却するのが通例です。
このシステムにより、ビルオーナーは住居用賃貸物件のような原状回復工事を行う必要がありません。結果として、工事費用の負担や手配の手間が大幅に軽減されます。
さらに、テナントごとに異なる内装ニーズに対応できるため、幅広い業種のテナント誘致が可能になります。
ただし、ビルの基本設備の維持管理や定期的な修繕は必要です。これらの費用を考慮しつつ、原状回復の負担軽減というメリットを最大限に生かすことが、効率的なビル経営につながります。
節税が可能
ビルオーナーになると、相続税や所得税などの負担を軽減できます。特に相続税対策として効果的で、オフィスビル用地は「貸家建付地」として評価されるため、更地や駐車場に比べて評価額が約2割減額されます。評価額が低いほど、支払う相続税も少ないため、節税になるのです。
減価償却費を活用することで、課税所得を抑えることも可能です。ビルの建設費用や設備投資費用を耐用年数に応じて経費計上し、節税効果を得られます。修繕費や管理費などの経費も所得から控除でき、税負担の軽減につながります。
ビル経営のデメリットと注意点
ビル経営には高収益の可能性がある一方で、注意すべき点も多くあります。ビルオーナーが直面する可能性の高い課題について、詳しく見ていきましょう。
初期費用と維持管理コストの負担
ビルを購入あるいは建築するには、小規模でも数千万円、大規模なら数億円という、多額の初期費用がかかります。例えば、2億円のビルを建築する場合、諸経費を含めると2億2,000万円程度は必要です。
固定資産税・保険料・メンテナンス費用といった、ランニングコストも高く、年間収入の20%程度を見込むのが一般的です。
将来の大規模修繕や、不測の事態による出費についても、初期段階から用意しておく必要があるでしょう。収支バランスが取れるように、長期的な資金計画が不可欠です。
空室リスクがある
ビル経営において、空室リスクは避けて通れない課題です。テナントが退去し、新しい入居者が決まらない場合、大幅な収入減少に直面する可能性があります。特に大規模なフロアを占有するテナントが退去すると、経営に甚大な影響を与えるでしょう。
空室期間中も固定資産税や管理費などの費用は発生し続けるため、キャッシュフローが悪化する恐れがあります。新規テナント獲得のための広告費や内装リフォーム費用など、予定外の出費も生じるでしょう。
このリスクを軽減するためには、日頃からビルの魅力を高める努力が欠かせません。定期的なメンテナンスや設備の更新、快適な環境づくりなどで差別化を図り、空室期間を短縮することが重要です。
景気などに左右されやすい
ビル経営は、景気変動や外部要因に影響を受けやすい特性があります。経済の悪化や災害の発生は、テナントの撤退を招き、賃料収入の減少につながる可能性があります。
近年のコロナ禍では、商業施設やオフィスからのテナント撤退が相次ぎ、多くのビルオーナーが苦境に立たされました。このような状況下では、居住用賃貸物件と比較して、ビル経営の方が不安定になりやすいといえます。
いざというときに、収益の減少を防ぐためには、テナントとの良好な関係構築はもちろん、市場動向の把握や適切な賃料設定など、戦略的な経営姿勢も求められます。
ビルオーナーの特徴を知り、安定収入を目指そう
ビルオーナーになるためには、必要資金の確保と適切な物件選びが重要です。ビル経営には高収益や節税といったメリットがある一方、多額の初期費用や空室リスクなどのデメリットも存在します。
成功するためには、魅力的な物件を選ぶことに加え、不動産投資や税務・会計などの専門知識を身に付けるとよいでしょう。市場動向を把握し、リスクを適切に管理することで、長期的に安定収益を目指せます。